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「消費税10%」の罠。まるでひっかけ問題のように複雑怪奇な軽減税率の仕組み
https://wezz-y.com/archives/60160
2018.10.27 wezzy
以前、消費税が低所得者には過酷な税であることを、『いよいよ消費税10%、意外に知られていない消費税の実態とは』という記事で指摘した。
他にも、消費税には、輸出大企業が消費税の還付金で儲かるカラクリ(トランプ大統領は、これを輸出産業への補助金だとして日本の増税に反対している)など多くの問題があるが、今回は私たちが直接体験するであろう軽減税率の「ややこしさ」について触れてみたい。
軽減税率とは、2019年10月から10%に増税される消費税に対して、一部の消費については現状の8%のまま据え置こうという仕組みだ。
これがもうほとんど、大の大人が集まってコント(しかも面白くない)でもやっているのか、というほどに面倒な話になっている。簡単に言うと、ファストフードで同じハンバーガーを買っているのに、あなたは10%払わなければならないが、隣のお客さんは8%しか払わなくてもいいという現象が起きるのだ。
■まずどんなことが起きる?
軽減税率とは何か、について触れる前に、まずは軽減税率の導入でどのような現象が起きるのか予測したい。
●ハンバーガーショップでのこと
あなたがファストフード店でハンバーガーを注文したところ、「お持ち帰りですか? 店内でお召しあがりですか?」と尋ねられたので、「店内で食べます」と答えた。すると、消費税が10%かかった。ところが隣のレジで「持ち帰ります」と答えたお客さんは、「それでは消費税は8%になります」と店員に言われている。なんだか損した気分になった。
●コンビニエンスストアでのこと
あなたはコンビニでパンと牛乳を買った。「食品だから軽減税率で8%か…」などと思っていたらレジで店員に「イートインをご利用ですか?」と尋ねられたので「はい」と答えた。「それでは消費税として10%いただきます」と言われて「はぁ?」と口に出してしまった。
●中華料理屋さんでのこと
「ここの餃子おいしいな。お土産に買って帰ろう」。あなたは店内で食事を済ませると、レジでお土産の餃子も注文して代金を支払おうとした。消費税は10%だからすぐに計算できる。すると思ったよりも安い代金を請求された。「あれ? 店員さん間違えたのかな? 得したのか?」。レシートを見ると店内で食べた餃子は消費税が10%、お土産用の餃子は消費税が8%だった。「同じ餃子なのに?」と首をかしげた。
●屋台でのこと
あなたは同僚と屋台でラーメンを食べたところだ。先日立ち寄った別の屋台での経験から、あなたは同僚に得意げに語った。
「屋台はね、軽減税率の対象だから消費税は8%なんだぜ」
しかし、食べ終わってお勘定を払おうとすると、消費税が10%だと言われて恥をかいた。同僚は、「あぁ、この店は椅子とカウンターがあるからな」と言う。どういうことなのか。
●駅の売店でのこと
あなたは今朝、家で新聞を読む暇がなかったので駅の売店で購入した。「新聞は軽減税率対象品だから消費税8%だな」と思っていたら、しっかり10%取られていた。
いったい何が起きているのだろうか?
■軽減税率とは
軽減税率とは、消費税を増税することで消費者の負担が大きくなり、生活が苦しくなったり消費が低迷してしまったりすることを防ぐために、食料品など一部の商品に対しては一定の条件で税率8%に据え置こうという制度だ。
そこまで言うなら増税しなければよいのだが、増税ありきの議論をしているため、このようなことになっている。国税庁が公開している『よくわかる消費税軽減税率制度』という「よくわからない」パンフレットを確認してみよう。
そこでは軽減税率の対象品について解説されている。まず軽減税率対象のメインとなる食料品の定義は以下のようになっている。
“飲食料品とは、食品表示法に規定する食品(酒類を除きます。)をいい、一定の一体資産を含みます。外食やケータリング等は、軽減税率の対象品目には含まれません。※ 食品表示法に規定する「食品」とは、全ての飲食物をいい、人の飲用又は食用に供されるものです。また、「食品」には、「医薬品」、「医薬部外品」及び「再生医療等製品」が除かれ、食品衛生法に規定する「添加物」が含まれます。”
上記の文中に「一体資産」なる用語が使われているが、これについても解説されているので引用しておく。
“「一体資産」とは、おもちゃ付きのお菓子のように、食品と食品以外の資産があらかじめ一体となっている資産で、その一体となっている資産に係る価格のみが提示されているものをいいます。一体資産のうち、税抜価額が1万円以下であって、食品の価額の占める割合が2/3以上の場合、全体が軽減税率の対象となります(それ以外は全体が標準税率の対象となります。)。”
つまり、お菓子におもちゃのおまけが付いている場合、おもちゃは食料品ではないが、面倒なので軽減税率にまとめてよいということだ。また、外食、テイクアウト、ケータリング、出前・宅配についても解説されているので引用する。
外食とは、
“飲食店営業等、食事の提供を行う事業者が、テーブル・椅子等の飲食に用いられる設備がある場所において、飲食料品を飲食させる役務の提供”
テイクアウトとは、
“飲食店業等が行うものであっても、テイクアウトは、単なる飲食料品の譲渡であり、軽減税率の対象※「外食」か「テイクアウト」かは、飲食料品を提供する時点で、顧客に意思確認を行うなどの方法で判定します。”
ケータリングとは、
“相手方が指定した場所において行う役務を伴う飲食料品の提供 ”
出前・宅配は、
“相手方が指定した場所において行う役務を伴う飲食料品の提供”
そして今回、食料品ではないのに軽減税率の対象になっている新聞についての定義は以下の通りだ。
“軽減税率の対象となる新聞とは、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行されるもので、定期購読契約に基づくものです。”
以上、公式見解を確認したところで、補足をしてみる。
■ざっくりとまとめるとこうなる(今のところ)
ざっくりとまとめると、酒類を除く食料品は「買って帰るのなら」現状の8%で据え置くということだ。ただし、以下の買い方をした場合は10%になる。
・飲食店で食べた場合。
・フードコートやイートインで食べた場合。
・出張調理を頼んだ場合(誰が頼むのだろう)。
これですっきりするかと思ってはいけない。以下の場合も「買って帰る」軽減税率の対象になるのでややこしい。
・ファストフードでもテイクアウトした場合。
・出前や宅配注文した場合。
・屋台と言ってもテーブルや椅子がなく、買ってからその辺で食べた場合。
・学校の寮や老人ホームなど、食券を購入しないで食べた場合。
・映画館で映画を観ながら食べるポップコーンを買った場合。
つまり、同じピザを注文するなら、自宅に配達してもらった方が消費税は安くなる(配達料が高くなるが)。また、食料品ではないものの、食料品のおまけとして付いているものは分離して支払うのは煩雑なので、まとめて軽減税率の対象となる。ただし、以下の条件がつく。
・税抜き価格が1万円以下であること。
・食品の価格の占める割合が全体の3分の2以上であること。
つまり、どう見ても付録の方がゴージャスだろう、という食料品は10%になる。が、この境界線は消費者側からは見えにくい。
■酒類は10%で、ノンアルコールビールは?
ところで、今回の食料品の中からは酒類は除外されたため消費税は10%になる(予定)。ところがこれも一瞬では判断しにくい商品がある。
たとえばノンアルコールビールや甘酒は軽減税率の対象となるので8%だ。これらは本物のお酒ではないためだ。ところが、誰がどう見てもお酒ではないにもかかわらず、みりんは酒類扱い(10%)になる。規定以上のアルコールを含んでいるからという理由だ。
それではアルコールが入っていたらアウトか、というとそうでもない。お酒を使ったお菓子は「お酒ではない」ので8%だ。
ここまで書いてきて、ひっかけクイズを試されている気分になってきた。
■屋台やコンビニのイートインはどうなる?
こうなると、販売する側の混乱が予想される。たとえば「おにぎりを3個買ったけど1個はイートインで食べていく」となると、2個は8%で1個は10%となる。
それに、持ち帰りのつもりで買ったけど、「やっぱりお腹空いた!」とレジでの精算後にイートインで食べ始めたら店員が慌てて飛んできて「2%追加します!」とでも言うのだろうか?
それに、店前の駐車場の車内で食べた場合は持ち帰りなのか? この混乱を避けるため、現在、その店舗での食料品の売り上げの一定割合を「えいやっ!」と10%にする方法や、原則イートインでの飲食を禁じるなどという案が浮上している。
また、回転寿司で、一部のお鮨をプラスチックのパッケージに入れて持ち帰ることができるが、これも会計時には分類するのだろうか?
■自動販売機はどうなる?
少々疲れてきたが(というか呆れてきたが)、ついでに触れておくと、自動販売機で売られている飲料や食料品は軽減税率の対象であり8%だ。
――が、飲食店の施設内やガソリンスタンドの店舗内では対象外なので10%になる。ところが、たとえばガソリンスタンドの店舗内の自動販売機でジュースを買っても、車に持ち込んで(つまり店舗から持ち出して)飲む場合は8%でなければならない。いったいどうやって自動販売機が、購入者が飲む場所を事前に判断できるのだろうか?
そこで、この場合も、自動販売機の売り上げの一定割合が持ち帰られていると仮定して、売り上げの何割を8%、残りを10%とする処理になるようだ。
■まだまだ煩雑さは盛りだくさん
さて、以上のように買う側も売る側も混乱しそうな軽減税率だが、他にも混乱の要因はある。クレジットカードやスマートフォンなどでキャッシュレス購入をした場合は2%還元される仕組みが検討されている。また、水道などの命に関わる消費が軽減税率の対象外なのにもかかわらず、新聞が対象になっているのには、新聞業界が官僚の天下り先であることや増税肯定キャンペーンへの見返りだなどといった黒い噂も絶えない。
以上、長々と軽減税率のシミュレーションを行ってきたが、当然、企業側の財務処理やお店の経理、レジ対応など消費者以外の負担増も考えられる。いずれにせよ、軽減税率については(実は増税そのものも)まだまだ流動的なため、以上の内容はあくまで現時点での話だと注意してほしい。これを機に、今後の動向に注目してみてはいかがだろうか。
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