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夫の生命保険金に相続税と所得税の二重課税!税務署相手に訴訟起こし勝訴!
https://biz-journal.jp/2019/10/post_121025.html
2019.10.07 文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人 Business Journal
「Getty Images」より
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな課税は「二重課税」です。
税金の世界では、「二重課税」は良くないこと、排除されたほうが望ましいこととされています。しかし、基本的には何か理由をつけてそのままにされていることが多く、ときどき裁判になっているようです。
二重課税とは、はっきりと「これ」とは決まっていません。一般的には、ひとりあるいは1件の納税者のひとつの課税の対象に2つ以上の税金を賦課することです。現在の考え方だと、二重課税があることがわかっていても違憲であるとはいえず、税法にそれを排除すると明文化されていない限り、そのまま課税されます。
ただし、所得税法では、「次に掲げる所得については、所得税を課さない」として、「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」を掲げています。ここでは二重課税を排除しているわけですね。
■異例の税法改正
以前、夫を亡くした女性が、夫にかけられていた生命保険金を受け取った件について、争いがありました。
保険金の受け取り方としては、「一括でもらう方法」と「年金として少しずつもらう方法」を選択することができます。この女性は、「10年間・毎年230万円を受け取る」年金型を選択しました。
その後、この生命保険金は“みなし相続財産”であると考えて、所得に含めずに所得税の確定申告をしたところ、税務署から「違うよ」と更正処分を受けてしまいます。税務署は、生命保険金を「雑所得」だと考えたようです。納得のいかなかった女性は、訴訟を起こし、これが最高裁まで争われることとなります。
年金の支給を受けた場合、通常、支払っていた保険料との差額に所得税がかかります。生命保険金の請求権を相続すると、年金をもらえる「権利」に相続税が、もらえる「年金」に所得税がかかっていました。
保険事故で生命保険金が支払われる場合、契約者と受取人が同じなら、保険金と保険料の差額が所得税の対象となります。ところが、契約者と受取人が異なる場合、つまり今回のような場合、契約者の死亡で保険金が支払われると、契約者に課税されることなく、受取人に権利が移転します。
そこで、公平を図るため、相続税法では保険金を相続により取得したみなし相続財産として相続税の対象とし、さらに年金を受け取るときに所得税がかかります。
しかし、一時金で受け取る場合は相続税のみで所得税が課されることがないため、女性は、これと同様の取り扱いとするよう求めたのです。
最高裁は年金を、死亡時の価値に相当する部分とそれ以外とに分け、前者については相続税の課税対象となるとしました。そして、将来にわたって受け取るべき年金の金額に相続税を課し、受取時に所得税も課税することは二重課税となる。そこで、その全額について相続税の対象というべきで所得税を課すことはできないと、税務署の処理を否定し、女性の主張を認めました。
この裁判は、税法を変えて、新たなルールがつくられるきっかけとなりました。
【特別還付金の支給制度(抜粋)】
相続に係る生命保険契約に基づく年金の受取人である方に対し、平成12年分以後の各年分の保険年金に係る所得のうち、所得税が課されない部分の金額に対応する所得税に相当する給付金を支給する。
同じように二重課税となっていた方に、所得税相当分を還付する制度ができたのです。裁判によって新たな税法が生まれることはありますが、このように納税者に有利なルールが創設され、さらに遡及されるのは、かなり珍しいことです。
保険金を受け取った女性が訴訟を起こさなければ、このような改善は行われませんでした。誰も論理的誤りに気づくこともなかったでしょう。
難しい解釈ではありますが、前例が多いと税務署の職員たちも自らの思考を停止して税務処理をします。ただ、それが絶対正しいとは限らないのです。
もし納得がいかなければ、税理士などの専門家の助言を仰ぎましょう。そこで法律に矛盾や違憲があれば、訴訟を提起してもよいと考えます。この女性の行動は、日本の税法のさらなる発展を促す、素晴らしいものとなりました。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)
●さんきゅう倉田
大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。2017年12月14日、処女作『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)が発売された。
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