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介護心中、続出で社会問題化…老人ホーム不足や高額料金で入所困難、「家族介護」幻想の罠
https://biz-journal.jp/2019/11/post_128629.html
2019.11.18 文=片田珠美/精神科医 Business Journal
「gettyimages」より
11月17日、福井県敦賀市の民家で70歳の岸本太喜雄さんと90代の両親の3人の遺体が見つかった。3人の遺体が発見されたとき、太喜雄さんの妻の71歳の政子容疑者は自宅にあった睡眠薬を飲んでいて、病院に搬送されたが、命に別状はなく、殺人容疑で逮捕された。
政子容疑者は、「3人の首を絞めた」と供述しているという。夫と義父母の介護を1人でしていたらしく、最近は周囲に「体調が悪い」「しんどい」「介護に疲れた」などと漏らすことがあったようだ。こうした状況から、介護疲れから抑うつ状態になり、追い詰められた末に夫と義父母を殺害し、犯行後睡眠薬を飲んで自殺を図ったものの、死にきれなかった可能性が高い。
このように介護うつから無理心中を図る悲劇が後を絶たない。一体なぜなのか? その理由を、介護うつの患者を数多く診察してきた精神科医としての長年の臨床経験にもとづいて分析したい。
■介護うつと自殺願望
介護者自身が精神科でうつ病と診断されていなくても、介護うつに陥っている人は相当多いと考えられる。というのも、同居の主な介護者について、日常生活での悩みやストレスの有無を調べたところ、「ある」と答えた人が69.4%にのぼったからだ。性別に見ると、男性では62.7%、女性では72.4%で、女性のほうが悩みやストレスを抱えている割合が高い(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。
これは、夜何度も起こされて眠れなかったり、「献身的に介護しているのに報われない」と感じたりすることにもよるのだろうが、それだけでなく、介護がいつまで続くかわからないということにもよるのではないか。
子育てであれば、子どもは日々成長していくので、いくら大変でもやりがいがあるし、一応「終わり」も見える。しかし、介護の場合は、いつまで続くかわからない。心身とも疲弊すると、介護を「終わり」にするために親や配偶者の死を願うことだってあるかもしれない。
そもそも、うつが悪化すると、自殺願望を抱きやすい。重症のうつから回復した患者は、しばしば「あのときは、朝起きてから夜寝るまで死ぬことしか考えていなかった。夜中に目が覚めたときも、眠れないのがつらくて、死ぬことばかり考えていた」と語る。したがって、抑うつ状態に陥った介護者が自殺願望を抱く可能性は高い。
そういう場合、「自分が死んでしまったら、介護する者がいなくなる。それはかわいそうだから、先に殺して、自分も一緒に死のう」という心理が働きやすい。その結果、介護者自身も死んでしまったら心中になり、介護者だけ生き残ったら殺人になる。
とくに真面目で責任感の強い人ほど、周りに迷惑をかけたくないと思うためか、援助を求めたり相談したりするのをためらう傾向がある。そのため、介護を1人で抱え込みやすく、心中や殺人などの悲劇につながりやすい。
■介護施設に入れられない理由
これだけ介護疲れから心中や殺人が起きているのだから、そうなる前に要介護者を施設に入れればいいという意見も、もちろんあるだろう。だが、実際にはそう簡単にはいかない。その理由は、3つあるように思われる。
1)経済的負担
2)介護施設への不信感
3)「家族介護」幻想
まず、介護施設に入れるための経済的負担は切実な問題である。介護施設に入れるのに必要なお金を工面するのが難しい家庭は少なくない。介護付き有料老人ホームの場合、1月の利用料が20〜30万円以上かかるところが多い。これだけの金額を毎月払える家庭は限られるだろう。
できるだけ介護費用の負担を軽くしたいというニーズに応えるのが特別養護老人ホームで、従来の大部屋で8〜9万円程度、ユニット型個室でも12〜16万円程度ですむ。だから、当然人気が高く、入所申込者数は全国で50万人を超える。
しかも、入居条件は、65歳以上で要介護3以上の介護度の高い人である。こういう条件が付いているので、徘徊が多いのは、記憶障害があっても身体機能は比較的保たれている要介護2程度の認知症患者なのだが、こういう人は特別養護老人ホームには入れない。
したがって、介護付き有料老人ホームに入れるだけの経済的余裕がない家庭では、介護度が上がり、特別養護老人ホームが空くのを待つしかない。もっとも、介護認定審査会で審査判定の資料として用いられる主治医意見書を数多く書いてきた経験から申し上げると、介護認定は年々厳しくなっている。また、特別養護老人ホームが空くのは、ほとんどの場合入所者の死亡による。
さらに、施設への不信感が根強いのも重要な問題である。不信感の最大の原因は虐待だろう。「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」にもとづき、平成29年度の高齢者虐待の状況を把握するために厚生労働省が実施した調査によれば、介護施設従事者による高齢者虐待の件数は、510件であり、前年度より58件(12.8%)増加していた。なお、市町村への相談・通報件数は、1898件もあり、前年度より175件(10.2%)増加していた。高齢者虐待防止法が施行された2006年以降の高齢者虐待の件数の推移を振り返ると、一貫して増え続けていることがわかる。
こうした現状を目の当たりにすると、家族が介護で疲れきっていても、施設に入れるのをためらうのは当然かもしれない。しかも、入所者を殺害する事件も相次いで起きている。殺害までいかなくても、入所者の現金を盗んだとか、入所者に対して暴言を吐いたり暴力を振るったりしたとかいう事件がしばしば報じられている。
このような事件が報じられるたびに、介護施設への不信感が増すはずだ。背景には、圧倒的に人手不足で、離職率も高い介護業界の現状がある。その原因は、賃金の低さ、業務の過酷さ、シフト制の厳しさ、さらには社会的評価の低さなのだが、なかなか改善しない。当然、介護施設への不信感も払拭されないままである。
■「家族介護」幻想の怖さ
そのうえ、やはり家族が介護すべきという「家族介護」幻想にとらわれている人が多いのも、深刻な問題だ。この「家族介護」幻想にとらわれているのが介護者自身のこともあれば、周囲の家族や親戚のこともある。「家族介護」幻想にとらわれた介護者自身が「育ててもらったんだから恩返しをしなければ」「やはり介護は嫁の仕事だ」などと考えて、介護を引き受ける場合は、まだ救いがある。しかし、そうではなく、「家族介護」幻想を振りかざす周囲から介護を押しつけられ、嫌々引き受けざるを得ない場合が実際には少なくない。
フランスの家族人類学者、エマニュエル・トッドは、「家族の過剰な重視が、家族を殺す」と述べており、「『家族』というものをやたらと称揚し、すべてを家族に負担させようとする」ことの危険性を指摘している。
「老人介護も同様です。すべてを家族に負担させようとしても、『家族』イデオロギーによって過去の伝統や文化を守ろうとしても、うまく機能しないのです。家族の負担だけでなく、公的扶助が必要です。『家族』を救うためにも、家族の負担を軽減する必要があります」というトッドの言葉に耳を傾けるべきである。
(文=片田珠美/精神科医)
【参考文献】
片田珠美『拡大自殺―大量殺人・自爆テロ・無理心中』角川選書 2017年
エマニュエル・トッド『問題は英国ではない、EUなのだ―21世紀の新・国家論』堀茂樹訳、文春新書、2016年
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