http://www.asyura2.com/19/hasan131/msg/801.html
Tweet |
2019年4月4日 野口悠紀雄 :早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
賃金低迷と消費停滞の「悪循環」を、日銀の金融政策が加速する理由
アベノミクスの6年間は、零細企業で売り上げが停滞ないしは減少するため、人員が整理され、それが低賃金労働の供給源となって、平均賃金の伸びを抑えている。
前回(2019年3月28日付け)の本コラム「給料が増えない真因は零細から大中企業へ供給された『低賃金労働力』」で、このように書いた。
今回、業種別の状況を見ると、非製造業、なかでも小売業や飲食サービス業で減量経営の必要性が著しく、それが低賃金労働の供給源になっている。
このようにして、賃金低迷と消費停滞の「悪循環」が生じているのだが、この悪循環には日本銀行の金融政策も影を落としている。
非製造業では
人員は増えたが、賃金は抑制
まず、製造と非製造について、安倍政権が始まった2012年10〜12月期から18年10〜12月期の変化を比較しよう。
図表1に示すように、営業利益の増加率(2018年10〜12月期と12年10〜12月期の比率。以下同じ)は、製造業で1.84であり、非製造業の1.44より高くなっている。
拡大画像表示
https://diamond.jp/mwimgs/9/f/-/img_9f15e231b75b879c877048ec637726e361819.jpg
ところが、売り上げ増加率は、製造業で1.12、非製造業で1.17であり、非製造業のほうが高い。
このように、売り上げ増加率は製造業のほうが低かったにもかかわらず、利益増加率は高かったのだ。
円安の影響で輸出が増えたことが製造業の利益増に寄与したと思われているが、そうではないことが分かる。
では、製造業の利益増をもたらしたのは、何だったのだろうか?
それは、総原価の動向である(注)。
第1に、人件費がある。人件費増加率は、製造業では1.04と抑えられたが、非製造業では1.08になった。
この差は何によって生じたのか?
賃金伸び率は、製造業1.05、非製造業1.03と、あまり差がない。むしろ、非製造のほうが抑えられている。
ところが、非製造業では、人員が増えたのだ。人員増加率は、製造業では0.99だったが、非製造業は1.05になった。
(注)ここでは、「売り上げ原価」と「販売費及び管理費」の和を「総原価」と呼んでいる。
製造業では機械化などによる生産性向上の余地があったので、人員を減らしても売り上げ増に対応できたが、非製造業(とくに介護などのサービス業)ではそうしたことができないため、人員を増加させざるを得なかったのだと考えられる。
そうした制約の下で人件費を抑えるべく、非正規労働者を雇って平均賃金を抑えて対応したのだ。
製造業と非製造業の総原価の動向におけるもう1つの違いは、人件費以外の原価総額だ。
増加率は、製造業では1.11だが、非製造業では1.18となっている。
このように製造業で人件費以外の原価でも増加を抑えられたのは、原油価格低下の影響だろう。
非製造業で総原価を抑えられなかったのは、逆に原材料価格が上昇したからだろう。円安による農産物などの価格上昇がそれをもたらした可能性が高い。
つまり、円安は、企業利益を増やすよりは、非製造業の利益を減らす方向に効いたことになる。
以上で見たように、製造業の利益を増加させたのは、円安でなく、人件費の低下だったのだ。
小売り、飲食サービス業は人員削減
低賃金労働力の供給源に
つぎに、非製造業について、産業別の売り上げや人員等の変化の状況を見ると、図表2のとおりだ。
拡大画像表示
https://diamond.jp/mwimgs/6/2/-/img_62c92a5f94b079e502adb3f9a43515c0113221.jpg
人員減が顕著なのは、小売業と飲食サービス業だ(注)。
人員の変化率は、小売業では0.90、飲食サービス業では0.89であり、両業種とも人員をほぼ1割減らしている。
(注)減少率で見ると広告業も高いのだが、人員数自体はあまり多くない。2018年10〜12月期における人員数は、小売業442万7508人、飲食サービス業131万1335人に対して、広告業は47万6057人だ。
図表1で見たように、人員は全産業で約3%伸び、非製造業では5%伸びているのだから、この2つの業種で1割も減ったのは、注目される。
これらの業種が、低賃金労働の供給源になった可能性が高い。
なぜ、人員が減ったのか? それは、どちらの場合も、減量経営をせざるを得なかったからだ。
減量経営が求められた理由は2つある。
第1の理由は、売り上げが停滞ないしは、減少したことだ。
図表3に示すように、小売業の売り上げは、全規模でも約1割減った。
拡大画像表示
https://diamond.jp/mwimgs/4/f/-/img_4f7e58b787bcd1f60ab7c94dcf47b31162145.jpg
他の業種では売り上げが10%以上伸びている場合が多いのに対して、小売業は全体としても売り上げが減っているのだ。このため、小売業は人員を削減せざるを得なくなった。
小売業の2012年10〜12月における人員計は490万2997人だったので、これが1割減少したことの影響は極めて大きい。
なお、小売業の資本金2000万円未満では、この期間に売り上げが半減するという惨状だ(図表3参照)。
この階層だけで、人員は146万7527人から112万8289人へと33万9238人減少した。
飲食サービス業では、全規模で9%の売り上げ増だ。増えてはいるが、非製造業平均よりは低い。また、資本金2000万円から10億円では売り上げが増えているが、2000万円未満では6%減だ。
人員減の一因、原材料費の高騰
円安はむしろ痛手に
この2つの業種だけでなく、売り上げの動向と人員の動向には、密接な関係がある。図表2のデータを散布図に示すと、図表4のようになる。
この図では、横軸が売り上げの増加率、縦軸が人員の変化率だ。
拡大画像表示
https://diamond.jp/mwimgs/3/4/-/img_34b78c2c2ba0c471dba62f71c2e5dc0341204.jpg
図表を見れば、売り上げの増加が高い業種で人員が増え、売り上げが停滞または減少する業種で人員が減っていることが分かる。
一番右上にあるのが医療、福祉業であり、左下にあるのが小売業である。
医療、福祉業では、12年10〜12月から18年10〜12月の間の増加数は、29万4744人だ。これは、同期間における資本金2000万円未満の小売業の人員減少33万9238人と、ほぼ同程度のものだ。
ただし、医療や福祉の分野では、法人形態以外の事業主体が多い。したがって、この分野での人員増は、もっと多かったと考えられる。
そして、この分野の平均賃金は低い。このことが全体の賃金を引き下げる効果は高かったと考えられる。これについては後で述べる。
飲食サービス業が減量経営せざるを得なくなった第2の理由は、人件費以外の総原価の伸びが大企業以外では著しいことだ。
売り上げ増加率が1.09だったのに対して、人件費以外の総原価増加率は1.29だ(図表1)。
これは原材料費が高騰したことの結果だろう。円安によって輸入農産物などの価格が上昇した影響も大きかったと考えられる。
消費停滞が賃金低迷をもたらす
日銀の政策は「悪循環」を加速
小売業の売り上げが、全規模でも減っているのは注目すべきことである。
これまで書いたような事情で賃金が上がらず、したがって消費が増えない。消費が増えないことの影響は、とくに小売業の売り上げに影響を与えた。
そして、売り上げが伸びないために人員削減を行なう。
ところが小売業には零細企業が多く、もともと低賃金なので、そこから放出された労働力が、他産業に低賃金労働者として供給される。
こうして売り上げ減→低賃金労働の供給→平均賃金低迷→消費停滞という悪循環を引き起こすことになる。
賃金の伸び悩みが消費の停滞を招いていることは、しばしば指摘される。ただ、問題はそれだけではないのだ。
これまで指摘してきたメカニズムによって、消費の停滞が賃金の停滞をもたらしているのである。
これがこの分析で見いだしたことであり、これまで意識されていなかった重要なメカニズムだ。
アベノミクスによって「経済の好循環が生じている」と言われることがあるが、実際に起きているのは、まったく逆のことである。低賃金と消費停滞の悪循環が生じているのだ。
日本銀行は、物価上昇率を高めることを政策目標にしている。しかし、これは、経済に対して抑圧的に働くことに注意が必要だ。
名目賃金が抑えられている状況では、物価上昇は実質賃金の伸びを低下させ、それによって消費の伸びが低下する。
それだけではなく、上記の悪循環を促進している。
ここで見たように、非製造業の利益増加率が製造業より低くなるのは、総原価の伸び率が高いからだ。
これは、原材料価格高騰の影響と考えられる。原材料価格上昇はとりわけ飲食業において顕著に生じており、それがこの業種での人員削減の大きな原因となっていると考えられるのである。
この意味で、物価上昇は悪循環を加速させる。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
https://diamond.jp/articles/-/198754
2019年4月4日 加藤 出 :東短リサーチ代表取締役社長
日銀の超金融緩和が7年目に突入、出口がますます見えない事情
麻生太郎財務相
インフレ率2%の目標を掲げる日本銀行の金融政策について、「2%にこだわり過ぎるとおかしくなる」と持論を語った麻生太郎財務相 Photo:つのだよしお/アフロ
「賃金や報酬はこの数年で顕著に上昇した。単位当たりの労働コストはインフレを超えて上昇している。それがインフレにつながらない。理論的にはそれは企業のマージンを圧縮し得るため、永久には続かないのだが」
米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、3月20日の記者会見でそう語った。米国でも少し前までは賃金上昇ペースが景気回復の割に高まらないといわれてきた。
しかし、激しい人手不足を反映して、さすがに平均賃金はリーマンショック前の好況期に近い、高い伸びを示すようになってきている。それなのにFRBが重視するインフレ指標は2%を下回った状態がしばらく続きそうなのだ。
パウエル氏が言うように、その持続性には限界がある。インフレがどこかで加速し始めたり(その場合、FRBは利上げを再開するので金融市場は大騒ぎになる)、米経済の失速とともに賃金の伸びが落ちてきたりする可能性もある。
ただいずれにしろ、かつてよりも「賃上げ→物価上昇」という関係はシンプルには表れにくくなっている。グローバリゼーションやデジタル革命の影響もあるだろう。
これは日本銀行にとって、FRB以上に悩ましい話といえる。日銀はインフレ率が2%を安定的に上回るまでマネタリーベースを増加させ続ける(つまり超金融緩和を続ける)と宣言しているからだ。
ゴールは2%前後ではなく、それを上回った状態なので、日銀はこの宣言を「オーバーシュート・コミットメント」と称している。だが、日本よりも景況感ははるかに強く、しかも日本よりしっかりと賃金も伸びている米国でさえ上述のような状況なので、日銀の「オーバーシュート・コミットメント」の達成は全く見えてこない。
この4月4日で日銀の超金融緩和策は7年目に突入する。2年でインフレ目標を達成できなければ責任を取って辞任するとまで言っていた岩田規久男元副総裁は、退任後の最近のインタビューで次のように述べている(「西日本新聞」2月17日付)。
Q:「物価は2%に届くか」
A:「届かないだろう。少子高齢化が進み、現役世代は老後の年金に頼れないと感じている。貯蓄に励まざるを得ない。消費が弱すぎるので、企業も設備投資や賃上げができない」
Q:「追加緩和はできるか」
A:「銀行がつぶれる恐れがあり、金融政策の深掘りはできない。金融政策と政府の財政政策が協調する必要がある」
つまり、日銀が今の超緩和策を粘り強く継続しても、それだけではインフレ目標達成は困難であることを、リフレ派の代表的人物ですら認める状況になっている。
しかし、深刻なのは世界経済の減速懸念と相まって、超緩和策の出口がますます見えなくなってしまった点にある。麻生太郎財務相はいみじくも3月15日に、「(インフレ率)2%にこだわり過ぎるとおかしくなる」「2%に上がらなかったからけしからんと言っている国民はいないと思う」と述べた。
安倍晋三首相はそこまで踏み込んだ見方はしていないので、日銀が2%目標の「看板」を下ろす確率は低い。しかし、日銀によって金利水準が短期から10年国債までマイナス圏に沈められた状況が長期化すれば、日本の金融システムは不安定化し、それが地方経済の悪化を加速させる恐れが強まる。
せめて政策運営の柔軟性を高める工夫を日銀は模索すべきである。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
https://diamond.jp/articles/-/198760
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民131掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民131掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。