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イランがホルムズ海峡を封鎖したらどうなるか──原油高騰と戦争だ
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/08/post-10765.php
2018年8月10日(金)21時40分 トム・オコーナー ニューズウィーク
イランの革命防衛隊は8月2日、ホルムズ海峡封鎖を想定した軍事演習を行った(写真は1月、オマーン湾での軍事演習) Ebrahim Norouzi-REUTERS
<11月までにイランの原油輸出をゼロにすることを狙うトランプに、イランはホルムズ海峡封鎖を示唆する。アメリカの攻撃を受けることになるがそれでもやるのか>
イランは、いざとなれば世界の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖すると警告した。対イラン制裁を復活し、イランの原油輸出をゼロにすることを狙う米トランプ政権を威嚇したものと見られる。イラン側に海峡封鎖の準備が整った兆候はまだないが、もしそうなれば、中東情勢や世界のエネルギー価格に破滅的な影響を与える恐れがある。
アメリカの対イラン再制裁の第1弾は、8月7日に発動された。2015年にイランが欧米など6カ国と結んだ核合意で、イランは核兵器開発を制限する見返りに経済制裁を解除してもらったのだが、ドナルド・トランプ米大統領は5月8日に合意から離脱した。制裁を再開するためだ。その第1弾は自動車部品や航空機の取引制限、さらに11月4日に発動予定の第2弾では、イランの重要な輸出品である原油と天然ガスを買わないことにする。欧州各国や日本も、イラン産原油の購入をゼロにするよう求められている。
アメリカとイランの睨み合いが続く中、イランの精鋭部隊、革命防衛隊が8月2日にホルムズ海峡一帯で大規模な軍事演習を行った、と報じられた。ホルムズ海峡は世界の海上輸送原油の3割以上が通過する要衝だ。イランの強硬派は諸手を挙げて海峡封鎖に賛成し、革命防衛隊幹部も実行に意欲を示している。
■海峡封鎖は侵略招く
これほどの緊張にも関わらず、イランが世界の原油輸送の生命線であるホルムズ海峡を実際に封鎖するリスクを冒すかどうかは「疑わしい」と、米テキサス州のシンクタンク、ジオポリティカル・フューチャーズの分析責任者であるジェイコブ・シャピロは本誌に語った。万一本当に封鎖すれば「大変なことになる」。
「アメリカによる制裁で原油輸出が不可能になり、これ以上失うものがなくなったイランが、対米強硬姿勢を国内にアピールしようと封鎖に踏み切れば、原油価格は短期的に跳ね上がるだろう」
「だが高騰は一時的だろう。遅かれ早かれ、ホルムズ海峡の封鎖は解除される。その間にアメリカのシェール業者もロシアも原油を増産する。封鎖がもたらす最も重要な結果は皮肉にも、経済が低迷するロシアの懐にキャッシュが転がりこむことかもしれない」
海峡封鎖は「外国勢による侵略」を招く恐れがあるため、イランも継続は不可能だ、とシャピロは指摘する。米軍はおそらく、クウェート、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦などのスンニ派国家に代わってシーア派のイランに介入する。そうなれば、イランはアメリカに太刀打ちできない。それでも、革命防衛軍によるホルムズ海峡での軍事演習は、米国防省の指導部を警戒させるに十分だった。
米中央軍のジョセフ・ボーテル司令官は8月8日に国防省で記者団に対し、イランの軍事演習について次のように語った。「アメリカへのメッセージは明確だ。制裁再開を前に、(海峡封鎖を)実行する能力を誇示する狙いがあった」。イランは約100隻の艦船を演習に集結させていたが、従来のように嫌がらせをすることはなかった。
「イランがある程度の戦力を持っているのは間違いない。機雷や沿岸防衛用のミサイル、赤外線レーダーなどだ。だがアメリカも相当の戦力を持っている」、と彼は言った。アメリカは(ホルムズ海峡の)航行の自由を守るために友好国と協力し、イランに対して必要に応じた対抗措置を取る、と強調した。
イランはアメリカに打ちのめされる可能性に加え、国内でも不安要素を抱えている。イランが中東で影響力を拡大できたのは、イラクやシリアのシーア派を支援してスンニ派反政府勢力を抑え込んだことと、国産の弾道ミサイルを保有していることだ。だが、それらに巨額の資金を注ぎ込んだせいで、イラン経済は大打撃を受けた。さらに核合意からの離脱、というトランプ政権の決定を受けてイランの通貨リアルは暴落し、イランの各都市で大規模デモが続発する異常事態に発展した。
■イランとアメリカ、どちらが信用なくすか
ホルムズ海峡を封鎖すれば、イランの国際的な信用にも傷つく。今は味方の中国やイラク、インドも、原油輸入を依存するホルムズ海峡を封鎖すれば、イランに背を向けるかもしれない。核合意から離脱したアメリカが国際社会で孤立している滅多にない好機に、自らまた世界を敵に回すことはしたくないだろう。
ほかの締結国である中国、フランス、ドイツ、ロシア、イギリスの5カ国は、核合意の破棄を訴えるトランプの主張を断固拒否している。トランプは、核合意はイランのシーア派支援を阻止することも、イランの核開発を永遠に終わらせることもできない代物だ、と批判してきた。対するEUは8月7日、域内の企業がアメリカの制裁に従うことを禁じる「ブロッキング規制」を発動し、イラン撤退の動きに歯止めをかけようとしている。
結果的にイランは強気の姿勢を崩しておらず、ジャバド・ザリフ外相は8月8日、国営イラン・イスラム共和国放送で「もう誰もアメリカを信じない」と発言。さらに、ロウハニが7月22日、アメリカのせいで原油の輸出が不可能になれば、ホルムズ海峡の封鎖も辞さないと示唆したのは「心理戦を仕掛けてきたアメリカへの警告だった」と言った。
(翻訳:河原里香)
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