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運転免許証も自動車教習所も不要になる日…「ACES」は社会システムを変える
https://biz-journal.jp/2019/01/post_26301.html
2019.01.17 文=津田建二/国際技術ジャーナリスト Business Journal
今、自動車業界のトレンドをConnectivity(つながる)、Autonomy(自律性)、Electricity(電気)、Sharing(共有)の4つの頭文字を集めて、日本ではCASEと呼んでいる。しかし、10月に米国のカリフォルニア州シリコンバレーに行ったときにACES(「エイシス」あるいは「エイセス」と発音。アクセントは「エ」)という言葉を複数の半導体業界関係者から聞いた。
CASEだと「場合」という、まったく動きのない意味にとどまり、決してポジティブな印象を受けない。ACESと書くと、「複数のエース」という力強い意味になる。オールマイティの「ハートのエース(ACE)」を複数持っていることになる。高校野球の甲子園では2人か3人のエースを擁する強豪校を意味する。力強くカッコいいのだ。だからポジティブ思考のシリコンバレーではCASEとはいわず、ACESが使われる。
CASEという言葉はもともと、ドイツのフォルクスワーゲンの経営者が使い出したといわれているが、ドイツ人にとって英語は母国語ではない。米国では、ポジティブではない意味の略語は使わないことが多い。半導体の世界では主流のMOSトランジスタのMOSを「モス」ではなく「エムオーエス」と発音する人が多い。「モス」はモスキート、すなわち蚊をイメージさせる嫌な言葉だからだ。
最近の言葉では、霞が関の官僚がよく好んで使うCPSという無意味な略語も米国では使われない。先日、通信用半導体トップメーカーであるブロードコムのエンジニアに、「CPSに関して何を開発しているのか?」と訊ねたことがあった。答えは、「CPSって何?」だった。米国ではCyber Physical Systemとはいうが、CPSとは決していわない。しかも米国メディアの「Chicago Tribune」のなかで頻繁に出てくるCPSは、「Chicago Public School(シカゴの公立学校)」という意味の略語である。
また、総務省がこだわるICTという言葉も、米国や英国では見かけない。ITという言葉は世界的に認知された言葉であって、日本人が勝手にICTという略語をつくっても世界では通用しない。しかもITのなかに通信を含むことは常識であり、あえてICTという必要はまったくない。ICTはもはや和製英語といえよう。やはりグローバルスタンダードの言葉を使うべきではないだろうか。
このようなことを書くと、「あなたは欧米かぶれだ」といわれそうだが、決してそうではない。米国や英国に行って、自動車やIT業界の人たちと会話中に「エイシス」という言葉が聞こえたとしても、その意味がわからなければ聞き返すか、わからないまま帰国してしまうことになる。しかも最新のトレンドを表す言葉だからこそ、辞書にはおそらく載っていない。日本で使われているアルファベットの略語が海外でも通用すると思いがちだが、通用しないということを、私の失敗談を踏まえて指摘しているのだ。
■ACESとは何か
さて、クルマのトレンドを表すACESは、これまでの内燃エンジンのクルマとはまったく違う概念であり、これからのクルマのあり方を示している。Aの自動運転車(Autonomous Vehicle)は、ドライバーがハンドルを握らなくても自動的に運転できる未来のクルマを指す。自動運転車は2020年にも実用化が始まるとの報道もあるが、クルマの操作法を知らなくても乗れるなら、運転免許はいらないだろう。そうなると自動車教習所もなくなり、免許を発行する公安委員会も不要になる。技術だけではなく、法律を含め社会のシステムまで大きな影響を及ぼすことになる。だからこそ、普及するまでには相当な時間がかかる。業界では2030年か40年頃とみている。
「つながる」を意味するConnectivityは、クルマとクルマをつなげることで横から飛び出してきそうなクルマを検知することができ、渋滞情報をリアルタイムで知ることで最適なルートを示してくれる。加えて、欧州で始まったeCall(イーコール)サービスも提供してくれる。このサービスは、自分の車が大きな事故を起こし、たとえドライバーの意識がなくても、事故が起きたことをサービスセンターへ自動的に知らせ、即座にロードサービスが駆け付けてくれるサービスだ。助からない命が助かる場合がある。自動運転と組み合わせて、一人のドライバーで数台のトラックを連れて走行することもできる。まさにドライバー不足を解決する手段になりうる。
Electric Vehicle(EV)は電気自動車。リチウムイオン電池の進歩がITや半導体の進歩ほど早くないため、いまだに電気自動車の欠点は走行距離が短いことになっているが、電池の進歩が進むと1回の充電で500km走行することは、もはや夢ではない。昨年12月24日付日本経済新聞によれば、2020年代前半に実現可能になるという。EVは走行時に二酸化炭素を排出しないため環境にやさしい。加えて、燃費(電費)も安い。水素自動車も一時話題になったが、水素ステーションの設置にコストがかかり、さらに水素の燃費はガソリン車より少し良い程度にとどまっている。
Sharing(シェアリング)は、自家用車の稼働率が4.8%しかないという試算があるなかで、この稼働率をもっと上げようというトレンドだ。代表的なサービスとして、ウーバーなどがある。たとえば、暇を持て余しているクルマの所有者に対して、他人を乗せて運ぶという仕事を与えることで、稼働率を上げる。このビジネスモデルは、ドライバーも乗車する人も予め登録しておき、配車アプリを使ってマッチングさせるというもの。
ACESのなかでテクノロジーと密接に関係する言葉は、ACEである。Sはビジネスモデルやサービスに関係し、自動車関係以外のテクノロジー業界ではあまり問題にされていない。
(文=津田建二/国際技術ジャーナリスト)
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