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2023年7月7日 16時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/261541?rct=national
世界で最も身体拘束が行われている日本の精神科病院。厚生労働省では現在、拘束要件の見直しが不透明なまま進むが、精神科病院を束ねるドン・日本精神科病院協会(日精協)の山崎学会長(82)はどうとらえているのか。「こちら特報部」の単独インタビューに応じた山崎氏の言葉を詳報する。(木原育子)
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やまざき・まなぶ 2010年から日本精神科病院協会会長。22年5月の厚労省の私的検討会に突如、参考人として出席し、議論の風向きを変えるなど影響力が大きい。18年には協会の機関誌に「(患者への対応のため)精神科医にも拳銃を持たせてくれ」という部下の医師の発言を引用し、物議を醸した。安倍晋三元首相と親しかったことでも知られる。日本大医学部卒。
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◆一般医療での拘束の方がはるかに多い。そっちをなぜ騒がないの?
今月4日、日精協の会議室。山崎会長は予定より10分遅れて現れ、インタビューが始まった。
まずは身体的拘束。年間1万件超の拘束がある。
「基本的にね、精神保健福祉法に則のっとった拘束なわけ。それについて何だかんだ言うのは変だと思うよ」
厚労省で拘束要件を見直す議論が進む。医師の裁量が増え、拘束件数が増える懸念を示す声がある。
「議論が進むのはいいが、現場としては、粛々と法律に沿った形で拘束する。当然じゃない?」
過去20年で拘束件数は2倍に増えた。
「増えた増えたって言うけれど、厚労省が発表しているのは数だけ。病名や性別、年齢も発表していないから、具体的にどういう疾患で拘束が増えたか何もわからないの」
年齢や性別、疾患はこの場合、関係ないのでは。
「関係なくないよ」
どんな疾患でも、拘束されたことに変わりはない。
「中身の分析がなければ数字に意味がないって言っているの。拘束の数だけ発表してるのって変。分析できないのに答えられない」
そうでしょうか。
「精神科病院より一般医療での拘束の方がはるかに多い。知らない? 厚労省の班研究で施設内拘束って6万件あるんだぜ。そっちの拘束をなんで騒がないの?」(軽く机をたたく)
「拘束しないで、患者さんが逆に自殺したとか、転倒骨折したとかの方が怖い。医師が適切に判断していることをね、診察もしたことがないきみが、あーだこーだって言うのって変だと思わない?」「こっちだってね、好きで拘束やってんじゃない。拘束したら、監査の時にカルテを全部ひっくり返して見られてね、しかも診療報酬全くついてないんだよ、あれ」
山崎氏は拘束する権限をもつ精神保健指定医だ。
「拘束? してますよ」
心は痛まないのか。
「はあ? 治療の一環で拘束しているわけで、それを全然現場を知らないきみが土足で入ってきて、心痛みませんかって何なの? 失礼だよ」
取材で心を痛める精神科医に多く出会ってきた。
「ぼくはそんなふうには考えない。適切に法律で決まっている。患者さんの安全を考えて拘束して、なぜ心が痛むの? しないことで、もっと変な結果が出る方がおっかないじゃないか」
当事者は拘束しないでほしいと強く望んでいる。
「できないね。拘束して治療のプログラムに乗せるのが今の法律上の建前だ」
なぜ日本だけこんなに拘束件数が多いのか。
「海外は入院させないからだ。デポ剤(持続性注射剤)打って帰しちゃう。入院が少ないから拘束数も少ないんだよ」
じゃあ日本も今後は病院ではなく、地域で見守る態勢に本腰を入れるべきだ。
「地域で見守る? 誰が見てんの? あんた、できんの? きれいごと言って、結局全部他人事なんだよ」
◆長期入院→「僕は幸せだと思う」 国連廃止勧告→「余計なお世話」
確かに社会資源が少ない。
「障害年金たった年間70万円で、どうやって地域で生活させんの? できないよ。働けないんだぜ」
社会構造も変えないと。
「変わんねえよ! 医者になって60年、社会は何も変わんねえんだよ。みんな精神障害者に偏見もって、しょせんキチガイだって思ってんだよ、内心は」
山崎氏もそう思うのか?
「ぼくは親父おやじの病院を継いで2代目だ。小さい時から、閉鎖病棟で患者さんに遊んでもらって育った。たまたま不幸で病気になっちゃった人って思っている」
精神科病院に入院し続けることは幸せなのか。
「そう思うよ、ぼくは。地域で、アパートで一人暮らししながら、明日のことも分からず生活するのと、病院の4人部屋で皆でご飯食べるのと、どっちがいいかって言ったら、ぼくは病院を選択するよ」
30年入院してても?
「出してどうすんの? 地域でマンツーマンで診れるならいいが財源も人もいない。支えているのはいつもボランティアじゃねえか」
国連障害者権利委員会は昨秋、日本の精神科医療での強制入院を問題視し、根拠法の全廃を勧告した。
「余計なお世話だよ」
勧告は重くないのか。
「重くないね全然。国連がそんなに権威のある機関だと思ってないもん」
滝山病院(東京都)事件など虐待は起き続けている。再発防止策は。
「滝山への入院は全部他院からの紹介だ。透析患者や難しい案件の患者をなぜ公立病院がやらないんだ。それを言えよ」
来年は診療報酬に加え、障害報酬や介護報酬といったトリプル改定になる。
「精神科も診療報酬を一般診療報酬並みにと訴えているが、全然だめ。精神科診療報酬は入院が9割。診療報酬の構造が違うわけ」
先月、山崎氏は日精協の会長に再任した。8期目だ。なぜ会長職に留とどまるか。
「精神科医療を何とかしたいと思っている。財源がつかないとしょうがないでしょ」
【関連記事】精神科病院での実習を通して 「知る」ことから全ては始まる 特別報道部・木原育子
◆当事者「私は一日も早く退院したかった」
山崎会長の発言に当事者や支援者らは何を思うか。
40年近く入院し、現在は群馬県内の地域で暮らす精神国賠訴訟原告の伊藤時男さん(72)は、長期入院を肯定する山崎氏に対し、「病院の立場としてはそうなのだろうが、私は一日も早く退院したかった。多くの人にサポートしてもらい、今が一番幸せ。山崎先生に教えてあげたい」と語る。
当事者でつくる一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」代表理事の山田悠平さん(38)も、「当事者は望まない入院に苦しんでいる。精神障害者を『かわいそう』として地域から締め出して病院に収容することで根深い差別構造を生んできた」と訴える。拘束要件見直しの議論については「身体拘束は行動制限の中でも非常に侵襲性が高い」とし、「告示を厳格にして高止まりしている実態にメスを入れてほしい」と求める。
支援者側はどうか。退院した当事者らと運営する福祉作業所「ほっとスペース八王子」施設長の藤井雅順さん(36)は、「どうやって地域で生活させんの?」という山崎氏の言葉に「現実との乖離かいりがありすぎる発言だ。作業所などは確かに人員態勢や収入面での苦労はあるが、それぞれのペースに合わせて楽しみを見つけ生きている」
身体拘束に詳しい池原毅和弁護士は山崎氏の「拘束して治療のプログラムに乗せる」との発言を問題視する。「一般医療では手術後に、手術痕をかいて悪化させることを防ぐために拘束する場合はあるが、精神医療は一般医療と違い、治療のために拘束する手段は認められていない」とする。「一般医療は治療の同意が取れた患者がほとんどだが、精神は半数が強制入院で、本人の同意が全く取れていないまま拘束されるからだ」と違いを指摘する。
「60年、社会は何も変わんねえんだよ」という言葉には、病院からの退院支援を担う社会福祉法人「ひらいルミナル」理事長の河野文美さん(49)も「退院支援に力を入れる精神科病院も出てきたが、地域の受け皿として事業所が増えない社会の弱さもある。病院だけの問題でなく、トータルな視点で地域移行を進めないと…」と話した。
日本障害者協議会の藤井克徳代表は「人権感覚はなく、国際規範すら切り捨てる。拘束についての持論は言い訳と居直りだ」と指摘。「これが、この国の精神科医療のトップの発言で、暗澹あんたんたる気持ちになる。こうしたリーダーを選び続ける日精協自体が問われる」
◆デスクメモ
山崎氏の物言いは乱暴だし、多くの部分で肯定できないが、どきりとする部分もある。「きれいごと言って、結局全部他人事なんだよ」「60年、社会は何も変わんねえんだよ」。精神障害者から目を背け、病院へ追いやることを是としてきた社会。ドンからの重い問いかけだろう。(歩)
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