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消費増税の「根拠」はもはや怪しい、ゼロベースで議論し直すべきだ ジンバブエ「悪い」通貨との戦いで危機深刻化 狼狽買占め
http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/860.html
投稿者 うまき 日時 2018 年 10 月 18 日 21:30:52: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

2018年10月18日 高橋洋一 :嘉悦大学教授
消費増税の「根拠」はもはや怪しい、ゼロベースで議論し直すべきだ
  今週は、新聞各紙で、「来年10月の消費税増税」が大きく取り上げられた。
 例えば、東京新聞(オンラインの記事)では、「安倍晋三首相が、消費税率を予定通り来年十月に10%へ引き上げる方針を明言した」と書かれている。
 中でも14日に、いち早く報道した読売新聞(「YOMIURI ONLINE」)では、「安倍首相は、消費税率を来年10月1日に現行の8%から10%へ予定通り引き上げる方針を固めた」とあった。
 だが来年10月に増税することは消費増税法に明記され、9月の総裁選でも安倍首相は「予定通り引き上げたい」と繰り返してきたから、まるで今、増税を決めたかのように誤解されかねない書き方だ。
 なぜこうなったのか。筆者は消費増税を確定させたい財務省の動きがあったのでは、と見ている。
奇妙な新聞報道
財務省の意向を「忖度」?
 実際に15日の臨時閣議では何が決まったのか。
 官邸のツイッターは、閣議での「総理発言」をこう伝えている。「消費税率については、法律で定められたとおり、平成31年10月1日に現行の8%から10%に2%引き上げる予定です」。
 ちなみにこの日の臨時閣議の一般案件は「平成30年度一般会計補正予算(第1号)等について(決定)」だ。
 元官僚の筆者から見ると、「等」が悩ましい。
「等」の中に、消費税増税を政府が閣議決定したことが含まれているとも、取れなくもない記述だ。
 だが、官邸のツイッターの「総理発言」全体を読んでも、安倍首相は、来年10月の消費税率10%引き上げが、経済に影響を及ぼさないよう対策を策定したり、軽減税率の準備を進めたりするよう指示したということだろう。
 ここで、読売新聞が先駆けて報道したことの「謎解き」を試みてみよう。これには確証があるわけでなく、あくまで筆者の邪推でしかない。
 まず、財務省は2019年10月の消費税増税を確定させたいと思っているはずだ。そこで、財務省の有力OBが関連会社に天下っている読売新聞に、15日の閣議決定があることをリークする。
 その際、あたかも消費税増税を閣議決定するかのような印象を記者に与える。財務省は、それがウソにならないように「等」を閣議決定に入れた――ということではなかったか。
 しかし、それでも、筆者から見ると、読売新聞の記事の内容は奇妙だ。総理発言のように、消費税増税自体は、もう法律に書いてあるのだから、予定通りやることを閣議決定することはないはずだ。閣議決定の対象は、補正予算であり、消費増税は、予定通りやると話して、対策は大丈夫かと、確認したということだけなのだから。
 このことは、菅官房長官の記者会見での質疑(動画)からもうかがえる。
 菅官房長官は、質問に対して、「リーマンショック級の経済変動がなければ実施するというのは過去の答弁通り」、「最終的な決断は、状況を見ながら判断する」と発言して、今回の消費税増税の表明が、これまで通り(法律で決まっている)であり、今回が最終的なものでないことを明らかにしている。
 大手新聞などの多くは、消費税増税に賛成の立場だ。それは10%への消費税増税の際に軽減税率(8%)が受けられるからだ、と筆者は推測している。
 新聞社の影響力の強いテレビ局では、軽減税率を解説する際、新聞が軽減税率の対象であることを説明しないで、消費税増税を是認する報道が多いと、筆者は感じている。
 今回も、消費税増税をなんとしてもやりたい財務省の「意向」を受けて(あるいは「忖度」して)、消費税増税を閣議決定したかのような報道になったのではないか。

増税主張の根拠は怪しい

「財政再建は完了している」

 だがここに来て、消費税増税に対する世間の風向きが変化しつつあると、筆者は感じている。
 まず、自民総裁選後、来年10月の前にある夏の参院選挙がかなり意識されるようになった。自民党の議員の中から、消費税増税を掲げて参院選を勝てるのかという、政治家としては当然ともいえる意見が出始めた。
 こうした声が大きくなり、勢いを増すきっかけになりそうなのが、これまで財務省が消費税増税の根拠としていた「財政危機」説が危うくなっていることだ。
 本コラムの読者であれば、筆者が政府のバランスシートを分析して、国の財政状況が悪くないことを何度も書いてきたことを知っているだろう(例えば、2015年2月5日付け「国の債務超過490兆円を意外と簡単に減らす方法」)。
 これとほぼ同じ内容のものが、最近、国際通貨基金(IMF)から発表された。IMFの「財政モニター報告書」だ。
 これは、各国の財政状況について、負債だけではなく資産にも注目して分析したものだ。
 この報告書では、日本政府の負債額は国内総生産(GDP)の283%に相当するが、半分以上を日銀や公的年金などの、いわば公的機関が保有しており、資産と差し引きした「純資産」はほぼプラスマイナスゼロとなっている。
 このことは、筆者が指摘してきたように、事実上、財政再建は完了していると見ることができる。
 このIMFのレポートに対する海外メディアの注目度は高い(例えばロイターの記事)のだが、日本のメディアではあまり取り上げられない。
 日本のマスコミは、日本の財政状況は先進国で最悪だと、財務省の説明をうの呑みにしたようなことを書いているが、せめて、「財務省は財政状況が悪いと主張しているが、国際機関などからその主張に疑問も出ている」といった報道をすべきだ。 それが、国民に正しい情報を提供すべき報道機関のスタンスだろう。
 ちなみに、財政モニター報告書では、2ページの図1.1で、比較可能な国の「公的部門バランスシート」でのネット資産対GDP比が記載されている。それによれば、日本の公的部門のネット資産対GDP比はほぼゼロである(下図参照)。

https://diamond.jp/mwimgs/3/7/-/img_371aeca2bb67c27f6a6631b673040fca120301.jpg
拡大画像表示
 ネット資産対GDP比は、財政状況を見るのに使える。

 理論的には、ネット資産対GDP比が限りなく減少する(数学的な表現では、マイナス無限大に発散)と財政破綻、ということになる。
 またIMFの報告書ではそこまで書いていないが、35ページのAnnex Table 1.3.1.で、長期金利と一般政府のネット資産との状況について、回帰分析を行っている。
 その含意は、「ネット資産が少なくなると、長期金利が上昇する傾向がある」となっており、理論面でのネット資産と財政破綻の関係と整合的であることが示されている。
 そこで、一般政府のネット資産対GDP比とその国の信用度を表すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)レートの関係の相関を調べてみた。これを見ると、両者にはかなりの相関があることが分かる。

https://diamond.jp/mwimgs/e/f/-/img_ef8ca4e7ba00cd45839c42bf8e7791c430415.jpg
拡大画像表示
 筆者はCDSのデータから、その国の破綻確率を計算し、例えば、日本が今後5年以内に破綻する確率は1%未満であると言ってきた。このことは、IMFの報告書で日本のネット資産がほぼゼロであることと整合的だ。
「消費増税見直し」で
参院選で信を問うのもあり得る
 こうした話は、本コラムでこれまでにも書いてきた。昨年来日したノーベル経済学者のスティグリッツ教授が、経済財政諮問会議の場でも「日本の財政負債は大半が無効化されている(から財政破綻にはならない)」と、発言したこともそうだ。
 その時、増税を主張する日本のある経済学者は「スティグリッツ教授が間違っている」と強気だった。筆者はもしそうなら、スティグリッツ教授に手紙を書いて謝罪文をもらうべきと、この学者に言ったが、いまだに、スティグリッツ教授から謝罪文が届いたという話は聞いていない。
 いずれにしても、消費税増税の根拠が怪しくなった以上、消費税増税はゼロベースで議論すべきだ。
 実際問題としては、法律で税率引き上げは決まっているので、覆すのはなかなか至難の業だ。ラストチャンスとなるのが来年度予算成立後の4月から5月だろう。
 その時点で何が起きているかは分からないが、「リーマンショック級の事態に備える」と、政治判断ということで表明すればいい。法律を変える必要があるので、自民党内の増税賛成派議員を抑えられるかどうかは分からないが、「増税見直し」を掲げて参院選で信を問う形もあり得るのではないか。
 なにより、平成後の新しい時代を増税で暗い世の中にしたいのだろうか。政治家の「常識」が問われている。
(嘉悦大学教授 高橋洋一)
https://diamond.jp/articles/-/182618

 
ジンバブエ「悪い」通貨との戦いで危機が深刻化 蘇るハイパーインフレの記憶、狼狽して買い占めに走る国民
2018.10.18(木) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2018年10月15日付)

ジンバブエ、コレラ流行で非常事態宣言 1週間で21人死亡
ジンバブエの首都ハラレにある病院で、コレラ患者の処置に当たる看護師(2018年9月11日撮影)。(c)Jekesai NJIKIZANA / AFP〔AFPBB News〕

 ジンバブエが新たな経済危機に見舞われている。現地通貨は暴落しており、先週の買い占め騒ぎの後、商店の棚は空っぽになっている。

 ジンバブエの複雑な通貨制度――米ドルの裏づけがない電子マネーと独自の代用通貨「ボンドノート」が急激に価値を失っている――の問題を解決しようとする試みは、政府からの矛盾したメッセージによって阻害されている。

 直近の危機は、ハイパーインフレの記憶を呼び覚まし、ジンバブエは「開店営業中」という新政権のメッセージを損ねている。

 絶望的なドル不足のなか、現地のケンタッキー・フライド・チキン(KFC)の店舗でさえ、鶏肉を買う資金を確保できず、店を閉めることを余儀なくされている。

 問題が始まったのは今月、ムトリ・ヌクベ財務相が銀行口座を、「良い」ドルの入った口座と「悪い」ドルが入った口座の2タイプに分けると発言した時のことだ。

 「良い」口座は、何百万人もの在外ジンバブエ人が送金してくるドルの流入に裏づけられている。

 一方、「悪い」口座には、「リアルタイム・グロス・セトルメント」の略でRTGSとして知られる電子マネーが入っている。

 ジンバブエでは、ハイパーインフレを伴う経済崩壊後に政府が現地通貨ジンバブエドルを廃止して以来、もう10年近くドル化経済となっている。

 国民は米ドルと並行して流通する2つの代理通貨に対する信頼を失った。

 1つは、2016年に導入された、本物のドルの裏づけがあるとされる「ボンドノート」。

 もう1つが、物理的な紙幣が存在しないなかで、市民が様々なモノを買うために使う電子マネーだ。

 実際には、どちらもドルとの等価で売買されていない。ボンドノートは先週、1ドルに対して20セントの価値しかなかった。

 ヌクベ財務相は、根本的な原因は、事実上、実世界の裏づけなしで何十億ドルもの電子マネーを発行することになった持続不能な政府借り入れにあると認めたことで称賛を浴びた。

 だが、並行通貨制度を打ち切ろうとする財務省の試みは、政権が猛烈な通貨切り下げを通じて貯蓄を帳消しにする準備をしているとの噂を引き起こした。

 ヌクベ氏は先週、次のように語り、噂が事実だと確認したかに思えた。

 「市場は、これらの通貨は等価ではないと言った。私は市場と議論したくない。ボンドノートは、いずれどこかの時点で、廃貨しなければならない」

 その2日後、パニックが広まるなか、ヌクベ氏は――今度は国際通貨基金(IMF)年次総会のために訪れていたバリで――発言を撤回した。

 エジプトのカイロに本拠を構えるアフリカ輸出入銀行から資金保証を得た後、ジンバブエ政府はRTGSの残高のドルとの等価を守ると同発表。

 ツイッター上で、「アフリカ輸出入銀行がRTGSの口座残高と米ドルとの1対1の兌換を保証する資金枠をジンバブエに提供した」と書いた。同銀からはコメントを得られなかった。

 次第に強まる危機の気配は、経済を正常化させ、国際機関との関係を修復しようとするエマーソン・ムナンガグワ大統領の新政権の努力を台無しにした。

 ジンバブエは2001年から、IMFへの資金返済が滞っている。

 英オックスフォード大学の客員教授でアフリカ開発銀行のチーフエコノミストを経験したヌクベ氏が財務相に任命されたのは先月のこと。

 同氏の起用は、ジンバブエが改革に真剣だという姿勢を示し、世界の投資家を安心させることを狙っていた。

 だが、ヌクベ氏が政府の全面的な支援を得ているかどうかについては、まだ疑問が残っている。

 ムナンガグワ氏は、ロバート・ムガベ氏が昨年11月に解任された後に大統領の座に据えられた。

 今年7月に実施された選挙は、不正投票の疑惑と、投票日から数日後に起きた抗議者に対する軍の銃撃によってケチがついた。

 ムナンガグワ氏は、50.8%の得票率を確保したと宣言された後、ギリギリで決選投票を免れている。

 先週ロンドンで開かれた本紙フィナンシャル・タイムズの会議「FTアフリカサミット」では、ヌクベ氏は自身の計画の概要を打ち出し、ジンバブエでは「変化の風」が吹いていると宣言。

 計画されている改革の一つとして、政府はプラチナ鉱山とダイヤモンド鉱山の所有を現地資本に限定する、物議を醸す「現地化」法を撤廃する用意があると語っていた。

 また、ムナンガグワ氏の政権は文民を装った軍事政権だとの見方を否定し、「私は文民だ。私が改革を率いている」と語った。

 翻ってジンバブエ国内では、国民がドル不足にあえぎ、ヌクベ氏が電子決済に課した2%の新税に抗議している。

 この対策は、莫大な財政赤字を埋めるために必要だと同氏は語っている。

 野党党首のテンダイ・ビティ氏は英BBCに対し、新財務相は長年の無謀な失政から生じた経済危機を解決できないだろうと語り、「選挙は不正操作できるが、経済を不正操作することはできない」と述べている。

 ムナンガグワ大統領は直近の危機を、改革の必然的結果として描き、「経済の自由化には痛みが伴い、これは我々が負っていく痛みの一つだ」と語っている。

 しかし、押し寄せる嵐への不安があまりに強烈なことから、ヌクベ氏の確約にもかかわらず、一部のジンバブエ国民は「良い」ドルの口座でさえ安全かどうか疑っている。

 ジンバブエのエコノミスト、ジョン・ロバートソン氏は、2007〜08年のハイパーインフレに言及し、国は以前にも貯蓄を帳消しにしたことがあると指摘。

 「それが庶民に多大なコストを強いたことから、政府の声明に対する信頼はもう存在しない」と話している。

By David Pilling in London and Joseph Cotterill in Port Louis

© The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54415  

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コメント
1. 2018年10月18日 21:41:46 : ZzavsvoOaU : Pa801KbHuOM[37] 報告
ブレグジットが示す脱グローバル化の代償 英GDPはEU離脱がなかった場合と比較して2.1%低下

Why a Brexit Deal Between the U.K. and the EU Remains Elusive

離脱を巡る英国と欧州連合(EU)の交渉は行き詰まっている。WSJが争点について解説する(英語音声、英語字幕あり)Image: Reuters
By Greg Ip
2018 年 10 月 18 日 15:58 JST

――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター

***

 英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)は、外から見ている人間にとっては延々と続くメロドラマのような感がある。どんでん返しはあるわ、悲劇的な人物は登場するわで見る分には面白いが、英国人以外にとっては大して重要ではない。

 だがそんなふうに油断するのは間違いだ。この70年間で主要先進国が自由貿易圏を離脱したことは一度もない。ブレグジットは、グローバル化という複雑な結びつきをリセットすればどのような対価を支払うことになるか、現実として初めてわれわれに突き付けている。

 もちろんブレグジットは脱グローバル化の例としては極端ではある。モノ、サービス、資本、労働の自由な移動を保障するEUの単一市場より統合が進んだ自由貿易圏は他にはない。それでも規制や貿易に関する罰則、移民などの分野で英国と貿易相手国の間に設置される障壁の多くは、米国と貿易相手国の間など世界で出現している障壁とそれほど変わらない。

 ブレグジットの影響の測定が一筋縄ではいかないのは、英国がまだ実際にEUを離脱していないからだ。英国とその他のEU加盟国の首脳は17日、ブレグジット後の英国との合意について意見の隔たりを埋めるべく会合を開いた。合意がないまま離脱することになった場合、英国は世界貿易機関(WTO)が認める最大限の関税や非関税障壁に直面する恐れがある。

 しかし関税が上がらなくても英国は明らかにブレグジットの代償を支払っている。2016年6月の国民投票でブレグジットが決まるまで英国と同じような経済動向を示していた複数の国を組み合わせたバスケットと比較すれば分かる。UBSのピエール・ラフルカード、アーレント・カプタイン、ジョン・レイスの各氏は経済協力開発機構(OECD)の英国以外の加盟国を組み合わせ、そのような架空の英国をつくり出した。

架空の国よりGDPが2.1%低下

 実際の英国と架空の英国の経済の動きを比較すると、1995年から2016年半ばまではほぼ一致していたが、それ以降は異なる動きを見せている。現時点では実際の英国の国内総生産(GDP)は架空の英国より2.1%低い。UBSによると、この違いは主に家計消費と投資によるもので、家計消費では実際の英国は架空の英国より1.7%低く、投資では4%低い。

 UBSの研究手法は完全なものではないが、イングランド銀行(英国の中央銀行)など他の同様の研究も同じような結論に達している。

ロンドンのウェストミンスター宮殿前でデモをする親EU派
ロンドンのウェストミンスター宮殿前でデモをする親EU派 PHOTO: ALASTAIR GRANT/ASSOCIATED PRESS
 このような差が生じたのは国民投票後のポンド下落によるところが大きい。ポンド下落によってインフレ率が大幅に上昇した。現在の英国のインフレ調整後の賃金は16年6月から1.4%下がっており、購買力を押し下げている(失業率の動向が英国と似ている米国では、実質賃金は1.2%上昇している)。

 なぜポンドは下落したのか。関税と非関税障壁によって英国の輸出業者が引き受けなければならない新たなコストが生じ、コストを相殺するために通貨による調整が起きるからだ。UBSの推計によるとポンドはブレグジットが原因でこれまでに約10%下落している。これだけ値下がりしていればEUの10%の自動車関税を十分相殺できる。だからこそ英国撤退を検討している自動車メーカーはないのかもしれない。損をしたのは物価上昇で生活水準が下がった英国の消費者だ。

 調査会社オックスフォード・エコノミクスの推計では、英国が何らかの合意がないままEUを離脱した場合、同国のGDPはさらに2%低下する。同社は実際には非関税障壁がこのコストの半分以上を占めるとみている。

 その理由は製薬会社を見れば分かる。EU域内での販売が許可されていた英国製の医薬品でもブレグジット後は、一括して生産するごとに別途、検査や認証が必要になるとみられる。臨床試験は、試験の材料が税関を通過し、患者に届くまでに数週間余分にかかるようになるため、これまでのようにスムーズにはいかなくなる。納品に時間がかかるようになれば、一部の医薬品については、卸売業者が保管できる期間がほとんどなくなるかもしれない。こうした障壁によって納期が延び、サプライチェーンが抱える在庫が増える。製薬大手グラクソ・スミスクラインは当初は年間7000万ポンド(約103億円)、それ以降は年間5000万ポンドの追加コストがかかると予想している。

 数量化できないコストもある。EUが新たな自由貿易協定で関税の引き下げを交渉しても、英国はその恩恵にあずかることはできない。EUからの移民が減ることで重要な仕事の引き受け手を探すことが難しくなったり、住宅需要が減退したりするかもしれない。

規模が小さい国の方が損害大きい

 ブレグジットの教訓の一つは、規模が小さい国のほうが規模が大きな国より脱グローバル化による損害は大きいということだ。EUにはブレグジットの影響はまだそれほど現れていない。これは想定されたことだ。規模が小さい国のほうが、企業や消費者が巨大市場にアクセスできる自由貿易から得られる見返りが大きいためだ。国際決済銀行(BIS)の研究によると、北米自由貿易協定(NAFTA)が破棄された場合、メキシコとカナダのGDPはそれぞれ2%低下するが、米国は0.2%の低下にとどまる。

 だからといって脱グローバル化がEUなどの規模の大きなプレーヤーに何の痛みももたらさないわけではない。英国の貿易赤字は国民投票以降、縮小しているが、これは、狭い計算上の意味において、貿易相手国のGDPへの英国の貢献度が低下しているということだ。もちろん経済規模が大きい国のほうが痛みは分散するが、それでも誰かが痛みを負担することになる。

 同じように、BISの研究によると、NAFTAが破棄された場合、ドルの絶対額では米国のほうがカナダやメキシコより損失額は大きくなる。また、米国が環太平洋経済連携協定(TPP)に参加していないため、ベトナムやマレーシアのような小国は不利な立場に置かれているが、米国はカナダや日本のようにTPP参加国の市場に優先的にアクセスすることはできない。

 グローバル化を巻き戻しても危機的状況になるわけではない。EU加盟前の英国の暮らしは悲惨でも、残酷でも、モノが不足していたわけでもなく、パニックが起きるとか景気が後退するとかいう悲観論はばかげているように聞こえる。脱グローバル化にはプラスの側面もある。英国の関税を回避するため英国に生産を移管する動きも起きるだろう。英国は移民や自国の法律についてこれまで以上に主導権を握ることになる。ただ生活水準が2%以上下がるというのは誤差の範囲とは言えない。この数字を見れば、グローバル化の反転には代償が伴うことを誰もが思い知るはずだ。

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イタリア動乱再び:一旦落ち着きも火種は続く。欧州投資には慎重に大槻 奈那 プロフィール
●15日、イタリア政府が19年度予算案を承認、欧州委員会に提出した。今後1週間でEUの規則に沿っているかどうかが審査される。イタリア国債利回りはわずかに改善したものの回復は弱い。
●EUルールから逸脱していると判断され、かつイタリアが修正に応じない場合、イタリアには最大1兆円規模の制裁金が課され、かつての「過剰財政赤字是正手続き」対象国に舞い戻る可能性も。
●ポピュリスト政権下ではEUの要請をのむことは難しい。一方、かつて以上に、強国とイタリアとの格差は拡大しており、経済的に最悪期は脱したものの、国民の不満は大きいとみられる。イタリアの反EU機運が再燃し、混乱が拡大する可能性は高く、引き続き欧州への投資には慎重を期したい。
イタリアの予算問題:市場は一旦落ち着きも、今後3週間がヤマ場
イタリア政府が15日の閣議で19年度予算案を承認、欧州委員会に提出した。予算承認を受け、株価は一旦上昇したのち、再び下落に転じるなど乱高下している。依然として、イタリアの10年国債利回りの水準は3.54%と高く、デフォルトすれすれだったギリシャとに肉薄している(図表1)。
欧州委員会は、今後1週間で、イタリアの新しい予算案がEUの基準に沿っているかどうかを審査し、さらにその1週間後を目途に、予算案拒否を正式にイタリアに伝える(図表2)。それを受けてもイタリアが予算を修正しない場合、最大でGDPの0.5%の制裁金、約1兆円が課され、かつての「過剰財政赤字是正手続き」の対象国に舞い戻る可能性が高い。

欧州委員会の予算拒否はどの程度現実的なのだろうか。2017年度の財政収支赤字のGDPに対する比率は-2.3%だった。今回の予算案ではこれが2019年度で-2.4%とされた。これだけみると、それほど大きな緩和にもみえない。しかも、EUの「-3.0%以内」という財政赤字の基準も満たしている。
しかし、イタリア政府は、財政収支赤字のGDPに対する比率を2020年度にはほぼゼロ、つまり財政均衡達成を目指していた (図表3)。新しい予算は、これに比べると大幅な悪化となっている。付加価値税率引き上げ見送り、年金改革の見直し、公共投資の拡大などが要因とみられる。しかも、これに伴い、漸減を目指していた政府債務のGDP比率も130%程度に留まる想定となっている。EUでは60%以内とする旨が定められているため、こちらは大幅に基準からはみ出している。
このように、悪化幅や政府債務レベルでみた場合、規律の緩みぶりは目に余るという判断になるかもしれない。

国民生活の実態:格差の拡大
イタリアの経済成長率は1%台を維持しており落ち着いているようにみえる。なのに、欧州委員会の不興を買ってまで、財政を拡大する必要があるのだろうか。
実は国民の生活実感はこれとは少し異なると思われる。まず、問題は、欧州強国との賃金格差である(図表4)。イタリアの平均年収も若干は改善しているが、他国に比べて伸びや弱く、特に足元で鈍化している。また、若年層の失業率は、30%を超えている。最悪期の40%超からは改善し、ギリシャの38%よりは低いが、それでもEU平均の16%を大きく上回っている。

もう一つの問題は、資産価格の下落である。好景気を背景に他の欧州諸国では住宅価格が上昇しているのに対して、イタリアでは住宅価格の下落がなかなか止まらない(図表5)。不動産不況を反映し、最近では建設業者大手6社のうち、3社が破綻もしくは、貸出条件緩和協議中となっている。

このような状態では、若干落ち着いている不良債権比率が再び悪化する可能性も否定できない。特にイタリアの不良債権比率は、南北格差が縮まらず、地方の小規模金融機関の健全化が依然として課題となっている。現政権はこれらの統一を図り健全化を計画しているが、意見が集約できず、先送りになっている。

今後の注目点:イタリアの民意は楽観視できない
これらの国民生活上の課題を考えると、海外からはムリ筋に見えるポピュリスト政権の財政拡大路線も腑に落ちる。仮に、今後2週間程度で欧州サイドの態度が強硬であることが明らかになった場合、イタリア国民の反発は必至だ。
しかも、単に財政を管理されていた過去に舞い戻るだけではない。当時と異なり、イタリアはポピュリスト政権下である。経済は最悪期を脱したとはいえ、欧州内の強国との格差はむしろ拡大している。今回再びEU側から財政規律を要求された場合、国民からは以前以上の反発が出る可能性もある。
EUの判断次第では市場の混乱再燃は必至である。引き続き欧州への投資には慎重を期したい。
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