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働く高齢者を増やせば将来の労働力不足はどの程度緩和できるか
https://diamond.jp/articles/-/183967
2018.11.1 野口悠紀雄:早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 ダイヤモンド・オンライン
これからの高齢者は、年金に頼るのでなく働くことが必要だと、前回(10月25日付け)コラム「年金だけでは老後の生活を賄えない、対処の最善策は就労年数の延長だ」で書いた。
高齢者が働くことは、経済全体の労働力不足解消の観点からも期待されている。企業は、人手不足対策として、高齢者の雇用を考えているのだろう。
しかし、以下では、高齢者の就労を促進しても、将来の労働力不足は解消しないことを示す。
日本の労働力人口は、
2040年までに1300万人減少する
人口の高齢化は、労働人口の減少をもたらす。以下では、将来の労働力人口がどのようになるかを推計する。
最初に、全体の姿の概要をつかんでおこう。
「労働力調査」によると、2015年における年齢階級別の人口、労働力、人口に対する労働人口の割合を示す労働力率は、図表1のとおりだ。また、年齢階層別人口の推移は図表2のとおりだ。
◆図表1:年齢階級別の人口、労働力、労働力率(2015年)
◆図表2:年齢階層別人口の推移
15年から40年までに、15〜64歳人口が約1750万人減る。したがって、仮に労働力率が76.1%のままだとすれば、労働力人口は1300万人強減る。働く高齢者が増えるので、ある程度は補えるが、労働力の減少は避けられない。
60年までには、15〜64歳人口が約2900万人減る。したがって、労働力人口は2200万人減る。これに対処するのはきわめて困難だ。
以上のことを、もう少し正確に計算すれば、つぎのとおりだ。
将来における年齢別の労働力率が、図表1に示した15年の数字のままで変わらないと仮定しよう。
将来人口の値(図表2)を用いて労働力人口を推計すると、図表3のようになる。
◆図表3:将来の労働力人口(年齢別労働力率不変の場合)
15年との比較では、40年に約1300万人減り、60年には約2300万人減少する。
15年の製造業の就業者が約1000万人であることと比較すると、これがきわめて大きな変化だということが分かる。
日本経済は、深刻な労働力不足経済に突入するのだ。
なお、将来の労働力人口に関する推計としては、いくつものものがある。
内閣府「労働力人口と今後の経済成長について」(平成26年3月)によれば、13年における労働力人口は6577万人だが、30年には894万人減って5683万人になる(現状維持ケース)。
私は、『2040年問題』(ダイヤモンド社、2015年)で、内閣府の数字と将来人口推計の計数を基にして、労働力人口の推計を行なった。
その結果は、25年で6059万人、30年で5834万人、40年で5156万人、50年で4530万人というものだ。上で述べた数字は、これとほぼ同じものだ。
日本の労働力率は欧米に比べて低く
時系列的にも下がってきた
人口全体が減少するから、労働力の絶対数が減少しても大きな問題にはならないと考えられるかもしれない。
しかし、そうではない。なぜなら、図表3に見るように、労働力率も低下するからだ。
他方で、労働力に対する需要は増加する。とくに、医療介護の分野では、高齢者の増加に伴って労働力に対する需要が増加する。したがって、いまのままでは、将来の日本で、労働の需給が著しくタイトになるのである。
日本の労働力率は、欧米諸国に比べて低い。
15歳以上について見ると、2016年で、アメリカ62.8%、ドイツ61.0%、スウェーデン72.1%なのに対して、日本は60.0%となっている。
日本の労働人口比率は、図表4に示すように、13年頃までは、時系列的に見ても下がってきた。その結果、1995年に63.4%だったものが、2017年に60.5%になっている。
◆図表4:労働力率の推移
ただし、年齢別に見ると、25歳から64歳までのどの年齢階層でも、労働力率はこの期間に上昇している。
したがって、経済全体の労働力率の低下は、人口の年齢別比率の変化によると考えられる(注)。
高齢化が進めば、経済全体の労働力率はさらに低下する。図表3に示すように、年齢別労働力率が不変の場合には、経済全体の労働力率は40年には54.0%、60年には52.0%と、かなりの低水準になると予想される。
しかし、それなら、主として高齢者の労働力率が上昇するはずだが、実際には、どの年齢階層を見ても、13年以降、労働力率が上昇している。
むしろ、それまで低下を続けていた15〜19歳、20〜24歳の労働力率が上昇したことの影響が大きい。
(注)労働力率は、2013年から上昇している。これは年金支給開始年齢引き上げの影響であろうか?
高齢者の労働力率を高めても、
労働力不足は解消できない
将来における労働力需給逼迫に対処するために、高齢者の労働力率を高めることが考えられる。
65歳以上人口は、現在、約3500万人いる(図表1)。それが、2040年には約4000万人になる(図表2)。
ところで、この階層の労働力率は、いまは約22%だ。これを約10%ポイント引き上げることができれば、40年における労働力は、図表3で示したものよりは400万人程度増えることになるだろう。
このことをより正確に評価するため、図表1、2の計数を用い、高齢者の労働力率としていくつかの値を想定して、シミュレーションを行なった。
そのうち、2つのケースについての結果は、以下のとおりだ。
(1)65歳以上の労働力率を5割引き上げ
まず、65歳以上の労働力率を5割引き上げて、65〜69歳は64.1%、70歳以上は20.8%になる場合を考える。
結果は、図表5の(1)のとおりだ。
◆図表5:(1)高齢者の労働力率引き上げ
労働力率不変の場合(図表3)に比べると、労働力は、40年、60年で400万人程度増える。したがって、労働力不足は、ある程度は緩和される。
しかし、そうであっても、15年と比べた労働力は、40年には約880万人減り、60年には約2000万人減少となる。また、経済全体の労働力率も、40年に58.1%、60年に56.1%となって、現在よりかなり低下する。
こうしたことを見れば、労働力不足問題が解消されたとは言えない。
(2)労働力率を6割に保てるように、高齢者の労働化率を引き上げる
つぎに、経済全体の労働力率を約6割に保てるように、高齢者の労働化率を引き上げる場合を考える。
労働力率を65〜69歳は74.8%とし、70歳以上は34.7%とすれば、これが達成できる。
これは、65〜69歳が現在の15〜64歳と同じように働き、70歳以上も約3人に1人が働くというものだ。
現実にこれを実現するのはかなり無理かもしれないが、経済全体の労働力低下を高齢者の就業促進だけで実現しようとすれば、このようなことが必要になるのだ。
この場合の結果は、図表5の(2)のとおりだ。
◆図表5:(2)全体の労働力を60%以上に保つよう高齢者労働力率を引き上げ
労働力率不変の場合(図表3)に比べると、労働力は、40年、60年で800万人から900万人程度増える。したがって、労働力不足は、かなりの程度、緩和される。
しかし、それでも、60年で労働力が15年より1400万人以上減ることは避けられない。高齢者の就労を増やすだけでは、若年者人口の減少には対処できないのだ。
高齢者の就労促進は、高齢者の所得や生きがいの確保のために重要なことだ。しかし、経済全体としての労働力確保の観点からは、これに頼り切ることはできない。
労働力確保の観点から重要なのは、つぎに述べる女性労働力率の引き上げと、外国人労働者の活用だ。
女性の労働力率がスウェーデン並みになれば
労働力が約1000万人増加
労働力不足に対応することが目的であれば、女性の労働力率を高めるほうが効果はある。
2016年での15歳以上の女性の労働力率を見ると、日本は50.3%であり、欧米諸国に比べて低い。欧米では、アメリカが56.8%、スウェーデンが69.7%、ドイツが55.6%となっている。
そこで、女性の15歳以上労働力率を70%に引き上げたものとしよう。
15歳以上の女性人口はほぼ4000〜5000万人だから、これによって、労働力人口は約800〜1000万人増えるはずだ。
人口推計の値を用いて正確に計算した結果は、図表6に示すとおりだ。
労働力率が50.3%にとどまる場合との差は、40年で975万人、60年で821万人になる。
労働力がこれだけ増えれば、全体の労働力率も上昇する。40年で63.9%、60年で61.8%になる。こうして、経済全体としての労働力率の落ち込みを回避することができる。
ただし、子育て期の女性の労働力率を高めるには、子育て支援などの政策が必要だ。それは、決して容易な課題ではない。
したがって、高齢者と女性の労働力率の引き上げだけに頼るのでなく、それ以外の方策も考えなければならない。
第1は、新しい技術(とくにAI)の導入によって生産性を高めることだ。 第2は、外国人労働者の活用と移民の拡大である。これら問題を日本は避けて通ることができない。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
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