社説】米の対中通商戦略、正しい方向へ 中国の技術盗用疑惑に対する訴訟と輸出制限は、標的を定めた好ましい行動だ 米半導体大手マイクロン・テクノロジーのメモリーチップ 米半導体大手マイクロン・テクノロジーのメモリーチップ PHOTO: KAI PFAFFENBACH/REUTERS 2018 年 11 月 2 日 14:46 JST 更新 米トランプ政権の中国に対するこれまでの通商戦略は、米中双方を傷付ける下手な射撃のような関税措置を利用してきた。しかし米国産の技術の盗用疑惑に対処するために今週とられた強力かつ標的を定めた行動は、政策の好ましい方向転換を示している。 米商務省は10月29日、中国国有の半導体メーカー福建省晋華集成電路(JHICC)に対する米国の技術輸出を制限すると発表した。これは、米半導体大手マイクロン・テクノロジーが、JHICCに知的財産を盗用されたと訴えたことを受けたもの。商務省は、中国国有企業のJHICCが「米国のものと思われる技術」による生産を拡大し、「米軍事システムの重要構成機材」を供給する米企業を脅かしていると指摘した。 知的財産の窃取被害は、報告されないことも多い。それは被害者が報復や評判の低下を恐れているからだ。しかし、マイクロンが中国による技術盗用に敢然と立ち向かったことで、同社が主張するJHICCの手法の中身が明らかになった。その内容は、マイクロンが2017年12月に米連邦裁に提出したJHICCに対する訴状の中に詳述されていた。 台湾に本拠を置く聯華電子(UMC)は2016年、JHICCにDRAMを提供する技術提携契約を結んだ。こうしたメモリーチップはパソコンやスマートフォンに使用されており、マイクロンはそれを大量に生産する世界三大企業の一つだ。マイクロンによると、UMCは知的財産を盗むため、マイクロンのエンジニア2人を採用した。マイクロンはデータ流出が発覚した後で警察にひそかに通報し、台湾検察は17年8月にこの2人を起訴した。 台湾当局は起訴状で、マイクロンの元エンジニアの1人が同社を去るまでの何日かに「DRAMの手法、テクノロジー、プロセスと設計」に関連する931個のファイルにアクセスしたと述べている。このエンジニアは「それをUSBの記憶デバイスに転送」してから、「自分のノートパソコン2台に転送」した上、「自分のグーグルドライブにもアップロードした」という。マイクロンはこれが「昨今で最も大胆な産業スパイの手口の一つ」だとしている。UMCとJHICCはこれを否定している。 米司法省は1日、企業秘密を盗んだとしてUMC、JHICC、2人のエンジニアとさらに別の元マイクロン社員1人を起訴した。同省はまた、盗まれた技術の使用差し止めを求める民事訴訟を提起した。ジェフ・セッションズ司法長官は、この技術盗用による被害額が最大で87億5000万ドル(約9900億円)に上ると推計した。 検察は今週、米国の宇宙航空企業をハッキングしたとして、中国の情報当局者10人についても起訴した。セッションズ長官は企業秘密窃盗に関連するこのほかの5件についても訴追手続きを進めていると述べ、中国による窃盗事案を捜査するための新たな取り組みを発表した。同長官は「中国は他の先進国と同様、国際舞台で信頼されるパートナーになりたいか否かを決めなくてはならない。われわれの願いは信頼されるパートナーを持つことだ」と述べた。 知的財産権を盗む行為が通常、報告されることのない理由として企業が報復措置を恐れていることがある。すでにマイクロンはそうした事態に直面している。UMCとJHICCは、特許侵害の容疑でマイクロンの複数の中国子会社を中国の裁判所に提訴した。福建省福州中級人民法院(地裁)は7月、マイクロンの中国子会社に対し、関連製品の輸入・販売差し止めを命じる決定を下した。こうした製品はマイクロンの年間売上高の約1%を占める。 また5月には中国当局がマイクロンを含む外国メーカーに対し、価格操作の疑いがあるとして調査を開始した。中国商務省は10月30日、米商務省が同月29日に国家安全保障上の脅威になるとしてJHICCへの輸出規制措置を発表したことに対し、「米国は誤った措置を直ちに停止すべきだ」との見解を表明した。 米国の最近の一連の措置は、関税措置よりも中国当局の関心を引くとみられる。なぜならJHICCは習近平国家主席が推進するハイテク産業振興戦略「中国製造2025(メード・イン・チャイナ2025)」の一翼を担っているからだ。同戦略は世界的レベルの半導体産業の構築を目指している。米商務省が中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)に対して科した制裁は、習主席の強い要請を受け、トランプ大統領が撤回した結果、解除が決定している。同社は米国部品に依存しており、制裁により事業が破綻する恐れがあった。中国政府はJHICCのような自国のスタートアップ企業に対する補助金を引き上げている。同社に対しては国家基金から57億ドルの補助金が支給されている。 関税措置では、直接関係のない一般消費者にも経済的打撃が及ぶのに対し、輸出規制や裁判所への提訴は疑惑対象に焦点を当てるという利点がある。こうした措置は、米国が望んでいるのが産業情報の窃盗や盗作行為を処罰することであり、自由貿易や誠実な商業慣行を罰することではない、とのメッセージを送ることになる。中国政府は自国がどのような貿易パートナーになりたいのか、選択しなければならない。 関連記事 中国・台湾企業を米が起訴 産業スパイの罪で 米、中国半導体メーカーへの米製品販売を制限 中国は米企業技術をこうして入手する 米中貿易摩擦、増えるハイテク企業の犠牲
IT分野の研究開発費、中国が米国に出遅れる訳 米企業はアマゾンやグーグルがけん引、中国企業の5倍投資 幅広い事業を手掛けるアマゾンは倉庫用ロボットや宅配ドローンなどに巨額の研究開発費をかける By Timothy W. Martin 2018 年 11 月 2 日 12:11 JST 更新
【ソウル】米中両国の貿易やテクノロジーを巡る攻防が激しくなる中、米企業はある重要分野で、競合する中国企業より明らかに優位に立っている。それは研究・開発(R&D)への支出額だ。 アマゾン・ドット・コムやグーグル親会社のアルファベットをはじめとする米企業は、中国企業の1ドルに対して、5ドル以上をR&D に投資している。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の最新報告書で明らかになった。PwC は株式上場企業の中でR&D支出の多い上位1000企業を対象に、1年間(2017年7月1日〜18年6月30日)のデータを集計した。 中国の巨大IT(情報技術)企業である百度(バイドゥ)、テンセントホールディングス、アリババグループの支出額は、少なくとも他の44企業を下回った。3社より上位だった企業の中にはパナソニックの名もある。 格差の背景には、中国企業の過去10年間の技術革新に対する姿勢、すなわち「独自の研究よりも、既存技術をどう応用するか」に力点を置いたことがあるだろう。中国内外の企業への助言を行う高風恣詢公司のエドワード・ツェ最高経営責任者(CEO)はそう指摘する。例としてモバイル決済やメッセージングアプリを同氏は挙げた。 しかしながらPwCの数字には非上場企業が含まれておらず、中国の国有企業や、民間大手通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)は除外されている。同社は昨年のR&D支出が130億ドル(約1兆4700億円)を超えたとしている。 IT分野の研究開発費、中国が米国に出遅れる訳 PwCが集計した1年間のR&D支出総額は、過去最高の7818億ドル。このうち米企業が3290億ドルを占めていた。中国のR&D支出は610億ドルにとどまるが、2010年の70億ドルに比べると拡大。また上位1000企業のうち、中国企業が145社ランクインし、10年前の14社から急増した。 R&D支出の伸びは、国産の技術革新を進めるよう中国企業への圧力が強まったことを反映する。特に人工知能(AI)や次世代通信規格の5G、自動運転技術などでその傾向が顕著だとツェ氏は話す。 「米国と中国の差は縮まっており、さらに縮小し続けるだろう」。報告書の主執筆者であるPwCのバリー・ジャルゼルスキー氏は話す。「今後10年で逆転してもおかしくない」 R&D支出の多い中国企業ではアリババが36億ドル、テンセントが27億ドルだった。これに対し、全体で首位に立ったアマゾンは226億ドル(前年比40%増)、アルファベットは162億ドルを投じた。 シリコンバレーのIT大手は、中国の競合企業より売上高が多いため、対売上高の割合でR&D支出を比較すると両者の差はより小さくなる。 アマゾンの場合、倉庫作業を担うロボットや宅配用ドローンなど、R&D支出の対象となる事業は多岐にわたる。同社は9月にAIアシスタント「アレクサ」を搭載できる15種類の端末を発表したほか、通販サイトで商品を実感してもらうため、仮想現実(VR)技術を導入し始めた。 アルファベットは、AI分野などの技術系人材の育成に主に投資してきた。ルース・ポラット最高財務責任者(CFO)は先週の決算会見で、R&Dは同社にとって営業経費増加の最大の要因だと語った。 一方、テンセントは昨年、米国における初のAI研究拠点をシアトルに開設した。ここを率いるのは元マイクロソフト社員で音声認識を専門とする研究者だ。深圳のテンセント本社にあるAI研究所は200人余りのエンジニアと50人のAI専門家を擁する。シアトルの拠点はこれを補完するものとなる。 The Tech Arms Race Driving the U.S.-China Trade Dispute
「中国製造2025」はハイテク分野での覇権を目指す中国政府の計画だが、米トランプ政権は中国政府が国内IT企業に不公正な便益を与えていると主張する(英語音声・英語字幕あり) アリババは最近、独自のAIチップを開発する半導体部門を立ち上げると発表した。将来的には自動運転車やスマートシティへの利用を想定している。 アマゾンとアルファベットはコメントの求めに応じず、百度とアリババもコメントを控えた。テンセントは11月14日に予定する決算発表の前にはコメントできないとした。 米科学委員会(NSB)は今年公表した報告書の中で、世界のR&D支出のより幅広い尺度に基づき、中国の投資は米国のおよそ5分の4の規模だと述べた。 PwCの研究チームは、投資と技術革新の間に相関関係は認められなかったとした。調査で判明したのは、R&D支出の原動力はハイテク産業であり、世界全体の支出額のほぼ4割を占めていたことだ。 中国IT大手のR&D支出が比較的少ないのは、シリコンバレーに比べて創業年数が浅く、世界的な事業規模や予算がまだ十分でないことが一因だろうと業界専門家は指摘する。 また、アリババやテンセントなどは、社内の研究部門よりもM&A(合併・買収)を通じて技術革新を進める傾向がある。ニューヨーク大学スターン経営大学院のサブリナ・T・ハウエル助教(金融学)はそう指摘する。 「中国ではR&Dの一環として技術革新のアウトソーシングが行われている」 もう一つの要因としてR&D資金による購買力の差がある。科学者や技術者を雇用する際には特にそれが顕著だ。 世界経済フォーラムによると、中国では2016年に科学、工学、数学の分野で470万人が大学を卒業した。これは米国の卒業者数56万8000人の8倍以上にもなる。 「同じ100万ドルを投じたとして、何人の科学者を雇えるだろうか」とPwCのジャルゼルスキー氏は問う。「中国では米国よりも雇えるPh.D.の数が多いだろう」 関連記事 米中貿易摩擦、増えるハイテク企業の犠牲 5G覇権争う米中、巨額の利益はどちらに 中国リサイクル企業の米進出相次ぐ 米国のスクラップを加工後、中国に輸出する計画 UPTグループが米ジョージア州で来月から稼働させる予定の工場で、ペレットに加工処理されるのを待つ廃プラスチックの山 MELISSA GOLDEN FOR THE WALL STREET JOURNAL By Bob Tita 2018 年 11 月 2 日 16:40 JST 中国企業が米国国内に、古紙やプラスチックを加工処理する拠点を相次いで開設している。中国に直接輸入するには不純物が多すぎると中国政府が判断したリサイクル資源を受け入れるためだ。 中国が今年、輸入スクラップの基準を厳格化して以降、米国からの古い段ボールや新聞紙、廃プラスチックの出荷量は頭打ちとなり、中国の包装会社やプラスチック製造会社は材料不足に陥っている。 そうした企業の一部は、中国で原材料を確保できない段ボールやパルプ、プラスチックペレットを製造するため、米国の工場を買い取ったり、新たに建設したりしている。中国の大手製紙メーカーなどは、米国で供給過剰になった安いリサイクル素材に目をつけている。 「中国が引き受けなくなった今、プラスチックごみは至る所にある」。米国で長年、プラスチックくず取引業を営むソン・リン氏はこう話す。同氏はジョージア州で工場開設の準備を進める。廃プラスチックをペレットに加工し、中国に輸出するためだ。 廃品仲介業を営むソン・リン氏(写真左)とビジネスパートナーのツァン・ヤン氏。ジョージア州に開設するリサイクル工場で廃プラスチックをペレットに加工し、中国に輸出する計画だ 廃品仲介業を営むソン・リン氏(写真左)とビジネスパートナーのツァン・ヤン氏。ジョージア州に開設するリサイクル工場で廃プラスチックをペレットに加工し、中国に輸出する計画だ PHOTO: MELISSA GOLDEN FOR THE WALL STREET JOURNAL こうした動きは米スクラップ産業への追い風となる。中国向けの輸出急減を受け、このところ業績が低迷しているからだ。投資家は主に中国のプラスチック・紙メーカーの子会社や、中国の大口顧客への納入企業などで、中国への輸出に伴う物流面・規制面の課題をくぐり抜けるのは慣れている。 中国段ボール大手、玖龍紙業(ナイン・ドラゴンズ・ペーパー)の子会社NDペーパーは、ここ数カ月の間にカナダのカタリスト・ペーパーからウィスコンシン州バイロンとメーン州ラムフォードの製紙工場を1億7500万ドル(約197億円)で取得。ウェストバージニア州フェアモントのパルプ工場も5500万ドルで取得した。さらに今月、OTMホールディングスからメーン州オールドタウンのパルプ工場を買い取った。この工場は2015年に稼働停止していたが、NDペーパーは来年早々に再開させる予定だ。 低迷するスクラップ輸出 中国の新規制導入で米国からの古紙・プラスチック輸出に打撃 米国のスクラップのうち中国に輸出される割合 Source: Institute of Scrap Recycling Industries Note: Through August 2018 % 古紙 プラスチック 2012 ’13 ’14 ’15 ’16 ’17 ’18 0 20 40 60 80 古紙x2017x59.5% 「4工場とも輸出を主眼とする」。NDペーパーのケン・リュウ最高経営責任者(CEO)はこう話す。競合する山鷹国際控股も同じく、米市場に飛び込んだ。子会社のグローバル・ウィン・ウィクリフは、8月にケンタッキー州ウィクリフの遊休製紙工場(2年前に閉鎖)を1600万ドルで取得。1億5000万ドルを投じて再稼働させ、いずれは約500人を雇用する予定だ。グローバル・ウィンは工場取得についてコメントを控えた。 ニュースレター購読 中国は世界最大のスクラップ消費国だ。過去20年にわたって米国のリサイクル制度で収集された資源が向かう重要な輸出先だった。だがこの制度が広がるにつれ、廃棄食品や液体などが染みこんだ大量の古紙やプラスチックが中国に運ばれるようになった。 UPTグループがジョージア州モンテズマで稼働させるリサイクル工場 UPTグループがジョージア州モンテズマで稼働させるリサイクル工場 PHOTO: MELISSA GOLDEN FOR THE WALL STREET JOURNAL 米国のリサイクル業者は今年導入された中国の厳しい基準に不満をこぼす。毎回のスクラップ積載量のうち不純物を0.5%以下に抑えるという基準は、現在の仕分け方法では達成が難しいからだ。 業界団体ISRIによると、今年1月〜8月の中国向けの再生紙輸出量は、前年同期比40%減の490万トンとなり、廃プラスチック輸出量は93%減の3万5000トンにとどまった。 ソン・リン氏は写真のようなペレットを中国のプラスチック製パイプのメーカーに輸出する考えだ ソン・リン氏は写真のようなペレットを中国のプラスチック製パイプのメーカーに輸出する考えだ PHOTO: MELISSA GOLDEN FOR THE WALL STREET JOURNAL プラスチック輸出が落ち込んだため、ソン・リン氏は輸出仲介業から商売替えし、プラスチックペレット製造会社のUPTグループを立ち上げた。同氏は今年、ジョージア州モンテズマにある元冷凍食品倉庫を購入した。来月には設備を稼働させ、古いプラスチックを洗浄し、プラスチックペレットの生産を始める予定だ。最大で年産2万トンを目指している。 ソン氏はペレットをジョージア州の港から、中国にあるプラスチック製パイプのメーカーに輸出する考えだ。「彼らは作ったものを全部買ってくれるだろう」と同氏は語った。 関連記事 行き詰まる米リサイクル業界、中国への輸出停止で 米国産スクラップ、中国「もういりません」
10月の米雇用統計、5つの注目点 WSJのエコノミスト調査では、非農業部門就業者数が前月比18万8000人増、失業率は横ばいの3.7%と予想 By Eric Morath 2018 年 11 月 2 日 11:58 JST 米商務省は2日に10月の雇用統計を発表する。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がまとめたエコノミスト調査では、非農業部門就業者数が前月比で18万8000人増加し、失業率は前月から横ばいの3.7%になると予想されている。以下に5つの注目点を挙げる。 1. 賃金上昇が年率3%を超えるか 労働者の賃金上昇率は10年近くも超えられずにきた年率3%という天井を突き破りそうである。WSJがまとめたエコノミスト調査では、10月の平均時給が9月比0.2%(約5セント)増になると予想された。その予想が正しければ、賃金上昇率は前年同月比で3.1%ということになる。前年同月比の賃金上昇率が最後に3%を超えたのは2009年4月だった。10月の賃金上昇率が前年同月比で急伸した一因には昨年10月の賃金が減少していたということがある。とはいえ、労働者の賃金は全体的に改善傾向にある。これは数年におよんだ賃金上昇率の低迷の後、労働市場の歴史的なひっ迫によって昇給がもたらされているという証しである。 2.採用は鈍化しているのか エコノミストは採用に関して、軟調だった9月から好調に戻ると見込んでいる。9月の非農業部門就業者数は前月比13万4000人増で、この1年間で最も少なかった。過去12カ月間の月平均は21万1000人増である。10月の就業者数の伸びがまたしても予想を大きく下回った場合には、労働市場と経済全般がサイクルのピークから下り始めているとの懸念が生じるかもしれない。 3.天候の影響は 10月10日にフロリダ州のパンハンドル地域に上陸した大型ハリケーン「マイケル」は南部諸州の一帯に被害をもたらした。9月にノースカロライナとサウスカロライナの州境近辺に上陸したハリケーン「フローレンス」と同様、その被害の中心は人口が比較的少ない地域だったため、米経済への影響は限定的となった。先月、悪天候のために出勤できなかった人は31万3000人に上ったが、失業者の数には入っていない。一部のエコノミストは9月の就業者数の伸びが軟調だった理由としてフローレンスの影響を挙げたが、マイケルも同じような影響をもたらす可能性がある。企業が天候の影響による遅れを取り戻そうとすれば、11月と12月の就業者数は急増するはずだ。 4. 失業率は最低記録を更新するか 失業率は9月に49年ぶりの低水準を記録した。さらに下がる可能性はあるのだろうか。これについては低失業率と少し上昇した賃金を背景に、就労を半ばあきらめていた人々を労働市場に引き戻せるかどうかにかかっている。労働市場に復帰する人が増えれば、失業率は現状維持か上昇する可能性がある。失業率がさらに低下すれば、雇用主は賃上げ圧力の一層の高まりを感じることになるだろう。10月の雇用統計で失業率の新たな記録が生まれる可能性は低い。9月の失業率は1969年12月の3.5%以来の低水準だったが、同年には3.4%を記録した月もあった。1950年代以来の最低記録を更新するには失業率が3.3%にまで低下する必要がある。 5. 市場の反応は この数週間、神経質になっている投資家を10月の雇用統計で喜ばせるのは至難の業かもしれない。雇用統計が賃金上昇と失業率低下を示す堅調な内容となれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が景気の過熱を避けるために来年に入っても利上げを継続することへの懸念があおられる公算が大きい。金利の上昇は通常、株価の重しになる。しかし、就業者数の伸びが2カ月連続の低迷となった場合には、減税と政府支出拡大による景気刺激効果が急激に薄れているという見方が強まりそうだ。就業者数が堅調な伸びを示し、賃金上昇率が労働人口の拡大によって抑えられたという内容であれば、投資家は喜ぶかもしれない。 関連記事 米経済の3%成長、「持続可能」とは呼べない理由 米大卒者の約4割、大卒資格不要の仕事に就職 初任給が3300万円? 米PE投資会社で人材争奪戦 有望な新人アナリスト求め、今年の面接がスタート トーマ・ブラボーは先週末、早くも採用活動を開始。うわさは瞬く間にPE業界のライバルに広まった トーマ・ブラボーは先週末、早くも採用活動を開始。うわさは瞬く間にPE業界のライバルに広まった PHOTO: MICHAEL NAGLE/BLOOMBERG NEWS By Liz Hoffman and Miriam Gottfried 2018 年 11 月 2 日 13:04 JST 更新 大手プライベートエクイティ(PE)投資会社は、数十億ドル規模の企業買収にしのぎを削るのには慣れっこだ。だが今こうした投資会社は、大量のスプレッドシートを読みこなす22歳の若者を巡ってにらみ合っている。 業界挙げての争奪戦が今週、始まった。若いインベストメントバンカーを採用するためだ。 事情に詳しい関係者によると、口火を切ったのはトーマ・ブラボーだ。先週末に人材募集の最初の呼びかけをしたという。うわさは瞬く間にライバルに広まり、週明け10月29日には大手PE投資会社のほぼ全て(ブラックストーン・グループ、アポロ・グローバル・マネジメント、カーライル・グループ、TPGキャピタルなど)で面接が始まった。 年間採用活動がスタートしたPE各社では、初級職の募集窓口が熱気を帯び、あっという間にオファーが終了となる。候補者は今春に大学を卒業し、ほんの数週間前に金融機関の投資銀行部門に配属されたばかりの若者たちだ。 幸運にも採用が決まれば、金融アナリストとして2年間の研修を受け、2020年夏にはPE投資会社での勤務をスタートする。初任給の年収は30万ドル(約3380万円)を超えることもある(若手のアナリスト職は通常、ボーナスを含めた年俸が数十万ドル台の前半になる)。 「まともじゃない」と金融人材サイトのウォール・ストリート・オアシスを運営するパトリック・カーチス氏は言う。「このタイミングには多くの人が不意打ちを食らったはずだ」 採用活動は、志願者が少なくとも1年間の経験を積んだ翌年夏に行われるのが常だった。しかしその時期は徐々に早まっている。望ましい人材を他社に先駆けて確保しようとするからだ。2014年は面接が2月に前倒しされた。昨年の採用活動が始まったのはクリスマスの前だった。志願者によると、興奮に満ちた面接シーズンと「破格の」オファーは、場合によっては24時間たたずに終了するという。 かつて米国の銀行はアナリストの3分の2が職にとどまると見込んでいた。だが近年は定着率が次第に低下している。買収ファンドやIT(情報技術)企業などが採用を活発化させているからだ。一部の銀行は従業員の離職を防ぐための取り組みを始めた。 ゴールドマン・サックス・グループは2年前、昇進を早める制度を設け、長時間勤務を減らした。最も有望なアナリストを早い段階で見つけ出し、彼らには在職6カ月くらいで昇進のチャンスを提案することにした。昨年の場合、PE投資会社がちょうどその頃に引き抜きを始めたからだ。 「若手バンカーに多くの選択肢があることは十分理解している。だから最高の人材が会社にとどまるよう、我々にできることは何でもやっている」。ゴールドマンの最高経営責任者(CEO)に最近就任したデービッド・ソロモン氏は2016年にこう語った。 仕事の経験が浅い場合、ヘッドハンターが参考にするのは、出身大学のグレードや現在の勤め先がどれほど実績のある会社かといったことだ。パーソナリティー・テストや問題解決テストを行う場合もある。 「経験に基づいて目星をつけている」。PE専門の人材紹介会社ベルキャスト・パートナーズの共同創業者、アリソン・ベリノ氏はこう話す。「ここまで前倒しになったのは残念だ。誰も望んでいないのだが」 一部の企業はスタートを遅らせようと調整するが、それでも先を行く企業が出てくるのは必至だ。他社は後に続くことを余儀なくされる。 「坂を転がる雪だるまのようだ」とベイン・キャピタルの北米PE部門で人事・人材開発部門を率いるスーザン・レバイン氏は言う。「何か構造的な変化が必要だ」 4年前はアポロとセンターブリッジ・パートナーズ、昨年はフランシスコ・パートナーズが先駆けになったと関係者は話す。今年先陣を切ったトーマ・ブラボーは、サンフランシスコ本社から幹部が志願者と面接するためニューヨークへ飛んだ。 「誰も後れを取りたくないのが本音だ。もうこれ以上早くできない限界に達している」とある中規模ファンドの幹部は言う。 別の見方もある。金融人材サイトのカーチス氏は、PE投資会社が大学4年生にアプローチし、2年余り先の仕事を約束するのではないかと予想する。「論理的に考えると次のステップはそれだ」と同氏は言う。 関連記事 米労働市場の「スラック」消滅、賃上げ本番へ 米企業の採用枠が埋まらない、その意外な理由 変わるPE投資会社、ますます銀行の領域に 常勝ファンド「ビスタ」の成功法則とは
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