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日本経済はアベノミクスで停滞…アメリカに唆されて進んだ、円安がもたらす銀行の危機
吉田繁治
2019年11月6日ニュース
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カナダも巻き込んで世界中が、通貨の増発による低金利の金融バブルです。法律家には、デリバティブ化している銀行間金融の実情は、理解できていないでしょう。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2019年10月31日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
デフォルト予備軍の社債は19兆ドル、先送りするほど経済は壊滅
通貨増発による低金利の世界の金融バブルの真っ最中
カナダも巻き込んで世界中が、通貨の増発による低金利の金融バブルです。リーマン危機のあとの、米国、欧州、中国、日本の通貨の増発額は20兆ドル(2,100兆円)です。
欧州のECBは19年3月から金利をマイナスに下げ(ユーロの増刷)、米国のFRBは銀行システムの突然のドル不足からレポ金利が10%に急騰したことに狼狽し、0.25%の利下げをした9月18日から、再びドル増刷を開始しています。
19年9月から、毎月6兆3,000億円のドルの増発を2020年の4月または6月まで続けるという(パウェル議長)。
19年10月末にも0.25%の利下げをします(10月30日、31日のFOMC)。法律家のおじさんには、デリバティブ化している銀行間金融の実情は、理解できていないでしょう。
1990年代、2000年代と25年も株を上げてきたので、金融のマエストロと称賛された元議長のグリーンスパンも同じでした。そのあとの、恐慌学者バーナンキの知識も怪しかった。リーマン危機の直前には、「大したことではない」と声明していたからです。
日米の民間銀行のトップも、十分に理解しているとは言えません。
お金だけをもつ赤子のような農林中金(農家の預金100兆円)
農林省の天下りが多く、金融の素人だった農林中金(農協の上部団体)は、2008年のリーマン危機のときの保証保険CDSでの保証債務5兆円からの損に懲りず、今度は、社債の保証保険CLOで8兆円の米国社債の償還を保証してます。まったく…困ったものです。
金融では、原理的に、低い金利のなかでの利回りの高さは、リスクの高さと同じことです。社債の利回りが2%のとき、社債の償還を保証するCLOの利回り(保険料)が4%なら、その社債のデフォルトの確率は、4ポイントは高い(ブラックショールズ方程式)。
ところがこのデフォルトのリスクを無視して、一見では高い利回りのCLOの保証を高く見える保険料を受けとって、喜々として引き受けるのが世界の金融界で「お金をもった馬鹿と奇妙に尊敬されている日本の銀行」です。
安倍政権の政府も「ドル買い/円売り」を促しています。ユダヤ人の数学の天才が多いゴールドマンなどが介在している国際金融は、「相手(取引相手のカウンターパーティ)をごまかすことが利益になる世界」です。生き馬の目を抜くのではない。
国際的な運用を知らないお金持ち(日本の銀行)にデリバティブというめくらましを与え、マネーを奪う。
政府・FRBと結託した金融の政商であるゴールドマンは、ギリシアの国債危機のときと同じように、特に悪辣です。古来、金貸しの金融の世界は「汚い」。このため西欧の貴族は、金融と肉の扱いはユダヤ人に行わせました。
世帯と企業の預金が1,000兆円と多い日本の銀行をおだて、リスク率より高いお金を最終的に払わせます。
CDOの保険料は、ゴールドマンのクォンツ(数千万円の報酬の数理統計学者:保険のアクチュアリと同じ)が、でっち上げ(鉛筆舐め)で計算しています。
Next: 日銀の異次元緩和は、米国の経済学者による進言で行われた
FRBの子会社になった日銀
2013年4月からの異次元緩和の黒田日銀は、米国FRBの子会社同様の振舞いをしてきました。
(注)白川総裁の日銀は違っていたので、安倍首相が2期目に首を切ったのです。2期目の更迭は異常なことでした。行政改革のためとした法の改正で、首相が握った官僚高官の人事権の威力で、財務省官僚にも自主的な忖度(そんたく)をさせています。白川総裁の首切りが、その最初でした。
米国の経済学者のクルーグマンは、「日本が陥った流動性の罠(ゼロ金利で債券買いが減って現金化されること)」からの脱却に、インフレ政策を取るべきだと進言しました(2001年『日本が陥った流動性の罠』)。
安倍政権になって、米国金融の奥の院に属しているクルーグマンの政策提言が、
・日銀が国債を買ってインフレを起こすといっていた異次元緩和と、
・輸出物価を下げて、輸入物価を上げる、円安策になったのです。
この構図を描いて政策を提言したのが、現代米国経済学につながりがあると自称する浜田宏一氏でした。(この人の本を読むと、浜田氏は**は知人だということだけを書いています(普通の神経なら恥ずかしいことでしょう)。
ノーベル経済学賞を浜田氏にというのは、トランプのノーベル平和賞とおなじ筋です。白川総裁は、私の教え子だとも恥じることなく自慢しています。
ゼロ金利、マイナス金利の深層
政府と日銀は、FRBと米国政府の「円金利を下げ(マイナスにもして)、イールド(2.5%の金利差の利益)のある米国債を買って、円安にしてはどうか」という外圧に従属し続けています。
実は…安倍首相は、黒田総裁を任命するとき(2013年4月からの異次元緩和の前)、「アジア開発銀行の総裁のときから国際金融マフィアに人脈がある黒田さんが適当」と述べています(国会での公式の発言)。
国際金融マフィアとは、米国と英国そしてBIS(国際決済銀行)に巣くった「金融の奥の院」を指す言葉です。それらの銀行(大口株主は、金商人のロスチャイルドと、石油閥のロックフェラー)が、米国FRBの株主です。
つまりFRBの金融政策と同調できる人、あるいは協力できる人。本当はFRBの要求に応じて米国債を買って、ドルを上げて円安にする人が黒田さんというのが、任命理由だったでしょう。
事実、2012年10月から、民主党政権のときは1ドル80円付近だった円は、異次元緩和がピークだった2015年(日銀による1年80兆円の円国債買い)には、1ドル120円へと、50%の円安になっています。
※参考:米ドル/円(USD/JPY):外国為替レート(楽天証)
Next: アベノミクスの円安と株高を作り上げた正体とは…
円安とは、ドル買い/円売りの超過であり、米国にマネーは行く
円安は、「ドル買い/円売り」の超過によって起こります。
この間、日銀が国債を買って増発した円(日銀当座預金約400兆円:当時)のうち、60兆円くらい(1年の純額で20兆円から30兆円)が、国債を売った銀行とGPIF、生保、郵貯、かんぽ生命のドル債投資になったのです。
米国債を日本に売ってお金を得た米国ヘッジファンドは、そのお金の一部(15兆円)で、日本株を買って日経平均を8,500円から2万円に上げる引き金を引きました(2012年末から2015年)
これが、アベノミクス円安と株価上昇の正体でした。
(注)安倍首相が退陣したあとの金融史に残るでしょう。
ドル債(国債、証券、株、デリバティブ)への投資とは、ドル債を世界に売っている米国の銀行とファンドにマネーを供給することです。
米国の債券を買うには、その前に「ドル買い/円売り」が必要です。日本からの「ドル買い/円売り」が「世界からの円買い/ドル売り」より超過すると、「円安/ドル高」になります。
構図を描いた首謀者は、自ら名乗っています…
2012年12月から安倍政権の内閣官房参与を務め、異次元緩和の構図を描いた浜田宏一氏(東大教授、エール大学教授)は露骨でした。「日銀が円国債を(銀行が金利のつく国債を売り渋って)買いにくいのなら、ドル国債を買って米国にドルを供給すれば円安になる」とすら公式の席で述べていました。
この人物は、国際金融マフィアのエージェントと言っても過言ではない人です。コロンビア大学、ハーバード、MIT、エール大学は、経済学では国際マフィアの学問の牙城です。
米国の大学は、金融機関とファンドの寄付(基金)で成り立っています。ロスチャイルド家は、将来、政府と関係をもち得る優秀な海外留学生に奨学金を出して、国際金融マフィアの利益を高める学説(または論文)を作らせ、学説の発表として、ソフトに見返りを要求します。
東大の経済学部の教授が財務省の顧問等を経て、コロンビア大学の教授になるのが報酬です。財務省顧問の円安(ドル買い)を演出した伊藤隆敏氏が、もっとも露骨でした。ノーベル経済学賞も、学者としては世界で最高の権威を得ることができるアメリカの大学のポストに類似しています。
世界が貿易に使う基軸通貨である、ドル買いが有利とする学説を世界に流布させる根底の目的は、米英金融マフィアの利益になる、FRBが増刷するドル基軸通貨体制の維持のためです。
もっとも多く預金マネーをもつ日本と、オイルダラーの産油国、輸出でもっとも多くドルを受け取る中国がターゲットになります。
(注)ユーロを作ってドル圏から逃れたドイツは、ドル国債を買いません。持ち高は860億ドル(9兆円)、ほんのお付き合い…。
※参考:MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES
エール大学のときの浜田宏一氏、小泉内閣の経済財政担当大臣の竹中平蔵氏(ハーバード大学の准教授:国際経済研究所フェロー:この人物は童顔に似合わず悪人の政治家です)。
竹中平蔵氏は小泉内内閣のとき、米国のイラク戦争への協力金として、30兆円の米国債を買うときの指揮をしています。
Next: 日本は円高を避けるため、ドル国債を買い進めさせられる
ドルの罠にかかってしまった日本
積年のドル債券の買いで、日本の対外資産は1,062兆円に増えています(2019年6月末:日銀資金循環表)。
政府は、ドル建ての債権を明らかにしませんが、推計ではドル建て70%、ユーロ建て20%、他の通貨(人民元等)が10%でしょう。
※参考:2019年第2四半期の資金循環(速報)‐日本銀行調査統計局(2019年9月20日公開)
ドル買いによる円安政策を指揮した安倍政権は、自ら進んで「ドルの罠」にかかっています。罠に近づいて自分でかかったのが、米国ご忠臣のひとたちです(日本のリーダー)。
中国を超える世界一の経常収支(貿易黒字+所得収支の黒字)の大国ドイツが、決してドル国債を買わないことと好対照。
(注)2018年8月以降、中国はドルの罠から逃れようとしています。そのための金買いです。中国の金の買い増しで、金価格は上がっています。
このため中国全体の「ドル買い/元売り」の超過(=民間のドル買い─政府のドル売り)が減って、米国の銀行システムがドル不足になったのです(19年9月)。
米国債の発行は1兆ドルに増えて、これからもますます増える
米国債の発行は、(1)トランプ減税、(2)軍事費の増加、(3)公的医療費と年金の増加のため1兆ドルを超えました(2019年)。これは、米国債(産高20兆ドル:2,100兆円)の発行が、毎年1兆ドル以上に増えるトレンドになったということです。
2017年に米国の株価を上げたトランプ減税は、2017年から向こう10年間続きます。
(注)減税をすると株が上がるのは、企業の利益が同じでも、投資家の株の買いを決めている1株当たりの税引き後純益(Earning Per Share)が増えるからです。税引き前の経常利益で見る日本とは違い、米国では、企業利益は純益で見ます。企業の税金は国に納める経費だからです。P/Lの中に、法人税の費用が計上されています。
一方で、財政支出を増やす、ベビーブーマー世代8,000万人(日本の8倍)が次々に65歳を超えているため、公的医療と年金の増加は止まらない。
米国債の流通
1兆ドルの米国新規債は、いったんは米国の銀行が買って(銀行のドルは減少)、日本、中国、産油国に5,000億ドル分くらいを売ってドルの現金を回復してきたのです。
2018年8月からは、トランプから突然、関税をかけられた中国が、逆に「ドル国債の売り」に回っています。買い手は、米国の銀行です。米銀が、中国が売る米国債を買わないと、国債の価格は下がって、米国の金利は上がるからです。
米銀が中国が売る米国債を買えば、米銀システムのドルは減ります。
↓
ドル不足になった米銀は買った米国債を「すぐあとで買い戻しますからという特約つき」で他の銀行に売って、今週の決済に不足していたドルを調達したのです。
これがレポ金融です。レポ金融の借り手(米国債の一時的な売り手)が多かったので、現金を借りるレポ金利が、突然10%に上がった(19年9月18日)。
米銀システムは、今週の決済用のドル不足からパニックになったので、当日、FRBは、銀行が持ってる国債を1,000億ドル(10.5兆円)を急遽買いあげ、当座に足りないドル10.5兆円を供給しました。1日での10.5兆円のドルの増刷は、巨額なものです。
その後、狼狽を続けた法律家パウェルのFRBは、毎600億ドル(6.3兆円)の短期国債を銀行から買い上げ、銀行にドルの現金を増加供給すると公表しています。
期間は、2020年4月から6月までの約10か月という。
(注)FRBは隠れて、ドル国債買いを増枠するつもりでしょう。このために、わざわざ1か月600億ドルという金額を言ったのです。そうでなければ、金額は言いません。FRBは、ドル増刷の金額は言わなくていいのです。
FRBは日銀にも、「このままだと、円高/ドル安になるよ。日本は困るでしょう?」とソフトにいって、裏では強力にドル国債買いを要求してるはずです。
Next: 円の価値を守るはずの日銀が円安に向かわせる行動をどう思う?
日銀の株ETFのリースという証拠
日銀は、当座のドル国債買いの資金(推計20兆円)を得るため、買ってきた株ETF(26兆円)を日本の証券会社にリース(レポ金融と同じ構造の取引)をする決定をしたのでしょう(19年10月29日:記者発表)。
日銀金融の裏を知らないノー天気な証券会社は、ETFの利回りがはいると無邪気に喜んでいます。日銀が証券会社から得る円の現金はどこへいくのか。もちろん、米銀がドル不足になっている米国です。
「円の価値を守ることが日銀のミッション」としているはずの日銀の、円安に向かわせる「円売り/ドル買い」の行動を国民から見て、どう思いますか?
「ドルトラップ」にかかってしまった日本は、ドル売りができない
ところが事態は、若干複雑です。
円安とは逆の20%の「円高/ドル安」に戻ると、「1,062兆円×20%=212兆円」の為替差損が、
(1)ドルの債券(国債、株、社債)をもつ銀行、生保、GPIF、郵貯、かんぽ生命と、
(2)国内投資を減らして、米国への直接投資(工場建設)を増やした輸出企業、
(3)外貨準備をもつ政府に、一瞬で、生じます。
(注)トヨタは海外生産が70%であることはご存知でしょうか。
瞬間の円高・ドル安(1ドル=85円)でも生じる212兆円の損は、日本に1998年のような金融危機をもたらしたスケールです。1998年の金融危機は、銀行が抱えた100兆円の不良債権から起こったものでした。
「1,062兆円のドル」の罠にかかってしまって、日本には「円安・ドル高」という選択肢しか、なくなってしまいました。
GDPが550兆円の国が、世帯と企業の総預金(1,000兆円)に匹敵するドル建ての債権をもってしまったのです。
経常収支の黒字で、1位のドイツと2位の中国
中国の外貨準備は、3.1兆ドル(330兆円)でしかない。日本の1/3です。ドイツの政府と銀行は、米国債を決して買いません。
◎長期的には、経常収支の赤字(年1兆ドルに増加)から、米国はドル安とドル切り下げに向かうからです。(注)対外負債の累積は36兆ドル(3,780兆円:2018年)
「日本経済にとっては円安がいい」といって、円マネーの流れを指揮したのが、政府と日銀です。
三菱UFJも…
円国債の入札から降り、円国債を買い増すことはしないと宣言した三菱UFJフィナンシャルグループは、円国債を日銀に売って得た円の現金で、もっとも多くドル国債・ドル株・ドル社債・CLOを買って、円マネーをドルに変換して「利益が出た」と誇っています。
円安・ドル高は、ドルの罠にかかった三菱UFJの利益になるからです。
(注)円安政策は、円の世帯所得を切り下げる政策です。
Next: 日本の平均年収は、先進国で最低ランクへ転落…
日本人の年収順位は18位に落ちた
日本人の平均年収は403万円であり、世界で18位に下がっています。1位スイス1,073万円、2位ノルウェー921万円、3位ルクセンブルグ899万円、4位デンマーク835万円、5位オーストリア791万円、6位アイルランド767万円、7位オランダ685万円、8位米国645万円、9位ベルギー641万円、10位カナダ638万円。ここまでが世界の10位。
いつの間にか、10位にカナダがはいっています。5位オーストリアの791万円(日本の1.8倍)、6位アイルランド767万円(日本の1.8倍)は、年収429万円の日本から見れば、驚きでしょう。
11位スウェーデン624万円、12位英国614万円、13位フィンランド608万円、14位オーストラリア599万円、15位ドイツ547万円、16位フランス541万円、17位イタリア431万円、18位日本429万円、19位イスラエル408万円、20位スペイン403万円…(2018年7月:当時の1ドル=113円)
※参考:外国人が求めている給料と一緒に見たい!『よく働く国ランキング』‐IZANAU BETA(2018年7月14日公開)
先進国で最低ランクに落ちたのが、日本人の現役世代の平均年収です。円安政策つまりドル買い政策の日本政府は、この事実は隠して言いません。このため、日本人の所得は世界最高ランク(1ドルが79円だった1995年でしたが…)と思っている国民が大多数でしょう。
1990年からの30年、世界は成長経済、日本は停滞経済でした。
根本の原因は、国内投資が減少したことです。海外に、1,000兆円も貸しつければ(ドル債務証券の買い=貸し付け)、国内で投資するお金はなくなります。Aさんのお家から、となりのBさんの家に、1,000兆円貸したからです
しばらくすれば、失業率が13.8%(19年8月)のスペインにも追い抜かれると知れば、国民は、どう反応するでしょう。主因は、円マネーでドルを買って、国内での投資をして円高にしなかったことです。
以上が、2012年からの安倍政権での国民にとっての円安政策の結果です(=1年に20兆円〜40兆円のドル買い/円売りの政策)。
米国企業の社債の、償還を保証するCLOまでを買った日本の銀行
日銀は、
・日本の金利をマイナスに下げ、
・金融機関の円国債を額面より高く買って、
・銀行に現金を供給する(日銀当座預金の増加:400兆円)。
国債を売って、現金を得た銀行や生保は、現金の0%の運用では困るので、金利2%台のドル国債や米国の債券、そしてデリバティブを買うか、保険料を受け取って、資産担保証券のCDS、混合証券の利払いと償還を保証するCLOという保証保険を引きうける。
農林中金だけではない。三菱UFJも2兆円分の米コカ社債の保証を引きうけて、保険料を貰って利益にしています。
米国の企業は、低い金利で社債を発行した
米国の企業は、CLOでの保証を日本の銀行が引き受けるので、
・低い金利で社債の発行ができ(4兆ドル)、
・その社債で得た現金(4兆ドル)で、
・自社株買いをして、株価を12兆ドルも上げて来たのです。
もともとは、日本の銀行が日銀に国債を売って米国株を買ったことと同じ、マネー移転でした(2011年から2018年)。
Next: 不況といえるほどの低下をみせる、原油安の原因とは
実質金利はマイナスの米国
米国は、物価の上昇が2%くらいはあるので、マクロ経済的な金利である実質金利(名目金利−物価上昇率)はマイナスになります。
日本はすでに名目金利でマイナスであり、利下げの余地がない。
このため日本政府は、米国にマネーを供給する「ドル買い/円売り」を、再び促しています。厚労省と財務省の役人が天下りしている年金基金GPIF(資金量160兆円)の「ドル株買い、ドル国債買い」もその一環です。他に、財務省の天下り先である郵貯・かんぽ生命のドル国債買いもあります。
日本よりひどいマイナス金利(-0.5%)のユーロと、FRBの利下げと米国債買いの世界は、再び通貨の増発に向かっています。理由は、2018年夏からの米国の中国関税に起因した世界経済の成長率の低下です。
80ドルだった原油の60ドルへの下落
中東でもGDPの成長が1%台に下がっています(サウジは0.2%:2019年)。これは、受け取りが減ったオイルダラーによる米国債の買いが減ることを意味します。
中東の経済成長は、
(1)中国経済の減速による原油需要の減少と、
(2)米国の50ドルの採算ラインが多いシェールオイルの増産で、原油は80ドル(18年10月)から、55ドル台に下がっているため、不況といえるくらい低下しています。
中国の経済成長の偽装
中国は、今も6%の実質経済成長と政府が発表してはいますが、これは疑問です。
中国人民大学国際通貨研究所理事兼副所長の向松祚(コウ ショウソ)氏は、2018年は1.67%の成長だった、計算方法を変えるとマイナスとも言っています(2018年12月の報道)。
中国政府は香港問題でも、強い情報統制を敷いています。政府機関の中心に属する向松祚氏が、なぜ、こうした、一見では反政府に見える発表ができるのか。普通なら、拘束されます。
おそらく中国政府の黙認、または、積極的な関与があります。高すぎる公式成長率の矛盾を順次、縮小していくことが目的でしょう。
李克強首相ですら、2018年には「中国の経済成長は公式発表より低い」と発言していたからです。
Next: 政府とメディアが2019年末から2020年を「不況」と言わないワケ
成長の減速とは言っても、不況とは言わない政府とメディア
2019年末から2020年の経済を、各国政府と主流のメディアは「不況」とは決して言わなくなっています。
「期待で動く経済(合理的形成学派の仮説)」に、不況という言葉がタブーだからでしょう。
「半年後は不況」と市場が予想すれば、投資が減り、雇用も減って、本当の不況になっていくからです。マクロ経済学が問題にするものは投資、雇用、物価、金利の4つです。
現代は、期待の経済学
現代経済学は、「不況の時期は、国債の発行による公共事業の増加」としたケインズ経済学を、期待(=市場の集合知である予想)という、投資と雇用を増加または減少させる人間の予想を加えて修正したルーカスの亜流です(ルーカスの批判という)。
合理的期待形成学派(1980年代〜)は、ルーカスによるケインズ経済学の論理的な批判から誕生しています。
ルーカス経済学の落ち度は、「金融資産=誰かの金融負債」であることの無視と、期待で上がる金融資産のバブルは、その裏では、返済と利払いができない負債のバブル的な過剰になっていることです。金融学が欠けていたのです。
金融資産バブルの崩壊
年月の確定を別にすれば(数年のスパンでは)、100%の確率で現在の金融資産バブルと負債のバブルは崩壊します。期待の高さで膨らんだ負債が、返せなくなる臨界(デフォルト)に達する時が来るからです。
そのときは、世界中でリーマン危機(推計1,000兆円)の数倍の不良債権になり、次回の回復はリーマン危機より長引くでしょう。
リーマン危機では、株価上昇というプラス効果を生んだ「中央銀行の通貨増発の効果」が、次回はないと、金融市場が見ているからです。理由は、米国の株価時価総額が3,000兆円とバブルの水準だからです。4,000兆円にあがることはないからです。
政府の対策があるが…
時期が確定できないのは、政府・中央銀行が必ずマネー増発の対策をとるからです。しかしマネー増発は、供給を受ける側にとっては「不足する現金の借り入れ」です。
すでに過剰である負債の一層の増加になるので、危機は先送りされるだけです。つぎの本格的な危機になったときの、不良債権額(返済と利払いできない負債)は大きくなっていて破壊的になります。
現在は、「中央銀行による通貨の増刷が、金融危機(=膨らんだ負債の危機)を防ぐのにいくらの金額まで有効か」という、世界史上はじめての実験を世界中がしている時期です。
Next: 人々は未来を示す情報から将来への予測を持ち、その予測で貯蓄または投資を行う
ソ連経済の崩壊
1989年に人工国家のソ連は、崩壊しています。1970年代までは、共産主義が資本主義より優れているとされ、GDPの「実は中身がなかった計画された数字」での成長率は、資本主義国より高かったのです。
ソ連の経済成長は、2008年以降、GDPの政府成長率が数ポイントは高い中国と似ています。元の増発と返済のない貸付で、超富裕層を生んだ点も似ています。香港の民主化運動は、中国の共産党富裕者が、香港の不動産を買って上げたことが主因です。
ソ連の国有企業への貸付は、返済と利払いの要らないものでした。それが共産党の仲間内金融(クローニー資本主義)でした。
(注)現代の中国では、国有銀行から国有企業への貸付金は、多くが、利払いがなく返済もない。返済と利払い額と同じ貸付を、国有銀行が増やし続ければ、不良債権になりません。
長年の通貨の増発は、ロシアになって1,000倍のインフレとなって露呈しました(1998年)。
途中でのインフレがなかったのは、ソ連の物価は政府が決める統制価格だったからです。市場の闇価格は、高騰していたのです。1998年には、ロシアは、旧1,000ルーブルを1新ルーブルに切り下げて、通貨量を1/1,000に減らしてインフレをおさめています。
(注)これは通貨単位の全部を切り下げるデノミではありません。旧通貨の切り下げです。日本も、戦後に、戦前の100円を新1円にして、通貨を1/100に切り下げ、100倍から300倍(消費財の違いで異なる)のインフレを起こし、GDPの2倍もあった戦時国債を帳消しにしています。
過去はなかった、スタグフレーションの発生(1970年代)
ところが、二度の石油危機の波及から物価が上がった1970年代からの政府財政の赤字は、経済を成長させなかったのです(=国民の実質所得は増えなかった)。不況の中で、物価が上がる経済になり、「スタグフレーション(不況下の物価上昇)」と呼ばれたのです。
原因は、高くなった石油の購入のため、先進国のマネーが産油国に流出したことでした。そのマネーの中心がドバイの金融摩天楼です。(注)来月はドバイです。
このときケインズ経済学の批判として登場したのが、ルーカスの合理的期待形成の経済学です。合理的期待(プロスペクト)とは、国語では集合知による予想のことです。
人々は、未来を示す情報から将来への予測をもち、その予測(期待)で貯蓄または投資を行うとしました。(注)これはその通りです。株価での織り込みがこの期待の現象です。
政府財政が赤字になると、将来の増税を期待(予想)して、企業と家計は支出と投資を抑制する。このため、財政赤字は経済成長をもたらすとはいえないとして、ケインズ経済学を批判したのです。ここから、期待の経済学が誕生しています。
Next: 80兆ドルの社債の打ち、19兆ドルが不良債権予備軍とIMFの発表
世界の社債19兆ドルが不良債権の予備軍
企業が借り入れを減らし、国内への投資を減らした日本を除く世界では、リーマン危機のあとの8年で、企業の社債発行(負債証券)が、世界のGDP80兆ドル(8,400兆円)と同額に増えています。低金利が、社債を増やしたのです。
IMFはつい最近、80兆ドルの社債のうち、19兆ドル(24%:1,995兆円)が、不良債権予備群になっていると発表しています。農林中金が8兆円、三菱UFJが2兆円買って保証しているCLOがかかった社債です。
2020年の企業利益が増加し、社債の不良債権は減るでしょうか?2020年の世界のGDPは不況化します(メディアは経済成長の減速と表現)。
さて、この1,995兆円の社債はどうなるか。社債は、償還期に一括返済しなければならないという恐いものです。1,000億円借りていれば、1,000億円の返済を一度に行う必要があります。
借入金は、金利が1ポイントから3ポイントは高くなるので、信用の高い企業は、社債で投資資金を調達します。日本の最大手はソフトバンクです。
世界のGDPの増加が大きく減る中では、特に、大手企業の利益は相当に減少します(30%程度)。すでに利益が少なく、返済のマネーがない企業の社債が19兆ドルの不良債権の予備軍です。2020年はどうなるか。GDPが増える方向に戻らない限り、不良債権化は深刻になります。
社債が返済されない不良債権になって損失を蒙るのは、社債を買っている金融機関です。
銀行の危機の勃発が、2020年中に起こる気配になってきました。株価の下落が伴うかどうか。社債の不良化とともに、株価が30%下がると、世界的な金融危機になり、リーマン危機よりも大きくなります。
中央銀行はリーマン危機のときのように、銀行に緊急に大量のマネーを投入するでしょう(リーマン危機のときは、8年で20兆ドル:2,100兆円)。通貨を大増発するということです。
今度は、一度に1,000兆円の規模で大増発される通貨の価値を人々がどう評価するかが問題になります。現代貨幣論の説くことの実証実験が2020年。どうなるでしょうか…。
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『ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2019年10月31日号)より一部抜粋
https://www.mag2.com/p/money/807292/10
低下を続ける景気ウォッチャーと先行き不透明感残る経常収支!
本日、内閣府から7月の景気ウォッチャーが、また、財務省から6月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲2.8ポイント低下の41.2を、先行き判断DIも▲1.5ポイント低下の44.3を、それぞれ記録し、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+1兆2112億億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
7月の街角景気、現状判断は3年ぶり低水準 天候や日韓関係響く
内閣府が8日発表した7月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は41.2と前の月から2.8ポイント低下(悪化)し、2016年4月以来3年3カ月ぶりの低水準となった。悪化は3カ月連続。例年と比べ梅雨明けが遅く気温が低い日が続いたことが響いた。内閣府はウオッチャーの見方を「このところ回復に弱さがみられる」から「天候など一時的な下押し要因もあり、このところ回復に弱い動きがみられる」と4カ月ぶりに下方修正した。
家計動向、企業動向、雇用がいずれも低下した。家計動向関連は3.6ポイント低下の40.0だった。「梅雨が長く、例年よりも気温がかなり低いため、ドリンク類、冷たい調理麺、アイスクリーム等が前年より2〜3割落ち込み、全体の売り上げを押し下げている」(北関東のコンビニ)といった天候不順に関する声が多かった。「韓国人の宿泊者が大幅に減少しており、しばらく続く見込みである」(九州の都市型ホテル)として、日韓関係の冷え込みの影響を指摘する声も増えた。7月は参院選があったため飲食店での会合が減少した影響もあるという。
企業動向関連は0.7ポイント減で、製造業がマイナス3.0ポイントと押し下げた。米中貿易摩擦による取引量の減少などを訴える声があった。雇用関連も2.3ポイント減の45.8で、「世界の経済情勢の不透明感から、製造業を中心に様子見感の広がりが懸念される」(東海地方の職業安定所)との声が聞かれた。
2〜3カ月後の先行き判断指数は44.3と前月から1.5ポイント低下した。「10月の消費税引き上げにより、外食産業は悪くなるとみている」(北陸地方の一般レストラン)など増税後の消費動向を懸念する声が増えた。先行きについて消費税に関するコメント数は556と6月の450から増えた。
内閣府はウオッチャーの先行きの見方について「消費税率引き上げや海外情勢等に対する懸念がみられる」とまとめた。
6月の経常収支、1兆2112億円の黒字 60カ月連続黒字
財務省が8日発表した6月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆2112億円の黒字だった。黒字は60カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆1717億円の黒字だった。
貿易収支は7593億円の黒字、第1次所得収支は4273億円の黒字だった。
同時に発表した1〜6月の経常収支は10兆4676億円の黒字、貿易収支は2242億円の黒字だった。
かなり長くなりました。これらの記事さえしっかり読めば、それはそれでOKそうに思えます。いずれにせよ、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、景気ウォッチャーのグラフは以下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期です。
消費者マインドについては、需要サイドの消費医者態度指数に加えて、本日公表の供給サイドの景気ウォッチャーも、かなり大きく下げています。マインドは実体経済の先行指標ですから、この先に景気の停滞が待っている可能性が高いと考えざるを得ません。基本的には、米中貿易摩擦に起因する世界経済の停滞が背景にあるんでしょうが、直近7月統計については長引いた梅雨といった天候要因もありそうです。そこで、4月から7月にかけての3か月間において、景気ウォッチャーを構成する3つのコンポーネントの現状判断DIがどのように下げたかを少し詳しく見ると、家計動向関連が4月から▲4.7ポイント低下した一方で、企業動向関連は▲3.2ポイント、雇用関連が▲2.0ポイントの低下となっています。企業よりも家計のマインドの方がより大きく低下しているわけです。他方、人手不足を背景に雇用については家計部門の半分以下の下げ幅となっています。なお、4月から7月にかけて、家計が企業よりも大きく下げている点については現状判断DIだけでなく、先行き判断DIでもまったく同じだったりします。なお、引用した記事に見られる通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「回復に弱さ」から「回復に弱い動き」と4か月ぶりに下方修正しています。実は、この記事を見るまで、この基調判断の下方修正を見逃していたんですが、記者会見でそういった説明があったんだろうと想像しています。
いずれにせよ、上のグラフを見れば明らかで、消費者マインドはかなり長期にわたって低下を続けています。先週7月30日に公表された消費者態度指数は、大雑把に、2017年11月の44.6をピークに1年半余りに渡って下がり続けていますし、景気ウォッチャーも現状判断DI、先行き判断DIともに、細かい動きを別にすれば、2017年10〜12月期をピークにトレンドとして低下を続けているように見えます。繰り返しになりますが、マインドは明らかに実体経済の先行指標ですので、10月に消費税率の引き上げを控えて、直前に駆け込み需要が予想されるとはいえ、とても気にかかる指標のひとつです。
続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。いずれにせよ、仕上がりの経常収支の+1兆円超の黒字はトレンドとして大きな変更はなく、海外からの第1次所得収支の黒字が大きな部分を占めているんですが、先月5月の経常収支については貿易収支が季節調整済みの系列で▲4,522億円と大きな赤字を計上していましたが、6月統計では+1,585億円の黒字に転じています。でも、この先、世界経済のいっそうの停滞が予想されるとともに、韓国向け輸出の動向が不透明であり、貿易収支が従来通りの黒字を続けるかどうかは判然としません。
2019年8月 8日 (木) 20時10分 経済評論の日記 | 固定リンク
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「日本がダメなら世界」と商社を飛び出した若者のその後
津久井 悠太
記者
2019年8月26日
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人材の採用コストが高止まりする中、優秀な若手社員の退職に悩む企業は多い。日経ビジネス8月26日号「できる若手がなぜ辞めた 本当に効く人材定着の知恵」では、大手企業の「期待の星」だった若手社員が離職を選んだ理由と、彼らを引き留めるために企業が取るべき策を探った。
毎年の大学生人気就職先ランキングに軒並みランクインするのが、大手総合商社。高倍率の競争をくぐり抜けて入社した新人たちは、海外経験や恵まれた待遇、高い社会的ステータスへの期待に胸を膨らませる。しかし、中には業界トップを争う企業で「期待の新人」と目されながら、3年未満で離職を選ぶ若手社員も存在する。総合商社A社を2年ほど前に退職した田代裕貴氏(仮名)もその一人だ。
田代氏は有名私立大学に通学するかたわら、自ら語学学校にも通ってフランス語を習得。その実力は確かなもので、在学中に1年間のフランス留学も経験している。留学の前後に短期間で済ませた就職活動では、留学経験や語学力、コミュニケーション能力が高く評価され、商社以外も含め有名企業から多数の内定を獲得した。
同期の「成長株」が突然退社
田代氏は結局、「ファーストキャリアとして最も有望だと考えた」A社に入社。入社後は自動車グループに配属となり、自動車部品の輸出などに関わる業務を担当することになる。2015〜2016年頃の資源価格の下落により、A社では非資源事業の強化が急務となり、中でも自動車グループは全社の期待を背負っていた。当時、A社の若手社員は通常業務とは別に会社から研修用の課題を与えられていたが、田代氏はそうした課題でも同期の指示系統を取りまとめるなど積極的に活動。その結果、2年目には尊敬する上司の元で徐々に重要な仕事を任されつつあったという。
次ページたどり着いたのは欧州の小国
しかし2年目の夏、田代氏は突然、上司に退職の意思を告げる。理由は、入社時に高い評価を受けた留学経験そのものだった。
「欧州での仕事でフランス語を活かせると期待してA社に入ったが、実際に担当になったのはアジア圏。その時点でモチベーションは低下しかけていた。それ以上に、留学中にフランス人の働き方をよく見ていたので、業務や課題漬けの非効率な長時間労働が本当に必要なのか疑問だった」(田代氏)
田代氏が知る欧州の働き方は、「決まった勤務時間内で全力を出し、短い時間で高いパフォーマンスを出す」というもの。しかし、A社での新人の仕事は量ばかり膨大で、効率を上げて私生活も充実させようという発想は皆無に思えたという。
たどり着いたのは欧州の小国
そうしてA社を退職した田代氏は、自らの望む働き方に近い企業を国内で探すどころか、日本を飛び出して欧州に渡る。各国を旅しながらインターネットを駆使して仕事を探し、結果的に欧州フランス語圏の素材メーカーB社への就職を決めた。B社は従業員数300人程度の規模ながら、自社製品で欧州市場をほぼ独占する優良企業。田代氏に任されたのは、日本企業からB社に出向した技術者の通訳だった。
総合商社を2年弱で退職した田代氏(仮名)は現在、欧州フランス語圏(写真はイメージ)で働く(写真=PIXTA)
次ページ「10年は日本に戻らない」
「B社の労働環境は、日本での経験と雲泥の差だ」と田代氏は語る。朝8時に出社すれば午後4時半には仕事が終わるため、「かえって夕方以降に何をするか困ってしまうほどだ」(田代氏)。生産性を上げるために半年先まで仕事を計画し、インターン生なども活用して人員に余裕を持つ。その分、B社では社員一人ひとりが専門性を厳しく問われるが、希望に応じて新しい仕事のチャンスは与えられる。田代氏自身、通訳以外の仕事も考えてみるよう上司に勧められているという。
「10年は日本に戻らない」
「思い返すと、組織力を強みとするA社には『個々人が身を粉にして組織のために働く』という価値観があった。B社では、社長自ら従業員の人生の充実を目標に掲げ、休暇の行き先まで気にする。自分の意思で自分のキャリアを築きたいので、今後10年は日本に戻らないつもりだ」(田代氏)
田代氏には、A社時代の同期からしばしば連絡が来るという。内容は「自分もA社を辞めて海外で働きたいが、どうすればいいか」といったものだ。海外駐在のチャンスが多い総合商社には、その性質上、帰国子女も多い。「彼らの中には、本当は労働環境のいい欧州などで働きたいと思っている人も多い」と田代氏は語る。
語学に長けた優秀な若手社員に対し、海外を相手に事業を広げる日本企業は大きな期待を寄せる。しかし海外転職の情報が比較的簡単に得られるようになった今、彼らの選択肢は世界中に広がっている。企業は労働環境や人材育成の面で、従来以上に厳しい目を向けられることになる。田代氏のケースが示すように、優秀人材の獲得における競争相手は、国内だけではなくなっている。
日経ビジネス8月26日号「できる若手がなぜ辞めた 本当に効く人材定着の知恵」では、大手企業の「期待の星」だった若手社員が離職を選んだ理由と、彼らを引き留めるために企業が取るべき策を探った。
日経ビジネス電子版の議論の場「Raise(レイズ)」では、日本が停滞から抜け出すために打つべき一手を考えるシリーズ「目覚めるニッポン」を始めています。若手社員の引き留めについても、「 [議論]若手社員、どうやったら引き留められる?」にて読者のみなさんの意見を募集しています。
若手社員が会社を離れてしまう根本的な理由、企業が実行できる有効な引き留め策など、みなさんの考えをお聞かせください。若手社員ご自身の経験談も大歓迎です。 (注:コメントの投稿は有料会員限定です)
往復書簡
若手社員と企業の間にギャップ
本当に効く人材定着の知恵
メンター導入、面談充実…間違いだらけの引き留め策
できる若手がなぜ辞めた 本当に効く人材定着の知恵
ケーススタディー
「ガリガリ君」の赤城乳業、1000本ノックで奇抜さ育む
本当に効く人材定着の知恵
「期待の星」ほど早い決断 辞める理由の大誤解
世界の最新経営論
AIが奪う仕事vs減る人手 自動化と仕事減少の行方
日経ビジネス最新号特集から
離職率減の秘密は「社員への隠し事をやめた」こと
ケーススタディー
三井物産、「出入り自由」の組織作りで新事業創出へ
コメント15件
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オイラ524
万年課長
たいそうな夢を語りながら現実は通訳ね 笑笑)
2019/08/26 11:57:493返信いいね!
Last Penguin
表題からは彼が異端児のような印象になるが、今やこういう能力のある人ほど組織に縛られない働き方をするのが主流になるのではないか。
私の娘も大学在学中からいくつもの海外の研修プログラムに参加し、授業のない期間はほとんど日本にいない。こうなればも...続きを読む
2019/08/26 13:31:142返信いいね!
RN
この方に比べれば志は低いかと思いますが、IT系へ転職し、フレックス、私服勤務、同世代しか居ない故の風通しの良さに慣れてしまい、もう伝統的な日本企業へは戻れないと感じています。
もちろん会社の安定性と引き換えですが。
2019/08/26 14:18:00返信いいね!
Rollei40S
無駄飯くい
資格試験の点数でなない、実践英会話の能力を評価して採用した人材を、部署間の「綱引き」の挙句に国内営業部に配属して結局辞められてしまう・・・・そんな話がどこかの会社にもありますねぇ(遠い目)
2019/08/26 15:13:053返信いいね!
傘
末端平社員
フランスの隣国・欧州在住です。
田代さんは就労ビザも取れたようですが、ワーホリからの転換なのでしょうか?以前は就労ビザを取ることが難しく、今の安易な制度が羨ましいです。
田代さんは仏語に堪能だったから、即戦力として採用され、恐らく待遇も良...続きを読む
2019/08/26 16:10:2012返信いいね!
リンダ
コンサルタント
長いスパンでの人生設計、おっしゃるとおり。ドイツ在住ですが、長く住むなら、ドイツ語の専門的な教育を受け、資格をとらないと。大卒の資格はネイティブでも難しいので、職業専門学校の道もあります。専門資格をとれば、それを生かして正社員になれ、日本語...続きを読む
2019/09/05 17:13:222いいね!
forte
まだ道半ば
「海外企業で就職」が良かったかは別として、
記載の日本人の働き方はメスを入れることが必要。
当方も海外駐在経験があるが、海外では品質80%で効率を追いかける文化があるのに対して、日本は残り20%を更に倍の時間を掛ける印象。
高齢化、少子化、労働力不足が懸念される日本で、本来手がけるべきはこういった意識レベルの働き方改革ではないかと考える。
「残業時間削減」の全てが悪いとは言わないが、あくまで出面の労働時間に注目してしまっているのは皮肉なことだ。
2019/08/26 16:45:328返信いいね!
わぐけるとまほうのき
塾講師
日本にもこういう会社はありますね。息子が勤める会社がそうです。香港駐在中に転職を決めた会社だったけれど、古い人間の僕には考えられない「労働環境」。ホワイトを通り越して日本の会社とは思えない環境。せいぜい言えるのはスーツ着用程度かな。
財務内容も信じられないくらい良い。前の会社でずっと財務を担当してきた息子が驚いていた。僕もそう思う。
上場もしていないので名度はないがB to Bの優良会社がたくさんあることを知りました。学生諸君はそういう会社を探していくと良いことがたくさんあるように思います。
2019/08/27 23:21:534返信いいね!
鈴木 伸二
薬学博士
現在のような国際環境かなり広いので、海外で働くこともかなり意義があるのですが、問題はその方法なのです。でももし本当に海外で活躍したいと考えた時に、一つの方法は海外の大学に転編入し、二年くらい頑張ればその大学を卒業することにより就職の可能性が広まるのです。
私の例では、イタリアの大学に途中編入することにより、二年間でその大学を卒業し、その後今日に至るまでイタリア、スイスで働くことが出来ました。この場合の言葉はその国に三か月くらい語学研修してから、大学に編入するのですが、この場合は日本での学部と同じ学部を選考することが重要なのです。つまりこのようにすると編入先の大学でも比較的問題が少なく学習についていけるからです。もっとも、国によっては他国の大学の卒業生の習得科目を全く認めてくれないところもありますので注意が必要です。
2019/08/28 05:11:032返信いいね!
Latebloomer
自分の会社は9時始まり17:30就業ですが、1時間前にシフトしてます。16時過ぎくらいから集中力・生産性は下がりますね。定時後に誰とどこに飲みに行くかそわそわしている輩もいて。就労環境わかります。職住が離れているのも原因かと思いますが。
2019/11/05 11:17:11返信いいね!
Acchie123
なし
職住が離れているのを「怪しまない」文化が、まず、基本的な問題でしょう。単身赴任も。軍隊の発想の名残かな(もっとも、軍の宿舎は駐屯地にありますが、将兵の実家は遠くですよね)。日本でも、地方なら、徒歩圏に職場ありというのは可能でしたが、バブル期に激減しました。
2019/11/05 16:47:31いいね!
日の当たる場所に出たい
語学”だけ”が達者な人なら、その言葉のネイティブを雇えば良いだけなので、語学だけが堪能は人はアドバンテージ無いです。
他になにか光るものを持っていると強いです。
変に勘違いした新人君が時々居ますけど、別な意味で転職していきますね。
2019/11/05 12:31:063
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00067/081900014/?P=3&mds
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