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司法試験の希望者が激減している理由を知っていますか? 既得権益層から不満噴出の結果がコレ
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57598
2018.09.20 磯山 友幸 経済ジャーナリスト
司法制度改革の逆コース
難関の国家資格の代表格である「弁護士」が、大きな転機を迎えている。司法制度改革で大幅に増やした合格者を一転して絞った結果、今度は受験者が激減。かえって合格率が上昇する結果になっているのだ。
2002年に閣議決定された司法制度改革推進計画では、弁護士・検察官・裁判官の「法曹人口」の大幅な増員が掲げられ、司法試験の合格者数を「年3000人程度」とするとされた。これを受けて2007年から2013年までの7年間、司法試験合格者は毎年2000人を超えた。
ところが、法曹人口が増えたことで、弁護士業界から批判が噴出。「合格者が増えて質が低下した」「資格を取っても食べていけない弁護士が増えた」と言った声が上がった。
日本弁護士連合会などが法曹人口の抑制を要望したこともあり、2015年に政府が方針を転換。「年間1500人程度以上」に目標を修正した。
その結果、司法試験合格者は、2015年は1850人、16年は1583人、17年は1543人と着実に減少した。9月11日に発表された18年の合格者は1525人で、昨年よりさらに18人減少した。目標を当初の3000人から1500人に半減させた「政策」が、ほぼ実現できたわけだ。
合格者を減らすことで、弁護士の質を高めるというのが弁護士会などが主張する大義名分だった。合格者を絞れば合格率が下がり、再び難関の試験に戻っていく。そう弁護士会は考えたようだ。ところが、結果はどうも逆になりつつある。というのも受験者数が年々減少しているのだ。
2015年に8016人だった受験者数は16年に6899人、17年に5967人と大幅に減少、18年には5238人に激減した。この結果、2015年に23.1%だった合格率は、今年は29.1%にまで跳ね上がることになった。
合格率を見る限り、司法試験は難しくなるどころか、難易度は下がっていることになり、弁護士会の言う「優秀な人材」が本当に選別できているのか怪しくなっている。
苦労して司法を目指さなくとも
受験者が激減している背景には、世の中で急速に進む人手不足がある。少子化に加えて、景気の底入れで企業が積極的に採用人員を増やしていることもあり、新卒学生は引っ張りだこの状態。苦労して司法試験を受けようという学生が減っているというのだ。
もともと弁護士や会計士といった資格取得は、不景気で就職難の時ほどニーズが高まるとされる。世の中の人手不足が弁護士のなり手をさらっているわけだ。
合格者数を絞っていることも学生に受験を敬遠させる一因になっている。門戸が狭まるところにあえて挑戦しようという人は少ないのだ。
また、「資格を取得しても食べていけない」という弁護士界の司法制度改革批判は、これから受験しようとする学生にとっては、「苦労して弁護士になっても生活できないのか」ということになり、これも受験を敬遠させる要因になっている。
法科大学院の仕組みが事実上崩壊したことも大きい。司法制度改革では大学学部卒業後、二年間の法科大学院を終了すれば、ほぼ確実に弁護士になれるハズだった。ところが、その後の方針転換で法科大学院に進んでも合格できない学生が大量に生まれている。
2018年の司法試験で、法科大学院出身者(4805人)の合格率は24.75%。法科大学院を経ずに受験する「予備試験」に合格して司法試験を受けた人(433人)の合格率は77.6%だった。
法科大学院の人気は一気にしぼみ、それが司法試験受験者の減少に結びついている。法科大学院の入学志願者は初年度の2004年は7万2800人、翌年は4万1756人に達し、5000人以上が入学したが、2018年度は志願者8058人、入学者は1621人にまで減少している。すでに閉鎖したり、募集を停止した法科大学院も多い。
法科大学院の入学者数を見る限り、今後も受験者の減少は続きそうだ。よほど予備試験経由の合格者を増やさない限り、「1500人以上」という政府の目標は維持できなくなりそうだ。
競争なしを前提にした業界規模
弁護士業界はそれでも危機感を持っていない。法曹人口が足りなくなることはない、むしろ、1500人の合格者でも多すぎると思っている向きもある。
日本弁護士連合会の弁護士白書2017年版には、「弁護士人口の将来予測」という表が載っている。このまま1500人の合格者が続いた場合、2018年で4万5000人の法曹人口は2049年まで増加を続け、7万1138人になるとしている。
法曹資格を取得して43年間「現役」でいることを前提に、2049年までは引退・死亡する法曹人の数が、新規参入の1500人を下回り続けるため、増加が続くとしている。
また、弁護士1人当たりの国民数は2018年の3162人から2049年には1605人になる、という。人口当たりの弁護士数はこれから2倍になるとしているのだ。
1500人の合格者を続ければ、ますます弁護士は食べられなくなる、と言っているようにもみえる。弁護士界の一部にくすぶる「合格者を1000人まで引き下げろ」という声を後押しているようにみえる。
司法制度改革の狙いは、規制緩和が進む中で、様々な分野で法曹の役割が増していくので、その需要にこたえるためにも法曹人口の増加が不可欠というものだった。
また、多様な分野で活躍できる弁護士を増やすには、法律だけ学んだ人ではなく、様々な学部を経て弁護士になるルートが必要だということで法科大学院が生まれている。
つまり、弁護士の業務範囲をこれまでの裁判や紛争解決などにとどめず、幅が広がっていくことを前提に、法曹人口増を目指してきた。
だが、弁護士業界の反応は、資格さえとれば一生(平均43年間)仕事に困らないという前提で「適正人数」を考えている。そこには競争による切磋琢磨や、新分野への進出といった発想はみられない。
今後、少子化の影響で若年層の人口が減り続ける中で、法曹界は司法試験受験者の減少に歯止めをかけ、優秀な人材を確保していくことができるのかどうか。社会の重要なインフラを担うだけに、今後も注目していきたい。
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