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地球温暖化を止める費用は効果に見合わない
確実に止める技術はあるが・・・
2018.12.14(金) 池田 信夫
COP24開幕、気候変動の「差し迫った脅威」への対応を模索
ポーランド・カトウィツェで開幕した国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)の様子(2018年12月2日撮影)。(c)Janek SKARZYNSKI / AFP〔AFPBB News〕
国連のCOP24(気候変動枠組み条約の第24回締約国会議)が、ポーランドで始まった。今回の会議は、10月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の出した特別報告書を受けて、その対策を話し合うものだ。
この報告書でIPCCは、2030年から2052年までに地球の平均気温が産業革命前に比べて1.5℃上昇するおそれが強いと警告した。これを受けてCOP24ではパリ協定の実施ルールが決まる予定だが、先進国と途上国が対立して合意は困難だ。そもそも1.5℃上昇という目標は実現できるのだろうか。
地球の気温の1.5℃上昇は避けられない
今回NGOなどが標的にしたのは、石炭火力発電所である。街頭ではデモ隊が「石炭火力を閉鎖しろ」というプラカードを掲げ、アメリカが最新の石炭火力技術を説明する会場には、環境団体が詰めかけて怒号を浴びせた。
石炭火力が大量の二酸化炭素(CO2)を出すことは彼らの言う通りだが、それをなくすことはできない。石炭は圧倒的にコストの低いエネルギー源であり、埋蔵量は200年以上あるからだ。それに代わるエネルギー源は、今のところ天然ガスである。
「化石燃料を減らして再生可能エネルギーにしろ」というのは錯覚である。太陽光発電所の設備利用率は13%なので、その運転していない時間を補完する電源として化石燃料が必要になる。「脱原発」で再エネ比率を高めたドイツでは石炭火力が増え、EU(ヨーロッパ連合)の2020年のCO2排出目標を放棄した。
「石油があと50年でなくなる」という説は50年前からあるが、石油の埋蔵量は2000年以降に59%増え、天然ガスは94%も増えた。その最大の原因は、シェールオイルやシェールガスのような非在来型資源を採掘する技術が開発されたからだ。
他方、一時は化石燃料に代わるエネルギー源として期待された原子力は、各国で安全基準が強化されたため、建設コストが高くなって化石燃料とは競争できなくなった。今の状況が続くと、化石燃料の時代は、あと数十年は終わらないだろう。
現在の気温はすでに産業革命前から1℃上がっているので、1.5℃以下に抑えるには、2030年までに0.5℃上昇に抑えなければならない。そのためには温室効果ガス排出量を2010年比で45%削減する必要があるとIPCCは警告しているが、パリ協定を完全実施しても、それは不可能である。
1.5℃上昇で何が起こるのか
では地球の気温が1.5℃上昇すると、何が起こるのだろうか。それは日本人にとっては未知の体験ではない。東京の気温は過去100年で3℃上がった。これはIPCCの警告する1.5℃上昇を上回るが、そのうち2℃は都市化で建物や道路が熱を反射するようになった「ヒートアイランド現象」である。
しかし「東京が3℃暑くなって困る」という人はいない。100年前の気温と比べることができないからだ。このようにゆるやかな気温変化には人間の体が順応するので、あと0.5℃程度は気がつかないだろう。
「温暖化で異常気象が増える」という話がよくあるが、統計的には熱帯低気圧のような異常気象は増えていない。雨量は増えたが、その被害は減っている。防災のインフラが整備されたからだ。
温暖化で確実に起こるのは海面上昇である。その最大の原因は氷山が溶けることではなく海水が膨張することなので、これを人間が止めることはできない。IPCCによれば、1.5℃上昇で2100年までに海面が2005年の水準と比べて26〜77cm上昇するという。
これは先進国では大した問題ではない。あと80年で50cmぐらい堤防を高くする防災対策は容易で、地球温暖化を防ぐコストよりはるかに安い。温暖化が原因で異常気象が頻発しているという証拠はなく、たとえ頻発したとしても、異常気象そのものを防ぐことはできない。これもインフラの強化しか対策はなく、先進国では対応できる。
IPCCの警告でもわかるように、温暖化の最大の被害が発生するのは、太平洋の島国や乾燥地帯、熱帯や北極圏など、発展途上国である。そしてこれから温室効果ガスを最も増やすのも途上国である。つまり地球温暖化とは、途上国の環境問題なのだ。
地球温暖化を確実に止める「気候工学」
地球温暖化は経済問題だから、大事なのは費用対効果だが、パリ協定の費用はその効果をはるかに上回る。ロンボルグの論文によると、パリ協定のすべての当事国が約束草案(INDC)を2030年まで完全実施した場合、地球の平均気温は何もしなかった場合に比べて0.05℃下がるが、そのコストは毎年1兆ドルを超える。
実は地球温暖化を止めるだけなら、技術的には不可能ではない。それはIPCCの特別報告書も検討している気候工学(ジオエンジニアリング)である。その中で最も安価で効果的なのはSAI(成層圏エアロゾル注入)だ。
これは飛行機などで成層圏にエアロゾル(硫酸塩などの粒子)を散布し、雲をつくって太陽光を遮断するものだ。これによって地表の気温が下がる効果は、火山の噴火で実証されている。1991年のピナツボ山の噴火では成層圏エアロゾルが一時的に増え、地球の平均気温が約 0.5℃下がった。
散布するエアロゾルは硫酸塩や石灰でよいので、SAIのコストは安い。最近の研究によると全世界で毎年22.5億ドル(2500億円)以下で、パリ協定の0.2%程度だ。技術的にも、飛行機を使えば実用化は容易だ。
IPCCもSAIで1.5℃上昇に抑制できると認めているが、その実施を推奨していない。SAIはあまりにも効果的だから危険なのだ。それは地球規模でずっと続けなければならない。未知の副作用があるかもしれないが、散布を止めると気温が急上昇する。コスト的には一国でも実施できるが、全世界の合意が必要で政治的には困難だろう。
今のところ1.5℃上昇でそれほど大きな被害が出るとは思えないが、予想以上に大きな被害が出た場合には、気候工学のような非常手段も選択肢だろう。費用対効果だけを考えれば、パリ協定よりSAIのほうが有望なので、それを技術的に検討することは必要だ。それがいやなら、人類は温暖化と共存していくしかない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54966
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