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人手不足なのに賃金が上がらないのはなぜか
https://wezz-y.com/archives/62057
2018.12.15 wezzy
空前の人手不足だという。確かに求人は増えている。これは、労働市場において需要(求人する側)が供給(働く側)を上回っているということであり、それならば需要と供給の関係で価格、つまり賃金は上昇するはずだ。
実際、宅配便業界の社員や飲食業界のアルバイトの時給などは上がっている。しかし、上場企業など一部の大企業を除いた一般的なビジネスパーソンには、賃金が上昇したという実感があまりないようだ。人手不足なのに、なぜ賃金が上昇しないのだろうか。
■過去最高の人手不足は事実
帝国データバンクの『人手不足に対する企業の動向調査(2018年10月)』によると、正社員が不足している企業は52.5%で、前年より3.4ポイント増加している。この結果は調査開始以来の最高記録だそうだ。
正社員が不足している業種トップは「放送」の78.6%で、「情報サービス」74.4%、「運輸・倉庫」70.6%と続く。これら3業種はいずれも70%を超えている。
この下には、「建設」、「自動車・同部品小売」、「メンテナンス・警備・検査」、「家電・情報機器小売」、「農・林・水産」と続き、これらの業界はそれぞれ60%台となっている。
また、なにかと話題になる「飲食店」は53.1%が人手不足となっており、前年より9.2ポイント増加している。ただ、「飲食店」業界は正規社員では低いが非正規社員になると、断トツな人手不足業界に躍り出る。
非正規社員の人手不足を、業種別に見ると、「飲食店」がトップでm84.4%の企業が人手不足を感じている。続いて「飲食料品小売」、「メンテナンス・警備・検査」、「娯楽サービス」、「人材派遣・紹介」となる。傾向としては、接客業ほど非正規社員に依存しており、その人手が足りていない、ということのようだ。
■賃金は本当に上がっていないのか
このように、人手不足は顕著であるにもかかわらず、賃金が上がらないことに対して、ネット上では「強欲な企業経営者や政治家の陰謀である」といった説が流れている。
本当に賃金は上がっていないのだろうか。好景気が盛んに叫ばれているが、政府やマスコミが発表するトリッキーな数字と、世間の肌感覚に乖離があるのも否めない。
そこで、厚生労働省の『毎月勤労統計調査 平成29年分結果確報』の『時系列第6表 実質賃金指数』から、給与の実質賃金の変化を抜きだしてみた(ボーナスなどの臨時収入を除く)。
各年度の右側の数値は、平成27年を100とした場合の変化で、右端の数値は前年比を表す。
平成17年 108.7 0.8
平成18年 108.2 -0.4
平成19年 107.6 -0.6
平成20年 105.6 -1.8
平成21年 104.9 -0.8
平成22年 106.1 1.1
平成23年 105.9 -0.1
平成24年 105.7 -0.2
平成25年 104.2 -1.4
平成26年 100.8 -3.4
平成27年 100.0 -0.7
平成28年 100.3 0.3
平成29年 100.1 -0.2
一目瞭然だ。平成17年から平成29年まで、実質賃金は下がり続けていたのだ。つまり、「人手不足なのに賃金が上がっていない」という多くの人の肌感覚は、正しかったのだ。
そうなると、需要と供給のバランスを保つ“神の見えざる手”(アダム・スミス『国富論』)は作用しないことになる。市場原理は働いていないのか?
■雇用のミスマッチを表す「均衡失業率」と「需要不足失業率」の乖離
独立行政法人労働政策研究・研修機構の『均衡失業率、需要不足失業率』の統計を見ても、興味深い数字が出てくる。
2018年9月の完全失業率は2.34%。そして注目すべきは、「均衡失業率」の2.81と、「需要不足失業率」の-0.47という数値だ。
まず、完全失業率だが、これは労働人口のうち、職が決まらずに求職活動をしている最中の人の割合を示している。人手不足なのに、一定数の人が求職活動から解放されていないのだ。
そこで、この謎解きのヒントとなるのが、「均衡失業率」と「需要不足失業率」だ。「均衡失業率」は別名「ミスマッチ失業率」とも呼ばれている。世間に仕事はあるのに、仕事内容や待遇に対して納得できないために職に就いていない人の割合を示している。
一方、「需要不足失業率」は、どんな仕事でもいいから(つまり仕事を選ばずに)働きたいのに職に就けない人の割合だ。
繰り返しになるが、「均衡失業率」が2.81、「需要不足失業率」が-0.47という数値となっている。つまり、「均衡失業率」のほうが高いのだ。これは、「求人はあるが、希望とマッチしていないので失業してしまっている」人が数値を持ち上げていることになる。そう、仕事と求職者のミスマッチこそが、失業率を上げていたという可能性が浮かび上がってきた。
■人手不足の偏り
内閣府『人手不足感の高まりについて』の「ハローワーク・職業別の「有効求人-有効求職」によると、職種による偏りが顕著なことも見えてくる。
介護や食品販売、飲食料の調理、接客業などでは有効求人数、つまり募集側が圧倒的に超過しており、応募希望者がいないことがわかる。
一方、一般事務などでは有効求職者数が超過している。つまり、職業により、人材を求めている側と就職したい側にミスマッチが生じているのだ。
同資料の「民間職業紹介・職業別の転職市場における求人倍率」を見ると、圧倒的に求人倍率が高いのは、インターネット専門職や建設エンジニア、組込・制御ソフトウエア開発エンジニアなど高度のスキルが要求される職業だ。
一方、圧倒的に求人倍率が低いのがオフィスワークである。つまり、稼ぎたいと思ったら、求人倍率もスキルも高いインターネット専門職や建設エンジニア、組込・制御ソフトウエア開発エンジニアなどの職に就けばよいわけだ。
逆に、高度なスキルが養成されない(語弊があるかもしれないが誰でもできる平凡な)オフィスワークは人材が足りているため、高い給料を払わなくても人が集まると考えられる。
スキルがそれほど必要ではない仕事は、固定費で賄うよりも必要に応じてアウトソーシングしたり、あるいは機械化や外国人労働者で賄ったりすることも検討されやすいだろう。
一方、介護や接客など、人気がない仕事は、求人が多い。
以上のことを整理すると、こうなる。
@ 誰でもできるが給料が低い仕事
→求人が少ない(事務職など)
A 高度で給料が高い仕事
→求人が多い(専門職など)
B 人気がなく給料が低い仕事
→求人が多い(介護・接客など)
このことから、平凡な仕事で稼ぐことは難しいため、高度な知的産業に従事するか、人が嫌がる(もちろん、好む人もいる)が、あまり稼げない仕事のいずれしか選べないような時代になっていることがわかる。
■「平凡な仕事」では生きづらい時代
高度成長期の日本では、単純労働も含めてあらゆる仕事があり、どの仕事でも愚直に働いていれば、それなりに給料がもらえたし、毎年のように昇給もしていた。
だから、工場の流れ作業に従事していても、家族を養うことができたのだ。それは、平凡な人が平凡な仕事をして家族を養えることができた包容力のあった時代だったといえる。
しかし現在は、単純な仕事は機械化され、外国人労働者で賄われるようになった。たとえば、以前はレジ打ちでも速さや正確さが要求され、レジ打ちのコンテストさえ行われていた。しかし、現在はポスシステム化されたので、バーコードを読みさえすればいい。
その結果、まともに稼ごうと思ったら、高度なスキルが要求される知的産業に従事しなければならない傾向が強くなってきた。
それなら、みんなでそのような仕事に就ければよいのだが、残酷なことに、教育環境や能力、適性は平等には備わっていない。現在は平凡な人が平凡な仕事で生きていくことが難しい時代になってきているのかもしれない。
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