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世界恐慌を予言した人たち 彼らはなぜ金融緩和に批判的なのか
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180918-00010002-nkbizgate-bus_all
日経BizGate 9/18(火) 15:43配信
ハイエクは1929年初め、論文で米景気は数カ月以内に崩壊するだろうと警告した。
2008年秋のリーマン・ショックから10年。世界経済や金融システムは息を吹き返しましたが、新たな危機の予兆も見え隠れします。背景にはこれまで低金利に支えられた世界経済が、米国の利上げで曲がり角を迎えるのではないかとの懸念があります。
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リーマン・ショック以降、主要国の大規模な金融緩和が長らく続くなか、新興国には大量のマネーが流入しました。しかし経済が好調な米国が2015年末から7回に及ぶ利上げを実施したことで、緩和マネーが米国に向け逆流しています。一方で、足元の世界景気はなお拡大しています。
こうした現状から連想されるのは、1929年10月のニューヨーク株暴落をきっかけに起こった世界恐慌です。当時、恐慌が襲う直前、世界経済は好景気に沸き、米国は利上げに転じていました。
世界恐慌をほとんどの専門家は事前に予測できませんでしたが、一部には早くから経済危機のリスクを察知し、警鐘を鳴らした人々もいました。その出身国にちなみ「オーストリア学派」と呼ばれる経済学者たちです。
その一人は、のちにノーベル経済学賞を受賞するフリードリヒ・ハイエクです。1929年初め、オーストリア景気研究所の所長を務めていたハイエクは、研究所の月報に発表したいくつかの論文で、米景気は数カ月以内に崩壊するだろうと警告しました。長期の金融緩和で景気を過熱させてしまった米連邦準備理事会(FRB)が、もはや手遅れになってようやく引き締めに転じると決定したからです。
ハイエクは1975年のインタビューで当時をこう振り返ります。「私の確固たる経済理論をもって確信したことは、インフレ景気を維持することは不可能であることである。そういった一過性の景気はいわゆる見せかけの仕事を生み出し、しばらく人は仕事にありつけるが、遅かれ早かれその景気は急落してしまうものだ」(ロバート・P・マーフィー『学校で教えない大恐慌・ニューディール』。表記を一部変更)
恐慌前、FRBは金融緩和の大義名分として、物価の下落を食い止めることを掲げました。今風にいえばデフレとの戦いです。これに対しハイエクは、物価下落を防ぐためのマネー注入こそがバブルとその反動による恐慌をもたらすと批判しました。
世界恐慌に早くから警鐘を鳴らした「オーストリア学派」
ハイエクの先生であるルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは早くも1924年の段階で、オーストリアの大銀行が経済危機で破綻することを予見します。毎週水曜日の午後、教え子とウィーンの街を散策し、大手銀行クレジット・アンシュタルトの前を通り過ぎるたび、「そのうちにひどい破滅がやってくる」と話しました。ミーゼスは1928年に公表した論文でも「経済危機が遅かれ早かれやって来るのは明らかである」と述べます。
1929年の夏、ミーゼスはクレジット・アンシュタルトから高い地位を提供したいと打診されますが、断ります。理由を尋ねる妻にミーゼスはこう答えました。「破滅の時は近い。どんな形であれ私の名前が破局と関連づけられることを望まない」(ラース・トゥヴェーデ『信用恐慌の謎』)。
事実、同年秋のニューヨーク株暴落の影響が海外に波及した結果、クレジット・アンシュタルトはミーゼスの予言どおり、1931年に倒産します。オーストリアの金融不安はただちに隣国ドイツに飛び火し、多くの銀行が取り付け騒ぎに見舞われました。
ハイエクと同じくミーゼスの弟子だったフェリックス・ソマリーも、経済危機に警鐘を鳴らしました。スイスのチューリヒで投資銀行家になったソマリーは1926年9月10日、ウィーンで講演をします。当時景気は絶好調でしたが、ソマリーは好景気が銀行の崩壊を伴って収束を迎えるだろうと予測し、的中させます。
以上のようなオーストリア学派の警告はその後、経済学会の中でも評価されます。米国がすでに恐慌に突入した1932年、シカゴ大学で開いた会議で、ある経済学者はオーストリア学派が1920年代に発した警告の正しさを認め、「信用拡大がなければ物価は下落していただろうし、そうするべきだった」と述べます。今でいえば、デフレとの戦いがバブルとその崩壊という大きな副作用をもたらしたからです。
オーストリア学派の特徴は、現代の経済政策では当然とみなされている、中央銀行による通貨供給量の増大(金融緩和)を厳しく戒め、中止を求めるところにあります。
たしかにお金の供給量が減少すると景気が悪化し、経済活動は停滞します。国民や政府が中央銀行に金融緩和というカンフル剤を求めるのも無理はないように思えるかもしれません。けれどもオーストリア学派によれば、そうした政策は問題を先送りするだけで、経済が正常な状態に戻るのをかえって妨げてしまいます。
オーストリア学派の影響を受けた英経済学者ライオネル・ロビンズは、世界恐慌さなかの1934年に出版した著作で「倒産と資産売却を先延ばしにする方法は、状況をさらに悪くするだけである」と述べます。
短期の痛み先延ばしこそ経済に深刻な混乱をもたらす
市場経済はよく、短期の損得しか考慮しないと非難されます。けれども実際にはロビンズが言うように、短期の痛みを先延ばししようとする政府の対症療法こそ、信用バブルという副作用をもたらし、経済に深刻な混乱をもたらしかねません。利上げは短期では株価下落や景気悪化を招いても、長期では経済の持続的な成長に導きます。本当のリスクは利上げではなく、それまでの金融緩和にあります。
FRBは6月13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、3カ月ぶりの利上げを決めました。記者会見したパウエルFRB議長は、信用バブルが起きていないかとの問いに対し「家計に過剰な信用の増加は起きていないし、銀行資本はかなり高まっている」と否定的な見方を示しました。
パウエル議長の言葉とは裏腹に、FRBがこれまで行った大規模なマネー注入は信用バブルをすでに引き起こしている恐れがあります。それでも利上げそのものは、これ以上の副作用を食い止めようとする姿勢として評価できます。欧州中央銀行も年内に量的緩和を終了させる方針を表明しています。
一方、日本銀行は対象的に、7月31日の金融政策決定会合で、長期金利の上限を0.2%程度まで容認するなど低金利の副作用に配慮した微修正を加えながらも、2013年4月から続ける従来の異次元緩和を維持する方針を決めました。
金融緩和が長期にわたるほど、反動のリスクは大きくなります。「インフレ景気を維持することは不可能」というハイエクの警告をかみしめ、金融緩和頼みからの脱却を真剣に考えるときでしょう。
(木村貴)
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