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2019年2月14日 The Wall Street Journal
ロボットが壊す雇用、この街は世界の縮図
工場で働く人々
Photo:iStock/gettyimages
――筆者のクリストファー・ミムズはWSJハイテク担当コラムニスト
***
米フロリダ州中心部は60万人以上が暮らす大都市圏であり、全米でも有数の先進的技術を用いた物流センターが幾つか立地している。
レイクランド市やその周辺には、アマゾンやDHL、ウォルマート、家具販売店ルームズ・ツー・ゴー、スーパーマーケット大手パブリックスの拠点のほか、自動車保険大手ガイコの巨大なコールセンター、世界最大のワイン・蒸留酒の物流倉庫、天然・人口香料やグリッター(装飾用の光る粉)の工場などが集まっている。
しかしブルッキングス研究所の最近のリポートは、米国勢調査やマッキンゼーのデータに基づいて、レイクランドの経済的繁栄が急速に終わりを迎える可能性を指摘している。ブルッキングスは、まさにそうした工場や倉庫、オフィスの生産性を高めるオートメーション(自動化)や人工知能(AI)によって最も雇用が失われるリスクにさらされている大都市圏をリスト化しており、その第3位にレイクランドをランキングしている。
言い換えれば、レイクランドは全米や全世界で起こりつつある現象の縮図かもしれないということだ。テクノロジーによって中間層は2方向のいずれか一方に追いやられるとエコノミストらは指摘する。適切な技能や教育を受けた人は新しい技術的エリートに、それ以外の人は「プレカリアート」という階級に分類されることになる。プレカリアートとは、テクノロジーによる仕事の性質の変貌に伴って役割が頻繁に変化する、給付や保護が手薄で雇用が不安定な低賃金労働者を指す。
「経済は根本的に変化したが、米国の社会モデルはそうなっていない」。ブルッキングスのリポートの作成者マーク・ムロ氏はそう指摘する。「オートメーション化と同時に、こうした一部職種の不安定さを補う可能性のある政府の給付制度が崩壊する」
脳をもっと使うようになった
レイクランドで何が起こっているかを理解するため、同市有数の雇用主で米国最大の酒類・飲料販売業者であるサザン・グレーザーズ・ワイン・アンド・スピリッツを例に取って見てみよう。同社のレイクランドにある約130万平方フィート(12万平方メートル)の高度に自動化された倉庫は、1日に8万5000〜9万ケースを出荷する世界最大の酒類物流倉庫だ。他の多くの物流業者と同じく、同社がレイクランドを選んだのは市や州の優遇措置、安い地価、幹線道路へのアクセスの良さ、比較的低い賃金水準が理由だった。
同社施設では368人の倉庫労働者と392人の配達ドライバーを雇用しており、その多くに必要とされるのは高卒の学歴のみだ。世界中の自動化された倉庫と同じく、人間がするのは機械ができない仕事、すなわちシステム全体の管理などの知識労働や繊細さ・スピード・視力の兼ね合いが求められる肉体労働だ。2500ポンド(約1.13トン)のパレットを5段の棚に積み込んだり、個々のクレート(酒瓶箱)を倉庫の各場所に運搬したりといった力仕事は全て機械が行っている。
多くの意味でレイクランドの倉庫はエンジニアリングの勝利を象徴している。サザン・グレーザーズの国内業務を統括するロン・フラナリー氏は、同社では10年前はフロリダで5つの倉庫を運営していたが、オートメーションのおかげで1つにまとめることができたと話す。それによって州内の他の場所から雇用がシフトしたため、レイクランドには好景気がもたらされた。
フラナリー氏によると、10年にわたるフロリダ州内の雇用移転では、オートメーションによって当初、全労働力の最大20%が解雇されることになった。しかし、オートメーションによって事業が成長するにつれ、解雇された労働者の多くが再雇用され、さらにそれ以上の雇用が生まれた。
しかし、彼らの仕事の性質は変化した。「倉庫で働く人が頭も心も使わず、肉体を使ってケースを積み上げるだけの場合、同じ事を繰り返すだけになり、仕事に全くやりがいがないというのが現実だ」とフラナリー氏は話す。
同氏によると、オートメーションによって労働者は脳をもっと使うようになり、システムを通してモノの流れを管理し、消費者需要の変化に適応させるようになった。その結果、離職率が大幅に低下したという。
同社の倉庫には、まだ大勢の非熟練労働者が必要な工程がある。容器から個々の瓶を取り出して、輸送コンテナに運ぶ最後の「ピッキング」ステーションだ。機械の補助によって人間が作業を完遂するこうした工程は、アマゾンにしろアリババにしろ、どこのハイテク倉庫にもよくある。これは、世界中の数百万人の倉庫労働者を技術的失業から隔てているものが手先の器用さであって頭脳ではないということを意味する。
いずれ無人倉庫が登場
労働市場の逼迫(ひっぱく)によって、オートメーションが一段と迫られている。フロリダ州の失業率は既に低く、12月時点で3.3%だ。フラナリー氏は「いずれ無人倉庫が登場し、ケースがトラックから降ろされたら顧客への出荷準備が整うまで再びそれを誰も目にすることがない、といった時代がやってくる」とし、「テクノロジーは既にあるが、まだ費用対効果があまり良くないというだけだ」と話す。
マッキンゼーでテクノロジーの影響に関する研究を主導するマイケル・チュイ氏は、今のところ、ドイツや日本などのオートメーションが高度に進んだ国と比較してフロリダは人間の労働コストが比較的低いため、オートメーションの導入ペースが抑えられていると指摘する。
長期的に見た場合、オートメーションによって雇用が減少することを示す証拠はない。むしろ、オートメーションを速いペースで導入している国ほど経済成長も速いようだ。しかし、これはオートメーションに伴う解雇に直面する人にとってほとんどなぐさめにならない。人材派遣・紹介大手マンパワーグループ北米のベッキー・フランキエウィッツ氏は「(オートメーションによって)雇用需要は純増しているが、多くの入れ替わりがある」と話す。
個々の業務が自動化されるにつれ、両極化した賃金分布の低い方の分布にいる米労働者は別の仕事の訓練を受け直すか、少なくとも他の覚えるのが簡単な役割に切り替える必要がある。その結果、生涯にわたり雇用が不安定化する可能性があるとブルッキングスのムロ氏は指摘する。
レイクランド市長に最近選出されたビル・マッツ氏は、市の将来について現実的に考えてはいるが、楽観視している。同市は物流事業に満足しており、それを持続可能だとみている。「市の成長が小売りをベースにしたものであれば別だが、卸売りサイドをベースにしたものであれば、懸念しない。モノを人々に届ける必要はまだあるからだ」
とはいえ、マッツ氏は今後、物流事業を優先することは考えていない。「ここ1年に600万平方フィート(約56万平方メートル)分の物流センターの建設を終えた」と同氏は述べ、「こうしたものはもう誘致していない。もっと高技能で高賃金の仕事を望んでいるからだ」と説明した。同市では、2012年に創設された理工系のフロリダ・ポリテクニック大学を誘致したり、共同ワークスペースの提供やスタートアップ企業の育成支援を行う組織を設置したりしている。
テクノロジーが急速に変化することで職を失う年配の労働者については、新しいことを学ぼうとする強い意志があれば、「スキルアップ」することで、より高度な仕事に移行できる可能性がある。これは、スイスのダボスで今年開かれた世界経済フォーラム年次総会の主要テーマでもあった。
マッキンゼーによると、新しいテクノロジーの登場で解雇される人にとって、ロボットがすぐには取って代われない他の仕事がたくさんある。看護や介護など一定の訓練が必要なものもあれば、家事やウーバーのドライバーなど訓練が必要ないものもある。問題は、増え続けるプレカリアートがそうした仕事の労働条件や賃金に満足するかどうかだ。
(The Wall Street Journal/Christopher Mims)
https://diamond.jp/articles/-/193911
2019年2月14日 週刊ダイヤモンド編集部 ,山本 輝 :記者
民泊とは違い「ライドシェア」が解禁されない3つの理由
スマートフォンを操作する手
Photo:PIXTA
『週刊ダイヤモンド』2月16日号の第2特集は「配車アプリ大乱戦!」です。中国・滴滴出行や米ウーバーなどの参入で盛り上がりを見せているタクシー配車アプリ市場。その陰で、海外で主流のライドシェア(一般人が有償で他人を運送する行為)については議論が停滞しています。日本におけるライドシェア解禁の現状を特集のスピンオフでレポートします。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)
ついにライドシェアを“諦めた”か――。相次ぐ外資勢のタクシー配車市場への参入に、あるタクシー会社の関係者は安堵の声を漏らした。
2018年、国内のタクシー配車アプリ市場は、中国ライドシェア企業の滴滴出行(DiDi)や米ウーバーなどが新たに参入し、先行する最大手のジャパンタクシーなどを巻き込んだ激戦となった。来年に東京オリンピック・パラリンピックを控える19年は勝敗を分ける重要な時期になると、足元で各アプリ会社が提携先のタクシー事業者探しに奔走する。
だが、18年が「配車アプリ元年」であるなら、同じく18年は「ライドシェア晩年」でもあるともいえるだろう。配車アプリによるタクシー業界の盛り上がりとは反対に、ライドシェア解禁の機運は消沈しているのだ。
そこにはいくつかの理由がある。一つ目は、冒頭の通り、海外でライドシェアを手がける勢力が、一斉にタクシー配車に傾いたことだ。
海外勢がタクシー配車に専念
そもそもライドシェアとは、通常は一般人が有償で他人を運送する「白タク」行為を指し、現状国内では禁止されている。
だが、ウーバーなどは13年に日本上陸して以来、東京でハイヤー配車などを手掛けながら、こうした国内での“ライドシェア解禁”を目指してきた。かつて福岡で行った実証実験は国から中止の指導を受けたが、ウーバー日本法人の高橋正巳社長(当時)がタクシー会社幹部に「なぜライドシェアがだめなのか」と問い詰めるなど、あくまで米国のようなライドシェアサービスの展開を目標に活動してきた。
しかし、ライドシェアに市場を奪われるタクシー業界からの反発は凄まじかった。自民党ハイヤー・タクシー議員連盟など業界がバックに付く有力な議員団体もあり、ライドシェア解禁はなかなか思惑通りに進まなかった。もともと世界的に見てもタクシー需要の大きい日本でさらなる事業拡大を目指すために、ウーバーはライドシェアをひとまず棚上げする現実路線の選択を余儀なくされた。
昨年初頭にウーバー本体のダラ・コスロシャヒ最高経営責任者が来日し、タクシー会社との協調を明確にするなど方針転換を打ち出した。さらに、その様子を窺っていたDiDiも、日本で配車アプリを展開する際には、あくまでライドシェアはしないと強調するなど、タクシー業界側への配慮を見せた。
「完全に諦めたと油断はできない」。あるタクシー会社関係者はそれでも警戒を解かないが、少なくともライドシェアの旗手であった海外勢の存在感は薄れ、そもそもライドシェアの担い手が消失したのだ。
二つ目は、こうした政治に影響力を持つタクシーの業界団体に対して、ライドシェア解禁派の攻勢がままならないことがある。
規制改革推進派の本丸は民泊だった
実際、政府の未来投資会議などで民間議員を務める竹中平蔵氏や、新経済連盟の代表を務める楽天の三木谷浩史会長兼社長などの実業界を中心に、ライドシェア解禁の声は根強いし、経済産業省が中心となり昨年6月に施行された「規制のサンドボックス」制度(社会実証を目的に、地域や期間を限定して現行法の規制を一時的に停止する制度)は、ライドシェアでの活用も可能となっている。
昨年5月、新経済連盟が、ライドシェア解禁に向けた新法案を発表し、同じく、政府の規制改革推進会議では、一部のタクシー会社側からもライドシェアにつながる提案があり、議論が加速するかに思われた。
だが、結果的に同会議が6月に取りまとめた答申では、タクシーの多様な運用について触れただけで、ライドシェアについては全くのノータッチ。タクシー業界側に言わせれば「巻き返した」状況だ。
「シェアリングエコノミーや規制改革の推進の“本丸”は18年に施行された民泊の解禁であって、同じシェアリングでもライドシェアは議論の気配さえない」。ある関係者は言う。
民泊は違法行為が横行している実態を統制するために規制が求められたが、ライドシェアについては中国人による中国人観光客向けの白タクといった一部にとどまり、グレーゾーンで拡大する有力なサービスに欠けている。結果、ライドシェアを求める世論のニーズが高まっていない。これが三つ目の理由だ。
ライドシェアの問題点も浮き彫りに
そもそも、先行する海外でも、労働問題や殺傷事件といったライドシェアの問題点が次々と噴出し、風向きが変わりつつある。
米ニューヨーク州では、ウーバーなどの営業台数の制限や、ドライバーに対する最低賃金を保障する条例を可決した。また、中国では、DiDiなどのライドシェアドライバーに、ドライバーと車両の両方に求められる「二重免許」の取得を義務付けた。“ライドシェア礼賛”の動きにストップがかかっているのだ。
シェアリングエコノミーに詳しい早稲田大学IT戦略研究所所長の根来龍之教授は、「新しいビジネスには、既存ビジネスの“置き換え”と全く新しい“創造”の二つがあるが、ライドシェアは、“置き換え”の要素が強く、さまざまなあつれきを生むためサービスとしての正当性を持ちにくい」と、ライドシェアの難点を指摘する。
日本ではタクシーサービスの質が高く、ライドシェアの広まる土壌が育っていない。仮に、賃金保証や車両制限といった、ある程度の制限を設けた上でライドシェアを解禁しても、使い勝手の悪いサービスになれば、それこそ導入するメリットは失われる。タクシー配車アプリなどの普及でタクシーサービスそのものが価格面や消費体験面で柔軟性を持つようになれば、消費者の利便性自体は十分に保たれるはずだ。
ただ、日本型のライドシェアについてのニーズがあることも確かだ。
例えば、タクシーと直接競合する都市部ではなく、交通過疎の地方では、「むしろタクシー側から、ライドシェアのようなサービスの活用に期待する声は大きい」(配車サービス企業関係者)。また、前出の根来教授は、「インバウンド向けに、一般人が観光客を案内しながら車で運送するサービスなどはニーズが高い」と、部分的な“ライドシェア規制緩和”の必要性も強調する。
ライドシェアという言葉が独り歩きしており、反対か賛成の二元論に陥りがちだ。だが、将来のモビリティ(移動手段)のあり方を含めて、消費者にとって最も良いサービスとは何かを議論することが求められている。
https://diamond.jp/articles/-/193901
2019年2月14日 加藤 出 :東短リサーチ代表取締役社長
米国で「値付け競争」激化の一方インフレ率は2%前後な理由
電子タグ
米ビバリーヒルズ近辺のデパートで見掛けた電子タグ。ネット上の販売価格に応じて随時値付けを調整しており、価格設定には神経を使っているようだ Photo by Izuru Kato
米ロサンゼルスに先日出張した際、移動に何度か配車サービスのUber(ウーバー)を利用した。タクシーに比べて大幅に安いからだ。
例えば、昼ごろに22.9キロメートル乗ったときは31.62ドルだった。1ドル=109円換算で約3450円だ。現地タクシーなら58ドルほど(15%のチップ込み)。距離は東京駅から武蔵境駅に相当し、東京のタクシーなら8000円程度だろう。
その翌日の昼すぎにUberで26.2キロメートル乗った。東京駅から東小金井駅ぐらいの距離だ。東京のタクシーなら9200円前後。しかし、このときのUberは21.48ドル(約2340円)だった。先の乗車より距離が長いのに安いのは、需要の増減で価格が変わるダイナミックプライシングのためだ。
こういった状況なので、現地のショッピング街では客待ちのタクシーが長蛇の列をつくっていた。利用客は少なく、運転手たちは車から降りて雑談をしていた。同様の風景は最近、米国の空港やターミナル駅でも日常的に見られる。
Uberは米国労働省が集計する消費者物価指数の対象にはなっていないと思われる。しかし、そういった新手のサービスは既存のサービスの価格上昇を妨げる。これに限らず、スマートフォンを経由する新サービスが旧来のサービス価格の上昇ペースを抑えている事例は他にもあるだろう。
今度はTarget(ターゲット)などディスカウント系小売りチェーンが多数入居している、米ビバリーヒルズ近くの大型ショッピングモールをのぞいてみた。テレビ売り場に行くと、日本の家電量販店に比べて売れ筋は圧倒的に安い。メンバーカードで5%引き特典を得れば、有名ブランドで65インチは約7万8000円、50インチは約4万4000円。格安ブランドの40インチなら約2万1000円だ。
このモールには、高級デパートの割安チェーン店であるSaks Off 5th(サックス・オフ・フィフス)やNordstrom Rack(ノードストロームラック)もテナントに入っていた。本体では値引きをあまりしないが、こうしたサブブランドの店舗で大胆に値下げしている。女性に人気のUGG(アグ)の靴が39%引きなどで売られていた。
前述のようにここはビバリーヒルズの近くだ。高額所得者が世界一多いかもしれない地区でも、ディスカウント店が多数競合している。その背景には、米アマゾン・ドット・コムなどのeコマース(電子商取引)との激烈な値引き競争がある。このモールの向かいに、ディスカウント系ではないデパートがあった。しかし価格設定には神経を使っていて、婦人靴の価格表示は電子タグだった(写真)。値付けはインターネット上の販売価格をチェックしながら随時調整される。
米国の状況を見ると、日本はまだ物価が下がり得るのではないかと感じる。消費者物価指数における衣服・履物のここ3年間の平均年間変化率は、日本は0.1%の上昇だが、米国は0.6%の下落だ。テレビは日本が6.7%の下落、米国は16.5%の下落だ。
それでも米国のインフレ率が2%前後なのは、シェアリングエコノミー(共有経済)に打撃を受けていないサービス価格の上昇に加え、家賃や教育費、医療費、介護費などの大幅な値上がりによる。
日本銀行の異次元金融緩和策はこの春で7年目に入るが、インフレ目標(2%)は遠い。賃金の伸びが遅いところに、前述のデジタル時代の価格低下圧力が加われば、目標達成は一層難しくなる。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
https://diamond.jp/articles/-/193648
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