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70歳まで働くことが年金制度の健全な維持にもつながる理由
https://diamond.jp/articles/-/179860
2018.9.18 大江英樹:経済コラムニスト ダイヤモンド・オンライン
安倍首相が働き方第2弾で打ち出した
「生涯現役時代の雇用改革」
9月3日、安倍晋三首相は、働き方改革の第2弾として「生涯現役時代の雇用改革を断行したい」と発言した。
具体的には、
●今後1年かけて生涯現役時代に向けた雇用改革を断行
●次の2年をかけて医療、年金など社会保障制度全般にわたる改革を実施
●継続雇用年齢の65歳以上への引き上げや、70歳超の年金受給開始も選択できる制度を検討する
としている。
これら一連の方針が、どのように政治的な意味を持つのかについては、筆者は専門外なのでよくわからないが、シニア世代の働き方と年金という観点から考えると、これは非常に重要な意味を持つだけでなく、今後の方向性を明らかに示唆していると考えられる。と同時に、どうやら多くの誤解もあるようなので、今回はこの方針の持つ意味について考えてみたい。
雇用改革についてはともかく、年金に関しては70歳からの支給という話題になると、非常に風当たりが強い。多くの人が年金制度に不安を持っており、中には「年金は既に破綻している」というやや極端な意見の人も少なからずいる。
しかしながら実際は決して破綻しているわけではなく、年金の支給は問題なく行われているし、年金積立金自体は200兆円近くあることも事実だ。年金の問題についてはまた改めて述べたいと思うが、「少なくとも年金制度自体が立ち行かなくなるとか、破綻するということはない」と言っていいだろう。
また、一部に誤解があるかもしれないが、今回の方針は現在65歳から支給される公的年金を、70歳からしか受け取れなくするということではない。現に今でも希望すれば60歳から受け取ることができるし、70歳まで繰り下げることも可能だ。
年金の支給開始繰り下げだけでなく
働くのも70歳までだと風景が変わる
今回の方向性は、70歳を過ぎても受け取り開始年齢をさらに遅くすることを可能にするということであり、いわば選択肢を広げるということに過ぎない。ただし、年金の支給開始繰り下げだけでなく、働くのも70歳までとした場合、大きく風景が変わってくる。
そもそも年金と雇用改革とは、決して切り離すことができないものだ。なぜなら公的年金というのは、社会全体で高齢期の所得を確保する仕組みであり、言わば「共助」という性格を持っている。言うまでもなく、経済成長によって現役世代の所得が向上すれば年金財政にはプラスに働くし、労働市場への参加が増えることは制度を支える分母が大きくなるわけだから、制度の健全化には好影響を与えるからだ。
そうした年金制度について、その財政の健全性をチェックするために5年ごとに年金の「財政検証」というのが実施されている。直近では2014年に実施されたが、そのときに行われたいくつかのシミュレーションの一つとして、オプション試算というのがある。
現在、年金保険料の払い込み期間は原則20歳から60歳までで、年金支給開始年齢が65歳となっている。つまり40年間払い込んで、5年間待ってもらい、65歳から支給開始するという構造だ。払い込み期間が60歳までなのは、そこが定年となっているからだ。
一方、現役時代の手取り収入の何割ぐらいを年金支給額でカバーできるかという数字を「所得代替率」というが、2014年時点での数字はモデルケースとして62.7%となっている(厚生労働省HPより)。しかしながら、今後の経済成長率や出生率次第でこの率は下がることも容易に想像できる。現状ではこの所得代替率の50%を維持したいというのが厚生労働省が目指す方向だと考えていい。
年金によって老後の生活を
支える安定性が向上する
ここで仮に、70歳まで働いて保険料を払い込み70歳から受け取る、つまり50年間保険料を払って待機期間なしですぐに年金の支給が始まるとすると、所得代替率は一体どれぐらいになるだろうか。
これを計算したのがオプション試算だ。紙面の関係からここでは試算に関する詳細の説明は割愛するが(図を参照)、現在の経済情勢よりも少し悪くなるという想定ケースEの場合、所得代替率は85.4%、今よりもかなり経済情勢が悪くなる(最悪シナリオのケースH)の場合でも71.7%となる。
※画像クリック拡大
ここ数年、年金支給開始年齢の引き上げが話題になっているのも、恐らくこの試算が背景になっていると考えていい。つまり、多くの人が70歳まで働くことで、年金によって老後の生活を支えるという安定性が向上するということなのだ。
言うまでもなく、働く年齢を引き上げるだけではなく、働く女性が増えることもプラスに作用する。従来、労働市場に参加していなかった高齢者と、女性が活躍できる場を広げることが、いずれ訪れる老後の暮らしを支えることになるからだ。
この時期に働き方改革として「生涯現役時代に向けた雇用改革」という方向性が打ち出されたのは、こうした年金制度を健全に維持することと密接に関係があるわけだ。
そもそも現在の公的年金制度ができ上がったのは、それほど大昔のことではない。厚生年金については、起源は戦時中にさかのぼるものの、現在の制度の基礎がほぼ固まったのは1954年だ。一方、国民年金が始まったのは1961年であり、これによって「国民皆年金制度」が実現した。
当時の平均寿命はどれぐらいであったかというと、1960年時点においては男子が65.32歳、女子が70.19歳だ。今よりも15?16年も短い。現在の年金や定年の制度は、この時期の状況をベースにして作られたものだから、現在の状況に合わなくなってきているのは当然だと言えよう。
もちろん当時の定年は55歳が一般的だったし、年金支給開始年齢は60歳だったので、現在はそれよりも5年遅くなってはいるものの、そもそも平均寿命が15年も長くなっているのだから、当時の状況を基にして設計された年金や定年の制度は、やはり見直すべき時期にきていると言ってもいいだろう。
経済成長を促して所得向上を目指し
負担や給付の仕組みを調整するしかない
この状況について「国が悪い」「世の中が悪い」と嘆いたり、文句を言ったりする人は多いが、それは社会全体の状況なのだから仕方がない。文句を言ったところで、打ち出の小槌のようにどこからかお金が降ってくるわけではないからだ。結局のところ、社会保障というのは社会全体での壮大な助け合いの制度だ。
働く人が増え、給料も上がり、応分な負担をすること、それで足らなければ国庫から税を財源として拠出するという仕組みでしか支えることはできない。しかしながら公平性の観点から見ても、税に過重な負担をかけるべきではないことは言うまでもない。
結局のところ、経済成長を促して、多くの人が負担に耐え得るような所得向上の実現を目指すとともに、保険料の負担や給付の仕組みを調整するしかないのだ。数年前からようやく実行に移された「マクロ経済スライド」も、年金のプライマリーバランスを健全化することにはそれなりの成果を挙げている。
多くの人は、「将来、年をとった時に必要なのはお金ではなく、購買力なのだ」ということを誤解しているようだ。いくら絶対額が保証されていても、物価が大幅に上がってしまったのでは意味がない。「物を買う力=購買力」が維持されていることが大切なのだ。
だからこそ、将来いかに物価が上昇したとしても、その時点での現役収入の何割が年金で賄われるかという「所得代替率」が重要なのだ。人生100年時代と言われるが、単に掛け声だけではなく、健康であれば誰もが70歳まで働けるようになることは今後の社会の重要なテーマといえる。
筆者は政府が音頭をとって、70歳までの雇用を義務化することには反対の立場だが、再雇用のみならず、転職や起業といったようにより広い選択肢を持って働けるような環境を整備することは大切だ。
(経済コラムニスト 大江英樹)
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