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リーマン後10年で世界に溜まった「次の危機のマグマ」の実態 もし次が起こったら、日本は…?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57570
2018.09.18 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
次の危機につながるマグマが……
先週土曜日(9月15日)、世界を震撼させた、あのリーマン・ショックから10年の節目を迎えた。震源地だった米国が様変わりして過去最長の景気拡大を続けてけん引役を果たしており、足もとの世界経済は順調に見える。
しかし、次の危機を誘発しかねないマグマは蓄積されている。最も象徴的なのは、成長を伴わない過剰債務だ。国際金融協会(IIF)によると、全世界の債務残高は247兆ドル(約2京7000兆円)と10年前の1.5倍に膨らみ、借金漬けのリスクを増大させている。
これは、各国が異例の金融緩和や桁違いの財政出動で協調し、米国の住宅バブルの崩壊に端を発した経済・金融危機を、新たなバブル醸成で乗り越えた副作用である。
米国やEUの金融正常化が、アルゼンチンやトルコ、インドネシア、ブラジルなどの新興国を深刻な通貨危機に追い込みつつあるだけでなく、トランプ政権が各国に仕掛ける貿易戦争が世界経済を縮小に追い込むリスクも現実味を帯びる。そして、金融政策も財政政策も正常化できておらず、次の危機が起きたら立ち向かう余力が最も乏しいのが日本という現実もある。
リーマン・ショックの経過を振り返ると、2000年代半ばに、米国政府の持ち家振興政策を背景に、住宅バブルが生まれたことが起点だ。プライムレート(優遇金利)では融資を受けられない低所得者層を対象に、住宅向けのサブプライムローン貸し付けが急増、これらの債権を証券化した金融商品が粗製乱造され、その利回りの高さに着目した金融機関による投資ブームが起きたのだ。
だが、このバブルは長続きせず、2007年ごろ崩壊を始めた。身の丈を超える負債を抱え込んだ低所得者のローン返済が滞り、サブプライムローン債権入りの金融商品も続々とデフォルト。地方銀行を中心に金融機関が続々と危機に陥り。2008年は年初からの8カ月間に10地銀が破たんした。
あれよあれよという間に、危機は大手金融機関に飛び火した。全米5位の投資銀行だったベアー・スターンズが2008年3月に実質破綻。商業銀行大手JPモルガン・チェースによる救済買収を、ニューヨーク連銀が資金支援するという異常事態が勃発した。
市場関係者の間では、早くから「次はリーマンだ」と囁かれていたが、当時のブッシュ政権はレームダック化しており、世論の反発を恐れて「これ以上の公的救済はしない」と責任を放棄した。これで、命脈の尽きたリーマンは2008年9月15日に連邦破産法11条の適用を申請して破たんしたのだ。
リーマンが見捨てられた事実を見て、市場は本格的なパニックに陥った。世界最大の保険会社、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)はその日のうちに金融派生商品などの巨額損失で経営危機に陥り、米政府はわずか1日で方針を180度転換して救済に乗り出さざるを得なくなった。名門投資銀行のモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスも青息吐息だった。
米議会は翌10月、7000億ドル(80兆円弱)の公的資金を投入して経済・金融危機を封じ込める新法を可決し、大手金融機関への資金注入を実施した。
だが、時すでに遅く、リーマン・ショックは世界的な金融システムの動揺だけでなく、実体経済の深刻な停滞を招いた。
大きな後遺症
日本でも、日経平均株価がリーマン・ブラザーズの破綻からわずか1カ月半でおよそ4割下落したほか、実体経済が長期停滞に突入。リストラ、賃下げ、希望退職、派遣切り、就職氷河期などの蔓延を記憶している読者は多いだろう。
リーマン・ショックは「100年に一度の危機」と言われ、FRB(米連邦準備理事会)、ECB(欧州中央銀行)、日本銀行といった中央銀行と、先進各国の政府がG20諸国を巻き込んで、未曽有の金融緩和や財政出動による景気刺激策を講じざるを得ない事態に発展した。
中国が4兆元(当時のレートで57兆円)に上る景気刺激策を講じたほか、各国の中央銀行が不良債権を含む債権の買い取りなどに踏み切ったこともあって、世界経済はなんとか平静を取り戻した格好になっている。
とはいえ、今なお経済は後遺症に苦しんでいる。冒頭で記したように、世界の債務は10年前より膨らみ、ファンドなどを通じてあふれ出たマネーが新たなバブルを生みだした。際限なく膨張するマネーをどう制御していくか。構造的な問題は手付かずだ。
加えて、深刻なのが、人々の心理や生活、社会構造のあり方に大きな傷痕を残したことである。この問題の発端は、2011年に始まった「ウォール街占拠」運動だ。
そもそもの論点は、巨額の富を独占するウォール街の大手金融機関を、さらには、全体のわずか1%に満たない、そうした金融機関の幹部ら富裕層を、99%の中低所得者層の税金で救済するのをやめろというものだった。格差社会への怒りが明確な形となって表れたのだ。
格差社会への怒りは、排他的で保護主義的なトランプ政権の登場を後押ししたほか、ブリクジット(英国のEU離脱)や欧州の移民排斥に繋がった。
弱者の怒りを代弁しているはずのトランプ政権の政策は、矛盾の塊だ。リーマン・ショック後に危機の再発防止を狙って整備された金融機関に対する厳しい規制の撤廃や緩和にひた走るのはその典型である。
ゴールドマン・サックス出身のムニューシン財務長官が、金融機関規制には行き過ぎがあると言い、緩和の先頭に立っている。規制を緩和しても、金融機関のグリード(強欲)を抑えられるのか。解は示されていない。
痛み止めの薬なし
トランプ支持者の間で高い人気を誇る排他的移民政策も、シリコンバレーのハイテク企業を支えてきた優秀なエンジニアの米国離れと米国への流入不足を招いており、米国の構造的強みを消失させかねない。
極め付けは、トランプ大統領の仕掛ける貿易戦争だ。貿易の縮小を招き、世界経済の足を引っ張る最大のリスクとなっている。トランプ政権が、米韓FTAやNAFTAの見直し交渉で韓国やメキシコから勝ち取ったと喧伝している譲歩は、実際は米国の消費者や産業界の負担を増すものがほとんどだ。中国の報復によって、米国産の農産品輸出が伸び悩み始めたことも米国の農民にとって深刻な問題になりつつある。
リーマン・ショックをばねに世界第2位の経済大国に成長を遂げた中国だが、今やチャイナ・リスクが世界経済の最大級のリスクのひとつとみなされている。リーマン・ショック当時の胡錦濤政権が打ち出した、インフラ投資を軸にした4兆元の景気対策は中国経済を急拡大した裏で、「理財商品」と呼ばれる金融商品バブルを生み、その不良債権化が深刻な問題になっている。
また、勢いに乗った習近平政権は、米国を抜いて世界一の経済大国になることを目標に掲げているが、トランプ政権に貿易戦争で狙い撃ちにされ、需要不足の影が付き纏う。
外貨不足から、アルゼンチン、ブラジル、トルコ、インドネシアといった諸国と同じように、中国の人民元が通貨危機に陥りかねない問題もある。
そうした懸念を映して、中国の株価は歴史的な水準で低迷している。
人口減少問題と共に、先進国最大の財政赤字を抱え、いまだに金融政策の正常化にすら舵を切れない日本は、米国や中国と比べれば、とるに足らない経済規模だ。1980年代の株と土地のバブル崩壊の時のような形で、日本発の世界的な経済・金融危機を引き落とすことは、もはやないかもしれない。
しかし、次のリーマン・ショック級の世界的な経済・金融危機が起きた時に、その衝撃を和らげる政策的な余地・のりしろがないことを肝に銘じておくべきである。次の危機が起きた時、日本には服用できる痛み止めの薬がなく、リーマン・ショックよりも深刻な事態に陥るリスクを抱えている。
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