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ルネサス、巨額買収に失敗の懸念…効果が不透明、サムスンとの規模拡大競争の危うさ(Business Journal)
http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/613.html
投稿者 赤かぶ 日時 2018 年 9 月 28 日 02:00:05: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

ルネサス、巨額買収に失敗の懸念…効果が不透明、サムスンとの規模拡大競争の危うさ
https://biz-journal.jp/2018/09/post_24914.html
2018.09.28 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal


 「ルネサス HP」より


 9月11日、ルネサスエレクトロニクスが米国の半導体企業であるIntegrated Device Technology, Inc(IDT)を完全子会社にすると発表した。

 足許の市場環境やルネサスの経営状況を考えると、今回の買収劇に懸念されるポイントは多い。まず、買収金額が高額になることだ。ここ数年、世界の半導体市場は右肩上がりの成長を維持すると期待が高まっている。その期待に支えられ、世界的に半導体関連銘柄は最高値圏で推移している。IDTも例外ではない。

 ルネサスの経営状況を考えると、経営再建は道半ばというところだろう。同社はリストラによって黒字を確保できるようにはなったものの、構造改革のなかで重視されたプロダクトミックスの改善が進んできたとはいいづらい。

 ルネサスはIDTの買収に7,330億円程度を投じる。2017年2月に買収したインターシルと合わせ、半導体市況が過熱感を帯びるなかで合計1兆円超の買収が経営に与えるマグニチュードは軽視できない。今後もルネサス経営陣は買収戦略を重視するだろう。経営陣が具体的かつ明確に買収の目的を説明するか否かは、同社の成長を考える重要なポイントだ。

■ルネサスの収益を支えたリストラ

 2014年3月期までルネサスの最終損益は赤字だった。2015年度から、最終損益は黒字に転じた。黒字化を支えたのはリストラ=構造改革だった。問題は、人員削減などが一巡した後の競争力強化の取り組みが、十分に進められていないと考えられることだ。この問題を、同社の経営トップ人事を基にして考えたい。

 ルネサスの源流は、日立製作所と三菱電機の半導体事業にさかのぼる。この2社の事業が統合されて、ルネサステクノロジが設立された。2009年にはNEC傘下のNECエレクトロニクスがルネサステクノロジと事業を統合し、今日のルネサスが誕生した。2009年4月の時点で、ルネサスは世界3位のシェアを持つ半導体企業だった。
 
 ルネサスでは母体となった企業ごとに工場を守る=源流企業のアイデンティティーを維持することが優先され、収益性が高まらなかった。そのなかで、リーマンショックや東日本大震災が発生し、市場参加者から「ルネサスの自力再建は難しい」といわれるまでに経営が悪化した。

 ルネサスを救ったといわれているのが、オムロンの成長を実現した作田久男氏だった。2013年6月、作田氏はルネサスの会長兼CEOに就任し、8月以降ルネサスはリストラに本腰を入れた。それができたのは、作田氏に母体となった企業との“しがらみ”がなかったからだろう。

 注目を集めたのが、国内最先端の生産能力を誇った鶴岡工場がTDKに売却されたことだった。作田氏の経営判断について「ルネサスは競争力向上をあきらめたのか。もしかすると身売りがあるのではないか」と身構えた市場参加者も多かった。見方を変えれば、同氏にはルネサスがひとつの企業として収益を追求するためには、聖域に踏み込んだ改革を進め、その原資を活かして新しい取り組みを進めなければならないという危機感があったのだろう。一連のリストラによって国内の工場は22カ所から8カ所に減り(2018年6月発表時点)、従業員も5万人から2万人に削減された。

■リストラの結果としてのシェア低下

 在任中、作田氏がルネサス従業員に求めたことは「粗利率(売上高に対する売上高総利益の割合)の向上」だった。具体的には、まず、人件費などの固定費を削減することが進められた。その上で、プロダクトミックスの見直しが進められ、ルネサスが得意な分野に経営資源が配分されやすくなるよう構造改革が進むはずだった。

 2015年、作田氏は道半ばでルネサスを去った。同氏は人員削減など既存事業の構造改革を進めることはできたが、新しい製品開発など成長のためのコミットメント強化に関しては十分に踏み込めなかったと考えられる。作田氏にとって、人員削減や工場売却などを進めたうえで得意分野に注力できる経営体制を実現することこそが、リストラの本質だったはずだ。

 リストラが道半ばで終わった結果、世界の半導体市場におけるルネサスの存在感は小さくなっている。特に、2017年はエポックメイキングだった。それまで世界の半導体トップの座を守ってきた米インテルに代わり、韓国サムスンがトップの座を手に入れたからだ。

 かつて世界の半導体市場で存在感を示したルネサスは、トップ10にすらランクインしていない。同社が競争力を誇ってきたのは自動車の制御に欠かせないマイコン(マイクロコンピュータ/マイクロコントローラ)分野だ。2011年3月の東日本大震災の発生後、同社の茨城県にある工場が被災し自動車向け半導体の供給が停止した。当時、ルネサスは世界のマイコン分野のトップ企業であり、同社の生産停止は世界全体の自動車生産に影響を与えた。そのマイコン分野でも同社は3位にランクを下げている。“日の丸半導体再興”の夢は遠のいているといっても過言ではないだろう。

 作田氏の後任として会長兼CEOに就任した遠藤隆雄氏は、マイコン分野でシェアを伸ばしてきた独インフィニオン・テクノロジーズとの提携を模索した。しかし、同氏の考えは国内企業への株式売却を進めたい産業革新機構の考えと対立した。それが、遠藤氏がルネサスを離れた大きな原因と考えられる。

■重要性高まる買収戦略の考え方

 ルネサスは成長強化への取り組みを十分に進められていないと考える。同社再建は道半ばだ。遠藤氏の後を継いだ呉文精社長兼CEOは、買収を進めることによって同社の成長を加速しようとしている。変化のスピードが速い環境のなかで、自社内部の取り組みだけで成長を目指すことは容易ではない。必要に応じて自社の競争力向上に貢献すると考えられる要素を買収によって取り込むことは重要だ。

 しかし、IDTの買収に関するルネサスの見解を見ていると、経営陣が注力すべき分野を明確に認識しているか不安だ。資料を見ると、車載マイコンに加え、産業、データセンター、スマートホームなどのブロードベースドと、複数の事業におけるシナジー(相乗効果)が列記されている。また、買収に関する説明会での質疑応答を見ると、IDTの強みをルネサスの成長にどうつなげるかは今後検討していきたいとの説明もある。そのほかにも、IDTの買収によって期待されるシナジーの半分程度が車載マイコン以外の分野だとの説明もある。

 その発想が、自社の強みが発揮できる車載半導体分野にプロダクトミックスを絞ることに直結するとはいいづらい。IDT買収の印象は、ルネサスが得意分野への注力よりも、サムスンなどとの競争を念頭に置いた事業規模の拡大を重視し始めたということだ。それはかつてリストラの対象となった事業の再整備を進めることとも受け取ることができる。

 ルネサスに求められる発想は、焦点を絞り、成長に必要な技術開発力などを取り込むことだろう。企業全体ではなく、必要な事業だけを買収することが重視されてよい。その考え方に比べると、IDTの買収は大味な印象を残す。

 世界的に半導体市況が過熱し、一部市場参加者は市況のピークアウトを懸念し始めたようだ。そのなかで、高値で買収を実行してしまうリスクも無視できない。のちのち、のれんの減損によってルネサスの業績と財務内容が悪化することのないよう、経営陣が明確なビジョンと戦略をもって買収を進めることを期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)


 

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