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2019年4月5日 池上正樹 :ジャーナリスト
「中高年引きこもり」調査結果の衝撃、放置された人々の痛ましい声
内閣府が3月末に公表した、40〜64歳の「ひきこもり中高年者」の数が推計約61万3000人に上ったという調査結果が、話題を呼んでいる。その中身とは(写真はイメージです)Photo:PIXTA
「ひきこもり中高年者」の
調査結果が投げかけた波紋
国を挙げての新元号フィーバーにいくぶん覆われてしまった観があるものの、内閣府が3月29日に公表した、40〜64歳の「ひきこもり中高年者」の数が推計約61万3000人に上ったという調査結果は話題を呼んだ。厚労相が「新しい社会的問題だ」との見解を示すなど、その波紋が広がっている。
共同通信によると、根本匠厚生労働相は同日の会見で、内閣府の調査結果について「大人の引きこもりは新しい社会的問題だ。様々な検討、分析を加えて適切に対応していくべき課題だ」と話したという。
さらに4月2日の会見でも、こうした「中高年ひきこもり」者が直面している課題に対し、根本厚労相は「1人1人が尊重される社会の実現が重要。『8050』世帯も含め、対応していく」などと、これからの政府としての方針を示し、国の「引きこもり支援」の在り方が新たなフェーズに入ったことを印象付けた。
確かに、引きこもりする本人と家族が長期高齢化している現実を「社会として新しく認識した」と言われれば、その通りだろう。そもそも「引きこもり」という状態を示す言葉自体、精神疾患や障害などの世界と比べてもまだ歴史の新しい概念だ。
しかし、40歳以上の「大人のひきこもり」が新しい社会問題なのかと言われれば、決してそんなことはない。引きこもる人たちの中核層が長期高齢化している実態については、多くの引きこもる当事者や家族、現場を知る専門家たちが、ずっと以前から指摘し続けてきていたことだし、各地の自治体の調査結果でもすでに明らかになっていたことだ。蛇足ながら、筆者の当連載も2009年に開始以来、10年近く続いている。
にもかかわらず、40歳以上の引きこもり当事者やその家族の相談の声は、制度の狭間に取り残されたまま、長年放置されてきた問題であり、こうして内閣府が実態調査に漕ぎ着けるまでに、何年もの時間がかかった。
80代の高齢の親が収入のない50代の子の生活を支える世帯が、地域に数多く潜在化している現実を目の当たりにした大阪府豊中市社会福祉協議会福祉推進室長で、CSW(コミュニティソーシャルワーカー)の勝部麗子さんは、8050に近づく世帯も含めて「8050(はちまるごーまる)問題」とネーミングした。こうした8050世帯の中には、持ち家などで生活に問題がないように見えても、子が親の年金を当てにして貧困状態に陥りながら、悩みを誰にも相談できずに家族全体が孤立しているケースも少なくない。
全てのケアマネジャーが把握
「8050問題」の深刻な実態
最近、筆者は役所の福祉部署や社会福祉協議会などから、職員や支援者、地域の民生委員向け研修の講師を依頼される機会が増えた。先月、ある自治体の高齢者支援課に呼ばれて、地域包括支援センターのケアマネジャー向け研修会の講師を務めたとき、自分が担当している高齢者の中に「8050問題」に該当する世帯を把握しているかどうかを尋ねたところ、ケアマネジャーのほぼ全員が手を挙げた。
地域包括支援センターは、高齢者の介護などの相談や訪問サービスを担う施設であり、引きこもり支援は本来の仕事ではない。そうした現場でよく聞かれるのは、「介護している高齢者の家に引きこもる子の存在を知っても、どこに繋げればいいのかがわからない」「どういう支援をすればいいのか知りたい」といった声だ。
「本人や家族に、どうアプローチすればいいのかわからない」「専門のスタッフがいない」「人手が足りない」という現場の声は、生活支援の相談窓口や福祉・保健の部署からも聞こえてくる。今年3月に公表された厚労省委託事業の「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の保健所調査によると、回答した保健所の45%が「支援の情報に乏しい」、42%が「家庭訪問の余裕がない」と答えた。
国から「ひきこもり地域支援センター」を受託している都道府県・政令指定都市などの相談窓口ですら、本来、引きこもり支援の担当とされているにもかかわらず、若者の「就労」「修学」を目的としている青少年部署が担当していて、「40歳以上の相談については他の適切な機関に紹介している」だけという、お寒い実情の自治体もある。
同じKHJ家族会の調査によれば、引きこもり支援担当窓口と位置付けられている、全国の「ひきこもり地域支援センター」と基礎自治体の「生活困窮者自立支援窓口」の半数近い48%の機関が「ひきこもり相談対応や訪問スキルを持った職員・スタッフがいない」、半数を超える56%の機関が「ひきこもり世帯数も未知数で、家族会の必要性があるかわからない」と回答。孤立した本人や家族が、せっかく勇気を出して相談の声を挙げても支援につながらず、絶望して諦めざるを得なくなる現実が、全国3ヵ所で開かれたKHJ主催のシンポジウムでも報告されている。
社会が「大人の引きこもり問題」を新たに認識する以前に、そもそも社会には40歳以上の当事者やその家族の存在が「見えていなかった」ということであり、「見ていなかった」だけのことだろう。もっと言えば、本当は彼らの存在が見えていたのに「見なかったことにしていた」という話なのではないか。
相談の行き場を失った本人や家族たちは、支援の枠組みから取りこぼされ、長い間、放置されてきた。これだけの数の人たちが行き場もなく高齢化させられている、その責任は誰にあるのか。調査を行ったから終わりではなく、8050問題が顕在化する事態に至った社会的な背景や、従来の支援制度が現実に即していたのかなど、当事者や家族にしっかりとヒアリングした上で、検証と総括も必要だろう。
40歳以上でひきこもった人が
6割に上るという現実
今回の調査で興味深いのは、「40歳以上になってからひきこもった」と回答した人が57%に上った点だ。また、ひきこもった理由も「退職したこと」を挙げた人の数がもっとも多く、「人間関係、「病気」「職場になじめず」が続いた。
支援の在り方についての自由記述の中にも、「40代でも再スタートできる仕組みをつくってほしい」「在宅でできる仕事の紹介の充実」などを望む声があった。
これは「引きこもり」という心の特性が、従来言われてきた「ひきこもりは不登校の延長」「若者特有の問題」という捉え方ではなく、「社会に適合させる」目的の訓練主体のプログラムでは馴染まないことを意味している。むしろ、社会の側にある職場環境の不安定な待遇、ハラスメント、いじめといった「働きづらさ」の改善に目を向け、一旦離脱しても何度でもやり直せるような雇用制度につくり直さなければいけない。
また、「ふだん悩み事を誰かに相談したいと思わない」人は43%と、助けを求められずに引きこもらざるを得なくなる心の特性が示された格好だ。一方で「関係機関に相談したいと思いますか」の問いに、「相談したい」と答えた人は47%と半数近くに上るなど、いずれも39歳以下の若者層の割合より高かった。「どのような機関なら相談したいか?」という本人への設問に対しては、「無料で相談できる」「あてはまるものはない」が並んで多く、「どのような機関にも相談したくない」「親身に聴いてくれる」が続いた。
自由記述でも、「偏見を取り除くのが大切」「公的機関としては“外出できない人”の周囲を助けるアドバイスや支援があったほうがよい」「外で働けない人たちに報酬付きでやってもらう仕組みができれば」「何かのきっかけで、イキイキする人には、きっかけになるような場所を」といった声が寄せられた。
「引きこもり」とは、人との交わりを避ける場所でしか生きられなくさせられている状態であり、その状況や背景は1人1人それぞれ違って、一律ではない。そんな中で、『メディアが描いた引きこもり像とは違うから』と誤解を受けやすいのは、就労しても長続きせずに引きこもる行為を繰り返す「グレーゾーン」のタイプであり、実はボリューム層だ。
社会に繋がろうと頑張るほど
絶望が積み重なっていく
まったく働けずに引きこもっていた人に比べて、こうして社会につながろうとして頑張ってきた人ほど、絶望が積み重なっていく。自分の心身を騙して頑張ろうとするのは、自らの意思というよりも、周りのバイアスに追い詰められ、働かなければいけないと思わされている証左でもある。今は課題を抱えていても、身近に理解者が1人でもいいから傍にいて守られていれば、生活や心身面で困ったときに相談することもできる。
これからは、雇用されることが前提でつくられた従来の制度設計を見直し、1人1人が自分らしく生きていけるための仕組みづくりを構築ていかなければいけない。そのためには行政の支援の施策づくりに、まず家族や当事者を交えた協議の場を設ける必要がある。
(ジャーナリスト 池上正樹)
※この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方、また、「こういうきっかけが欲しい」「こういう情報を知りたい」「こんなことを取材してほしい」といったリクエストがあれば、下記までお寄せください。
Otonahiki@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)
なお、毎日、当事者の方を中心に数多くのメールを頂いています。本業の合間に返信させて頂くことが難しい状況になっておりますが、メールにはすべて目を通させて頂いています。また、いきなり記事の感想を書かれる方もいらっしゃるのですが、どの記事を読んでの感想なのか、タイトルも明記してくださると助かります。
https://diamond.jp/articles/-/198874
2019年4月5日 The Wall Street Journal
ゲームを止められない子供、その理由と対処法
ゲーム依存ではなく脳の発達に関係
世界中の親たちが毎晩、宿題や夕食、就寝のためにゲーム機の電源を切るよう子供に告げ、我慢比べを繰り広げている。大抵の場合、子供は親をにらみつけたり、文句を言ったりする。
中には、怒鳴ったり、かんしゃくを起こしたり、ドアを乱暴に閉めたりする子供もいる。誰しも楽しいことを途中でやめさせられるのは嫌なものだが、これには何か特異な事情が関係しているようだ。子供がレゴで遊んでいるのを中断させられ、手が付けられなくなったという話はあまり聞いたことがない。
では、ゲームから現実世界に無理やり引き戻された瞬間、何が起こっているのか。
神経学者によると、思春期の年代を含む子供は何らかの報酬を得られる活動をやめ、あまり楽しくない活動に切り替える能力がまだ発達していない。これはゲーム中毒になっているという意味ではなく、単にほとんどの子供にとって中断するのが概して難しいというだけだ。この問題に対処する方法はあるが、まずは子供の頭の中を理解する必要がある。
「われわれの脳内には興味を持続するよう進化した系統がある。それによって食料が見つかるまで何日も探し回り、満腹感(という報酬)を得るというわけだ」。米国立薬物乱用研究所(NIDA)所長でゲームプレーと薬物乱用両方の影響の類似性について研究するノラ・ボルコフ所長はこう話す。
ゲームの途中(一定のレベルやミッションを完了し、満足感を得るチャンスが与えられる前)で電源を切るのは、半分食べかけのドーナツを手から奪い取るようなものだ。
ゲームプレーに関する論文を分析している米ステッソン大学のクリス・ファーガソン教授(心理学)によると、ゲームをプレーすることへの期待によって脳内のドーパミン基準値は約75%上昇する。NIDAのデータによると、これは中毒性の高い薬物に関連した上昇率よりはずっと低いが、ドーナツによる上昇率とあまり変わりない。
アミラ・カウンツさんは息子のジェイデン君にゲームをやめてベッドに行かせるのに苦労している Photo:Rachel Woolf/The Wall Street Journal
しかし、ドーナツを食べる行為には終わりがある。一方、ゲームにはプレーを続けさせるために断続的に報酬が組み込まれている。中には実質的な終わりのないゲームや達成に何時間もかかるものもある。
成人ゲーマーに関する1998年の研究論文では、ドーパミンの放出量とプレーヤーの上達具合には相関性があることが示されている。この論文の作成者であるマティアス・コープ氏は、スキルが上達し、ゲームの難易度が高くなればなるほど、ドーパミンの放出量が増えていたと話す。同氏は現在、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ・クイーンズスクエア神経学研究所で神経学教授を務めている。
大人にはドーパミンの放出を停止させ、別のもっと重要な作業に切り替えさせる推論能力(論理的思考力)があるが、子供にはないと神経学者は指摘する。意思決定や衝動の制御をつかさどる脳の前頭前皮質は25歳までは完全に発達していないためだ。
米コロラド州ボルダー在住のシングルマザー、アミラ・カウンツさんは、夜は大抵、7歳の息子に「ワールド・オブ・ウォークラフト」のプレーをやめさせるのに苦労している。
ジェイデン君はゲームをするために急いで宿題を済ませている Photo:Rachel Woolf/The Wall Street Journal
「息子は学校から帰ると決められた通りまず宿題をする日もある。だがそれが終わるとすぐにゲームをしたがり、私が駄目だと言うと、ただそこに座って何もしない。まるで自分を楽しませる能力がないかのようだ」とカウンツさんは話す。「私がとても疲れていて就寝時間まで息子についゲームをさせてしまい、息子が寝る時間になるとキレてしまう夜もある」
「子供にとって、その瞬間にゲームより多くの報酬が得られる経験が用意されていない限り、自らゲームをやめる本質的な理由はない」。スペインのカタルーニャ・オープン大学で認知神経科学の博士課程に在籍中、ゲームプレーの神経的・行動的影響に関する100以上の論文を精査したマルク・パラウス氏はこう説明する。
米ジョージョア州のクリス・フラーさんの息子は6年生のとき、「フォートナイト」をプレーしたいがために宿題を嫌々こなしていた。フォートナイトは、100人のプレーヤーが最後の1人の生き残りを目指して戦う人気のインターネットゲームだ。やがて息子の宿題の質や成績が落ち始めた。「私が完全に頭にきたのは、息子が1つのデバイスの電源を切って別のデバイスを使い始めたことだった。息子は『フォートナイト』を中断し、私たちのいる上階にやって来ると自分のスマートフォンに飛びついて『フォートナイト』に関するユーチューブの動画を見ていた」。フラーさんは当時をこう振り返る。
クリス・フラーさんの息子のウィル君は「オーバーウォッチ」(写真)をなかなかやめることができない Photo:Melissa Golden/The Wall Street Journal
フラーさんと妻は昨年秋に息子が7年生になると、平日の夜はゲームを禁じた。その結果、宿題の質も成績も上がったという。しかし、現在13歳の息子は週末になると今度は「オーバーウォッチ」をプレーするようになった。この多人数でプレーするオンラインゲームも息子はなかなか途中でやめようとしないという。
「先日、朝5時に物音がしたので下階に降りてみると、息子がゲームをしていた」とフラーさんは話す。
専門家は、ゲームをプレーする子供のほとんどは「ゲーム障害」のような深刻な問題を生じさせるリスクはないと指摘する。世界保健機関(WHO)はゲーム障害について、「ゲームに対する制御が利かず、他の活動よりもゲームを優先するようになり(中略)悪影響が生じているにもかかわらずゲームプレーを継続したり、エスカレートさせたりする」行動パターンと定義している。
子供がゲーム依存症であるかどうかよりも、うつや不安、ストレスに対処するためにゲームを利用している可能性を心配した方がいいと心理学者は指摘する。2017年の論文によると、週6日から7日、1日4時間以上ゲームをプレーする思春期の子供は、そうでない子供よりも抑うつ症状が多く見られた。
親や子供にできること
精神的な問題が根底にない場合でも、多くの親が子供にゲームをやめるよう告げたときに不機嫌な態度に直面する。夜の争いをなくすにはどうすればいいのか。
・ゲームに関するルールを作り、徹底する。「『先週はプレーしなかったから、今週は3時間多くプレーさせてあげよう』などと考えては駄目だ」と米児童心理研究所発達脳センターの研究責任者で創設ディレクターのマイケル・ミルハム氏はくぎを刺す。
カウンツさんとジェイデン君は最近、ゲームのプレー時間を制限する約束を交わした Photo:Rachel Woolf/The Wall Street Journal
ゲーム終了時間の20分くらい前に警告し、子供が先を見越して新しいレベルやミッションを始めないようにさせることを勧める専門家もいる。ミリハム氏は、寝付きが悪くなる場合があるため、就寝時間の直前までゲームをプレーさせないよう助言している。
・ルール作りに子供を参加させる。子育てコーチで作家のスーザン・グロナー氏によると、子供はガイドラインの作成に関わったときの方がそれをきちんと守ろうとする。ゲームをいつ、どのくらいプレーできるかについて子供と合意できたら、それを1週間試し、うまくいかなければ見直せばいい。またグロナー氏は、子供にタイマーをセットさせ、自分でゲームプレーを監視させることもアドバイスしている。
・ルールを作るのに遅すぎることはない。カウンツさんは数週間前、息子の「デトックス」を決意した。ゲームのプレー時間を1日1時間にまで少しずつ減らすことに加え、2人で一緒にする活動を増やすことを2人で決め、文書にした。この目標はまだ達成できていないが、息子にゲーム以外の将来の楽しみを与えることができたとカウンツさんは話す。
・深刻な症状が現れた場合は、根底にある問題の治療を探るべき。ステッソン大学のクリス・ファーガソン教授は、児童やティーンを専門とするプロに治療を求めるよう勧めている。
「私なら子供をゲーム依存の専門家の元には連れて行かないだろう。彼らの多くはこのモラルパニックに付け込んでおり、実証された治療法は持ち合わせていない。たとえゲーム依存を治療できても、子供がうつ状態に戻るかもしれない」
子供にゲームを途中でやめさせると、かんしゃくを起こすのにはれっきとした理由がある
(The Wall Street Journal/Julie Jargon)
https://diamond.jp/articles/-/198930
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