http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/621.html
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(回答先: 中国で意外な「トランプ人気」トランプ発言で原油価格急落、減産も小幅 中国不動産2桁調達コスト 米国第一主義と軍備増強矛盾 投稿者 うまき 日時 2018 年 11 月 26 日 20:24:35)
アメリカだけじゃない、日本で急速に進む「自国第一」
博報堂生活総研の「トレンド定点」(第18回)
2018.11.26(月) 三矢 正浩
意外な層が、「自国第一」意識を強めている?
私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行っています。
前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。
日本でも進んでいる「自国第一」意識
「米国は国家の利害を常に優先して行動する」(トランプ大統領)
「(国連を指して)選挙を経ず責任も負わないグローバル官僚機構に、わが国の主権を明け渡すことはない」(同上)
「米国は世界各国の『財布』のように認識されているが、そのような現状を終わらせなければならない」(同上)
「米国が米国第一なら、ドイツはドイツ第一だ」(ドイツ政党「AfD」ガウラント党首)
「イタリア国民が第一だ。イタリアはばかげた規則にこれ以上従わない」(イタリア政党「同盟」サルビーニ党首)
・・・上記は、最近発言された、アメリカなど世界各国政治指導者たちの発言。
近年、世界の政治動向のニュースを見ると、「自国第一」「内向き化」に向かう動きを報じるものが、非常に多くなっていると感じます。
自国の利益を優先する政策を掲げるポピュリズム政党の政権奪取。
国政選挙での「反移民・難民」を掲げる右派勢力の躍進。
自国有利、保護主義的な貿易枠組みの再構築と相手国への制裁。
国際協調的な環境保護ルールからの離脱・・・。
さまざまな領域で動きが起きていますが、これらの根底にあるのは、「国際協調や世界全体の利益よりも、自国の利益を優先すべきだ」という考え方。
これが人びとの支持を集め、政治の勢力図を変え、実際の動きとして世界各地で表出し、ひとつの潮流を形成しています。
日本にいると、それらの状況が“対岸”で起きているかのように感じやすいのですが、ふと気になるのは「『自国第一』の動きは、外国だけの現象なのだろうか? 日本はまったく無関係の出来事なのだろうか?」ということ。
今回はその点について、博報堂生活総合研究所の行っている、長期時系列調査「生活定点」(首都圏・阪神圏の20〜69歳男女約3000名に聴取、調査概要詳細は記事末尾で記載)のデータを使って、考えてみたいと思います。
生活者の国際意識について聞いている設問のひとつに、
「世界への貢献よりも日本の利益を第一に考えるべきだと思う(=日本の利益第一)」
「日本の利益より世界貢献することを第一に考えるべきだと思う(=世界への貢献第一)」
の2択から選んでもらうものがあります。2つの回答割合が過去からどう推移をしているのかを示したものが、下のグラフです。
●「日本の利益」か「世界への貢献」か
「日本の利益第一」1998年57.1% → 2018年69.2%
「世界への貢献第一」1998年43.0% → 2018年30.7%
出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」(以降データも同様)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/b/f/-/img_bfcb090d94a3375099f7e14f6c26292d91426.png
質問開始時の1998年には「日本の利益第一」と「世界への貢献第一」はおよそ6:4の割合でした。その後、「日本の利益第一」が少しずつスコアを伸ばした結果、直近ではおおむね7:3の割合へと変化しています。
次に、こちらのグラフは「世の中の考え方について、あなたにあてはまるものを教えてください」という質問の中で、「貿易の自由化に賛成している」「日本は移民を受け入れるべきだと思う」と答えた人の割合を示したものです。
●「貿易の自由化」と「移民受け入れ」
「貿易の自由化に賛成している」1992年48.1% → 2018年20.1%
「日本は移民を受け入れるべきだと思う」2014年10.6% → 2018年9.8%
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/9/9/-/img_99e427120d356013fc6d98e460ff1b32100558.png
「貿易の自由化に賛成している」人は、1990年代には約半数。それが2000年代に入って徐々に低下していき、2018年には過去最低の20.1%となりました。
「日本は移民を受け入れるべきだと思う」人については、最初に調査した2014年は10.6%、2018年はやや低下して9.8%となりました。
長い目で生活者の意識を捉えると、日本においても以前に比べて「世界への貢献よりも自国の利益」という意識の変化が着実に進んできているようです。また貿易自由化や移民受け入れという個別のテーマについても、あまり前向きに受け止められてはいない様子がうかがえます。
冒頭で述べたような「自国第一」「内向き化」の流れは“対岸”の出来事ではなく、日本も決して無関係ではありません。むしろその流れを受けた意識が、徐々に強まりつつあるということができるでしょう。
「内向き化」を牽引するのは若年層
この自国第一の流れ、データを細かく見ていくと、ある変化が浮かび上がってきました。
それは、若年層ほど時代と共に急速に「内向き化」に向かっているということ。
●「日本の利益第一」
20代:1998年55.8%(全体より▲1.3pt) → 2018年73.3%(全体より+4.1pt)
30代:1998年53.3%(同▲3.8pt) → 2018年73.4%(同+4.2pt)
40代:1998年52.3%(同▲4.8pt) → 2018年68.3%(同▲0.9pt)
50代:1998年60.3%(同+3.2pt) → 2018年67.9%(同▲1.3pt)
60代:1998年65.2%(同+8.1pt) → 2018年63.6%(同▲5.6pt)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/8/e/-/img_8ed765ab1183c6408d5247c7ff0edb85108064.png
50代、60代では20年前とそこまでスコアが変わっていないのに対して、20〜40代は20年前と比べて15〜20ポイント近くスコアが伸長しています。全体のスコアが伸びていたのは結局、比較的若い世代が「日本の利益第一」という意識に向かっていたためで、それが全体のスコアを押し上げたのだということが読み取れます。
この結果をどう受け止めればよいのか。
上記スコアの推移について当の若者はどうとらえているのか、私の周辺で率直な声を集めてみました。20代女性に話を聞いてみると、返ってきたのはこんな言葉。
「そもそも、日本が何か世界に貢献するということの実感が湧かない」
また、別の20代男性にきいてみると、
「世界のために日本が貢献する必要性というか・・・理由? 理由がよく分からない」
「なんで日本が? って感じ」
そんなフレーズが印象に残りました。
振り返ってみると、1990年代には湾岸戦争の勃発や南北経済格差の問題などもあり、PKO(平和維持活動)やODA(政府開発援助)などを通じた日本の国際協力・開発途上国支援はどうあるべきかについて、国内で盛んに論じられていました。また、1995年にはGATT(関税および貿易に関する一般協定)を発展させる形でWTO(世界貿易機関)が設立され、「国際的に協調して自由貿易促進の枠組みを作っていこう」という機運が世界的に盛り上がっていたように思われます。
ところがその後、アジア通貨危機、リーマンショックと1990〜2000年代の日本は経済的に苦境に立たされ、企業業績は不振に陥り家計所得も減少。さらに2011年には東日本大震災にも見舞われました。
「失われた20年」とも言われる国内状況が長期間続く中で、いつしか生活者の中には、「まずは、自分たちの暮らしをきちんと保ちたい」「世界のことを軽く考えるわけではないけれど、今はそこまで余裕はない」・・・そんな気持ちが高まっていき、それが調査結果にも表れているのではないか。そんなふうに見ることができます。
自国への認識に大きな隔たり?
また、特に若い人たちにとっては、世界における「日本」の位置づけが変わってしまったことも関係しているように思います。
昭和の急速な経済成長の末、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」「世界第2位の経済大国」と呼ばれるまでになった“かつての日本”を知っている中高年層と、経済的低迷からなかなか抜け出せずに、GDPでは中国に抜かれてしまった“現在の日本”しか知らない若年層。日本の誇れる部分について聞くと、「経済」も「科学」も「教育」も、今ではすっかり影を潜めています。
●「日本の誇れること」
経済的繁栄 1992年45.4% → 2018年15.7%
高い科学技術水準 1992年41.1% → 2018年24.6%
高い教育水準 1992年46.2% → 2018年21.1%
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/c/d/-/img_cdbd990cce3c7ede67e5c1fd3ecc3979102723.png
「日本は大国」との認識やプライドが強ければ強いほど、必然、世界に対して果たすべき役割も大きいという意識も生まれやすいのでしょう。が、「別にそれほどの国でもない」となれば、世界貢献への意識も大きく変わってくるのではないでしょうか。先述の若者の発言を借りれば「なんで日本が?」という感覚です。
若年層の「内向き化」意識が高まっている背景には、そもそもの「日本」という国の捉え方自体に、かつてと今とで大きな隔たりがあることを押さえておく必要がありそうです。
先日開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)では、米中の利害対立などから、首脳宣言を取りまとめることができず、採択が断念されました。これは1993年のAPEC開催以来初めてという異例の出来事だったようです。
いよいよ改元を迎える2019年も、世界では「自国第一」の流れがまだまだ続いていきそうです。世界各国、そして私たち日本の生活者は、これから先、どんな国の姿を描き、自国に対して何を望むのでしょうか。
○「生活定点」調査概要
調査地域:首都40Km圏、阪神30Km圏
調査対象:20〜69歳の男女3080人(2018年、有効回収数)
調査手法:訪問留置法
調査時期:1992年から偶数年5月に実施(最新調査は2018年5月16日〜6月15日)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54736
2018年11月26日 藤野ゆり :清談社
日本人の社畜ぶりが話題に!外国人が驚愕する「居眠り」「接待飲み」
働き方改革が叫ばれて久しいが、日本人の労働環境が劇的に改善される兆しは見えず、相変わらずブラック企業に関する報道も絶えない。日本人の「社畜化」が改善されないのは、一体なぜなのか。『残念な職場』(PHP新書)著者の河合薫氏に話を聞いてみた。(清談社 藤野ゆり)
外国人が驚愕する
日本人の「居眠り」
日本人の社畜ぶりは海外でも話題です。
実際の業績よりも「疲れ果てるまで働くこと」が評価され、夜は「マラソン・ドリンキング(ダラダラ飲み会)」――日本人が社畜化する背景には、家事などの「ケア労働」への不当に低い評価がありそうだ Photo:PIXTA
「日本と海外の働き方の違いを象徴する例として、海外の人は、通勤電車で平然と居眠りする日本人を見て驚愕すると言います。もちろん治安の差などもありますが、『公衆の面前で昼寝?日本ではそれは勤勉の証しである』というタイトルで、居眠りとサラリーマンの生態を紹介する記事がニューヨーク・タイムズに書かれたこともあります」
そう話すのは、『残念な職場』(PHP新書)の著者で、働き方に関する研究をしている河合薫氏だ。
河合氏によると、日本人の睡眠時間は、世界最短という調査結果が出ているという。米ミシガン大学の調査でわかった国別の平均睡眠時間の比較では、日本人の平均睡眠時間は7時間24分。欧米は軒並み8時間前後を記録しているのに対し、7時間半以下を記録したのは、日本とシンガポールだけだった。
さらにその内訳をひもとくと、最も眠っていないのは働き盛りの中年男性だったという。日本の中年男性は諸外国と比較して、圧倒的に睡眠不足であり、その睡眠不足を補うように「居眠り」をするのだ。
『日本人は眠らない、昼寝もしない、居眠りをするのだ!』というタイトルで書かれたケンブリッジ大学のステガー博士によるコラムでは、日本人の「inemuri」について以下のような文章がつづられている。(河合氏による一部要約)
「彼らには到底理解できない日常がある。それは居眠りだ。通勤電車の中で椅子に埋もれるように居眠りしたり、立ったまま居眠りしたり、簡単に公衆の面前で寝る。しかも驚くべきことに周囲もそれを受け入れている。彼らは睡眠時間を削って働いているので、だらしない居眠りが許される。
(中略)職場での居眠りは無気力と怠慢の証しではなく、疲れ果てるまで仕事をがんばった結果と評価され、実際の業績より疲れをおして会議に出席するほうが価値が高い。日本人の精神はオリンピックに通じている。つまり『参加することに意義がある』のだ」
さらに河合氏によると、日本人は睡眠時間が短いだけでなく、「仕事以外の時間の使い方」が世界基準と異なるという。
「2009年のOECDの調査によると、日本人は家族で過ごす時間は欧米の半分以下という独特のライフスタイルを送っていることがわかりました。その一方で日本人は、コース料理が一般的なフランスやイタリア並みに食事時間が長いことも判明しました」
家族の時間を奪う
“マラソンドリンキング“
河合薫氏の著書『残念な職場』(PHP新書)
家族と過ごす時間が少ないのに食事時間が長い傾向にある理由の一つには、「仕事終わりの一杯」が関係しているのではないか、と河合氏は指摘する。前述のコラムのように、「参加することに意義がある」というサラリーマンの姿勢は、就業時間だけに限らない。仕事終わりに男同士で連れ立って飲み歩く文化も日本人特有のものだ。
「海外、特にヨーロッパでは仕事後に飲みにいくような文化はありません。既婚者であれば、退社後は真っ先に家族のもとへ帰っていくのが普通。米国では職場の飲み会があったとしても18時には終わります。『接待』と称し、夜中まで飲み歩くなんて考えられません」
河合氏によると、海外では飲みにいく場合、子どもをベビーシッターに預け、妻も同伴させるなど家族ぐるみでの付き合いが多いという。サラリーマンだけで連れ立っているようなことは、独身者でも珍しいのだ。
日本のサラリーマンの飲み方に関しては、CNNが以下のように論じている。『Salarymanは日本経済を支える役目を果たすために、会社を最優先させる生活を営んでいる。彼らは死ぬほど働いたあとには、顧客や同僚たちと長々と酒を飲む』。「長々と酒を飲む」の原文は『marathon drinking』と表現されている。
「このmarathon drinkingこそが、サラリーマンの食事時間をダラダラと延長させ、家族と過ごす時間を奪い、睡眠時間を削っているわけです」
社畜でいたがる日本人
背景には家事軽視の社会通念
ただでさえ長い労働時間の上、仕事が終わった後は同僚や取引先とダラダラと飲み続け、結果的に家族との時間や睡眠時間が短くなる。まさに「社畜」という表現がピッタリだ。
「だったら仕事が終われば、さっさと帰ればいいじゃん」という声も聞こえてきそうだが、日本人が「社畜化」を余儀なくされている理由には、「社畜でいるほうがラク…という心理が隠されている場合もある」と河合氏は分析する。
「男女関係なく、生きていくためには労働力として売買される『市場労働』と、『ケア労働』のどちらの労働も不可欠です。しかし、北欧諸国と比較して日本では家事、育児、介護などの無償の労働である『ケア労働』が評価されにくく、そのことが家にいることのストレスにつながっている可能性があります」
「育休」がなかなか浸透しないことからもわかるように、軽視されがちな家事育児などのケア労働。日本と同様にケア労働が軽視されがちな社会であるアメリカでは、家庭より職場にいるほうがストレスを感じていない、という研究結果が判明している。
「米ペンシルベニア州立大学の研究チームが、客観的なストレス指標によって検証した結果、男女、既婚未婚、子どもの有無に関係なく、家庭より職場にいるときの方がストレスを感じたときに分泌されるコルチゾール値が低いことが判明しました。つまり、母親だけでなく父親も独身者も皆一様に、家にいるより仕事をしているほうがラクだと感じているのです。早く退社してもフラフラと外で時間をつぶしてすぐに帰宅しないフラリーマンが、いい例ですね」
この研究グループのリーダーである教授は、この結果について「有償である職場の仕事に対し、家庭の仕事は退屈でそれほど報いのあるものではない。それが家庭のストレス度を高めているのではないか」と論じている。
「家庭の仕事を退屈で報いがない…と表現してしまうことは、多くの主婦層に反感を持たれるでしょう。しかし、結局のところいまだに多くの男性(そして女性も)がケア労働をそのように評価している現実が、ケア労働のストレス性をより高めているのではないでしょうか。改めて家事や育児、介護に対する評価を見つめ直さないことには、社畜化の改善は見込めないと思います」
「社会を支えるのは市場労働」という価値観が根底にある限り、ケア労働が本当の意味で評価されることはない。日本のサラリーマンの社畜化は、ケア労働への低評価と表裏一体のようである。
https://diamond.jp/articles/-/186440
財政で農家を守り、低所得層をいじめる愚 望む、「担い手政策」への回帰
ニッポン農業生き残りのヒント
2018年11月26日(月)
吉田 忠則
農政に関わり、批判的な立場を維持した生源寺真一氏
今回は、キーマンに取材して平成の農政をふり返るとともに、ポスト平成時代の課題を探る企画の第3弾。インタビューしたのはこの連載の常連、福島大学の生源寺真一教授だ。
生源寺氏は旧農業基本法に替わる食料・農業・農村基本法の制定やコメの生産調整(減反)制度の見直し、基本計画の策定など農政に幅広く関わってきた。まさに平成の農政の「証言者」とも言うべき存在だ。
ここで証言者と表現したことには意味がある。農政で長年重用されながら、政府や与党のやることに一定の距離を置き、批判的な立場を守ってきたからだ。そういう姿勢を保っているから、筆者も度々意見を伺ってきた。
みずから政策の立案に関わっていながら、実現したものを後から批判することに対しては、反論も予想される。「政策があるべき姿にならなかった責任の一端を本人も担っているのではないか」と。
そういう見方はわからないでもないが、筆者は立場を異にする。まるで政権の方針に寄り添うように、政権のやることにお墨付きを与える発言をする研究者がいることを否定できないからだ。中には、中立を旨とする研究者としての良心を疑わざるを得ないような発言をする人さえいる。
そうした中で、政府にとって耳に痛い指摘もくり返しながら、生源寺氏は農政の真ん中に居続けた。そもそも研究者の立場で、自分の考えを政策に100%反映させることは難しい。そのズレをインタビューを通して語ってもらうことには、一定の意義があったと思っている。
取材のテーマはコメ政策。先端技術の農業への応用など農政が対応すべき前向きな課題は数多くあるが、稲作をこれからどうするかという問いかけほど重い政策テーマはない。稲作農家の数の多さが政治への影響力を生む図式を含め、今もなおコメが日本の農業の構造を根底で規定しているからだ。
日本のコメ政策のどこに問題があるのか。問題の背景はなにか。生源寺氏はこの問いに対し、インタビューで明確に答えてくれた。
生源寺さんが座長を務め、2002年に提言を出した農水省の「生産調整に関する研究会」がその後のコメ政策の起点になりました。
生源寺:1月にスタートしてから11月まで、ずいぶん議論した。部会も含めると、40〜50回は会議を開いたと思う。最初は1993年のガット・ウルグアイ・ラウンド合意で始まった「ミニマムアクセス(MA)制度」のコメ輸入への評価から議論を始めた。農協関係者とそうでない人の両方が参加し、時間無制限で議論した。
MAについては3月にいったん評価をまとめた。相当な資金を投入していったん国内に入れたコメを海外に出すことで、国内市場には影響を与えないようにしているというトーンの評価を公表した。客観的な情報にもとづく内容だったと思うが、地方などで会議を開いて説明すると「それは違う!」などと激しい口調で罵詈雑言を浴びせられたと記憶している。
議論は「担い手論」へ
議論はその後、「担い手論」に進みましたね。
生源寺:まずテーマは生産調整をどうするかに移った。国ではなく、生産者と農協などが生産調整の主役になるようにする。生産調整を廃止するわけではないが、参加する人と参加しない人の双方が納得できる形にすべきだという議論になった。参加する人にそれなりのメリットを与えるという方向になった。
生産調整を見直して、もし米価が下落したら、その影響をどう緩和するか。その中で、担い手への支援を上乗せするという議論が出てきた。
都府県で4ヘクタール、北海道で10ヘクタール以上の認定農家を支援の対象にするという方向が打ち出されました。
生源寺:農水省は対象を決める際、「普通の世帯の半分程度の所得を確保できるような規模」を目安にした。ようするに、専業農家や準専業的な農家をしっかり支えようという発想だった。米価が下がったときに薄く補てんする仕組みはそれまでもあったが、担い手にはさらに支援を厚くするのが狙いで、2004年に実施した。
規模で選別する政策は2007年には麦など他の品目にも広げられました。ところが、同年の参院選で民主党が規模に関係なくコメ農家に補助金を出す戸別所得補償制度を掲げ、与党である自民党が惨敗しました。
生源寺:参院選での敗北を受け、自民党政権は4ヘクタールや10ヘクタールの面積要件を満たしてなくても、市町村が認めれば上乗せの支援の対象にするように改めた。私自身は面積で切るのはあまり合理的ではないと思っていたので、この見直しにそれほど違和感はなかった。これから本気で頑張ろうという若者や、将来の担い手候補を増やそうとするのなら、面積で単純に切るのはやや形式的だった。
ただ面積要件は見直されたが、少なくとも、担い手を支援するという考えは続いていた。民主党政権になってからそこが明らかに変わった。
自民党政策への疑問
民主党は政権をとると、2010年に戸別所得補償を実際に導入しました。さらに自民党が2012年に政権に復帰すると、戸別補償の廃止を決める一方で、コメを家畜のエサにしたときに甘い基準で補助金を出す飼料米助成を拡充しました。ある自民党の農林関係議員に問題点を指摘すると、「現在の飼料米助成に問題があることはわかっている。だが戸別補償で選挙に負けたので、幅広く出す補助金は見直しにくい」と話していました。
生源寺:欧州では政策が少しずつ変わってきていて、社会全体に還元されるようなものに補助金を投入するという方向にむかっている。環境問題などを重点に置き、経営政策的なものは後退した。
日本の政策で言えば、担い手を応援し、彼らが規模を拡大することでコストダウンが進めば、結果的に消費者にも利益が還元されることになる。一義的には農家を支えることになるかもしれないが、例えば米価をある程度低い水準に落とすことで、国民全体、消費者も利益を得る。
今、新規就農者の半分近くを60歳以上が占める。その中には、農家の息子の定年帰農や、趣味でやるような農業が含まれる。彼らの存在は、担い手の規模拡大の障害にはならない。そういう農業を認めるのにやぶさかではないし、むしろ羨ましいくらいだ。
ただし、納税者の負担で国費を投入するのであれば、社会に還元される道筋がきちんとしている必要がある。その点が非常に大事だ。
民主党の戸別所得補償と、自民党の飼料米助成をどう評価しますか。
生源寺:大きな枠組みとして、納税者つまり財政負担型の政策と、消費者負担型の政策の2つがある。農家に直接補助金を渡すのが納税者負担型で、農産物価格を支持するのが消費者負担型だ。
日本は価格支持から納税者負担への移行が進んでいた。そのほうが、担い手に支援を集中させやすいという面もある。価格支持をやめて消費者の負担を減らし、その結果苦労する担い手を支えようというのはわかりやすい政策だった。それが、生産調整に関する研究会の議論で目指した方向だった。
民主党の戸別補償は財政負担型だが、バラマキという側面があった。
これに対し、自民党の政策は財政資金を使って飼料米に誘導し、結果的に主食米からの転作を進めることで米価の下落を防いでいる。消費者負担型の価格支持政策に逆戻りした。全体として米価を上げることで、担い手も恩恵を受ける。だからいいだろうということなのかもしれないが、小規模な人たちもみなハッピー。担い手政策とは言い難い。
この政策はかなり疑問だ。補助金で飼料米に作付けを誘導していることと、価格支持で消費者が負担しているということのリンケージがふつうの人にはわかりにくい。担い手からすれば、財政負担型と消費者負担型で得る金額は同じということもあり得る。だが、価格を維持する消費者負担型の政策は、所得水準が低い人たちにネガティブな影響を与える。
納税者負担型であれば、利益の出ている企業から累進税率で負担してもらうことで、所得再分配の効果がある。消費者負担型はその逆。残念ながら、夕ご飯で100円玉1つを何とか節約したいと思う、エンゲル係数の高い人がこの国にはずいぶんいる。その人たちへの影響を考えると、消費者負担型はちょっとずつだが、積み重ねるとかなりの負担をもたらす。
もう一度、財政負担で担い手を重視するという格好に戻ってほしいと思っている。
コメ政策の抜本見直しはポスト平成時代の課題
需給を締めて米価を上げたツケ
ややマニアックな内容かもしれないので、かいつまんでおさらいしよう。財政負担で主食のコメを飼料に回し、その結果、主食のコメが減る。量が減れば当然、価格には上昇圧力がかかる。納税者の負担で市場を誘導し、そのあおりが高米価となって消費者の負担にはね返る――。
生源寺氏が問題視しているのは、いまの自民党農政の帰結として生まれたこうした構図だ。納税者と消費者のダブルの負担で、コメ農家は潤うかもしれない。だが、その恩恵はある例外を除いて社会に還元されることはない。例外とは、選挙でコメ農家の票をあてにする一部の政治家たちだ。
しかも問題なのは、一連の政策効果の流れが消費者には見えにくいことだ。農政の目的に農業振興が含まれるのは当然。だが、それがたんなる農家保護、そして消費者利益の否定につながる政策を、国民は支持するだろうか。生源寺氏が指摘するように、とくにあおりを受けるのは食費の確保に悩む低所得層。本来、農政のもっと上位の目的は、食料政策だったはずだ。
いつまでこんな政策を続けるのだろう。農林関係議員には「いまの米価は消費者にとってたいした負担でない」と強弁する声もあるが、ここ数年、需給を締めて米価を上げたことで、コメ消費の減退が加速した。結局、長い目でツケを負わされるのはコメ農家だ。長期的な視野で、農家と農村、ひいては日本の食料問題に貢献することが、農政の役割ではないのだろうか。
農家と消費者の利益のバランスが求められる
【新刊紹介】
『農業崩壊 誰が日本の食を救うのか』
砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」
これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。
【小泉進次郎】「負けて勝つ」農政改革の真相
【植物工場3.0】「赤字六割の悪夢」越え、大躍進へ
【異企業参入】「お試し」の苦い教訓と成功の要件
2018年9月25日 日経BP社刊
吉田忠則(著) 定価:本体1800円+税
このコラムについて
ニッポン農業生き残りのヒント
TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加が決まり、日本の農業の将来をめぐる論議がにわかに騒がしくなってきた。高齢化と放棄地の増大でバケツの底が抜けるような崩壊の危機に直面する一方、次代を担う新しい経営者が登場し、企業も参入の機会をうかがっている。農業はこのまま衰退してしまうのか。それとも再生できるのか。リスクとチャンスをともに抱える現場を取材し、生き残りのヒントをさぐる。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/252376/112000178
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- 原油急落、新興国市場に追い風 ベネズエラ荒れる自然遺産インフレ率100万%超 ブレグジットは英国崩壊の道、破産よりひどい うまき 2018/11/26 20:41:49
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