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(回答先: 「生活保護を受けるとやる気がなくなる」は本当か 財政健全化へ社保改革継続「着実な経済成長も必要」市場は神経質=財務次官 投稿者 うまき 日時 2018 年 12 月 21 日 20:11:18)
賃金の引き上げだけでは、仕事の質はよくならない
ケイティ・バック,サラ・カロック,ゼイネップ・トン:企業がよい職場を提供することで繁栄できるよう支援する非営利団体、グッド・ジョブズ・インスティテュートのマネージング・ディレクター。
2018年12月21日
アマゾンは先頃、全スタッフの最低賃金を時給11ドルから15ドルに上げると発表した。この大幅な賃金引き上げは話題を呼び、労働者たちには喜ばしいことであろう。だが、小売業やサービス業を取り巻く劣悪な労働環境に目を向けたとき、賃金の向上は数ある要改善点の一つにすぎないと筆者らは言う。
買い物客が増えるホリデーシーズンが近づくにつれて、人手不足に直面している小売企業の多くは、アマゾンの先例にならうことを間違いなく検討することだろう。同社は最近、米国の全従業員に対し(傘下のホールフーズ・マーケットの店舗で働く人も含む)、最低時間給を15ドルに上げると宣言した。国の最低賃金を7.75ドル上回る額だ。
昇給は、小売業やその他の低賃金のサービス業で働く労働者にとって、喜ばしいことだ。このため我々は、アマゾンの決定を称賛し、他社もこれに続くことを望んでいる。昇給はまた、劣悪な仕事、劣悪なオペレーション、質の低い顧客サービス、低い生産性、高コストという、悪循環にはまっている多くの企業にとって必要である。
だが、この悪循環を断ち切るには、昇給だけでは十分ではない。他の改革を合わせて実施しない限り、昇給は企業の利益を減少させる可能性が高く、劣悪な職場をよい職場へと転じさせることはないだろう。
経済学者の中には、「効率賃金」の概念を引き合いに出して、昇給すればおのずと業績が向上しうると主張する人たちもいる。賃金が高ければ、企業はより優秀な働き手を惹きつけて留められ、従業員はいっそう仕事に精を出す意欲を高めるから、というのがその根拠だ。
だが我々は、他の部分も変えなければ、これらのメリットは小さいと予測する。本稿筆者の一人が大手小売企業で働きながら直接目にしたように、高いスキルと意欲のある従業員であっても、期待されたほど生産性を上げることができない場合がある。なぜなら、企業のオペレーション上のシステムが妨げとなり、従業員のスキルと熱意が最大限に活かされるどころか、無駄にされているからだ。
このような障壁を、我々は常に目にしている。店舗で何らかの買い物をする人なら、誰でも同様のはずだ。以下にその例を示す。
・陳列物を始終変更する。飾り付けと取り外しに何時間もかかる。その時間を使って、顧客の手伝いをしたりプロセス向上を試したりといった、もっと高価値の仕事ができるはずだ。
・土壇場で販売促進や納品の内容を変更する。これにより、マネジャーは直前のスケジュール変更に時間を割く必要が生じる。それが従業員の生活を乱し、常習的欠勤、離職、人員不足を招く。これらはどれも、ミスの可能性を高める。
・従業員に、自分の仕事を改善したり顧客の問題を解決したりする権限が与えられていない。返品の受け取りや価格の変更などの、些細な事項にも管理職の承認が必要とされている。従業員に改善のアイデアがあっても、緊急対応ですでに手いっぱいの上司に却下されてしまう。
・備品およびテクノロジー(バーコード・リーダー、冷蔵庫、研修やスケジューリング用のソフトウェアなど)が、ひんぱんに故障する。このため従業員は、ヘルプデスクへの電話に何時間も費やしたり、重要な備品なしで何日も何週間も過ごすはめになったりする。
・店舗が、本社からの日々の大量の指令や、目を通すべき多数の売上報告書、利用すべき100以上ものマネジメント・ツールなどで押しつぶされそうになっている。
最低賃金を上げても、これらの障壁のいずれも、けっしてなくならない。企業は従業員の時間を無駄にして、支出だけを増やしているにすぎない。さらに、これらの障壁は、従業員の達成感、誇り、意義を低下させることで、労働意欲を削ぎ離職を増やす可能性が高い。
企業は昇給しても、生活できる手取り額、予測できるスケジュール、明確なキャリアパスを提供しない限り、従業員の基本的ニーズに応えることすらできないと思われる。
●手取り額
働き手にとって気がかりなのは、時給よりも手取り額だ。米国労働統計局によれば、2017年における小売販売員の年間賃金の中央値は2万3210ドルとされているが、これは週40時間勤務を想定したものである。
小売業やファストカジュアル・ダイニングのようなサービス業では、そのようなケースはまれである。半数以上の従業員がパートタイム勤務であるというのは珍しいことではなく、名目上フルタイム勤務の人でも、週40時間労働を保証されていないのが通常だ。
パートタイム勤務は、高校生や大学生の小遣い稼ぎならよいが、2017年には、小売業の販売員の年齢中央値は36歳、レジ係は26歳であった。これらの年齢層は、自分自身と家族を支えるための生活費が必要な人たちだ。
企業は、自社の従業員の労働時間が非常に短いことを、必ずしも認識していない。ある組織の幹部は我々に、自社の時間給労働者のほとんどが週15時間未満しか働いておらず、年間収入は1万ドルを下回ると知って驚いたと語った。したがって、昇給を検討している企業は、実際の手取り額に焦点を定め、改善を追跡することで、従業員に生活できるだけの賃金を稼いでもらうよう図るとよい。
●予測できるスケジュール
収入が週ごとに異なる不安定さもさることながら、自分のスケジュールを知らされるのがほんの2、3日前であれば、育児や通勤や、その他の生活事項について、計画を立てるのが困難だ。サービス業で働く多くの人が、こうした状況に置かれている。また、企業にとってコストにもなる。
よい職場を提供しているという定評がある企業は、スケジュールを3〜4週間前に提示している。また、カリフォルニアやシアトルをはじめとする地域の新たな法律では、他の組織も後に続くよう促している。
この慣行を採用する企業は、単に雇用主として優れているだけではない。複数の研究で、小売業従事者のスケジュールの安定が、売上高と労働生産性も高めることが示されている。
●キャリアパス
現在の手取りは働き手にとって重要だが、将来の稼ぎも重要である。最良の雇用主は従業員に対し、新たなスキル習得の機会、その能力を実証する機会、昇進のチャンスを提供することで、当人と家族の経済状態が将来向上するよう保証している。
たとえば、よい職場の提供者とされるコストコや米コンビニチェーンのクイックトリップなどでは、現場の職はほぼ内部昇進のみであり、社員には昇給と責任拡大につながる明確なキャリアパスを提供している。よりよい働き手を惹きつけ、留めたい企業は、そのようなキャリアパスを設けることが、従業員にとって非常に大事であると気づくだろう。
企業が自社のシステムを正さないかぎり、昇給しても、自社の業績アップや働き手にとってのよい職場にはつながらない。従業員の生産性、貢献、モチベーションを高めるシステムを構築したならば、昇給は業績アップとよい職場をもたらす諸要因の1つとなるだろう。幸い我々は、そのようなシステムの構成要素について多くを知っている。
HBR.ORG原文:Higher Wages Aren’t Enough to Turn Mediocre Jobs into Good Ones, October 29, 2018.
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ケイティ・バック(Katie Bach)
企業がよい職場を提供することで繁栄できるよう支援する非営利団体、グッド・ジョブズ・インスティテュートのマネージング・ディレクター。過去に、スターバックスでグローバル戦略のディレクター、マッキンゼー・アンド・カンパニーで経営コンサルタント、世界銀行で西アフリカにおける紛争後の雇用プログラムのマネジャーを務めた経験もある。
サラ・カロック(Sarah Kalloch)
企業がよい職場を提供することで繁栄できるよう支援する非営利団体、グッド・ジョブズ・インスティテュートのエグゼクティブ・ディレクター。ツイッターは、@sarahkalloch。
ゼイネップ・トン(Zeynep Ton)
マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院オペレーションズ・マネジメント・グループの非常勤准教授。グッド・ジョブズ・インスティテュートの共同設立者。トロント大学マーティン・プロスペリティ・インスティテュートのフェローでもある。著書に、The Good Jobs Strategy(未訳)がある。ツイッターは、@zeynepton。
http://www.dhbr.net/articles/-/5664
2018年12月21日 岸 博幸 :慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授
深刻な視野の狭さと思考劣化が目立った「平成最後の年」に学ぶこと
今年を総括すると、政策の変化よりも重要な論点がある。それは、野党、メディア、さらには一部の一般人に至るまで、日本人の視野の狭さと思考劣化が目立ったことだ(写真はイメージです) Photo:PIXTA
政治では3大改革が実現も
野党の政策批判に見る視野の狭さ
2018年は政策の面でも多くの変化がありました。しかし今年を総括すると、もしかしたら政策の変化以上に留意すべき大事な論点があるような気がします。それは、政策を判断・評価・批判すべき立場にある野党、メディア、さらには一部の一般人にも共通する「視野の狭さ」です。
まず、政策の面から今年を総括すると、今年は前半こそ“働き方改革”というキャッチフレーズが踊るだけであまり改革が進みませんでしたが、後半になって一気に改革が進んだと評価できるのではないかと思います。
実際、秋の臨時国会では、48日という短い会期であるにもかかわらず、外国人単純労働者の受け入れ(入管法改正)のみならず、インフラ事業への民間参入(水道法改正)、漁業権の民間開放(漁業法改正)という強固な岩盤規制の改革も実現しました。
もちろん、これだけの短期間で3つもの大きな改革を実行したのですから、外国人単純労働者受け入れを巡る国会での政府の説明からも明らかなように、どれも制度が円滑に機能するか、国民の不安を払拭できるかといった点で問題が多かったことも事実です。
その意味で、これらの政策には批判すべき部分が非常に多いのは事実ですが、法案の審議を巡る報道を見ていて同時に強く感じたのは、野党の批判のダメさ加減です。
たとえば、外国人単純労働者の受け入れを巡っては、技能実習生受け入れ制度の問題点や法務省の調査の不備などを批判し、最低賃金以下で働かされる外国人労働者の悲惨さを訴えるくらいで、政策論として外国人単純労働者受け入れの是非を論じたり、制度の具体的な問題点を指摘するようなケースは、非常に少ないまま終わりました。
また、漁業権の民間開放を巡っては、企業に漁業権を付与したら個人で頑張っている漁師の生活が脅かされるといった類の主張ばかりで、世界的に見れば漁業は成長産業であるにもかかわらず、日本では衰退産業となっている現実にどう対応すべきかといった、具体的な政策提言はほとんどありませんでした。
要は、野党の主張は、「搾取される外国人技能実習生や弱い立場の漁師を守れ」といった、非常にステレオタイプで視野の狭い弱者保護の議論と、それに基づく政権批判ばかりで、弱者のみならず全体を踏まえた具体的な対案の提示はありませんでした。
私が政権にいた頃、郵政民営化のときの国会論戦を思い起こすと、野党はあれから12年以上も経っているのに何も進化していなかいどころか、さらに劣化しているように感じました。
外国人労働者に水道法改正
メディア報道の視野の狭さ
もちろん、野党だけではありません。メディアの報道もだいぶ視野が狭くなっているように思えます。
たとえば、外国人単純労働者受け入れを巡る報道を見ていると、その多くは野党と同じように外国人技能実習生の悲惨な実態ばかりでした。もちろん、そうした可哀想な外国人が多いのは否定しませんが、どの程度の数の外国人を受け入れるのが日本にとって適切かといった論点について、視聴者や読者に考えるきっかけを与えるような報道は、非常に少なかったように思えます。
また、水道法改正を巡る報道はさらに酷かったと言わざるを得ません。水道法の改正は、地元自治体が全面的に担ってきた水道インフラの所有と運営を分離して、民間企業が水道事業を運営できるようにするものですが、多くのメディアがそれに関して報道したのは、岩手県雫村で民間事業者が提供してきた水道供給が途絶したリスクについてです。
しかし、この岩手県の例は、もともと地元自治体の水道供給エリアから外れた山間部の話です。そこに建てられたペンション・別荘エリアに水道サービスを提供していた民間企業の撤退という問題です。もちろん、当該エリアの住民の皆さんは本当にお気の毒ですが、今回の水道法改正とは無関係の話です。
それを水道法改正のタイミングでたくさん報道したら、インフラの民間開放が本当に必要であり有益なのかを市民の側が客観的に考えるのが、難しくなってしまうのではないでしょうか。
以上の例からも明らかなように、どうもメディアの報道も郵政民営化の頃以上に弱者保護の観点ばかりが強調されている気がします。そこに、ネットとの競争ゆえにセンセーショナルさやわかりやすい構図ばかりが優先的に反映される結果として、報道内容がすごく視野の狭いものとなってしまっているように感じられます。
もちろん、それらの観点もすごく大事です。しかし、そもそもメディアの役割は、国民が世の中の問題について客観的に考えるきっかけや判断材料を提供することだと考えると、それだけに終始してしまうのはいかがなものでしょうか。
南青山の児童相談所設置を巡る疑問
一般人の「言い分」は適切か
そして、南青山の児童相談所を巡る騒ぎを見ていると、野党やメディアのみならず、もしかしたら一般人の視野も狭くなってきているのかもしれないと感じざるを得ません。
報道によれば、港区の説明会に参加した住民の一部は、同じ南青山に住んでいる(と言っても賃貸マンションですが)私から見ても、違和感を覚えるような発言をしています。
たとえば、児童相談所が青山に設置されたら「青山のブランド価値が毀損される」「青山の土地の価値が下がる」という発言があったようですが、児童相談所が置かれたことでそのエリアの土地の価値が下がったという相関関係は、証明されていません。
また、「ランチが1600円もしてネギを買うのも紀伊国屋という地域では、児童相談所に来る子どもが可哀想」といった趣旨の発言もあったようですが、私の妻は自転車で青山や周辺エリアの庶民向けの安いスーパーを活用しているし、ランチだって1000円以下で食べられるところはたくさんあります。
ちなみに、私は多くの識者のように、これらの発言の中身が非常識だと非難する気はありません。残念ながら、児童相談所の新設が地域で歓迎されないというのは、日本のみならず世界のどこでも起き得ることだからです。これらの発言をした人たちも「総論賛成、各論反対」、つまり施設の必要性はわかるけど自分の住む地域に置くのは勘弁してほしい、という感じなのでしょう。
それよりも考えるべきは、これらの発言をするに至った背景ではないかと思います。これらの発言をする人たちは、自分の限られた経験だけからの価値判断が正しいと思い込んでしまったのではないでしょうか。
個人的に、これはちょっと危険な兆候ではないかと思っています。グローバル化が進む中で生きていくには、多様性を受け入れる寛容さを身につけることが不可欠です。そのベースとなるのは、自分とは違う人たちや自分の常識にないことを理解しようとする想像力です。特に日本では、これから外国人単純労働者の受け入れが始まるのですから、なおさらです。
そう考えると、もしかしたら意外と多くの人が、自分の限られた経験だけに依存し、無意識のうちにそれらの寛容さや想像力を失いつつあるのかもしれません。その原因としては、格差の拡大、ネットやソーシャルメディアの悪影響(自分に近い考えや同質の仲間ばかりの環境が、当たり前になってしまう)といった、いくつかの理由が考えられます。
いずれにしても、おそらく南青山に住む人たちは、競争力のある優秀な人が多いと思われますが、もしそうした層の人たちの視野が狭くなりつつあるのだとしたら、それは非常に憂うべき問題ではないでしょうか。
2019年は自らの視野の狭さを
意識して修正していくべき
以上のように考えると、どうも今の日本では野党やメディアのみならず、一般人も物事を考えるときの視野が非常に狭くなっているように感じます。
野党やメディアがダメだからそれが国民に伝染したのか、国民がダメだから野党やメディアもそのレベルに合わせてしまっているのか、因果関係はともかくとして、こうした問題もかなり深刻ではないでしょうか。これでは、政治の側が間違った政策決定を行なっても、その本質的な部分に対する批判を回避するのは簡単だからです。
ただ逆に言えば、これだけ野党やメディア、そして一般人の現状が露呈されたことは、それを修正するよいきっかけにすることも十分可能なはずです。東京オリンピック後のしんどい状況に日本が直面するまでには、まだ時間があります。これを奇貨として、2019年は一人ひとりが「自分の視野は狭くなっていないか」と、常に自問自答するようにすべきではないでしょうか。
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)
https://diamond.jp/articles/-/189206
ビジネス2018年12月21日 / 19:31 / 7分前更新
消えゆく地元の「人情すし屋」 高級店やチェーン店の谷間で淘汰
3 分で読む
[東京 21日 ロイター] - 「大将、生ちょうだい」。常連客の藤沼靖雄さん(76)が、カウンターに座り昼間から生ビールを注文した。「病院から来たんだ。姉ちゃんが亡くなった」。たばこを取り出し、吸い口でカウンターをトントンとたたいた。
「お姉さんのこと、よく看病したねえ」。包丁を持つ手を止めた店主がいたわる。藤沼さんの姉は銭湯帰りによく顔を出した。ビールを飲みすしをつまみ、つえをついて近くの自宅まで帰っていった。店主と客はカウンターを挟んで、故人が元気だった数年前の思い出を語り始めた。
庶民の足として親しまれる都電荒川線・面影橋駅に近い下町の一角。福綱正敏さん(63)と妻みつ江さん(61)が営むすし屋「永楽」は今年で営業35年目になる。
10人ほどしか入れない小さな店だが、永楽には家族経営の温かさに引かれた普段着の客が集まる。店を訪れ、問わず語りにつらい話やうれしかった話を始める人もいる。近所の常連たちにとって、永楽はすしをさかなに人生を語り、人の情けに触れ、様々なつながりを楽しむ特別な居場所でもある。
<相次ぐ廃業、さびれる下町>
観光マップやグルメ本には縁がなくても、地元に根付き、人々の暮らしに溶け込んでいる「人情すし屋」。永楽のような、家族や個人で経営するすし屋は、小規模ながら地域のコミュニティーの核として、庶民の味であるすしを育て、その文化を広げる重要な役割を果たしてきた。
和食がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産に認定され、その代表格であるすしも海外各地で空前のブームを呼んでいる。しかし皮肉にも、日本のすし食の担い手となってきた国内の小規模なすし屋には淘汰の時代が続き、多くの店が次々と廃業に追い込まれている。
中小の店が参加する東京鮨商衛生同業組合によると、2008年に全国で約1500店あった加盟数は今は750と、10年でおよそ半分に減少した。雑誌を飾るような高額な店と回転ずしのような安価なフランチャイズにすしの需要が二分され、その狭間で、個人や家族で切り盛りするすし屋の経営が圧迫されているためだという。
「みんな行くのは、一皿100円の回転ずしか、テレビで紹介されるような銀座の高級店だね」と正敏さんは言う。「その中間にあるうちみたいな店は、やっていけないんだろうね」。
永楽の近所では、ここ10年の間に家族経営のすし屋が3軒廃業した。大型店の攻勢や通信販売の普及により、個人経営の店が競争力を失ってしまったという現実もある。「たぶん10年前に閉めた電気屋が最初だな。いや向かいの魚屋だったかな」。「その後、確か肉屋がなくなり、次が中華料理の店だった」。通りを歩く人たちから、消えた店の名前が次々と飛び出した。
<「婦唱夫随」で店を切り盛り>
永楽はチェーン店に対抗し、昼も夜も料理の価格を10年間据え置いている。昼のにぎりセットは800円から。夜は飲み物代を入れて1組あたり5000円前後。コストを抑えようと、正敏さんは毎朝、ホンダの二輪で豊洲市場に仕入れに出かける。
美味いすしを握るため、じっくりネタ選びをし、その日売れる量だけを仕入れる。長男は都内の大型すしチェーンのマネージャーを務めているが、自ら豊洲に足を運ぶことはなく、業者に大量注文しているという。
「電話とかファックスとかネットで注文したら、(価格が)3割増しだよ」。
しかし、懸命な努力にもかかわらず永楽には、昼間の常連客だったサラリーマンや町工場の従業員がずいぶん前から姿をみせなくなった。彼らの仕事が海外などに移管されたためだ。その1人だった医療関連メーカーの重役は今でも毎年、部下を通して会社のカレンダーを店に届けてくれる。しかし、そのカレンダーがかかる店内には、かつてのにぎわいはうかがえない。
午後5時、看板の明かりがつき夜の営業が始まると、みつ江さんはホワイトボードに書かれた「本日のネタ」からイワシを消した。価格が高騰しているからだ。温暖化の影響か、たまたま水揚げがないのか、不漁の年なのか、業者から返ってくる答えはいつも違うという。いずれにしても、今夜の客にイワシは握れない。
「すし屋を続けられる唯一の理由はね」と正敏さんが話し始める。「ええと、何を言おうとしたんだっけ」と傍らにいるみつ江さんに話しかける。みつ江さんはコンロにかけたみそ汁をかき混ぜながら答えた。「子どもたちはもう大きくなったし、自分の店を持ってるし、夫婦なんとか食べていけるからよ」。息の合った「婦唱夫随」が店を守り、支える原動力でもある。
いつ引退するかわからないが、2人とも長男に店を継がせるつもりはない。「息子には自分の道を歩んで、自分の家族のためにがんばってほしい」と正敏さんは語る。
2年前に子どもや孫たちと出かけたグアム旅行もたった4日間だった。福綱夫妻が何日も休むことはない。「店を閉じたと思われたくないのよ」とみつ江さんは言う。
店をたたむ作業は、人目を避け夜中に行われることが多い。近所の人々は翌朝、封鎖された入り口にはられた「長年のご愛顧に感謝します」といった走り書きをみて、現実を知る。やがてその入り口はツルに覆われ、葉が茶色く色あせ落ちる。それとともに人々の記憶からも消えていく。長年かけて育て上げた永楽を、そんな店にはしたくない。
<「ぜいたくはできない」>
壁の時計が8時を回った。カウンターにいた坂野隆一さん(63)が、ボトルキープしているシーバスリーガルをグラスに注ぐ。坂野さんが店に通ってもう何十年も経つ。都内のあちこちの建設現場でクレーン運転の仕事をしている坂野さんにとって、永楽は人生の伴走者のような存在だ。
「まーくん(店主の正敏さん)とは50年来の付き合い。好き嫌いが激しい私のことも知っている」。そして、坂野さんは付け加えた。「(正敏さんの)息子さんがね、『親父のすしは日本一』って言うのよ」。
この先もらえる年金は少なすぎておぼつかない。一体、いつまで働けるのだろうか。2人の会話は、いつもこの辺りの話題が中心だ。「ここら辺の人はみな年金暮らしだからね。ぜいたくはできない」と言う坂野さんに、「俺たちもすぐにそうなるよ」と正敏さんが笑いながら応じた。坂野さんは、毎朝、安全ベルトをつけてクレーンに乗り込む仕事がきついと感じるようになった。
「表通りのレストランのこと聞いた?。銀行が買い取ったんだってさ。ローンが返せなかったらしい」と坂野さんが言うと、「あの場所、どうなるのかしらね」とみつ江さんが割り込んだ。「ギョーザ屋とか、ファミレスになるんじゃないかな」と坂野さんが続けた。
師走の夜が更けすっかり暗くなった下町の一角に、永楽の温かな明かりが広がる。
「きょうは娘の誕生日なんだよ」。一人暮らしの坂野さんが家族のことを口にした。みつ江さんが黙ってうなずく。話はそこで途切れ、彼らはテレビ画面に目を向けた。
斎藤真理 編集:北松克朗
https://jp.reuters.com/article/insight-idJPKCN1OK10S
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