http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/614.html
Tweet |
「原油100ドル超え」はあるか?先高観に覆われる相場の正体
https://diamond.jp/articles/-/180756
2018年9月28日 ダイヤモンド・オンライン編集部
原油価格が堅調な上昇トレンドに入り、ガソリンや灯油が軒並み値上がりしている。原油は過去100ドルを大きく超えたときにように、再び暴騰するのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
ガソリン、灯油も軒並み高騰
原油価格はどこまで上がるか
「正直、これ以上は厳しいですね」
先日、東北地方に出張した石油元売り企業の関係者は、地元の中小企業経営者や住民から、切実な声を聞いた。彼らが嘆いているのは、東北や北海道などを主な消費地域とする灯油価格の高騰だ。「灯油の需要期が始まる10月にさしかかり、1リットルあたり95円を突破して4年ぶりの高値となった灯油に『生活を圧迫される』と不安を覚える人が増えている」(元売り関係者)という。
灯油ばかりではない。国内のガソリン小売価格は1リットルあたり150円を超え、こちらも4年ぶりの高値水準となっている。
石油製品が値上がりしている背景には、原料となる原油の価格が世界的な上昇トレンドに入ったことがある。原油取引の代表的な指数であるWTI、北海ブレント、中東ドバイ価格は、昨年央の1バレルあたり40〜50ドル台を底値とし、今年前半にかけて堅調に上昇。足もとでは70ドル台を推移している。
原油の需要国である日本にとって、価格の上昇は経済のマイナス要因となることが多い。輸送コストや原材料費の上昇により、航空・物流・化学業界などで企業収益の悪化が懸念されている。家計圧迫への不安も広がるなか、個人消費の減退も気がかりだ。原油高がジワジワと「痛手」になりつつある。
このままいけば、100ドルの大台を突破するのではないか――。投資家からはそんな声も聞こえて来る。多くの商品がそうであるように、原油相場は需要と供給のバランスで動く。独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之・首席エコノミストは、「原油の供給が減り需給が逼迫するという見通しにより、価格が下がりにくい状態が続いている」と解説する。
需給逼迫で「先高観」がどうにも消えない背景には、何があるのか。最大の懸念材料は、突発的とも言える地政学リスクだ。米トランプ大統領が制裁を行おうとしているイラン、政情不安と経済崩壊で混乱が続くベネズエラの2大産油国で、原油生産が大きく減る見通しとなっている。「これまで考えていたより状況は深刻」と指摘する専門家は少なくない。
トランプは大統領選時の公約に従い、5月にイラン核合意から離脱。核合意に基づき経済制裁が解除されていた同国に対して、最大級の経済制裁を再発動すると表明した。それに伴い、米国の同盟国にもイランへの制裁強化を要請している。
エネルギーに関する制裁の猶予期限は11月4日。それ以降、イランから世界への原油輸出は大きく落ち込む見通しだ。原油・天然ガス生産において世界有数の資源エネルギー大国であるイランの原油が市場に出回らなくなる影響は大きい。野村證券 経済調査部の大越龍文・シニアエコノミストは、「当初、『今回は米国単独だから影響は限定的だろう』と見られてきた制裁だが、足もとではすでに影響が出始めている」と語る。
イラン制裁再開の
影響は前回を上回る?
米国の大手情報サービス企業・ブルームバーグによると、イラン制裁の表明から8月までの間に、米国の同盟国によるイラン産原油の輸入制限が顕著になっているという。はじめは制裁に反対していた各国も、「米国内で事業を続ける自国企業が、トランプ政権によって不利益を被るリスクを避けたい」と考えているようだ。
たとえば、EUの輸入は日量50万バレルから20万バレルまで低下しており、11月の制裁発動でさらに10万バレル程度落ち込む見通しだ。イランから安く原油を買っていたインドも、同40〜50万バレルから20万バレルまで急減する見通し。韓国と日本は同10万バレルがゼロに。イランの友好国で輸入を継続する見通しの中国を除いても、主要取引先だけで原油輸入は70〜80万バレルも減る見通しだ。
過去、オバマ政権による制裁時にイランの原油生産量は約25%、日量100万バレル減少して280万バレルとなったが、こうした状況のなか、今回の制裁では前回に匹敵するか、それを上回る減り方になる可能性がある。8月のイランの原油生産量は、OPEC総会で定められた日量約380万バレルの生産上限枠を、すでに30万バレル程度下回っている。
一方、実質的な国家破綻を迎え、生産の落ち込みに歯止めがからないベネズエラの状況も予断を許さない。ブルームバーグ調べでは、日量約197万バレルの生産枠に対して8月の生産は133万バレルと、落ち込みが激しい。長引く米国の経済制裁の影響もあり、当局のアナウンスによれば、年末までに100万バレル近くまで落ち込みそうだ。
そんななか注目が集まるのが、盟主サウジアラビアをはじめとするOPEC(石油輸出国機構)加盟国、非OPECの大国ロシアが、イランやベネズエラの減産分を穴埋めできるかどうかである。それができないと、世界の原油供給はおぼつかないだろう。
原油価格の上昇を受け、OPEC産油国は今年6月の総会で、2017年初頭から続けてきた協調減産の緩和を決めた。実施中の減産措置につき、今年7月から年末まで、これまで150%程度だった減産順守率を100%へ引き下げるという「事実上の増産」に合意したのだ。とはいえ、石油収入確保のため原油の値崩れを嫌う加盟国の足取りは重く、増産目標は市場予想より小幅となった。
OPECの原油増産余力は
実はそれほどない
加えて、OPECの生産能力には不安がある。ブルームバーグによると、イラン制裁が本格化していない8月時点でも、加盟国全体の生産量は日量約3241万バレルと、生産上限枠約3273万バレルを達成できていない。また、OPECには日量300万バレル強の余剰生産能力があると言われるが、実は不透明要因が多い。増産の本丸はサウジアラビアで余剰生産能力が日量200万バレル強あるものの、減産に参加していないリビアとナイジェリアがそれぞれ持つ30万強の余剰御生産能力は、インフラの制約や内乱による政情不安によって見込めない状況だ。
ロシアは2017年からOPECの協調減産に参加する直前、駆け込みで生産を増やしているが、当時の水準を考慮すると、余剰生産能力は日量20〜30万バレル。現在は西側諸国から経済制裁を受けており、原油生産のための資金・資材を調達できないため、当時と比べて能力は上がっていないと見られる。
つまり現状では、サウジとロシアを合わせても余剰生産能力は日量200万バレル台半ばが限界。イランとベネズエラで前述の生産が減ると仮定すれば、「余力」はいくらもないことになる。
原油価格は2008年前半に150ドル近くまで高騰した。「当時、OPEC産油国の余剰生産能力が世界の石油需要に占める割合は2.6〜2.7%程度だったが、このまま余剰生産能力が減っていくと、当時の水準に近づいていく」(野神エコノミスト)。需給の逼迫度は想像していたよりも強いと言える。
こうした事態を、当初、市場関係者はいくぶん楽観視していた。OPECによる減産緩和への合意や、トランプ大統領が中国やカナダに仕掛けた貿易戦争で世界経済が減速するという見通しから、市場では一時、需給の逼迫感が緩んでいた。その反動もあり、足もとでイランやベネズエラの原油輸出がいよいよ減り始めると、逼迫感が一気に高まったのだ。
眠れるシェールオイル勢の
増産再開はいつになるのか
隘路にはまった既存プレーヤーたちに替わり、供給サイドの新たなリーダーになれる存在は他にいないのか。いるとすればそれは米国シェールオイル勢(以下、シェール勢)だろう。
振り返れば、ここ数年の原油市場は、価格を支配するOPECと新興シェール勢との攻防の舞台でもあった。「両者を取り巻く環境は2013年前後で大きく変わった」(野神エコノミスト)。2012年頃まで、原油市場の主なドライバーは需要だった。非OPEC勢の生産がなかなか立ち上がらないなか、リーマンショック後の景気刺激策で大きく伸びた中国需要の穴埋め役をOPECが一手に担い、高値安定が続く見通しが醸成されていた。
ところが2013年以降に状況は一変、供給が市場のドライバーとなる。中国経済の減速に加え、大きかったのが非OPEC勢の台頭だ。彼らの生産は伸びないだろうという見通しが崩れ、シェール勢の大増産が始まった。市場には「OPECの価格決定権が弱まる」という見通しが広まり、需給に緩みが生じて原油価格は下落。前述のように、OPECは2017年初頭から「シェール潰し」を目的に協調減産を始めたものの、原油価格は2017年央まで40〜50ドル台と上値が重い展開が続いたのである。
実はこのシェール勢も、足もとで増産を活発化させていない。そのことは市場において、「先高観」の要因の1つにもなっている。
昨年12月に米ダラス連銀がシェール企業に対して行った調査によると、「彼らは増産に動ける原油価格帯を60〜70ドル台と見ている」(大越エコノミスト)ことがわかった。つまり、彼らの損益分岐点となる価格は現在の原油価格と同水準で、さらに価格が上向かないとリグ(油田の掘削装置)の稼働数を増やすことは難しいと見られる。実際、米国エネルギー省の統計によると、シェールの中心地であるテキサス州西部のパーミヤンをはじめ、主要7地区で生産は鈍化している。
これまでも言われてきたように、シェール企業の生産効率は上がり続けている。既存の油井(原油を採掘するための井戸)を長く掘り進めてシェール回収率を増やす技術革新に加え、大きいのは探索能力の向上だ。同じ採掘法でも、原油の含有率がより高いシェールの岩石層を見つけて集中的に掘り、1バレル当たりの生産コストを安く抑えることができるようになった。
一方、生産した原油を輸送するパイプラインの能力には限界がある。たとえば、パーミヤンで開発される原油は日量約350万バレルで、これはパイプラインで運べる量とほぼ同じ。たとえ増産が可能でもこれ以上の市場への供給は難しいことがわかる。タンクローリーや鉄道などの代替手段で運ぶこともできるが、コストが高くつく。こうした採算性の問題により、足もとのシェール勢には増産を見合わせるトレンドが強い。主要なパイプラインの増強が行われるにしても、早くて来年半ば以降の見込みという。それから増産が始まるとしたら、原油市場でのインパクトは向こう1年ほどは小さいだろう。
原油価格が暴騰していた時代と
足もとの「決定的な違い」とは
さて、そうなると原油市場はいったいどこへ向かうのだろうか。ここまで見て来た状況を考えると、今後、価格が大きく上ぶれする可能性は否定できない。現状を過去の原油高騰時になぞらえて、危ぶむ向きもある。
しかし、「原油価格が100ドルを大きく超えた時代と現在とでは、状況が違う」と、大越エコノミストは指摘する。以前の高騰は、新興国の旺盛な需要や世界的な金融緩和の中で、投機マネーの市場への流入を主因として起きた異常なケースだった。それに対して現在の市場は、おおむね現実的な需給を反映しながら推移している。OPECの協調減産などにより緩んだ市場が引き締まる過程で、突発的に発生したイラン・ベネズエラ問題という不確定要素が価格を押し上げているのだ。そうなると今後の需給は、短期要因と中期要因の2段階で考えるほうがわかりやすい。
まずは、不確定要素が演出する短期的な需給動向だが、先行きはトランプ大統領の出方にかかっていると言えよう。
トランプはこの10月と11月に、約1100万バレルの戦略石油備蓄(SPR)を取り崩し、市場へ放出すると表明した。原油に連動して上昇を続けるガソリン価格は、消費が鈍ると言われる1ガロンあたり3ドルに達する勢いだ。11月の中間選挙を控え、国民の反発で支持基盤を弱めたくないトランプの思惑が見える。しかし、手始めに放出するのは日量で18万バレル程度の予定。一時的な鎮静効果はあっても、イランやベネズエラで見込まれる水準の減産が起きれば追いつかず、さらなる放出を迫られるだろう。
また、危機感を募らせたトランプは、9月下旬、OPEC産油国に対して原油増産による価格の引き下げを求めたが、これを拒否されている。それを受け、原油価格は一時80ドル台まで急伸してしまった。
まさに待ったなしの状況なのだが、こうなると予測不能なのが「トランプ流」。強硬路線から融和路線へと転換し、二度目の首脳会談を目論む北朝鮮との「ディール外交」で見せたように、実利をとってイランへの制裁を緩和する可能性もある。「同業者の間でもそのような見方は少なくない」と、石油元売り企業の関係者は語る。そうなれば、原油需給は一転して緩み始めるだろう。
むろん、選挙が終わってしまえば原油市場への興味を失い、自ら「原油の独占組織」と批難するOPECに責任をなすりつけ、放り出すというリスクもあるが――。果たしてどうなるだろうか。
ボトルネックと一時的なリスクが
複合的に顕在化した状態か
次に、中期にわたる需給動向だ。需要面で見ると、2013年以降、世界の実質経済成長率とそれに連動する原油価格は、比較的安定して推移している。IEA(国際エネルギー機関)や野村證券の見通しによると、成長率は毎年1%程度伸びていくのに対し、原油需要は2013年以降の平均で毎年日量150万バレル程度増えて行く。このペースだと、今後も需給は引き締まり気味で推移しそうだという。
EV(電気自動車)やスマートエネルギーへのシフトはまだ道半ばであり、原油需要が伸び続けるトレンドはしばらく変わらないだろう。そんななか、もしもインドなどの新興国需要が急激に立ち上がるようなことがあれば、価格は上ブレしそうだ。「大幅な省原油化が進むか、世界経済が大きく落ち込まない限り、原油の需要は増え続ける可能性がある」(大越エコノミスト)。
一方で供給面を見ると、最も増産を期待できる米国シェール勢が、パイプラインの整備や生産効率の改善を経て、これから原油供給を本格的に増やしてくるはずだ。原油価格の高止まりは、彼らに加えて、カナダのサンドオイルや海底油田の開発も後押しする。それは将来の供給増へとつながり、結果的に原油需給を今より緩和させる効果がある。
このように考えると、折からの価格高騰は、供給サイドの新たなプレーヤーが目覚める前のアクシデントよってもたらされたものとも言える。言うなれば、ボトルネックと一時的なリスク要因が複合的に顕在化した状態だろうか。ならば、これから一過性の価格高騰はあったとしても、相場水準が大きく切り上がることは考えづらいかもしれない。先行きは依然として不透明だが、目先の価格上昇が一旦どこで落ち着くのかを、冷静に見守りたい。
ガソリンや灯油が値上がりして生活が苦しくなりそう――。我々が日々感じているリスクは、こうした想像もつかないほど巨大なグローバル市場の思惑によってもたらされているのだ。
(ダイヤモンド・オンライン編集部 小尾拓也)
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民128掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民128掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。