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中国、粗悪な違法鋼材「地条鋼」の生産激増…日本企業に大打撃
https://biz-journal.jp/2019/10/post_125382.html
2019.10.29 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
「Getty Images」より
2016年後半から昨年半ばまで、東海カーボンの株価は上昇基調となった。これは、中国政府の景気対策や環境規制などを受けた、いわゆる“黒鉛電極ブーム”による需要の急速な高まりに支えられたもの。黒鉛電極ブームとは、電気炉で鉄を溶かすときに黒鉛の電極を使うため、主に中国の環境規制を背景に黒鉛の電極に対する需要が急拡大すると見られた動きだ。
ところが19年に入り、中国での需要に陰りが見えたことからブームが下火となり、東海カーボンの株価は右肩下がりになった。今年10月半ばの株価水準は、1年前のほぼ半分の水準に落ち込んでいる。最近では黒鉛電極への需要期待はしぼみ、多くの市場参加者が業績下方修正などへの警戒感を強めているようだ。
黒鉛電極を中心に収益を得てきた東海カーボンの業績は、中国などの鉄鋼生産の動向をはじめ、グローバル経済の動向に左右されやすい。現在、米国を中心に世界経済の先行き懸念が高まっている。同社は技術力の向上だけでなく、原価の引き下げや買収に伴うリスクへの対応力を高め業績を安定させることが必要になる。
■中国の過剰生産能力と東海カーボンの業績低迷懸念
リーマンショック後、東海カーボンの業績および株価動向は、中国の政策や過剰生産能力に大きく影響されてきた。08年末から16年末ごろまで、同社の株価はおおむね500円を下回る水準で低迷した。この株価低迷には、鉄鋼をはじめとする中国の過剰生産能力の顕在化を受け、同社の業績が悪化傾向をたどるとの懸念が反映されていたと考えられる。
08年11月、中国政府は4兆元(当時の邦貨換算額で約57兆円)の経済対策を打ち出した。これを受けて、中国では公共事業や不動産開発のために、セメントや鉄鋼などの分野で生産能力が急速かつ大規模に増強された。
10年には中国の鉄鋼生産能力が年間8億トンに達した。これは、日本の約8倍だ。この時点で、約2割の生産設備は過剰となっていたとみられる。11年半ば以降、経済成長率が低下したにもかかわらず、鉄鋼生産能力は蓄積されてしまった。そのほか、セメントや石炭などの分野でも成長率が低下するなかで生産能力の調整が進まず、過剰生産能力が顕在化した。
中国の過剰生産能力の出現によって世界的に需要は低迷した。これにより、黒鉛電極やカーボンブラックなど東海カーボンの主力事業の収益力が落ち込んだ。それに加え、中国企業の台頭によってアジア市場を中心に価格競争がし烈化した。当時、東海カーボンの自助努力ではどうにもできないほど、世界の需給ギャップが弛緩してしまったといっても過言ではない。
この結果、多くの市場参加者が、東海カーボンの業績が低迷を脱することは難しいと懸念を募らせた。なかには、中国の過剰生産能力の解消が進みづらいなかで、黒鉛電極事業は東海カーボンの経営の重石と化していると指摘する市場参加者も出始めた。16年2月に東海カーボンが公表した中期経営計画の説明資料では、聖域なき改革や組織風土の見直しの重要性が示されるなど、経営陣は自社の経営とそれを取り巻く事業環境にかなりの危機感を強めた。
■“黒鉛電極ブーム”の出現と終焉
一転して、17年ごろから黒鉛電極への需要が急速に高まり、東海カーボンの業績が大きく回復した。当時の状況を、“黒鉛電極一本足打法”と形容するアナリストもいたほどだ。
無視できない影響を与えたのが、中国政府の政策だ。中国では、スクラップを溶かして固めただけの違法鋼材である地条鋼の生産が続いてきた。16年以降、中国政府は景気対策を打ちつつ、地条鋼生産への取り締まりを強化した。17年6月には、事実上、地条鋼の生産が停止に追い込まれた。それに加え、中国政府は大気汚染対策のためにも環境負担が相対的に小さい電炉の普及を重視した。
これが黒鉛電極への需要を一気に高め、価格は急上昇した。18年度(1〜12月期)、東海カーボンの営業利益は前年度から5.7倍程度も増えた。黒鉛電極事業の営業利益は前年度から約40倍も増加した。これは中国に影響された黒鉛電極ブームというべき状況だった。
ただ、未来永劫、需要が拡大基調を続けることはあり得ない。どこかで価格はピークをつけ、相場は下落し始める。東海カーボンの株価推移をみると、18年10月中旬以降、株価は右肩下がりの展開だ。背景には、中国経済が成長の限界を迎え、従来以上に鉄鋼の過剰生産能力の問題が深刻化したことなどが影響した。
それに加え、19年に入ると、生産停止に追い込まれた地条鋼の生産が息を吹き返し始めた。経済全体の成長率が低下し企業収益に下押し圧力がかかるなか、中国では品質よりも価格の低さが優先され始めているとみられる。黒鉛電極ブームは過ぎたと考えられる。
中国の競合メーカーの製品よりも耐久性が高いことを強みとしてきた東海カーボンは、急速な事業環境の変化に直面していると考えるべきだ。その上、同社は中国企業の技術面のキャッチアップにも対応しなければならない。これは、多くの業種において日本の企業に共通する課題だ。
■悪化懸念高まる事業環境
中国の需要落ち込みを受けて、東海カーボンは収益を安定させつつ、財務面などのリスクを適切に管理していかなければならない。
東海カーボンの経営陣は、黒鉛電極事業への依存という偏りを修正するために、改革を重視している。同社は黒鉛電極の生産削減に加え、原価引き下げにも取り組んでいる。経営陣は、ブームというべき一時的な相場高騰に浸ることなく、事業環境を冷静に把握しているといってよいだろう。
一方、東海カーボンは、海外企業の買収を通した収益源の多角化にも取り組んでいる。すでに同社はドイツなどで買収を行い、アルミ精錬分野等の生産能力を付加した。これも事業構造の偏りを修正するためには重要だ。
ただ、買収にはリスクが伴う。東海カーボンのように企業向けに素材や部材を納入する企業の業績は、マクロ経済の変化に大きく影響される。経済の専門家の間では今後2年程度で米国経済が景気後退局面を迎えるとの警戒感も増えている。
一方、世界的に株式や不動産などを中心に、資産の価格は高値圏で推移している。米国の景気後退が現実のものとなれば、米中を中心に世界の自動車販売は一段と落ち込むだろう。その場合、東海カーボンが収益源の分散のために進めてきたカーボンブラック事業やアルミ精錬関連事業は、一段の、あるいは想定外の需要低下に直面し、損失が発生する可能性も排除できない。
東海カーボンに求められることは、構造改革を進め、米国や中国経済の変調などに起因するリスクを吸収できる事業体制を整えることだ。その2つの点から、今後の業績が評価されていく必要がある。
口で言うほど容易なことではないが、需要の落ち込み以上の原価低減が実現できれば、同社が技術面の優位性を維持しつつ、収益を得ていくことはできるだろう。不確実性高まるなかで東海カーボンがどう収益を安定させることができるかは、海外需要を取り込んできた日本企業にとっても重要な意味を持つと考える。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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