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(回答先: 「若者はお金がない」の誤解!高級車やタワマンにはお金を使う理由 バブル期より増えている 単身者の可処分所得 投稿者 うまき 日時 2019 年 3 月 07 日 08:43:57)
2019年3月7日 野口悠紀雄 :早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
戦後最長の好景気で雇用が増えても「賃金」が上がらない理由
戦後最長の景気拡大が続いているにもかかわらず、景気回復の実感がない理由は、賃金が上昇しないことと、零細企業の利益が増えていないことだ。
サービス産業で従業員が増加しているが、この分野の賃金は製造業より低いため、全体の賃金が上がらない。
賃金上昇のためには、生産性の高いサービス産業が成長することが必要だ。
6年で営業利益は55%増えたのに
賃金の上昇は0.8%
法人企業統計(金融機関を除く)を用いて、第2次安倍政権発足と軌を一にして始まった「戦後最長の景気拡大」のもとでの企業の売上高や利益、従業員の給与などの推移をみてみよう。
変化率や伸び率について述べる場合、とくに断りがなければ、景気拡大の起点である2012年10〜12月期から、18年10〜12月期までの期間の変化率や伸び率を指す。
また、従業員1人当たりの従業員給与を「賃金」と呼ぶことがある。
まず、全産業を見よう。図表1に示すように、営業利益は55%も増加した。それにもかかわらず、1人当たり給与は0.8%しか増えなかった。
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この間に消費税率が3%ポイント上昇しているから、それを差し引いた実質賃金は、下落したことになる。
賃金を抑えたから、利益が増えたのだ。
有効求人倍率や失業率で見られるように人手不足が顕著になっているのだから、賃金は上昇して然るべきだ。
それにもかかわらず、賃金が上昇しないのである。
なぜこうなるのか? その解明が最初の課題だ。
賃金が低いサービス産業の
就業者が増えた
経済全体の賃金が伸びない理由は、賃金の水準と従業者の増加率が産業によって異なり、賃金水準が低い産業で従業員が増えていることにある
これを確かめるために、賃金水準と従業員数の伸び率が産業によってどのように違うかを示すと、図表2のとおりだ。
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まず、製造業と非製造業を比べよう。1人当たり給与(四半期あたり)は、製造業が96.9万円。それに対して非製造業が82.9万円だ。このように、給与が高いのは製造業で、低いのが非製造業だ。
しかし、製造業では従業員が減少し、非製造業で従業員が増加した。
このために、製造業での賃金は3%の伸びを示したにもかかわらず、経済全体の賃金伸びが0.8%という低い水準にとどまったのだ。
政府は春闘に介入することによって賃金の伸びを高めようとしている。確かに、春闘での賃上げ率は高まった。
しかし、春闘に参加しているのは、主として製造業の大企業だ。だから、ここで賃金が上がったところで、経済全体の賃金が高くなるわけではないのである。
非製造業の中でもとくに賃金が低いのは、サービス業だ。これを見るために、法人企業統計の「サービス業(集約)」という分類を見よう(注)。
サービス業の賃金は低く、平均賃金は製造業の76.4%でしかない。それだけでなく、平均給与の伸び率も1.1%しかない。ところが、従業員数の伸び率は12.4%と極めて高い。
従業員数で見ると、サービス業は製造業より多く、非製造業全体の37.1%を占める。全産業の27.7%を占めているので、この動向が、経済全体を決めているのだ。
(注)サービス業(集約)とは、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、広告業、純粋持株会社、その他の学術研究、専門・技術サービス業、教育、学習支援業、医療、福祉業、職業紹介・労働者派遣業、その他のサービス業の合計。
生産性の高い産業の
比重が低い日本
日本の産業構造で問題なのは、製造業の賃金水準を超える産業が少ないことである。
図表2から分かるように、1人当たり給与が製造業より高いのは、建設業、情報通信業、広告業である。
建設業、情報通信業では、従業員数の伸び率も高い。しかしながら従業員数が少ない。情報通信業の従業員数は206万人であり、全産業に占める比率は6%でしかない。
サービス業の中で、1人当たり給与が製造業より高いのは、学術研究、専門・技術サービス業(集約)、教育、学習支援業だけだ。
しかし、学術研究、専門・技術サービス業(集約)の従業員数は152万人であり、全産業の従業員数の4.4%でしかない。
先進的な産業が経済全体の中で占めるウェイトが、アメリカなどの場合に比べて小さいのである。これが、日本全体の賃金の伸びを低くしている基本的な要因である。
サービス産業で従業員が増えたのは
女性のパートや外国人労働者
サービス産業の状況をより詳しく見よう。図表3から分かるとおり、非製造業の中で製造業より1人当たり給与が低いのは、宿泊業、飲食サービス業(集約)、生活関連サービス業、娯楽業(集約)、職業紹介・労働者派遣業、医療、福祉業、その他のサービス業だ。
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これらの産業の従業員数は、合計で775.2万人だ。これは、総従業員数3440.2万人の22.5%を占める。
これらの分野では、もともと女性のパート労働者が多く、それが2018年の配偶者特別控除の拡充で増えている。また、外国人労働者も増えていると考えられる。
だから、従業員数は増えるが、賃金が低いままで上がらないのだ。
賃金水準が低い産業で従業員が増えていることが、経済全体の賃金の上昇を抑えているのである。
この中で従業員数の増加が著しいのは、医療、福祉業だ。12〜18年の従業員数伸び率は74.4%と、極めて高い。
しかし、図表2で見たように、この分野の平均給与は、12〜18年の平均では四半期当たり66万円であり、製造業の68.3%にしかならなかった。
介護需要の拡大を反映して、さすがにこの分野では、賃金は上昇している。12〜18年の間に7%の上昇であり、経済全体の上昇率よりかなり高い。
このため、18年10〜12月期では、製造業との比率は、図表3で見るように、ぎりぎり7割を超えた。それでも、平均給与の水準がまだ低いために、この分野が伸びることは、経済全体の賃金を引下げるのである。
なお、ここで取り上げているのは、法人のみである。この分野は法人以外の事業形態が多い。したがって、賃金が低い産業が全体の賃金を引下げている効果はもっと大きいと考えられる。
零細サービス産業は
営業利益も給与も減少
景気拡大の状況が一様でないことは、営業利益の増加状況を見ると分かる。
すでに見たように、2012年から18年の間に、営業利益は全体では55%も増えた。しかし、非製造業では6%しか増えていない。
規模別に見ると、もっと大きな差がある。
資本金資本金1000万円以上2000万円未満の零細サービス産業の状況を見ると、図表4のとおりだ。
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従業員1人当たりの給与は、3.2%下落した。
それだけではない。営業利益が、12年から18年の間に32%も減っているのだ。これは、原価の増加率が売り上げ増加率に追いつかないからだ。
資本金1000万円以上2000万円未満のサービス業の従業員は、18年10〜12月で290万人いる。これは、10億円以上のサービス業の従業員131万人の2.2倍だ。
前述したように情報通信業の従業員数は206万人だが、290万人という数字は、この1.4倍だ。
経済の一部で利益が増加し、株価が上がっているのは事実だ。しかし、それは上場企業のことである。これは、大企業のことだ。
以上で見たように、全体へのトリクルダウン、つまり大企業などの利益の増加が中小零細企業にも広がるという現象は、生じていない。
景気回復の実感がないというのは、当然のことだ。
しかも、以上で見たのは法人である。個人企業がもっと窮状にあることは、想像に難くない。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
https://diamond.jp/articles/-/196129
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