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低賃金労働者の「給与」は生活保護なみ、平均値では見えない日本経済の実像
https://diamond.jp/articles/-/200197
2019.4.18 野口悠紀雄:早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 ダイヤモンド・オンライン
写真はイメージです Photo:PIXTA
日本の賃金が上昇しない原因は、低賃金部門で減量経営が行なわれ、そこから放出される労働力が他部門で低賃金労働になることだ。
では、低賃金部門の実態はどうなっているか?
企業を規模別、業種別に見ると、給与水準には極めて大きな差がある。中には生活保護の水準に近い低賃金もある。
これが、平均値だけでは分からない日本経済の実像だ。
大企業ほど給与が高い
全産業で零細企業の1.7倍
実態を探るために、法人企業統計における「1人当たり人件費」を分析してみる。
これは給与に相当すると考えられるので、以下では、「1人当たり人件費」を「給与水準」と呼ぶ場合もある。
この値は、業種や企業規模によって大きく異なる。
まず、資本金によって企業規模を区別する。資本金10億円以上を「大企業」、資本金1000万円以上2000万円未満を「零細企業」と呼ぶことにしよう。
その状況は、図表1〜3に示すように、全産業、製造業、非製造業のいずれにおいても、規模が小さくなるほど、1人当たり人件費は低くなる。
※画像クリック拡大
全産業で見ると、四半期当たりの人件費が、大企業は178万円(年間712万円)なのに対して、零細企業では102万円(年間408万円)しかない(2019年10〜12月期。以下同様)。両者の間に1.7倍の格差がある。
製造業では、大企業の220万円(年間880万円)に対して、零細企業では102万円しかなく、2.2倍の格差がある。
非製造業では、大企業の153万円(年間612万円)に対して、零細企業では102万円しかなく、1.5倍の格差がある。
零細企業からの労働者
大企業に移っても低賃金のまま
給与水準は生産性の反映だから、このことは、大企業の生産性が高く、企業規模が小さくなるほど生産性が低くなることを示している。
原理的には、「大規模な組織は意思決定が遅くなって効率が低下し、より規模の小さい企業では意思決定を迅速に行なえるために生産性が高くなる」ということが起こってもおかしくない。
アメリカでは、ベンチャー企業の勃興に関して、こうしたことがいわれた。しかし、日本ではそうはなっていない。
なお、製造業のほうが、非製造業に比べて、大企業と零細企業の格差が大きくなっている。これは、製造業では、資本装備率の向上(機械化)などによる生産性の上昇効果が顕著に働くからだろう。
日本では、サービス産業の生産性が低いといわれる。しかし、製造業でも零細企業では生産性が低い。
図表2と図表3に示されているように、製造業の零細企業の1人当たり人件費は、非製造業の大企業の3分の2でしかない。
零細企業の生産性が低く、大企業の生産性が高いのだから、零細企業の就業者が減って大企業の就業者が増えれば、経済全体の生産性は向上し、賃金が上昇するように思える。
そして、実際に、零細企業の就業者が減少して、大企業の就業者が増えている。しかし、賃金は目立って上昇しない。
こうなるのは、零細企業から放出される労働者は、大企業に雇用されても低賃金のままだからだ。これが、重要な点である。
(注)法人企業における四半期当たり人件費は、129万円(年間で517万円)だ(2018年10〜12月期。全産業、全規模)。他方、毎月勤労統計調査における月間給与は、現金給与総額で見て、調査産業計で26.4万円(年間で317万円)だ(2019年2月)。法人企業統計の1人当たり人件費のほうが高いのは、カバレッジが広いからだ。企業規模で見て同じクラスに属していても、業種によって給与水準は大きく異なる。
業種でも給与に大きな差
零細飲食サービスは製造業大企業の4分の1
図表4〜6では、4つの業種を示した。
※画像クリック拡大
全規模と大企業で見ると、給与水準が高い順に、電気業、製造業、小売業、飲食サービス業となる。
製造業と電気業が高給与であり、小売業と飲食サービス業が低給与だ。電気業と飲食サービス業の1人当たり人件費を比べると、全規模で3.4倍、大企業で2.9倍になる。
なお、零細企業では、電気業の給与は低くなり、小売業のほうが高くなる。これは、零細電気業と大企業の電気業は異質の存在であることを示している。
以上のように、給与水準は、企業規模別に見ても、業種別に見ても、差がある。
もちろん、1つの企業の中にも、個人の給与には差がある。ただし、それは、年齢や職階の差によるものであり、当然のことだ。問題は、規模や業種によって、給与に差が生じることなのである。
規模と業種という2つの要因は、絡み合っている。
例えば、電気業では大企業の比重が高いために業種としても給与が高くなっており、サービス業では零細企業の比重が高いために、業種としても給与が低くなっている。
企業規模と業種の2つの軸で見ると、高いところと低いところの間で、極めて大きな差がある。
給与が高いのは、つぎの業種の大企業だ(括弧内の数字は、2019年10〜12月期の四半期当たりの人件費)。
自動車・同附属品製造業(231万円)、鉱業、採石業、砂利採取業(265万円)、電気業(256万円)、ガス・熱供給・水道業(253万円)。
これらの部門では、自動車・同付属品製造業を除いて、年間給与は1000万円を超える。
給与が低いのは、つぎの業種の零細企業だ。
食料品製造業(74万円)、電気業(74万円)、小売業(82万円)、不動産業(81万円)、飲食サービス業(61万円)、医療、福祉業(83万円)。
飲食サービス業の零細企業と電気業などの大企業との間には、4倍以上の格差がある。
そして、飲食サービス業の零細企業での給与水準は、生活保護水準に近い(注)。
しかも、この数字は、この部門での平均給与だ。これよりもさらに低い給与の人がいることに注意しなければならない。
(注)生活保護費は、家族構成などさまざまな要因によって決まるが、夫婦、子2人の4人世帯だと、年間200万円程度+アパート代だ。
非正規の給与は
正規の4分の1
以上で見た給与水準の差は、正規従業員の比率の差と密接に関連している。
毎月勤労統計調査(2019年2月)によると、調査産業計で、現金給与総額を年額にすると、一般労働者で411万円だが、パートは114万円だ。
このように、約4倍の格差がある。
正規・非正規の差を考慮すると、賃金格差は、規模や業種別の格差よりも深刻になるはずである。
法人企業統計によって見た大企業(資本金10億円以上の企業)の1人当たり人件費は、非正規就業者をも含めた平均の値である。仮に正規従業員だけを取り出して比べれば、差はもっと大きくなるはずだ。
ただし、法人企業統計では、正規従業員と非正規従業員がどのようになっているかは分からない。
正規従業員と非正規従業員の比率は、労働力調査、毎月勤労統計調査には示されている。
毎月勤労統計調査によれば、パートタイム労働者の比率(事業所規模5人以上)は、2019年2月で31.5%である。
労働力調査によれば、正規が61.8%、非正規が38.2%である(毎月勤労統計調査の「パートタイム労働者」が労働力調査における「非正規」に対応するが、正確には、定義が違う。
なお、労働力調査には「パート」という分類項目もあり、この比率は18.6%だ)。
ただし、産業別、企業規模別に正規従業員と非正規従業員がどのようになっているかは、どちらの統計でも分からない。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
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