【バロンズ】米株のアウトパフォームが続く理由 PHOTO: BRIANNA SANTELLAN By Randall W. Forsyth 2018 年 9 月 18 日 10:09 JST? 米国と他地域の株式市場のパフォーマンス格差は拡大中 米国と他地域の株式市場のパフォーマンスの乖離(かいり)が広がっている。過去数カ月、米国と貿易相手国(特に中国)の間で緊張が高まるにつれて、パフォーマンスの差も拡大してきた。しかし、ウォール街のアウトパフォームの開始時点は、はるか以前に強気相場が始まった頃までさかのぼる。投資家にとって重要な問題は、「なぜ米国株式市場のパフォーマンスは優れているのか」ということと、「アウトパフォームは続くのか」ということだ。 ここ最近、パフォーマンスの乖離は特に大きくなっている。11日までの12カ月間で、S&P500指数は15.68%上昇した一方、MSCIアジア太平洋指数は2.41%下落した。ブリークリー・アドバイザリー・グループのピーター・ブックバー氏のチャートによれば、6月前半まで両指数はおおむね同様に推移していた。同氏は「このトレンドは持続可能なものではない。アジアは世界の国内総生産(GDP)の3分の1を占めており、北米や欧州よりも大きいため、何らかの形で影響が生じるだろう」と述べる。MSCIアジア太平洋指数のうち最大のウエートを占めるのは日本(約38%)で、その後に中国(18%)、オーストラリア(11%)、韓国(8%)、台湾(7%)が続く。 ? 利益成長とセクター別ウエートが要因 ビスポーク・インベストメント・グループは、2010年末までさかのぼり、MSCI世界(米国除く)指数に対して比較的堅調なMSCI米国指数のパフォーマンス要因を調査した。その結果、バリュエーション上昇も貢献していたものの、利益成長が一貫して主なけん引役だったことが分かった。 BCAリサーチも同じ結論に達した。ただし、同社は、日本企業の過去数年の増益率は米国企業と同様であるものの、それ以前は長期にわたって低成長が続いていたと指摘する。また、同社によれば、投資家が米国企業の増益に反応したことで、株価収益率(PER)が上昇した。 高水準の利益成長とバリュエーションの上昇は、米国経済の強さの証左である。米国経済は、連邦政府の比較的迅速な政策対応によって、世界のどの地域よりも相当に早く、大幅に回復した。金融危機の直後から財政刺激が実施され、政府は公的資金を金融機関に注入した。特に米連邦準備制度理事会(FRB)は、バランスシートの規模を危機前の約5倍に拡大した。 しかし、米国市場のアウトパフォームにはテクニカルな要因もある。MSCI米国指数は、利益が急成長したセクターにウエートが偏っている。今後12カ月の予想利益に対するPER(12カ月予想PER)を例に取ろう。BCAによれば、2010年以降、世界のハイテクセクターの12カ月予想PERは約160%上昇したが、素材セクターでは25%しか上昇しなかった。 米国経済は巨大ハイテク企業に支配されており、MSCI米国指数に占めるハイテクセクターのウエートはMSCI世界(米国除く)指数よりも15%ポイント高い。対照的に、素材セクターのウエートは5%ポイント低い。ビスポークは、仮にMSCI米国指数とMSCI世界(米国除く)指数のセクター別ウエートが同一だったならば、後者のパフォーマンスは2倍以上だったと結論付ける。 ? 来年に利益成長が減速する可能性 だが、依然として主な要因は利益である。残念なことに、BCAは2019年に利益成長が減速すると予想している。高水準のバリュエーションと金利の上昇が原因で、自社株買いによる1株当たり利益(EPS)の押し上げ効果も薄れる公算が大きい。労働市場がひっ迫し、賃金上昇が加速すれば利益率は低下することになる。 また、BCAはドル高について、海外で米国の商品やサービスの価格を押し上げるため、利益に悪影響を与えるとみる。同社の予想では、今後12〜18カ月間、貿易加重ベースで5%のドル高につきS&P500指数構成企業の利益は1%減少する。今年、ドルは貿易加重ベースで6.2%上昇しており、BCAはさらなる上昇を予想している。 米国の余剰生産能力が不足しつつあるなどの理由により、世界の経済成長は減速する公算が大きい。新興国市場も苦戦している。その上、BCAは「政策環境も厳しさを増す」と考えている。欧州連合(EU)は、インターネット企業に対して個人情報収集に関する規制を強めている。トランプ政権は、保守派の意見を抑圧した疑いがあるとしてソーシャルメディア企業を標的にしている。米国と中国の貿易摩擦も懸念される。 従ってBCAは、投資家の「過度に楽観的」な利益予想は裏切られる可能性があるとみている。S&P500指数構成企業の今後3〜5年間の増益率は、平均で年率16.5%と予想されている。これは3年前の予想増益率よりも6%ポイント高く、2000年のハイテクバブル時の18.7%に次ぐ水準である。 企業利益の力強い伸びは、現在の強気相場を通じて、米国株式市場の大幅なアウトパフォームの原動力となってきた。その力は、来年には弱まり始めるかもしれない。 米財政赤字1兆ドルは懸念すべきか 議会の奇跡的な行動がなければ、年間1兆ドル規模の財政赤字が復活することに PHOTO: NEW STUDIO By Jack Hough 2018 年 9 月 18 日 10:11 JST 更新 • 債務増加 10月に米国の会計年度が始まる。議会の奇跡的な行動がなければ、年間1兆ドル規模の財政赤字が復活することになる。 公的債務は、9月末の15兆7000億ドル、国内総生産(GDP)比78%から、10年後には28兆7000億ドル(同96%)に増加することになる。米議会予算局(CBO)によるこの予想は、経済成長率、インフレ率、雇用および金利に関する妥当な想定に基づいているが、幾つかの重要事項を含んでいない。米国土木学会は2025年までに1兆4000億ドルのインフラ投資が必要と推定しているが、これは含まれていない。また、金融危機や戦争の勃発(ぼっぱつ)、あるいは天災の増加なども考慮しておらず、トランプ大統領による減税の一部が2025年に終了するとも想定している。 公的債務の国内総生産(GDP)比 債務を今後30年間にGDP比78%の水準に維持するだけでも、莫大(ばくだい)な額の予算削減が必要となる。その額は、来年度は4000億ドルで、2048年までに6900億ドルへ緩やかに増加する(2019年価格)。対して2017年度の国防費は5900億ドル、裁量的支出は6100億ドルだった。その他4兆ドルは、社会保障などの義務的経費と、負債の利払いとなっている。 下院共和党は先週、新たな減税案「減税2.0」を発表した。主な内容は家計や零細企業向けの減税だが、歳入のさらなる減少と財政赤字の増加は、納税者の慰めにはならない。納税者1人当たり債務は16万4000ドルだが、今後10年以内に25万ドルを超えると見込まれている。 債務主導の破滅が近い将来に発生する確率は低いとみられるため、株式および債券投資家に対する差し迫った警告はない。実際、市場に対する最大のリスクは、平穏な状況に現状への安心感が高まることだ。米国10年債利回りが約3%の水準でも、米国債を喜んで買う投資家は確実に残っている。 全ての財政赤字が悪者ではない。2012年度までの4年間の年間1兆ドルを超える財政赤字は、金融システムのテコ入れに役立ち、深刻な景気後退が長期的な不況に変わることを阻止した。ケインズ派経済学者は、景気が落ち込んでいる際には需要刺激のための財政赤字と減税を求め、景気が活況な際の財政黒字で回収できると言うが、現実には財政は黒字化していない。 債務増加率が経済成長率よりも低ければ、負担は徐々に軽減される可能性がある。実際、第2四半期GDP成長率は債務増加率を上回ったが、一時的な下支え要因によるものだった。 CBOは今後10年間について、実質GDP成長率を年率約1.7%、名目GDP成長率を同4.0%と予想しているが、も年々増加し、対GDP比で平均4.9%を締め続けると予想されている。経済成長率が現在から低下する理由は、ベビーブーマーの退職という人口動態的な要因が大きい。 • 歳出削減策 対外援助削減、浪費や不正行為の排除、福祉の抑制といった一般的な解決策は役に立たない。広義の対外援助は年間約500億ドルにすぎず、わずかな節約にしかならない。米会計検査院は、連邦組織全体の2017年度の不正支出を1410億ドルとしているが、新たなコンプライアンス措置に多額を費やさずにこの額を減らすのは困難だ。福祉給付を広く捉え、所得制限の対象となる給付プログラム全体を指すと考えた場合、本年度の総額は7420億ドルに達する。しかし、所得制限の対象外である2兆1000億ドルの義務的給付プログラムと比較すると小さい。 無党派の市民グループであるコンコード連合のロバート・ビックスビー氏は、「政治的に容易な手段はない。問題は給付プログラムで、ベビーブーマーは既に受け取り始めている」と語る。同氏は、悪化が続く社会保障の財政状況はベビーブーマーの退職が収束すれば安定する可能性があるが、好転はせず、同時にメディケア(高齢者向け医療保険制度)の課題は増すばかりだ、と指摘する。 ルービン元財務長官も、財政赤字削減策として、メディケア費用の伸び抑制と歳入増を挙げる。同氏は、「費用に焦点を当てた包括的なヘルスケア改革が必要だ。メディケアとメディケイド(低所得者医療保険制度)の費用の伸びを抑制できれば、目標の半分は達成できる」と言う。残る半分は歳入だ。1998年から2001年までの財政黒字の期間において、年間歳入の対GDP比は19〜20%だった。その割合は今後数年間で16.4%に低下して底を打ち、減税が解消されれば反発すると予想される。 財政赤字を容認する減税がそれに見合う経済成長を達成できるという理論は、ほとんど賛同を得ていない。しかし、財政改革が経済成長にとって良いことであると考える理由は数多くある。利払いは抑制され、民間投資が政府借り入れに取って代わる。CBOは、今後30年に債務を対GDP比78%に維持するだけでも、人口1人当たり国民総生産(GNP)は4.5%増加すると推定している。 前回、債務に対して抜本的な対処を試みたのは、オバマ前大統領時代の2010年のシンプソン・ボウルズ計画だった。2020年にかけて約4兆ドルの財政赤字削減を目指し、裁量的支出の削減、社会保障とメディケアの改革、所得税・法人税減税と並行した税控除の撤廃をその手段としたが、議会での採決には至らなかった。ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領も債務削減に取り組んだ。民主党が支配する議会は、税収の増加がなければ歳出削減に同意しないと主張した。しかし、ブッシュ元大統領は、1ドルごとの歳入増に対する約2ドルの歳出削減を盛り込んだ超党派合意を取り付けた。その結果、ブッシュ氏は1992年の大統領選挙で敗北した。次のクリントン元大統領は1993年度予算でも赤字削減に引き続き取り組んだ。 財政赤字の対GDP比は、1992年の4.5%から5年後にはほぼゼロへ減少し、その後財政黒字に転じた。ここから得られる教訓は、財政改革はナルシストまたは栄光を求める人々の仕事ではないということだ。 • 当面は心配無用 良いニュースは、議会が財政赤字に対処する勇気を持った場合、金融市場が協力する公算が大きいとみられることだ。 JPモルガンのエコノミストは最近の分析で、米国に似た諸外国の第2次世界大戦以降の過去の債務不履行、ベイルアウト(救済)およびインフレ率急上昇を調査した。その結果、任意の5年間において、上記が発生する確率は6%未満だった。統計的には、債務水準と危機の関係は驚くほど弱い。つまり、危機は、債務の対GDP比が現在の米国よりも低い国で発生しており、同比率が高くても危機を回避できた国もあった。多くの危機は、各国固有の通貨に関する問題が理由であり、米国にはあまり当てはまらない。 エコノミストは、「米国の債務危機を懸念するのは時期尚早」だが、「債務によって生み出された脆弱(ぜいじゃく)性における過去の教訓も無視すべきではない」と結論付けた。 T.ロウ・プライスの米国課税債券チームを率いるアンディ・マコーミック氏も、当面に関して同様に確信しており、「今後6カ月から2年は問題ない。債務が対GDP比で100%に達した場合、人々が動揺する可能性はあるが、それをポートフォリオに織り込むには時期尚早過ぎる」と語る。 同氏が正しければ、現在は債券利回りと金利が低位にとどまる中で、財務規律を取り戻すための抜本的な行動を取るには良い機会だ。簡単ではないだろうが、今より簡単になることは今後ないだろう。
配当投資、金利上昇の影響は? PHOTO: DUNCAN CHARD By Lawrence C. Strauss 2018 年 9 月 18 日 10:06 JST • 幅広い金利上昇の影響 生活必需品や公益事業など、超低金利の時期に現金配当を行った企業にとって、今年は厳しい年となっている。今後その状況はさらに厳しくなる可能性もある。 米連邦準備制度理事会(FRB)が短期金利の引き上げを続ける中、金利はより広い範囲で上昇している。10年物米国債利回りは昨年末の2.43%から直近で2.95%に上昇した。バンクオブアメリカ・メリルリンチで米国株式とクオンツ戦略を統括するサビタ・スブラマニアン氏は、このような状況で「投資家は現金や短期債といった伝統的な利回りの源泉に戻る可能性がある」と述べる。 公益事業、素材、生活必需品の各セクターは、年初来のリターンが市場をアンダーパフォームしている。S&P500指数に含まれる不動産企業のリターンは2%未満と、金利上昇の影響を受けて低迷している。 2008年の金融危機以降、FRBが量的緩和策の一環で金利を引き下げると債券利回りは低下し、投資家が代替となる投資先を求めた結果、配当利回りの高い企業の株価が上昇した。しかし、その希少価値は徐々に低下しているうえ、公益事業や電気通信サービスセクターの企業は多額の債務を抱える傾向があるとスブラマニアン氏は指摘する。低金利下では問題なくても、「信用スプレッドが縮小以外の方向に動いたら、債務の大きさが問題化するだろう」と同氏は警告する。 スブラマニアン氏は、公益事業と不動産の各セクターをアンダーウエート、生活必需品と電気通信サービスの各セクターをニュートラルと評価している。電気通信サービスの2大銘柄はAT&T(T)とベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)で、それぞれ配当利回りは6%と4.4%となっている。 • 配当利回りを狙った投資は慎重に クレディ・スイス証券で株式ストラテジストを務めるパトリック・パルフリー氏は、高配当利回りのセクターを2種類に分類している。一つ目は、公益事業、不動産投資信託、電気通信サービスなど伝統的に利回りに敏感なグループだ。一方、生活必需品とヘルスケアを別のグループとしているのは、少なくとも理論的には、その一部が株主還元のための多額のキャッシュを創出できることによる。 年初から金利上昇が続いているうえ、労働市場がひっ迫していることから、賃金上昇の可能性も高い。このことはさらなる金融引き締めにつながり得る。金利上昇に伴い、「10年債を保有できる場面で、公益事業や電気通信サービスの株式保有を正当化することはだんだん難しくなってくる」と同氏は指摘する。 主要ETFの比較 SPDR S&PファーマシューティカルズETF(XPH)の年初来のリターンは12.2%と、S&P500の9.24%を上回った。株価上昇もその一因だが、製薬大手数社は配当利回りが魅力的な水準にある。メルク(MRY)の配当利回りは2.8%、イーライリリー(LLY)は2.1%、ファイザー(PFE)は3.2%、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMY)は2.7%となっている。 一方、コンシューマー・ステープルズ・セレクト・セクターSPDR ETF(XLP)の年初来のリターンはマイナス3.18%だった。パルフリー氏によると、アマゾン・ドット・コム(AMZN)をはじめとするオンライン小売企業の台頭により利益率が圧迫される中でも、生活必需品企業のバリュエーションは高い。ステープルズETFの価格は、構成企業の2019年アナリスト予想利益のほぼ18倍となっており、SPDR S&P 500 ETF(SPY)の16.2倍を上回っている。 ヘルスケア大型株の予想株価収益率(PER)は来年の利益予想の16倍弱、年初来のリターンは12.8%とS&P500指数を上回っている。 スブマラニアン氏は、公益事業など従来の高配当利回りセクターについて、投資家は今後も慎重さを保つべきだと述べる。同氏は「配当利回りの高いセクターは、過去の景気サイクルのときと比べてリスクが高くなっている可能性が高い」として、景気後退時に過去と同様の底堅さを示すかは分からないと付け加える。 パルフリー氏は、配当利回りにあまりとらわれ過ぎないことが重要だと述べる。投資家は配当の源泉を把握するべきであり、それが強力なフリー・キャッシュ・フローであれば理想的だ。 金融危機回顧、ポールソン元米財務長官に聞く ジョージ・W・ブッシュ政権下で財務長官を務めたヘンリー・ポールソン氏(2007年) ジョージ・W・ブッシュ政権下で財務長官を務めたヘンリー・ポールソン氏(2007年) PHOTO: DANIEL ACKER/BLOOMBERG By William D. Cohan 2018 年 9 月 18 日 10:11 JST 更新 ? ベアー・スターンズ 金融大手ゴールドマン・サックス・グループの元最高経営責任者(CEO)であるヘンリー・ポールソン氏は、ジョージ・W・ブッシュ政権下で財務長官を務め、2008年の金融危機に対応した。 72歳になった同氏は現在、シカゴ、ワシントン、北京にオフィスを構える超党派の「シンク・アンド・ドゥ」タンク、ポールソン・インスティテュートを運営している。そのシンクタンクは、環境の維持と保全を重視しながら米国と中国の経済関係を強化することをテーマにしている。 本誌は、ブラジルでの環境アドベンチャー休暇から戻ったばかりのポールソン氏に電話で取材し、10年前の金融危機を振り返ってもらった。 本誌:金融市場で異常な数の問題が起きかけているかもしれないと最初に気付いたのはいつだったのか? 2007年2月にサブプライム住宅ローン担保証券のベンチマークであるABX指数が急落したときか、2007年の4月から5月に証券大手ベアー・スターンズ傘下の二つのヘッジファンドが破綻したときか、それとも別のタイミングだったのか? 2007年の初めには既に気付き始めていたのだろうか? ポールソン氏:その二つの出来事は点滅している黄信号だったが、私に関する限り、金融危機が本格化したのは2007年8月の初め、フランスの金融大手BNPパリバが傘下の三つの投資ファンドで解約を停止したときだった。それによって流動性の凍結が本格的に始まり、その後加速していった。危機が始まるまでの1年間にブッシュ元大統領、バーナンキ元米連邦準備制度理事会(FRB)議長、ガイトナー元ニューヨーク連銀総裁、連邦議会議員らと強い協力関係を築くことができたのは本当に幸運だった。 われわれが金融システムの救済が必要かもしれないと考え始め、緊急時対応策を練り始めたのは2008年の春のことだった。 Q:ベアー・スターンズが実質破綻した後ということか? A:正確な日付は覚えていないが、ベアー・スターンズが実質破綻したときには既に対応策に取り組んでいた。その年の春には取り組みが始まっていて、ベアー・スターンズの破綻後に強化されたということだ。 行動しなければいけないという大きな責任を感じながら、緊急時に必要な権限を持ち合わせておらず、それを連邦議会からも得られないと分かっていたので、かなりのフラストレーションがあった。緊急時に必要な権限を議会から得ようとして失敗したら、防ごうとしていた危機を引き起こしてしまうことも以前から承知していた。 ベアー・スターンズに関して言えば、事前に対策を練っていたとしても役には立っていなかっただろう。当時の市場は流動的で、われわれは急激に変化する未知の領域で対応に当たっていた。従って金融危機が始まる前、あるいは始まってすぐに計画していたようなことは、状況が悪化していく中であまり役に立たなくなっていたはずだ。 Q:当時、ベアー・スターンズを救済するために必要なことをしなければならないと考えていた理由は? A:「できることは何でもやる必要がある。同社が破綻した場合、どれほどひどい状況になるのかは分からないが、非常事態に陥る大きなリスクはある」というのがわれわれの考え方だった。じっくりと議論している場合ではなかった。 通常の市場環境であれば、ベアー・スターンズの破綻は米国経済にとって打撃とならなかっただろう。われわれは、同社の破綻を受け入れるには金融システムが脆弱(ぜいじゃく)過ぎる、不安に突き動かされていると考えていた。ベアー・スターンズ救済劇がモラルハザードを生み、リーマン・ブラザーズの破綻を促したと主張する人もいるが、私はその逆だと信じている。われわれはそのおかげで惨事を免れ、連鎖的な破綻を回避することができた。 ベアー・スターンズが破綻していたら、ヘッジファンドはすさまじい勢いでリーマンを追い詰めたことだろう。リーマンはすぐに破綻し、その結果は実際の9月の破綻よりもかなりひどいことになっていたはずだ。その間には連邦住宅金融抵当金庫(フレディマック)と連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)の一時国有化やバンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収などがあったからだ。ファニーとフレディを安定化させる前にそうしたことが起きていたらどうなっていたかを想像すると恐ろしい。 Q:リーマンのCEOだったリチャード・ファルド氏であれば「規模ならわが社の方がベアー・スターンズよりも大きい」と主張しただろうという見方もあるが、ベアー・スターンズが実際に破綻していたらどうなっていたと思うか? A:リーマンはそのすぐ後に破綻していただろう。銀行間貸出市場は機能を停止していた。ベアー・スターンズの救済後、私は諸外国の財務相から「われわれは全く安心できない。米国の投資銀行と取引する理由が見当たらない」という意見をよく聞いた。そこには多くの不安があった。 Q:その年の夏が終わった頃、最悪の事態は避けられたと考えていたのか? それとも、ベアー・スターンズが救済され、フレディとファニーが一時国有化された後でも事態はもう一段階悪化しそうだと考えていたのか? A:ベアー・スターンズはわれわれにとって大きな警鐘となり、事態がもう一段階悪化する可能性や、それに対応するために必要なツールがないことへの焦燥感を高めた。われわれには、債務を保証したり投資銀行を含めたノンバンクに資本を注入したりするためのツールがないことは法律家から聞かされていたが、われわれにそれを許可する権限がどこにもないことが信じられなかった。 そこでわれわれは司法省をはじめ、行けるところ全てに行き、買い手なしには破綻しかけているノンバンクを救済するのに必要な権限がないことを知った。バーナンキFRB元議長と私はリーマンのようなノンバンクの破綻を管理する権限がないことについて、バーニー・フランク元下院議員に相談した。 同議員はわれわれが恐れていたことを理解し、納得した。ただしリーマンが破綻すること、それによって米国経済が深刻な打撃を受けることを確信しない限り、議会は動いてくれないだろうと教えてくれた。だからといって警報を鳴らせば、リーマンはすぐにも破綻していただろう。私はベアー・スターンズの救済を例に挙げてファニーとフレディも大き過ぎてつぶせないという考え方を示し、両公社に資本調達を約束させ、リチャード・シェルビー上院議員、クリス・ドッド上院議員との4月初めの会議でこれを利用して、それまでファニーとフレディの機能強化法案の提出に消極的だった2人を説得、その法案の上院での審議を活性化させた。 その後、ガイトナー元総裁と私はリーマンに関して戦略的出資者を見つけるか、身売りをするかすべきだと考えてファルドCEOを積極的に説得し始めた。われわれはそうした取り組みを加速させ、多くの緊急時対応策を練ったが、それでも安心はできなかった。 ? リーマン・ブラザーズ Q:何度も聞かれた質問だと思うが、政府はなぜリーマンを救済しなかったのか? A:われわれの回答は一致していないように思えるかもしれないが、バーナンキ元議長、ガイトナー元総裁、私の3人は、システム上重要な金融機関の破綻を防ぐという決意で一致団結していた。ところが、米国の規制システムは分断された時代遅れの代物だった。十分な監視や現代の金融システムの大部分への可視性がなく、資本注入したり、債務を保証したり、ノンバンクを段階的に縮小するのに必要な緊急時の権限もなかった。従ってわれわれはケースバイケースでできることを何でもした。 議会が不良資産救済計画(TARP)の実施を可能にする金融安定化法を通過させるまでに、われわれは破綻しかけていた4つのノンバンク、ベアー・スターンズ、メリルリンチ、リーマン、保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対処していた。買い手が見つかったメリルリンチは政府の救済を受けなかった。JPモルガン・チェース(JPM)のような資本力の十分ある買い手が見つかったベアー・スターンズも幸運だった。株主総会で決議されるまでの間、JPモルガンがベアー・スターンズの負債を保証したことも大きかった。 リーマンに関してはその負債を保証する覚悟と能力がある買い手が必要だったが、見つからなかった。そうした買い手なしで連邦政府が融資を容認したとしても、額が不十分だったり、効果が薄かったりして取り付け騒ぎは阻止できなかっただろう。それには資本を注入するか、負債を保証するかしなければならなかったが、連邦政府にそうした権限はなかった。ここに多くの人々が見過ごしたポイントがある。パニックの最中、市場参加者は自分で投資判断をする。彼らがリーマンに関して存続可能、または支払い能力があると考えなければ、流動性不足を補うだけの連邦政府による融資があったとしても破綻は避けられなかっただろう。当時、リーマンに関してそう考える者などいなかった。 ? アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG) ところが、AIGの破綻やそれに伴う悪影響は連邦政府による融資で回避された。というのもAIGは個別に信用格付けされた複数の保険会社を保有しており、連邦政府も市場も、そこには融資を十分に担保し持株会社の流動性不足を補う融資を受けた後のAIGの存続を確実にするだけの価値がある、と考えたからだ。 その数カ月後に損失が積み重なると、AIGは格付け会社に存続可能だということを示すために政府から資本注入を受けリストラを実施した。幸いなことに、当時のわれわれにはそれだけの資本があった。 終わってみれば、AIGへの融資は成功だった。AIGが破綻していたら、リーマンの破綻よりもはるかにひどい状況になっていたはずだ。政府がAIGに注入した資金は全て返済された上に大きな利益ももたらした。うまくいって良かったが、実際はみっともない話である。 AIGは良い教訓になった。金融規制システムが現代の金融市場についていけないという状況を許すべきではない。一つの規制機関ではAIGに対して可視性を要求したり、監督権や十分な権限を持ったりすることができない。AIGが保有する複数の保険会社は州レベルで規制され、そうした保険会社の上であぐらをかいている巨大ヘッジファンドのような持株会社は、住宅金融大手のカントリーワイドやインディマック、貯蓄・貸付組合のワシントン・ミューチュアル、GEキャピタルなども担当した無能な貯蓄金融機関監督局(OTS)によって規制されていた。こうした企業は規制当局を自ら選んできた。詰まるところ、規制逃れなのだ。 債券下落、米金利先高警戒感で−日銀オペ結果受け超長期安い (訂正) 三浦和美 2018年9月18日 7:57 JST 更新日時 2018年9月18日 16:33 JST • 長期金利は0.11%に上昇、30年と10年の利回り格差が拡大 • 外部環境的には円金利が下がる要因あまりない−岡三証 債券相場は下落。米長期金利の先高警戒感や、安倍晋三首相が先週末に日本銀行の出口戦略に言及したことを背景に売り圧力が掛かった。また、日銀が実施した国債買い入れオペで超長期債の需給緩和が示されたことから利回り曲線はややスティープ(傾斜)化した。 18日の現物債市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の351回債利回りは、日本相互証券が公表した前週末午後3時時点の参照値より0.5ベーシスポイント(bp)高い0.11%で取引を開始し、その後も同水準で推移した。超長期債利回りの上昇幅が大きくなり、30年債と10年債の利回り格差は約1週間ぶりの水準に拡大した。 岡三証券の鈴木誠債券シニアストラテジストは、「雇用統計以降、米経済指標の上振れが目立っており、米長期金利が上振れするリスクが意識される」と指摘。「今日は日本株が高く、円安方向となっており、外部環境的には円金利が下がる要因はあまりない」と言う。 長期国債先物市場で中心限月12月物は前営業日比6銭安の150円21銭で取引を開始。一時は150円19銭まで下落し、結局は7銭安の150円20銭で引けた。 17日の米国債市場では、米10年債利回りが一時3%を超えて5月以来の水準まで上昇。結局は前営業日比1ベーシスポイント(bp)低い2.99%程度で引けた。 安倍首相は14日、自民党総裁選に向けた日本記者クラブ主催の公開討論会で、日銀の異次元緩和について「ずっとやっていいとは全く思っていない」と述べた上で、自らの在任中に出口戦略への道筋をつけたい考えを示した。具体的な時期や手法は「黒田東彦総裁に任せている」と語った。 トランプ米政権は17日、中国からの輸入品約2000億ドル(約22兆4000億円)相当への10%の追加関税を来週発動させるとともに、来年には同関税率を2倍超に引き上げると発表した。 日銀買いオペ 日銀はこの日、長期と超長期ゾーンを対象とする国債買い入れオペを実施した。各ゾーンの買い入れ額は前回から据え置かれた。応札倍率は残存期間5年超10年以下が2.50倍、10年超25年以下が3.23倍と、前回からやや上昇。25年超は4.08倍と前回の2.67倍を大幅に上回った。 岡三証の鈴木氏は、オペの結果について、「応札倍率が前回から上がっており、やや売りがあったようだ。25年超は特に弱い印象がある」と話した。 過去の日銀オペの結果はこちらをご覧下さい。 新発国債利回り(午後3時時点) 前週末比 2年債 不成立 5年債 -0.065% +0.5bp 10年債 0.110% +0.5bp 20年債 0.615% +0.5bp 30年債 0.845% +1.0bp 40年債 0.980% +1.0bp (本文末尾の利回り表を訂正します.) https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-09-17/PF7Z1E6KLVR501?srnd=cojp-v2
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