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「中国株の急上昇」を喜んではいけないこれだけの理由 政府主導の危険な景気対策
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60162
2019.02.28 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
中国株急上昇の怪
米中貿易交渉で何らかの合意がなされるのではないかという期待感もあってか、主要国の景気動向は芳しくないものの、世界的に株価は堅調である。
その中でここ数日の上昇が際立っているのが中国である。
2月26日時点の主要指数でみた世界の年初来の上昇率は10%強であるが、中国(上海総合指数)は20%弱の上昇となっている。米国株(NYダウ)が年初来約11%強の上昇なので、中国株の上昇は際立っているようにみえる(ちなみに日経平均株価は8%弱)。
中国株に匹敵する上昇率を記録しているのは、新興国では、アルゼンチン(約18%上昇)ぐらいであり、以下、トルコ(約15%上昇)、エジプト(約14%上昇)、ロシア(約12%上昇)、ブラジル(約11%上昇)と続く。一方、先進国では、欧州諸国のいくつかで10%を超える上昇となっている(例えば、ギリシャが約13%、スウェーデンが約12.5%、スイスが12%強など)。
このように、今年の株価の動きは経済のファンダメンタルズとはほとんど連動していない。ただし、ここで取り上げた国の株価指数の昨年のパフォーマンスはどちらかというと逆に著しく悪かったため、単なる「下げ過ぎの反動」ということかもしれない。
ところで、中国に話を戻すと、景気動向は相変わらず極めて悪い。2月14日の当コラムからのアップデートでいえば、2種類ある製造業のPMI(景況観指数)の1月の数字はともに昨年12月に続き、50ポイントを割り込んでおり、景気減速局面を示唆する結果となっている。
中国は消費も芳しくないが、1月の自動車販売台数は前年比-15.8%と減少幅は昨年12月からさらに拡大した。また、内需に連動する側面が強い輸入金額だが、1月は2月の春節前で駆け込み需要があったといわれる割には減少が止まらず、前年比1.5%の減少となった(昨年12月は7.6%の減少)。
このように中国経済の実情を示す信頼に値する指標の多くは、中国景気の急激な悪化を示唆している。だが一方で、かつては「中国経済の実情を示す」といわれた「李国強指数」を構成する経済指標はそれほど悪化していない。
「李国強指数」は、電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高の3指標で構成されるとされているが、昨年12月時点での数字は、それぞれ、前年比で8.8%、14%、13.5%の増加となっており、中国経済の堅調を示している。
この理由はよくわからないが、筆者は、鉄鋼製品の生産量(昨年12月時点で前年比9.1%増)に代表されるような素材生産の堅調に秘密が隠されているのではないかと推測する。
結論から先にいえば、政府の「指導」で資金が素材産業を中心に大量投入されて、GDPに代表されるような見かけ上の経済指標をかさ上げしているのではないかということである。もしそうであるとするならば、まさに「景気彌縫(びほう)策)である。
なりふり構わぬ景気彌縫策
昨年12月時点の中国の品目別輸出金額をみると、多くの製品が軒並み伸び率の急減、及び減少となっているのに対し(例えば、音響通信機器は前年比18.6%の減少など)、素材関連は総じて堅調である(例えば建築材は前年比7.4%の増加)。
中国は素材製品の原材料となる鉄鉱石等の資源を主にオーストラリアから輸入しているが、オーストラリアの貿易統計をみると、ほとんどの国で急減した昨年12月の輸出金額が前年比で10.7%と大幅に増加していることがわかる(中国の貿易統計とオーストラリアの貿易統計を見比べると、中国による天然ガスの輸入も増加した可能性が高い)。
さらに興味深いのは、これらの素材製品の価格である。中国がオーストラリアから輸入する鉄鉱石のスポット価格は昨年終盤頃から急騰している(昨年10-12月期は前年比9.9%の上昇、今年も直近時点で同9.7%の上昇、ちなみに7-9月期は同5.5%低下)のに対し、昨年12月末の中国の鉄鋼製品の価格は前年比11.2%の大幅下落であった。
生産者物価をみても、昨年12月が前年比0.9%上昇と急激に鈍化したが、今年1月はさらに鈍化して前年比0.1%上昇にとどまっている。
つまり、中国の素材産業は、「逆ザヤ(生産価格が販売価格を大幅に上回る)」で生産を無理やり拡大させている懸念がある(逆ザヤでなくても利益率はかなり低下していることが推測される)。これはまさに「なりふり構わぬ景気彌縫策」としかいいようがないが、そのツケは当然、労働者に転嫁されると考えられる。
中国には雇用関連統計が存在しないが、中国の消費者物価指数は急速に鈍化している(1月は、前年比1.7%上昇だったが、昨年2月は同2.9%上昇であった)。
本来であれば、米国等からの製品輸入の減少は中国の消費者に届くモノの不足感から上昇してもおかしくないはずだが、このような供給面の制約をはるかに上回る需要減が発生している懸念がある。そして、そのような状況は社会不安をもたらしかねいと危惧し、中国政府は大型の減税政策を打ち出した可能性がある。
もう一つ注目されるのが、1月の社会融資総量(簡単にいえば「広義のマネーサプライ」)の急増である。
1月の社会融資総量は前年比50.5%の大幅増となった。先日の当コラムでは、この社会融資総量が減少傾向にあり、中国は「信用収縮」に近い状況であると指摘したが、1月に状況は一変した。
このうち、銀行の新規融資同32.8%増となり、その他(いわゆる「地方融資プラットフォーム」といわれるスキームを中心とした「シャドーバンキング」)が同171%増となった。
かなり極端な信用拡張だが、銀行融資は政府による指導、「シャドーバンキング」はある程度の「モラルハザード」を許容しても、目先の信用収縮を防ぐべきという政府の規制の緩和に対応したものであると推測される。
いずれ世界を巻き込む大クラッシュが…
以上のような直近の経済指標の推移をストーリー化すれば、政府主導による信用拡張を梃子にして旧来型の低生産性部門(素材産業)の生産を増やすことで景気が浮揚しているように「みせかける」ということが行われているのではないかということである。
素材の生産拡大によって、鉄道輸送量も電力消費もそこそこの拡大が見込めるし、そのファイナンスが銀行融資によって行われているとすれば、「李国強指数」を構成する指標がすべて堅調に推移しているのも理解できるのではなかろうか(もちろん、その資金の一部が株式や不動産市場に流れているというのも十分想定される)。
このところの中国株の上昇は、米中貿易交渉妥結の期待に加え、中国政府による景気浮揚策の期待、及び、昨年の株価下落からの「リターンリバーサル(反動による上昇)」などの要因が絡み合ってのことだと推測されるが、ここまでの中国政府の対応策は目先の危機を回避しようとするあまり、根本的な構造改革を放棄し、低生産性部門に資金を投入し、採算度外視で見かけ上の経済指標を作りにいっているとしか思えない。
そのため、例えば、1-3月期のGDP成長率は意外と堅調な結果になるかもしれないが、危機は先送りされているに過ぎない。
昨年までの中国政府の政策スタンスは、短期的には多少の痛みがあるかもしれないが、中長期的な中国経済の発展のために構造改革を断行しながら、ハイテク産業の育成等を通じた産業構造の転換をはかるというものだったと考える。
「米中貿易戦争」によるトランプ政権の締め付けによって、習近平政権の構想が頓挫したのだろうが、「改革」が頓挫する一方で「痛み」だけを国民に課す政策に不満が鬱積し、これが深刻な社会不安と体制の動揺につながりかねないとの判断が働いたのかもしれない。
ただ、現状の景気対策の枠組みを続けるとすれば、いつまでも信用拡張をやり続けるしかなくなる。このまま中国株の上昇が続くような状況であれば、政府による信用拡張に限界が訪れた場合、世界を巻き込むかなり大きなクラッシュが来るかもしれない。
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