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日本電産ショック…“鉄壁”経営に変調、中国経済低迷だけじゃない世界的構造変化の衝撃
https://biz-journal.jp/2019/11/post_128209.html
2019.11.19 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
「日本電産 HP」より
現在、国内モーター大手の日本電産が不安定な収益環境に直面している。その一方、同社は電気自動車(EV)向けの駆動モーターの需要拡大を取り込むために、生産能力の増強を重視している。世界経済の先行き不透明感が高まるなかで、同社のEV部門への積極投資が奏功するか否か今後の展開が注目される。
一般的には、企業を取り囲む経済環境が良くない場合、企業経営者が先行きのリスクを警戒し設備投資などを手控えることは当然の経営判断といえる。現在、世界的にそうした考えを持つ企業は少なくない。米中貿易摩擦などに影響され、自動車や半導体や工作機械などの分野を中心に設備投資は減少している。
その一方、市況が悪化する状況下で他社が設備投資に慎重ななか、リスクを管理しつつ生産能力を拡大させることができれば、将来の市況反転をとらえてライバルよりも有利に受注を獲得し業績の拡大を実現できる。これまでも日本電産は、変化にあわせて買収や設備投資を行い、自社の競争力を高めてきた。今後、その経営姿勢が同社の持続的な事業展開にどう影響するか注目したい。
■日本電産が直面する中国経済の減速
昨年秋以降、中国経済の想定外の減速に直面した日本電産は、2019年3月期の業績見通しを下方修正した。その影響度合いは、日本電産の永守重信会長が「尋常でない変化」と評するほど大きかった。2020年3月期の第1四半期の営業利益は前年から約39%減少した。第2四半期までの累計でみると営業利益は前年から35%減だ。
中国経済の減速は予想を上回るほど大きい。その背景には、中国経済が成長の限界を迎えていることがある。中国政府による景気刺激策にもかかわらず、経済成長率が上向く兆しは見られない。本年7〜9月期、中国の実質GDP成長率は前年同期比6.0%にまで落ち込んだ。他の経済指標も同様だ。日本電産にとって、中国は売上高の20%以上を占める最大の市場である。また、アジア地域での売り上げは全体の50%程度を占める。中国経済の動向は、同社の業績に無視できない影響を与える。
昨年来、米中貿易摩擦への懸念から中国の企業や家計のマインドが悪化した。それを受けて世界的に貿易や設備投資が手控えられている。サプライチェーンは混乱し、各国企業が中国から他のアジア新興国に生産拠点などを移し始めた。この影響から、日本電産が強みを発揮してきたハードディスクドライブなどに搭載される精密小型モーターや家電向けモーター、ロボット関連部品の需要が急速に冷え込んだ。現状、日本電産は中国事業に関して、底割れはしていないものの、回復の兆しも見えていないと慎重な姿勢を示している。また、為替相場で円が他の通貨に対して上昇したことも減益の一因となった。
短期間で中国における家電向けモーターなどへの需要が本格的に底を打ち、拡大基調に戻る展開は想定しづらい。同社は在庫調整を進めてきたが、経営陣のコメントなどを見る限り、中国において精密小型モーターへの需要にさらなる下押し圧力がかかる展開は排除できないだろう。
■需要拡大が鮮明化する車載モーター
一方、日本電産が成長分野として強化してきた車載分野では、EVの駆動用モーター(トラクションモーター)の需要が如実に伸びている。10月24日、永守会長は2023年度までのEV駆動用モーターの受注見込みが455万台に達したと明らかにした。また、7月時点から9月末までの3カ月間で、トラクションモーターの出荷台数計画は5倍も伸びた。需要の拡大は鮮明だ。さらに日本電産には、2025年分の車載モーター受注も入っている。
これは、日本電産が世界トップのトラクションメーカーを目指す大きなチャンスといえる。これまで日本電産が手がけてきた精密小型モーターなどの分野では米中の関係悪化などにより、回復に時間がかかるだろう。
それに対して、車載モーター事業は中長期的な成長が期待できる。大気汚染対策などを目指して、中国をはじめ日米欧など世界の自動車企業がEVの開発・生産能力の向上に取り組み、モーターへの需要が高まっている。EV開発はごく初期段階にあり、需要は拡大基調となる可能性がある。
日本電産はEV向け駆動用モーターなどの供給拡大に向け先行投資を行ってきた。それでも、同社の生産体制は需要に追いついていない。そのため、下期の研究開発費は前期から約300億円積み増される計画だ。さらに、中国に加えポーランドなどでも日本電産は生産拠点を設け、供給能力の向上と価格の引き下げを目指している。
車載分野での先行投資費用などが増加し、日本電産は2020年3月期の連結純利益予想を1350億円から1000億円に下方修正した。中国経済の変調だけが、業績予想引き下げの主因でないことは冷静に認識しなければならない。駆動用に加え、パワステ・システム、ブレーキに用いられるモーター分野でも日本電産は生産能力を高め、世界トップシェアの確保を目指している。中国経済がどうなるか不透明ななか、同社が需要の拡大が見込まれる分野で着実に成長に向けた取り組みを進めていることは重要だ。
■日本電産に見る事業構造変革の重要性
日本電産の経営を見ていると、事業構造を変革し続けることの重要性がよくわかる。将来は不確実だ。収益が減少すると、守りを重視する経営者のマインドは強くなる傾向にある。それが人情だろう。同時に、多くの企業が先行きの経済環境に慎重姿勢を強めている状況は、企業が将来の市況反転をとらえて需要を取り込み、シェアの拡大を実現するためのチャンスともいえる。どのような意思決定を下すかは経営者次第だ。
日本電産は、自動車の電動化など、世界経済の変化に合わせて事業構造を変革してきた。そうした取り組みが、ハードディスクドライブや産業用機器向けの需要落ち込みのマグニチュードを和らげているといえる。車載モーター以外にも、同社は家電の省エネ化に対応するために海外企業を買収し、自社のモーター技術とのシナジー効果の発現を目指してきた。
また、世界的に5G通信の普及期待からスマートフォン向けを中心に、半導体市況に底打ちの兆しも出始めた。この動きが本格的な持ち直しにつながるか否かは見通しづらいものの、5G通信の利用増加とともにデータの収集量・分析量は増大するだろう。その動きを見越した企業は増えており、サーバーやデータセンター向けの冷却ソリューションとしての精密小型モーターへの需要も出始めている。それは日本電産の収益獲得にプラスに働く。
このように、日本電産は次から次へと、常に新しい事業を育成して事業ポートフォリオを変革・分散してきた。それが、シェアの拡大を支え、同社の成長につながった。当面は、事業構造の変革が同社の営業利益の増大につながるか否かが問われるだろう。
成長の限界を迎えた中国経済に加え、世界経済を支えてきた米国経済に関しても、景気循環上の後退局面が近付いているとの懸念は徐々に高まっている。そのなか、EV向けのトラクションモーターの生産能力引き上げを中心とする日本電産の積極的な投資戦略が業績にどう影響するか興味深い。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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