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人手不足の真の問題は「人間らしく働ける仕事」が不足していることだ
https://wezz-y.com/archives/69694
2019.10.07 wezzy
「Getty Images」より
人手不足が深刻化して久しい。帝国データバンクが9月中旬に発表した調査結果によると、「従業員が不足している」と回答した企業は半数以上もあることがわかった。どこの企業も人材確保に苦労しているようだ。
しかし他所で働くよりメリットがあると提示できれば、大きなアドバンテージになる。今年5月、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOが時給1300円のアルバイトを2000名募集したところ、応募が殺到したため3日で募集を終了したことは大きな話題となった。
また、兵庫県宝塚市では8月、「就職氷河期世代とされる30半ば〜40代半ばの人を正規職員として採用する」と発表し、合計1816人もの応募があったという。
ZOZOが提示した時給1300円は、それでも高いとは言えないが、全国平均の1038円(2019年9月時点、タウンワーク調べ)を大きく上回る。宝塚市の求人は“安定”の代名詞とされている公務員である。好条件の求人に応募者が殺到したことを鑑みると、人手不足は実は、“ホワイト求人の不足”なのではないだろうか。
長年にわたり日本の労働問題を研究してきた金沢大学名誉教授・伍賀一道氏に、現在の日本における求人状況を伺った。
伍賀一道 金沢大学名誉教授
1947年生まれ。金沢大学名誉教授(専門は社会政策論)。主な著書に、『「非正規大国」日本の雇用と労働』(新日本出版社、2014年)、『劣化する雇用』(旬報社、2016年、共著)、『よくわかる社会政策(第3版)』(ミネルヴァ書房、2019年、共著)。
「名ばかり正社員」の求人が増えている
伍賀氏は今、「求人の劣化」を感じている。安定した雇用形態と考えられてきた「正社員」も、安定した生活を保障する働き方とは言い難くなっているからだ。
伍賀氏「雇用形態は『正社員』と書かれているのに、『昇給・賞与ナシ』の求人票は少なくありません。私たちが『正社員』という働き方に抱いていた『毎年昇給があって賞与が年2回支給される』というイメージの求人は、珍しくなってきているのです。『正社員募集!』という耳ざわりの良い謳い文句で求職者を誘い出し、安く使い倒そうする企業があるのが現状です」
正社員であるにもかかわらず雇用期間が定められているケースや、雇用期間が明確に伝えられていないケースなど、“名ばかり正社員”として働いている労働者が増えている。
伍賀氏「総務省統計局が5年ごとに実施している『就業構造基本調査』によると、『正規雇用』は2012年(3311万0000人)から2017年(3451万4000人)にかけて、伸び率が1.04で約140万人増えています。ただ、この『正規雇用』のうち『名ばかり正規雇用』は2012年(256万7000人)から2017年(317万3000人)で60万6000人増えていますが、この伸び率は1.24なんです。
つまり、正社員で働く人が増えている以上に、名ばかり正社員が増えているということです。成長機会を与えられず低賃金で働かされる非正規労働者は問題視されていますが、実は正社員の労働環境も年々悪化していて、『正社員になれば安泰』と考えることが難しい時代になりましたね」
こうした状況を踏まえ、日本で声高に叫ばれる「人手不足」に、伍賀氏は懐疑的な印象を抱いているという。
伍賀氏「去年12月のもので少し古いデータですが、厚生労働省の『職業別一般職業紹介状況実数(常用(含パート)』では、『介護サービスの職業』の有効求人倍率は4.47倍。『接客・給仕の職業』は4.15倍です。これに対し、『一般事務の職業』は0.41倍でした。一般事務職の求人数は15万件近くあったのですが、求職者の方は37万件と、求人数をはるかに上回っています。
介護サービスは深夜勤務や交替制、長時間労働が常態化しており、賃金もかなり低いですよね。接客や給仕の仕事も同様のことが言えます。一方、一般事務の仕事は給与はそれほど高いわけではありませんが、介護職やサービス職と違って夜勤や交替勤務は少ない。仮に残業があっても終電間近まで働かされるケースはそれほど多くはありません。そういった働きやすさから、応募者が多いのだと思います。
働かせ方に問題がある業界で人手不足が強く叫ばれているのであって、その働かせ方を改善せずに『人手不足を解消するために外国人労働者やシルバー人材を活用しよう!』という動きになっていることには、首を傾げたくなりますよね」
財務省が9月上旬に発表した法人企業統計(金融・保険業を除く)では、2018年度の内部留保が7年連続で過去最大を更新した。簡単に言えば、儲かった分を人件費に回そうとせず、内部に貯め込む企業が多いということだ。
伍賀氏「労働総研というシンクタンクが内部留保に関する研究をしています。その試算によれば、現在の内部留保の約3%ほどを人件費に回せば、最低時給1500円は可能です。人手不足でありながらも頑なに賃上げをしようとしない多くの企業に対し、政府主導で『内部留保を従業員に還元しなさい』と促す取り組みをすべきなのです。
そのために最も効果的なことは、『最低賃金の引き上げ』ですね。株式会社小西美術工藝社の社長であるデービッド・アトキンソンさんは、著書『日本人の勝算―人口減少×高齢化×資本主義』(東洋経済新報社)の中で最低賃金を上げることが生産性を高める、記していましたが、私もこの考えに同意します。最低賃金引上げとあわせて、一定期間は社会保険料の減免など中小企業にたいする支援の措置が必要ですが。
そもそも、アメリカでは2018年に主要な州の最低賃金が時給10ドル(約1100円)を超え、カナダやイギリス、ドイツなどでは1200〜1300円に引き上げられています。日本の最低賃金全国平均901円)は世界的に見たら圧倒的に低く、早急に見直さなければいけないポイントです 」
10月から地域別最低賃金が引き上げられ、東京都と神奈川県では1000円を超えた。
伍賀氏「これ自体は喜ばしいことですが、中澤秀一氏(静岡県立短大)らの調査によれば、最低生計費は全国どの地域でも時間当たり換算で1500円前後です。1000円を超えた程度では最低生計費にははるかに及びません。全国一律時給1500円を最賃引上げの目標とすべきでしょう 」
「最低時給の引き上げ」に加えて、劣悪な求人を減らすための方法として、伍賀氏は「人材の能力開発」を挙げる。
伍賀氏「待遇の悪い仕事はマニュアル化されたものが多く、ビジネスパーソンとして成長することは難しい。雇用保険制度には、厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練講座を受講した際にかかった入学料や受講料などの経費を一部負担する『専門実践教育訓練給付金』というものがありますが、今後はリカレント教育やスキルアップセミナーを受講している期間の生活を保証するほどのお金を支給するといった、より充実した能力開発をサポートする制度づくりをやるべきです。
政府は就職氷河期世代向けに就職支援を実施すると掲げていますが、この制度に限らず支援の幅を広げていってほしい。ロースキルからミドルスキルへ、さらにハイスキル人材になれば劣悪な求人に応募する必要はなくなります。宝塚市の正規職員採用の事例のようにまともな求人を増やす努力を並行してすすめてほしいですね」
劣悪な環境での仕事に全く人が集まらなくなれば、さすがに改善せざるを得ない。あるいは、その会社は淘汰されていくだろう。今の日本は人手不足ではなく、「人間らしく働ける仕事」が不足しているのだ。
宮西瀬名
フリーライターです。ジェンダーや働き方、育児などの記事を主に執筆しています。
“共感”ではなく“納得”につながるような記事の執筆を目指し、精進の毎日です…。
twitter:@miyanishi_sena
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