米中経済に「鉄のカーテン」 元財務長官の警告 両国関係に楽観的だったポールソン氏は今、中国の振る舞いと米国の誤算を憂慮している ポールソン元米財務長官と中国の習近平国家主席(2016年4月、北京)By Greg Ip 2018 年 11 月 8 日 15:51 JST ――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター *** ヘンリー・ポールソン氏はゴールドマン・サックス・グループ時代にも、米財務長官としても、政界の長老としても、米国の対中関与政策を強力に支持し、実現させてきた。その点で彼をしのぐ人はほとんどいない。 そのポールソン氏が、対中関与は失敗しつつあり、米中間に間もなく「経済的な鉄のカーテン」が下ろされるかもしれないとの結論に達したということは、2大経済大国の関係が非常に危険な状態にあることを示している。 ポールソン氏は7日、シンガポールで講演し、中国の振る舞いが米国内で仲間を失う結果を招き、米国民を反中で結束させたと訴えた。米国を厳しく批判することはなかったが、米国は中国にも同盟国にも非現実的な期待をかけているとの見解を示した。米中のいずれも方針転換しなければ「米中関係に長い冬が訪れ」「とてつもなく大きなシステミックリスク」が生じると述べた。 ポールソン氏は財務長官として2008年の金融危機に対応したことで知られるが、米中経済関係でも同じくらい重要な役割を果たしたと言える。ポールソン氏が最初に中国を訪問したのは1990年代初めだ。ゴールドマンとして投資銀行事業に乗り出すためで、やがて中国の主要国有企業数社の再建と株式上場を支援した。2006年にはジョージ・W・ブッシュ政権の財務長官に就任し、米中高官が2国間関係に対処するための経済戦略対話を開始した。 中国を容赦なく批判 この間、ポールソン氏は中国の指導者らと関係を築いた。習近平国家主席の補佐役である副主席を務める王岐山氏とは今も友人関係にある。 にもかかわらずポールソン氏は中国の現在の方向性を容赦なく批判した。世界貿易機関(WTO)加盟から17年がたった今も、中国は合弁会社に関する規制や所有制限、技術標準、補助金、認可手続き、外資による競争を阻止する規則を利用し、「あまりにも多くの分野で海外との競争に門戸を閉ざしている」と指摘した。「こうした現状はとても受け入れられない」。 中国で改革熱がピークを迎えたのは当時の江沢民国家主席の下でWTOに加盟した直後のことだ。後任の胡錦涛主席時代になると熱気は冷めていった。2013年に習氏が国家主席に就任した時、市場と民間企業が中国の発展をけん引するとの習氏の言葉をポールソン氏は信じたが、実際にはそうはなっていない。ポールソン氏は共産党が支配力を強めているせいだと考えている。 「江沢民氏は党は大きなテントだと言った」。ポールソン氏は先週、インタビューにこう語った。「彼の考え方は、財界のリーダーや学者などの『エリートを党に引き入れる』というものだった。習近平氏は党そのものをエリートと見なしており、官僚機構ではなく党が統治機構なのだろう」 シンガポールで開かれたブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラムでの講演では、共産党内での権力集中と依然として続く外国企業への差別によって、米国の指導者は政治的立場の違いを超え、中国は「米国の犠牲によって」台頭した戦略的ライバルとの見方で一致していると指摘した。ハイテク製品の貿易で国家安全保障上の懸念が刺激され、その結果、地政学的な競争関係は緩和するどころか激しくなっていると語った。 孤立するのは米国 ポールソン氏によると、その一方で中国は、財界など米国きっての中国応援団を遠ざけてしまった。「中国との対立を支持する人の中に、中国を最もよく知り、中国で働き、中国でビジネスをして、中国で金を稼ぎ、中国との生産的な関係を支持してきた人たちが含まれているとはどういうわけか」。確かに明日の競争力より今日の利益を優先する「ファウスト的な契約」を受け入れた人たちもいるが、「彼らがそうした状況に満足しているということにはならない」とポールソン氏は言う。 ドナルド・トランプ大統領は対中強硬派に囲まれている。彼らにとって、ポールソン氏が自分たちの不満に同調することは間違いなく皮肉だろう。ポールソン氏が支持した関与政策のせいで中国が経済的、戦略的な罪を犯したというのが対中強硬派の考えだからだ。 それでもポールソン氏は、ゴールドマン時代に部下だったスティーブン・ムニューシン財務長官らトランプ政権幹部と中国政府関係者との橋渡し役を務めている。シンガポールでの講演でポールソン氏は中国や、中国の差別的な行動を変えることができなかったWTOへのトランプ氏の強硬姿勢を支持した。しかし米中両国は切り離す(デカップル)必要があるという、対中強硬派の中で広がりつつある考えは単純で非常に危険だと指摘した。 「米国と中国はそもそもカップルではない」とポールソン氏は言う。「プレーヤーは2国だけではない。アジア各国をはじめとした他のプレーヤーが追従するのを嫌がったらどうするのか」 特にアジアでは、中国のように急成長を遂げる経済大国との関係を絶つ国はないとポールソン氏は指摘する。「地理的な位置関係、経済的な重要性、日々直面する戦略的現実」がその理由だという。 言い換えれば、多くの国は選択を迫られれば中国を選び、米国は孤立する、というのがポールソン氏の主張だ。 中国の政治システムに口出しするな 米政府関係者は中国とのイデオロギーの違いを米国の存亡にかかわる脅威とか、協力を阻害するものと受け止めるべきではないとポールソン氏は言う。米中ともに、環境・経済・戦略に関わる国際的な問題に取り組むにはまともに機能する世界的な組織とルールが必要だ。 「対中関与政策に取り組んだわれわれの中に、中国がジェファソン流の民主主義国家になるとか欧米のリベラルな国際秩序を支持するようになると考える人間がいた、という修正主義的な錯覚がある」。ポールソン氏はインタビューでこう語った。「われわれはそのようなことを考えたことは一度もない。共産党が重要かつ主要な役割を果たすことは最初から承知していた」 問題は、中国が政治的に自由化しないかぎり衝突は避けられないとの見方が米国内にあることだという。「米国が中国の政治システムに口を出せば行き詰まる。中国の政治システムを変えるのはわれわれではないからだ」 関連記事 米中貿易交渉、手詰まり状態の裏側 トランプ流の国際協定との戦い、学ぶべき教訓も 米経済の3%成長、「持続可能」とは呼べない理由 下院奪還した民主党、トランプ氏の保護主義的アジェンダに協力も Jenny Leonard 2018年11月8日 15:07 JST 対中貿易、新NAFTA、対EU日本、関税でこう動く−識者の見方 民主党は大統領の対中貿易アジェンダを支持するとアナリスト トランプ米大統領は中間選挙の結果に勇気付けられて保護主義強化を目指す可能性があり、自らの貿易アジェンダに関して民主党の手助けを受ける可能性さえある。貿易は大統領と民主が協調し得る数少ない分野であり、新たな交渉相手とみられるペロシ民主党下院院内総務と取引をするトランプ氏の意欲が試される。
以下の4つの貿易問題でホワイトハウスと下院の立場をみていく。 対中貿易戦争 トランプ氏が大統領選に出馬するまでは、中国への強硬姿勢は歴史的に見て民主党の政策課題だった。このためアナリストは、全ての課題でわだかまりを捨てて互いと向き合うことはないとしても、共和党大統領と民主党が協調する機会はあるとみている。 外交問題評議会(CFR)のエドワード・オールデン上級研究員は、中国に対して「トランプ大統領の方が民主党よりも強硬」であり、民主党は一段と厳しい対中姿勢を取るよう「熱烈なチアリーダーとなっていた」と指摘。「関税の掛け合いが米経済に深刻な打撃を与え始めていると明らかにならない限り」、民主党はトランプ大統領の対中政策を概して支持するだろうと述べた。 民主党がより強硬な姿勢を求める可能性があるもう1つの分野は為替だ。トランプ氏は大統領選のさなか、中国を為替操作国に認定すると公約したが、就任後に公表された4つの為替報告書はいずれも中国の為替操作国認定を見送った。 米製造業同盟(AAM)のスコット・ポール会長は、「為替に関して一段と圧力が高まったとしても不思議ではない」としたものの、トランプ大統領が署名する可能性がある為替法案が上下両院で可決に十分な支持を得る可能性は低いと説明した。 新NAFTA 来年の議会アジェンダのトップは、9月末に合意した新北米自由貿易協定(NAFTA)の採決だ。米・カナダ・メキシコ3カ国の首脳は11月30日−12月1日にブエノスアイレスで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて新協定に署名する予定。 CFRのオールデン氏は、民主党が特許や労働者の権利、環境保護に関する一部条項に疑念を示す可能性が高いものの、新協定の廃案は望まないと分析。大統領はNAFTA離脱を通告し、正式離脱が可能になる6カ月という期限を区切って新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」を通過させるよう議会に圧力をかけることが可能だと説明した。 同氏はまた、「USMCAを議会通過させられない場合、トランプ大統領がNAFTAから離脱するのは疑いない」と述べた。 民主党は自分たちの票を使ってトランプ大統領の貿易合意に影響を及ぼすことが可能になるほか、大統領が以前から約束し、民主党の優先事項にも合致するインフラ計画を推進する可能性がある。 対EU・日本 トランプ政権は来年の早い時期に日本および欧州連合(EU)と貿易交渉を開始する。民主党が下院の過半数議席を獲得したことから、こうした交渉では自動車と農業に重点が置かれると予想される。 交渉を巡ってはトランプ大統領と民主党に大きな立場の違いは生じない見込みだ。両者ともこれら分野に重きを置くことを望んでおり、また民主党は他の交渉ほど労働・環境問題で懸念していないためだ。 米輸入関税 トランプ大統領は国家安全保障上の見地から、外国製自動車と同部品に関税を課すと警告している。米国の安全保障が脅かされるかどうかに関する商務省の調査リポートは2月までに発表される。今年、トランプ大統領が一方的に関税を課す権限を制限しようとした議員らの取り組みはいずれも失敗した。 CFRのオールデン氏は、法案へのトランプ大統領の拒否権を覆すには3分の2以上の議員の賛同を得る必要があるため、民主党が下院を支配しても状況が変わる「可能性は極めて低い」とみられると述べた。 AAMのポール会長は、自動車関税に関して「非常に積極的な行動」が起これば「議会のダイナミズムを若干変革し得るだろう」と指摘。「民主党には目指さなければならない多くのアジェンダがあるため、トランプ政権の貿易アジェンダをひっくり返すことは最優先課題ではない。大統領と見解が一致していればなおさらそうだ」と述べた。 米国家経済会議(NEC)委員長を務めたゲーリー・コーン氏は7日、民主党が議席を増やしたからといって、米中間の貿易摩擦が迅速に解決するとは考えていないと語った。 原題:How Democrats Could Help or Hurt Trump’s Next Trade Policy Moves(抜粋) https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-11-08/PHUY756TTDS001 トップニュース2018年11月8日 / 16:18 / 2時間前更新 アングル:米外交政策、民主の下院奪還でどう変わるか Patricia Zengerle 4 分で読む [ワシントン 7日 ロイター] - 6日の米中間選挙で下院を奪還した民主党は、これまでトランプ大統領の外交政策に対して共和党が取ってきた不干渉的なアプローチを大きく転換し、ロシアやサウジアラビア、北朝鮮に対してより強硬な対応を求めるだろう。 下院外交委員会を率いることになるエリオット・エンゲル民主党議員は、イラクやシリアなどにおける軍事力行使に対しても、議会の承認を求める可能性を示した。一方、中国やイランといった重大な問題に関しては、現状打破する手段が、ほとんどないことを認めた。 民主党は多数派として、下院でどの法案を審議するかを決めたり、財政政策や政策立案において大きな役割を担うことになる。 「政権が出してきたものだからという理由で反対すべきだとは思わないが、政策を見直し、監督する義務がわれわれにはある」と、エンゲル議員はロイターとの電話インタビューで語った。 法案通過には共和党が支配を続ける上院との協力が不可欠だが、民主党は、外交や軍事、情報に関する委員会を下院で率いるため、公聴会を開催して、必要とあれば証人を召喚する権限などにより、最大の影響力を発揮することになる。 以下に、民主党の下院奪還によって、米国の外交政策がどのように変わる可能性があるのか見ていこう。
●民主党はロシアをどう見ているか 民主党議員たちは、トランプ大統領とロシアとのビジネス上のつながりや利害衝突の可能性を巡る調査など、ロシア関連の調査を行う計画だ。 政策的な観点から言えば、民主党率いる下院は、米選挙への干渉やウクライナへの軍事侵攻のような行動、シリア内戦への関与を理由にロシアに対する懲罰を求めるだろう。 下院は追加制裁を求め、その中にはロシア債を標的にした措置も含まれる可能性がある。また、昨年8月にトランプ大統領が渋々署名したロシア制裁強化法案に含まれるすべての制裁を実行に移すよう大統領に圧力をかけようとするだろう。 米議会議員たちはまた、昨夏の米ロ首脳会談に関する情報を得るため、必要とあれば調査権限を行使するなど強硬な手段に出ることも辞さない。ホワイトハウスは同会談の一部については公表している。 「そのようなハイレベルの首脳会談が行われて、その中味について議会が知らぬ存ぜぬというのはばかげた話だ」とエンゲル議員は言う。 2016年の米大統領選におけるロシア介入疑惑について、同議員は「まったく解決していない」と話した。 ●カショギ記者死亡事件は対サウジ関係に影響するか トルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館でサウジの記者、ジャマル・カショギ氏が死亡した事件は、サウジのイエメン内戦での行動や人権問題に対する議員たちのいら立ちを募らせた。 民主党率いる下院は、サウジへの武器売却契約を阻止する法案を採決に付したり、同国への民生用原子力協力に関する議会承認を困難にしたり、イエメンでの作戦における米航空機による空中給油や他の支援を阻止する措置を検討したりする可能性がある。 エンゲル議員は、中東においてサウジがイランの影響力に対する「重し」だと認める一方で、米国政府はサウジに対してもっと要求するべきだと主張する。「サウジがわれわれの支援を必要とするなら、われわれが懸念する問題の一部に取り組まなければならない」 ●民主党は北朝鮮との和平を望まないのか ZTE Corp 19.4 000063.SZSHENZHEN STOCK EXCHANGE -0.19(-0.97%) 000063.SZ 民主党は、トランプ大統領とポンペオ国務長官がそれぞれ北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談した際の情報をさらに入手する構えだ。トランプ大統領が「素晴らしいディール」を欲するあまり、金委員長に譲歩し過ぎることを懸念している。 エンゲル議員は、北朝鮮との対話の状況を確認するため、政府当局者を召喚する計画だが、民主党は外交や非核化の努力を邪魔していると見られないようぎりぎりのラインを探るだろう。 「北朝鮮と何かしらの対話を行うのは良いことだが、大きな変化が生まれるとわれわれは勘違いしてはいけない」とエンゲル議員は語った。 ●民主党は対中政策を変えるか 民主党の下院支配によって、対中政策に大きな変化は起きないとみられる。民主党は公聴会を増やしたり、状況を説明する機会を一段と求めたりするだろうが、中国に対する批判はこれまでのところ超党派によるものであり、対中政策は変わらないとみられる。 下院情報委員会の委員長を務めることになるアダム・シフ氏のような著名な民主党議員は、共和党議員と共に、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)(000063.SZ)や華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]の技術や機器を禁止する国防権限法を成立させるなど、対中強硬姿勢を打ち出している。 しかしエンゲル議員らは、パートナーとしての中国の必要性、とりわけ北朝鮮問題において同国の重要性を認識している。「攻撃し過ぎないよう気をつけなければならない」とエンゲル議員は語った。 ●トランプ氏の通商政策に反対するか 共和党と同様、民主党内でもトランプ大統領の対中貿易戦争を巡っては意見が分かれている。一部の民主党議員は、自由貿易は雇用を生み出すと考えているが、鉄鋼業や製造業といった産業の労働者を守るため関税を支持する民主党議員もいる。 大統領は通商政策において相当な権限を有しているが、民主党はトランプ氏の行動に対する説明責任の強化を求めている。その中には、農業や製造業が集中する州、特に中西部に影響を及ぼしている中国への急激な関税引き上げも含まれている。 通商問題でたとえトランプ大統領を糾弾しなくても、民主党はいかなる貿易協定も労働基準や環境基準を確実に設けることを大統領に求めるだろう。 ●米国をイラン核合意に復帰させるか 民主党は、自党のオバマ前政権が2015年にイランと合意した国際的な核合意からトランプ大統領が離脱したことに激怒した。だが、共和党がホワイトハウスを支配している限り、その方針を転換させるためにできることはほとんどない。 議員たちはイランに対して友好的過ぎると思われることを警戒している。とりわけ、イスラエルがイランに対して敵対的な姿勢を示しているからだ。イスラエルのネタニヤフ首相が米共和党議員との関係を深める一方、イスラエルとの強い関係は、共和、民主両党にとって最優先事項であることに変わりはない。 エンゲル議員はイラン核合意に反対した民主党議員の1人だが、トランプ大統領はイラン核合意や他の問題において欧州連合(EU)加盟国など重要な同盟諸国と協力すべきだと指摘する。「われわれがなすべきことは、これまで築き上げてきた同盟関係の修復を試みることだ」 (翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀) https://jp.reuters.com/article/us-diplomacy-idJPKCN1ND0RK オピニオン】トランプ政権バージョン2.0の始まり 中間選挙後の記者会見に臨むトランプ大統領(7日) By Daniel Henninger 2018 年 11 月 8 日 14:02 JST
――筆者のダニエル・ヘニンガーはWSJ論説室の副委員長 *** 次の米大統領選挙に向けた戦いは中間選挙の翌日に始まった。2020年11月の次期大統領選までわずか103週ほどとなった今、大きな注目点はドナルド・トランプ氏が16年の勝利の戦略に復帰するのか、それとも6日の中間選挙の結果を受けて修正に動くのかということだ。選挙結果は、トランプ政権バージョン2.0が必要なことを示唆している。 ミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州などの中の、地方のさびれた工業地帯で忘れ去られていたブルーカラー労働者の票を掘り起こし、トランプ氏がヒラリー・クリントン候補に勝利したというのは、今や米国の選挙伝説の一部となっている。これは、トランプ流ポピュリズム(大衆迎合主義)の基本となった。 こうした支持層を上乗せしたことで、トランプ氏は全国レベルの人気投票での劣勢分を埋め合わせ、選挙人団の獲得数でぎりぎりの勝利を収めた。これは米国独特のシステムであり、大統領選出の過程において全50州の関与を維持するという点で、良いシステムだ。しかし、トランプ氏は、再び前回と同様の難事業を成し遂げることができるのだろうか。 6日の中間選挙では、今やトランプ・ステートとして有名なこれら3つの州は明確に民主党支持に動いた。ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー氏、ミシガン州のリック・スナイダー氏という2人の改革派知事は、民主党候補に敗れた。 中西部北域での興味深い例外ケースとなったのは、オハイオ州の知事選だった。共和党のマイク・デウィン氏がエリザベス・ウォーレン上院議員と主張がそっくりのリチャード・コードレー氏を破った。同州のコロンバス、シンシナティーを囲む郊外地区の有権者は、周辺地域の傾向に反して、デウィン氏への明確な支持を示した。しかし、非常に控えめなデウィン氏をトランプ氏と取り違える人はいないだろう。 絶対に落とせない2州 共和党が選挙人団を確保する上で、絶対に落とせない2つの州とされているフロリダ州とテキサス州の選挙結果もまた、問題含みだ。 トランプ氏は2016年に1.2ポイント差でフロリダを制した。6日の同州知事選でタラハシー市長である左派のアンドリュー・ギラム氏が勝利していたら、トランプ氏にとって悪夢になるはずだった。ギラム氏が民主党の大統領候補として即座に全米の話題に上っていただろうからだ。 トランプ氏はそれを回避した。同氏が推したロン・デサンティス氏がギラム氏に勝利したからだ。これは、トランプ氏の功績だ。だが、その差はごくわずかで、最終で0.6%だった。しかもそれは、ニューヨーク市の左派のスーパーヒロインである新下院議員のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏、またはバーニー・サンダース上院議員と事実上同じような政治思想を持つギラム氏のような候補と争った結果だった。ギラム氏の驚異的なパフォーマンスは、少なくともフロリダが戦いの場になるであろうことをうかがわせる。 人気の高いフロリダ州知事のリック・スコット氏が上院選で民主党現職のビル・ネルソン氏に勝利したとみられることは、同州の共和党員にとって慰めになっているようだ。だが、スコット氏はヒスパニック票の取り込みに注力していたほか、移民に対するトランプ氏の終盤の言動との関わりを避けた。 トランプ氏は7日の記者会見で、フロリダ州の選挙区から再選を目指したカルロス・クルベロ下院議員など数人をあえて名指しし、「私のエンブレイス(抱擁、つまり全面的支持)を欲しがらず」に敗北した共和党候補だと述べた。映画「ゴッドファーザー」のヴィトー・コルレオーネのような抱擁はさておき、民主党がフロリダ州第26区のクルベロ氏の議席を奪ったという事実は残る。この選挙区は人口の70%近くがヒスパニックで、前回の大統領選ではクリントン氏が16ポイント差で勝利している。 6日になるまでは、大統領選で38人の選挙人を抱えるテキサス州が、2020年に民主党が善戦し得ると考えている人は一人もいなかった。上院選で現職のテッド・クルーズ氏が僅差でベト・オルーク氏に勝利した理由が、クルーズ氏の不人気によって説明できると主張する向きもある。だが、驚異的な投票率の高さと反トランプ感情による確実な後押しを受け、オルーク氏は同州で最も人口の多い2都市(ダラスとヒューストン)でクルーズ氏の得票を上回った。 民主党はまた、テキサス州の注目選挙区で下院議員の2議席を奪った。ヒューストン選挙区のジョン・カルバーソン議員と、ダラス選挙区のピート・セッションズ議員の議席だ。後者の敗北はいくらか衝撃的だった。民主党はオルーク氏当選を目指し、投票率を上げようと州外から何百万ドルもの資金をつぎ込んだが、2020年にも同じようなことが行われるだろう。 トランプ氏が再選を果たす道 過去2年間に浴びせられた大きな政治的中傷の一つは、「トランプ支持派」が主として移民排斥主義者、さらには「人種差別主義者」、あるいは白人男性、または、あたかも猛犬に攻撃されるクマのようにトランプ大統領が攻勢を受けた記者会見で、米公共テレビ(PBS)のホワイトハウス担当記者が「白人至上主義者」と呼んだ人々によって構成されているというものだった。これは2016年の大統領選でトランプ氏に投票した全6300万人を言い表すものだとされている。 実際には、2016年の大統領選でトランプ氏の「支持基盤」となった人々には多くの伝統的で郊外居住の共和党支持者が含まれていた。トランプ氏を支持して投票した人もいれば、ヒラリー・クリントン候補に反対するために、また最高裁で保守派判事が過半数になることを望んでトランプ氏に投票した人もいた。 トランプ大統領は任期中、経済分野や司法分野でそうした有権者たちが望む政策を行ってきた。しかし、6日の中間選挙の出口調査や郊外の選挙区での選挙結果は、有権者の多くが求める大統領としての人格を示してこなかったことを示唆するものとなった。 理論上、トランプ氏が再選を果たすための最も複雑でない道は明快だ。米国の有権者に向けた民主党の主張が「トランプ嫌い」で始まり、そして終わることから、トランプ氏は民主党の投票率や資金集めの推進力とならないようにすることで民主党のエネルギーを削ぐことができるかもしれない。つまり、トランプ氏自身が目立たぬようにすればいい。ということはつまり、そうはならないということだ。 2017年夏以降、トランプ大統領に対する不支持率はほぼ一貫して55%の水準にある。トランプ氏は広がっていない2016年の支持基盤にとどまり、高水準の不支持率を乗り越えて2期目を迎えることもおそらく可能だろう。ただその場合、1972年、1984年、1988年の大統領選で民主党がしたように、支持基盤内の対立から選挙に敗北するような左派・自由主義の候補を再び指名する事態とならない限り、大統領選で選挙人の過半数を獲得するのは困難である。いつものことだが、トランプ氏にとっては幸運の女神が引き続き最大の支援者である。 関連記事 米中間選挙ここがポイント、番狂わせや新星惜敗も トランプ氏を厳しく追及へ 下院奪回の民主党 チャートで見る米中間選挙、有権者はどう動いたか
2018年11月8日 Janet Hook 米中間選挙は民主が下院奪還、ねじれ議会に 両党にとって失望と歓喜が入り交じる結果に トランプ大統領 Photo:Reuters ドナルド・トランプ米大統領の今後の政権運営に大きな影響を与える中間選挙が6日投開票され、下院は民主党が過半数議席を奪還した。一方、上院では共和党が過半数を維持した。連邦議会は「ねじれ」状態となる。
異例の注目度となった今回の中間選挙では、トランプ大統領に初の審判を下すべく、多くの有権者が投票所に押し寄せた。 知事選では、注目された複数の州で民主党候補が勝利。カンザス州でトランプ氏が支持するクリス・コバック候補が敗れたほか、イリノイ州、ミシガン州、ミネソタ州でも共和党が敗れた。一方、フロリダ州では同州初の黒人知事を目指した民主党候補のアンドリュー・ギラム氏が敗れ、共和党のロン・デサンティス候補が勝利した。 今回の結果は有権者の分断をあらためて示した。トランプ大統領に対する評価をはじめ、ヘルスケアと移民問題など米国が直面する主要な問題の全てで意見の対立がみられた。 トランプ大統領の存在感 選挙戦終盤、トランプ氏は大きな存在感を示した。全米各地を遊説して回り、この中間選挙は自身への信任投票だと呼びかけた。 有権者はそのメッセージを受け止めたようだ。「APボートキャスト(AP VoteCast)」の調査では、有権者の64%はトランプ氏が投票の判断材料の1つだと回答。同氏への反対表明のために投票すると答えた人は支持表明のためと答えた人を上回った。 APボートキャストは、すでに投票を済ませた、またはこれから投票するとしている約9万人を対象に、投票日前および当日に実施される世論調査だ。 開票結果が伝わった6日夜、トランプ氏はこうツイートした。「今夜は大成功だ。皆に感謝したい」 選挙の結果は両党にとって失望と歓喜が入り交じるものとなり、同時に、変化のさなかにある両党の姿を浮かび上がらせた。トランプ氏の政党と化しつつある共和党は、地方の有権者と白人男性から大きな支持を集めた。一方、民主党は若者や都市郊外の住民、有色人種、女性から支持された。 「波」ではなく局所的な「竜巻」 下院奪還に民主党が必要としたのは23議席の純増だった。民主党は下院の過半数を占めることで、大統領へのチェック機能を果たすほか、各捜査などで政権運営を揺さぶり、減税や規制緩和、移民制限などトランプ氏の政策課題を阻止する力を手にする。 今回の選挙は結果的に、民主党が期待していたような全米を席巻する「波」とまでは行かず、共和党を特定の場所で混乱の渦に巻き込む「竜巻」の様相を帯びた。 調査では、民主党の議席獲得の原動力の1つに男女差があることが示された。女性は民主党支持が18ポイント差で共和党支持を大きく上回ったが(56%対38%)、男性は共和党支持が民主党支持を若干上回ったに過ぎない(49%対46%)。 また、民主党は若者の支持が目立ち、18歳〜29歳の有権者の61%に支持された。30〜44歳、45〜64歳の層でも民主党が優位で、有権者全体の4分の3近くを占める層で支持されている。これに対し、共和党支持が上回ったのは65歳以上のみ。それも49%対48%のわずか1ポイント差だった。 上院で共和党が過半数を維持できた主な要因の1つについても、調査で明確になった。改選議席を争う州の大半が、モンタナやノースダコタのような地方の州であるからだ。調査によると、地方の有権者の56%が共和党に投票し、民主党支持は39%であることが分かっている。 https://diamond.jp/articles/-/184789 コラム2018年11月8日 / 15:25 / 3時間前更新 コラム:米中間選挙、民主期待の「青い波」が起きなかった訳 Lincoln Mitchell 2 分で読む
[7日 ロイター] - 2018年の米中間選挙は、下院選の投票者数が過去最高の推計1億1400万人に上るなど記録ずくめで、世界各地から大統領選並みの注目を集めた。 今後のトランプ大統領の政権運営を大きく左右する重大なイベントで、投票日間際にもトランプ氏の政敵に爆発物が送りつけられたり、ピッツバーグのユダヤ人教会堂で発砲事件が起きるなど波乱が続いた。 しかし結局のところは野党・民主党が下院の過半数を奪回するというありきたりな結果に終わり、多くの民主党支持者が期待した「ブルーウェーブ(青い波)」は起きなかった。 民主党は下院の議席を改選前から30議席ほど増やし、上院で失った議席はわずかだったが、最近の中間選挙に照らして「大勝」とは言えない。原因は米国の景気にあった。青い波は好調な米経済という陸地にぶつかり、砕け散った。
20年から30年前に政治学の講義を受けていて、2016年の大統領選は共和党候補が勝ち、景気は極めて好調とだけ聞かされた人は、ほぼ実際通りの投票結果を予想しただろう。注目度が低く、対立を煽るような言い回しをする人物が大統領に就いていないこれまでの中間選挙は同じ結果だった。中間選挙が平凡な結果となったとことで、あらゆる尺度から流動化が読み取れても、投票の行動と結果にそれが表れないという、米国政治の矛盾が露わになった形だ。 共和党が伝統的な保守政党からポピュリズム政党へと脱皮しつつある一方、民主党は都市周辺地域で新たな支持を見出している。米国の民主主義の規範を次々と打ち壊し、3年以上にもわたりその立ち振る舞いがメディアを席巻してきた大統領は、ほとんどすべての大統領と同様に、選挙のときに自分の政党の命運を決めるのは、重要ではあるがかなり世俗的な問題、つまり米国の景気だと理解した。 ほぼすべてに当てはまるわけではないとしても、米国民の多くが依然、党派性に投票が左右さていることも明らかになった。投票先が揺れ動くオハイオ州コロンバス周辺では選挙戦終盤に多くの共和党有権者が、オハイオ州のアメフトチームを応援するの同じような調子で「自分は共和党員だから」と投票理由を説明するのを聞いた。こうした党派性の根深さ故、波が来るチャンスは小さく、選挙はいつでも接戦となる。 今回の中間選挙の結果は、民主・共和両党とも有権者の判断を動かし得るが、激しい動揺が起きたようにみえても米国民の政治に対する基本的な態度は─少なくともその一部は─変わっていないということを浮き彫りにした。 *筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 https://jp.reuters.com/article/us-democrats-election-column-idJPKCN1ND0KL?il=0
レームダック」米議会、国境の壁ますます難関に 記者会見に臨んだ下院民主党のナンシー・ペロシ院内総務(6日) By Kristina Peterson and Richard Rubin 2018 年 11 月 8 日 03:49 JST 【ワシントン】米議会は来週の再開早々、移民問題を巡り行き詰まっているドナルド・トランプ大統領との交渉に直面する。それは12月に政府機関の一部閉鎖を引き起こす恐れもあるが、中間選挙で勢力を拡大した民主党は以前にも増して妥協する姿勢を見せなくなりそうだ。 レームダック議会の行方は予測しにくいが、議員は今後2カ月のうちに、一つの確実な期限に突き当たる。それは、国土安全保障省を含む一部省庁の予算が12月8日午前12時01分に失効することだ。 議会は今年に入り、政府機関の資金を絶やさないよう一連の予算案を成立させた半面、移民問題の審議は中間選挙後に先送りしてきた。共和党指導部がメキシコ国境の壁を建設する資金を巡る対立を回避しようとしたためだ。 トランプ氏は壁の建設へ向けた追加資金の拠出を議会が承認しない場合、政府機関の閉鎖も辞さない構えを示していた。中米で約4000人の「キャラバン」と呼ばれる大量の移民が米国を目指して国境に近づく中、トランプ氏は一段と厳しい移民法を求める姿勢を強めている。メキシコ国境へは数千人規模の米兵が派遣された。 共和党が上下両院で過半数議席を占めていたにもかかわらず、議会は移民問題を巡って今年1月まで膠着(こうちゃく)状態に陥った。ホワイトハウスに法案を送るためには、両院が同一の予算案を通過させなければならない。つまり、上院の手続き上の障害を乗り越えるため、60票の賛成を取り付けるに十分な超党派的な最終法案をまとめる必要がある。 下院の多数派を奪回した民主党は、選挙結果はトランプ氏への否認とみなしている。新議会が召集されるまでのあと数週間に、壁建設のための数十億ドルの追加予算要請に応じる可能性は低い。多くの民主党議員は国境の安全保障強化を支持しているが、壁の建設には反対する議員が多く、当選後もその点では譲りそうにない。わずか2カ月後には影響力を強められる見通しとなった今、交渉妥結に持ち込む動機はほとんどない。 下院民主党のナンシー・ペロシ院内総務(カリフォルニア州)は今週のインタビューで、中間選挙で民主党が必ず影響力を強めるとの見方を示した上で、「壁についてなぜ今、われわれが妥協したりするだろうか」とし、「国境は保護しなければならない、われわれの価値観も守らねばならない。それには超党派的な方法がある」と指摘。「選挙で勝利し、われわれに強みがもたらされるだろう」と述べていた。 米議会はここ何年かの間に多くの移民法案を採決にかけたが、両院を通過した法案はない。下院共和党は今年6月、党内派閥の意見のすりあわせを狙った法案を提出したが、あえなく否決された。 下院トップの座を巡り長引いている闘争と相まって、予算と移民問題の攻防はますます激しくなる可能性がある。下院民主党が院内総務の候補を選定するのは11月下旬の感謝祭以降になるとみられている。このため、ペロシ氏が続投すべきかを巡る議論が数週間続きそうだ。複数の民主党候補は今年、ペロシ氏に反対票を投じている。 一方、共和党はポール・ライアン下院議長(ウィスコンシン州)の退任を受けて来週、新リーダーを選出する見通しだが、保守派の一部が投票を遅らせようとする可能性もある。 関連記事 トランプ氏の中間選挙、惨敗避けて得たもの トランプ氏に迫る捜査の手 セッションズ司法長官を事実上更迭 【社説】共和党はトランプ路線の修正必須 ワールド2018年11月8日 / 12:43 / 33分前更新 焦点:下院敗北の米共和党、さらに「トランプ流」に傾斜か James Oliphant 4 分で読む
[ワシントン 6日 ロイター] - 6日投開票の米中間選挙で下院の過半数を失った与党共和党には、トランプ大統領の挑発的な論調や強硬なアジェンダの下で一体化する、さらに「トランプ色」の強い議員たちが残ることになる。 下院の議席を守った穏健派の同党議員からは、今回の結果は、選挙戦中盤で不法移民に対する容赦ない攻撃に集中したトランプ戦略の失敗だとの批判が出てくるかもしれない。だが、こうした声は少数派にとどまるだろう。 中間選挙では、民主党が8年ぶりに下院の過半数を奪還する一方で、上院は共和党が多数派を維持する見込みだ。来年1月から「ねじれ」議会となる。 議席を失った共和党議員の多くは、郊外選挙区の穏健派で、トランプ大統領とその過激な論調からある程度距離を置こうと努めていた。だが結局、選挙に敗れてしまった。これに伴い、縮小した共和党議員の中核となるのは、トランプ支持が圧倒的な地方区から選ばれた保守派だ。
つまりは、トランプ大統領はトランプ流のままでいるだろう、ということだ。党内の一部からは、選挙での敗北の責任を問う声も上がるだろうが、上院での優位を維持したことを考えれば、大統領に造反を企てるほど大胆になるとは考えにくい。 過去2年間、トランプ大統領は炎上覚悟のスタイルを改めようとしたり、融和的な姿勢に転じたりする兆候をほとんど示してこなかった。トランプ氏は、自分が共和党内で、文句なく最も人気のある政治家であることを自覚している。 これから、トランプ大統領はこれから自らの再選に向けた取組みを本格的に始めるわけだが、その際、熱心な支持者で構成される自らの地盤を活性化させるために、あらゆる手を尽くすことになるだろう。 これはつまり、たとえ民主党からの抵抗がいっそう強まるとしても、不法移民や保護貿易主義といった激しい議論の的となるテーマを優先する、自らの「米国第一主義」を推進していく可能性が高いということだ。また一方で、保守的な財政・社会政策、国家安全保障を特徴としていた共和党内においても、トランプ流の劇的な党改革が加速される。 例えば、米国の対メキシコ国境沿いに「壁」を築く予算を民主党は承認しないだろうと分かっていても、トランプ大統領はあいかわらずこの問題を提起し続けるだろう。実のところ、下院民主党を格好の「敵役」に仕立て上げる上でで、このテーマの政治的効果がいっそう高まるとトランプ氏が考える可能性もある。 下院の議席を守った共和党議員も、新たに多数派となった民主党と協力することには、ほとんど関心を示さないだろう。すると、連邦議会における共和党勢力は上院に集約され、政権は手詰まり状態に陥る。 「民主党主導の下院で、大統領が何らかの政策を実現したいならば、反対側に歩み寄らざるを得ない」。民主党の世論調査専門家であるシカゴのジェイソン・マクグレイス氏はそう指摘する。 「今までトランプ大統領は、そういう素振りさえ見せたことがない が、もしこれを機に、単なる点数稼ぎではなく、統治をしたいと考えるようになるとすれば興味深いことだろう」と付け加えた。 <郊外の変化> 今回、民主党が議席を奪還した選挙区で起こった変化は、共和党にとっては長期的な打撃となり、民主党にとっては、かつてはライバルの固い地盤だった郊外地域において攻勢に転じるチャンスとなる。 こうした地域は全国平均よりも教育や所得の水準が高く、トランプ大統領に対する懐疑的な見方が広がっている。 共和党はすでに、中産階級のトランプ支持者で白人男性、キリスト教福音派といった従来の地盤を超えて勢力を広げることに苦戦している。 女性や郊外に住む住民、大卒の有権者のあいだでは支持が低迷しており、若年層やマイノリティの有権者の支持を勝ち取る力も、ほとんど示せていない。 Slideshow (4 Images) 米国議会における勢力が縮小したことで、同党のトランプ大統領に対する忠誠がいっそう強まる流れになるとすれば、こうした傾向はほぼ確実に続くだろう。 上院では、2016年の大統領選でトランプ氏が勝利した州、例えばインディアナやノースダコタでは、民主党中道派の現職議員を破って保守派の共和党候補が議席を得たが、彼らがその勝利を大統領のおかげであると考えても不思議はない。 さらに、共和党で最も激しくトランプ大統領を批判していたボブ・コーカー、ジェフ・フレーク両上院議員は、今回の選挙で引退した。政策面はさておき、論調において大統領と食い違う場合があった共和党のポール・ライアン下院議長も同様である。 こうした条件がそろうことで、トランプ大統領は党内において2年前よりもさらに支配的な立場を得ることになる。そして、選挙戦において地方各州を重点的に回ったトランプ氏は、これらの州における上院選での勝利を、依然として自らの支持者を投票所に向かわせる力を持っている証拠として示すことができる。 <トランプ人気頼み> 年を通じて、共和党は下院で敗北する展望をはっきりと認識していた。そのため、党のやり方を変更する必要があるという警告として、今回の選挙結果を受け止める可能性は低い。 歴史的に、新大統領が就任後に迎える最初の中間選挙では、政権党がいくつかの議席を失っている。特に、大統領の働きぶりに対する全国的な評価が低い場合はなおさらだ。 オバマ前大統領の就任後に実施された2010年の中間選挙では、民主党が下院の63議席を失い、共和党に過半数を奪われるという大敗を喫したため、オバマ氏の政策目標はほぼ暗礁に乗り上げてしまった。 選挙戦終盤の数週間、トランプ大統領は中米から米国に向かって近づく移民集団(キャラバン)に対する恐怖をあおり立て、民主党が権力を握った場合の「リベラルな暴徒」の脅威を警告することで、自分の支持者を投票所に向かわせようとした。 経済政策に関する共和党のメッセージが共感を生んでいないと結論づけた複数の同党候補者や連邦議会リーダーシップ基金などの支援団体は、トランプ氏のこうした動きに乗った。この先2年、仮に経済成長が減速すれば、そもそも経済政策などアピールできない可能性もある。 今後数カ月、有意義な立法措置という点で、連邦議会にできることがほとんどないと予想される中で、次の選挙に向けて共和党候補者が主張できる成果がほとんどなくなる可能性が高い。2017年の減税法案は遠い過去の記憶となっているだろう。 トランプ人気頼みで選挙に出馬する共和党候補者が、自分自身の政治的なアイデンティティを確立することは難しいだろう。そもそも彼らはあえてそれを望まないのかもしれない。何しろ米国の大統領はたいていの場合、2期目も当選するからだ。 (翻訳:エァクレーレン) https://jp.reuters.com/article/usa-election-republicans-trump-idJPKCN1ND0AI?il=0 コラム2018年11月8日 / 15:53 / 2分前更新 コラム:米中間選挙、議会勢力図に傷跡残した貿易戦争 Gina Chon 2 分で読む [ワシントン 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米中間選挙は、トランプ大統領の仕掛けた貿易戦争が、議会の勢力図に傷跡を残した格好となった。 共和党候補は、好調な国内経済という追い風を受けたが、ペンシルベニア州など、トランプ氏が打ち出した輸入関税や中国などの報復関税に苦しむ選挙区では、苦戦を強いられた。 確かに、ペンシルベニア州でも、鉄鋼産業が盛んな地域では、トランプ氏の輸入関税が支持されている。だが、報復関税やコスト上昇に苦しむ農家や製造業者が多い同州第7選挙区では、民主党の下院議員候補が共和党候補を打ち負かした。 アイオワ州は、中国などが発動した米農産品に対する関税で特に打撃を受けている。同州第3選挙区では、共和党の下院候補がトランプ氏の輸入関税を批判。地元紙にも寄稿して関税の悪影響を訴えたが、結局、民主党候補に敗れた。 オクラホマ州でも、トランプ氏の輸入関税を批判した共和党下院議員候補が、民主党候補に予想外の敗北を喫した。この共和党候補は、選挙区内にあるアンハイザー・ブッシュ・メタル・コンテナ社の工場を訪れ、貿易戦争に対する懸念払拭に努めた。同工場はアルミの輸入関税を懸念しており、民主党候補は、関税発動を阻止できなった共和党候補を批判していた。
貿易戦争で打撃を受けている他の地域では、不法移民の取り締まりを掲げるトランプ氏の人気が根強い。ミズーリ州バトラー郡にあるミッド・コンチネント・ネール社の工場では500人を雇用していたが、鉄鋼輸入関税の発動後、レイオフや自然減で約200人が工場を去った。だが、同郡では2016年の大統領選でトランプ氏が圧勝しており、今回の中間選挙でも、共和党の上院候補が現職の民主党候補を破った。民主党候補はトランプ政権の貿易戦争を声高に批判していた。 単純明快な構図を描くことはできないが、一部の選挙結果は、トランプ氏の輸入関税が、身内の共和党候補の足かせとなったことを示している。多くの共和党候補は、トランプ氏の保護主義に歯止めをかけると訴えたが、実績を示すことはできなかった。今回の中間選挙は、日ごろ自由貿易を標榜してきた共和党に「原点を忘れるな」という警鐘を鳴らした選挙だったといえる。 *筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 https://jp.reuters.com/article/collumn-us-elections-trade-war-idJPKCN1ND0P4?il=0
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