2018年9月12日 週刊ダイヤモンド編集部 株式投資への増税が19年度税制改正で浮上、軽減税率の財源確保で 財務省 軽減税率の財源確保をめぐって、文書改ざん問題で信用を失った財務省はどこまで影響力を及ぼすことができるか Photo by Masaki Nakamura 中央省庁による2019年度当初予算の概算要求が8月末にまとまり、予算編成と税制改正に向けた議論が今後本格化する。 大きな焦点は、来年10月の消費税率の引き上げに伴う景気対策と、食料品などに適用する軽減税率の財源確保だ。 軽減税率をめぐっては、1兆円前後の恒久的な財源が必要と政府はこれまで説明している。そのうち約4000億円は、低所得者の医療や介護費の負担を和らげる「総合合算制度」の実施見送りで賄う方針だが、残り約6000億円もの財源をいかにして捻出するかが喫緊の課題だ。 すでに、昨年末の税制改正で決まったたばこ増税や、給与所得控除の縮小分を財源として当て込む声は出ているものの、それでも約2500億円足りないという状況で浮上したのが、株式投資による金融所得への増税だった。 「今年秋から、いよいよ所得税改革の第3弾が始まる」 自民党税制調査会の宮沢洋一会長は今春以降、講演会などで税制改正への意気込みを語る中、金融所得課税について取り上げ、その問題意識を繰り返し説いてきた。 それは、諸外国よりも負担率が低いことに加えて、給与などの収入は多くなれば負担率(最高55%まで)が上がる累進課税にもかかわらず、「収入1億円を境目にして、それ以上は負担率が低いところで20%近くまで下がってしまう」(宮沢氏)という問題だ。 金融所得課税の税率が一律20%(復興特別所得税を除く)のため、金融所得の割合が多い富裕層の税負担が総じて軽くなる「逆転現象」が起きているという。 渋面の官邸サイド その現象を、税率引き上げで少しでも是正しようというわけだが、税率1%の引き上げで約500億円の増収になり、軽減税率の財源不足の穴埋めに好都合という計算も、そこには垣間見える。 宮沢氏を陰に陽に振り付けているのは、出身母体でもある財務省だ。増税への流れをつくろうと昨年から必死に動いていたものの、それとは裏腹に基点となる宮沢氏が夏場以降、金融所得増税について平場で口にする機会が、めっきりと減ってしまっているのだ。 そもそも、株高はアベノミクスの成果と喧伝してきた政府にとって、市場を冷やしかねない金融所得増税は「安易」(首相周辺)に映り、昨年末の政府の税制改正大綱には今後の検討事項として盛り込まなかった経緯がある。 今年に入っても、変わらないそうした首相周辺の姿勢を見るにつけ、党税調が早くもトーンダウンしているかのようだ。 折しも、党税調を支える財務省が文書改ざん問題で信用を失墜させる中で、失地回復に向けて官邸サイドをどこまで説得できるか。その地力がまさに試されることになる。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅) 2018年9月12日 河野龍太郎 :BNPパリバ証券経済調査本部長 リーマン後10年、「労働節約的イノベーション」が新たな危機の火種になる Photo:PIXTA 「リーマンショック」から10年目となる2018年9月15日が近づいてきた。危機のもとになったサブプライムローンなどを封じる金融規制強化は進んだが、新たな「火種」も見え隠れする。危機は再び繰り返すのか。 サブプライム危機の「真実」 金融当局に強い反省 まず、金融規制の問題だが、規制当局は、危機は繰り返さないと口をそろえる。そうした主張を、単に「希望的観測」とか「行政の無謬性の罠」と片付けることはできないだろう。 サブプライム危機の原因の1つは、当時の誤った金融規制の導入で、大手米銀が過大なリスクテークに走ったことであり、このことについては、監督当局には強い反省がある。 一般に、サブプライム危機が起きたのは、低金利を背景に米国で住宅ブームが生じ、資金調達のためにサブプライム・ローンなどが膨張、それを元に証券化商品が乱造され、ブームが崩壊したからだと解説される。 しかし、因果関係はむしろ逆だった。 証券化商品へのニーズが強まり、それを組成するためにサブプライムローンなどが粗製乱造され、住宅バブルが醸成されたのが実態だ。 それではなぜ証券化商品へのニーズが高まったのか。 証券化商品の中でもニーズがあったのは、トリプルA資産とされていたスーパー・シニアと呼ばれる部分を集めた高利回りの債券だ。 だが2004年の銀行規制では、リスクが低く、銀行が保有する際には規制上の資本を割り当てる必要がないとされた。本当はリスクがあるから利回りが高いのだが、それを考慮する必要がないと監督官庁がお墨付きを与えてしまった。 利にさとい大手米銀は一斉にその商品に飛びつき、その組成のため劣悪なサブプライムローンが粗製乱造され、それに伴って住宅バブルが起きたのである。 銀行は、規制上リスクが小さいはずのスーパー・シニア債を大量に保有していたため、バブル崩壊で大損失が発生、それが破綻の原因の1つとなった。 大手米銀は、いわば、規制の隙間をついて儲けていた。リターンが高くとも規制上リスクがないと認定されていたから、十分な資本も準備されていなかった。 さらにどの銀行も一斉に同じところに資金を投入するから、バブルも生じた。銀行業の行動原理を考慮しない規制が、危機の種をまいたという構図だ。 それ故、サブプライム危機後、銀行規制は世界的に強化されている。今のところ大銀行を巻き込む危機が訪れる可能性は(多分)小さい。 是正されたグローバル・インバランス 中国の経常収支は大幅減 危機を生んだ背景にあったグローバル・インバランス問題も、今は状況が大きく変わった。 当時、大手米銀がスーパー・シニア債を欲したのは、正真正銘のトリプルA資産である米国債の金利が大幅に低下したことが、そもそもの原因だった。 中国や日本など経常黒字国の過剰貯蓄が向かった先が米国債であり、その結果、米国準備制度理事会(FRB)が利上げを続けたにもかかわらず、中国などの旺盛な米国債購入で米国の長期金利はほとんど上昇しなかった。 それ故、長短スプレッドを確保できなくなった大手米銀がスーパー・シニア債に向かったわけだ。 当時に比べると、米国の資本輸入は大きく減少し、経常黒字国の資本輸出も、日独を除くと、かなり抑制されている。過剰貯蓄国の代表の1つだった中国の経常黒字は、今やゼロ近傍まで縮小している。 今は、サブプライムバブル時のように、経常黒字国の過剰な資本輸出によって、米国の長期金利が低く抑えられ、不均衡が生じているとは必ずしもいえなくなっている。 新たな危機の断層線 「労働節約的なイノベーション」の光と影 それでは、金融的不均衡をもたらす断層線は今や存在しないのか。近年、筆者が強く懸念しているのは、先進国における所得分配がもたらす問題だ。 日米独を中心に先進各国は完全雇用の状態にあるが、賃金上昇はなお緩慢で、その結果、物価上昇の動きは鈍い。景気拡大が長期化しているにもかかわらず、FRBの利上げペースが遅いのもこのためだ。日本に至っては、政策金利の引き上げのめどすら立っていない。 この底流には、労働分配率の趨勢的な低下傾向がある。生み出された付加価値における労働の取り分が低下し、資本の取り分が上昇しているのだ。 労働分配率が趨勢的に低下しているのは、90年代末から加速したイノベーションやグローバリゼーションが大きく影響している。 先進国で観察されるのは、製造業の生産工程の新興国へのオフショアリングであり、「労働節約的なイノベーション」である。この結果、生産性上昇率が高まっても、その果実は、資本やアイデアの出し手に向かい、平均的な労働者の所得増加にはつながっていない。 これまで、実質賃金の引き上げには、生産性の上昇が不可欠であり、そのためにはイノベーションやグローバリゼーションを推進すべきだと長い間、論じられてきた。 確かにオフショアリングなどで生産効率は大きく改善したが、それは労働分配率の低下をもたらし、必ずしも実質賃金の上昇にはつながっていない。 オフショアリングで中間的な賃金の仕事が先進国で減少し、比較的高い賃金の仕事と比較的低い賃金の仕事が増え二極化が進んだことが、トランプ政権が貿易戦争を開始した背景の1つだが、問題はそれだけではなかった。 所得増加が資本やアイデアの出し手に集中することは、次のようなマクロ経済上の大きな問題を引き起こす。 所得が増えても、それが、いわゆる「富裕層」のような消費性向の低い経済主体に集中することは、経済全体では、消費が大きく増えず、貯蓄が積み上がって、投資でスムーズに吸収できないことを意味する。 経済を均衡させる自然利子率がマイナスの領域まで下がっても、実際の名目金利はゼロ以下に下がらないため、総需要を刺激できず、 経済は長期停滞に陥る。 先進国経済は、資産バブルによる総需要のかさ上げなしには、完全雇用に達することが難しくなる。 バブルを作ることでしか 完全雇用に到達できない 新興国へのオフショアリングが始まったのは1990年代の終盤からだが、過去20年間で、米国が完全雇用に達したのは、2000年のドットコムバブルと2005〜2007年のサブプラムバブルの時だけだ。 つまり、もはやバブルを作ることでしか、米国は完全雇用に到達できないのではないか。そして現在、米国が完全雇用にあるのは、バブルで総需要をかさ上げしているから、というのが筆者の仮説である。 バブルは弾けるまで、それがバブルであることは認識できない。今回はクレジットスプレッド(債務不履行のリスクに応じて上乗せさせる金利)が縮小していることを背景に、社債の大量発行が続いている。また、社債発行で調達された資金が、自社株買いに回っていることも気になる。 自然利子率がマイナスの領域まで低下しているため、バブルを醸成して総需要をかさ上げすることでしか、完全雇用に到達できないというのは、ローレンス・サマーズ教授の「長期停滞論」で指摘されたことだ。 だが教授らの主張と筆者の考えでは、一点、大きな違いがある。 サマーズ教授らが主張していたのは、イノベーションの枯渇で設備投資が不活発になり、貯蓄を吸収できず、自然利子率がマイナスの領域まで低下したということだった。 しかし、今やあらゆるところでデジタル革命の進行が観測される。 筆者が考えるのは、イノベーション不足ではなく、労働節約的なイノベーションが進んだ結果、消費性向の低い一部の経済主体に所得増が集中し、自然利子率が大きく低下したのではないか、ということだ。 一方でこうした問題は、本来なら、所得再分配政策で対応すべきだが、政治的には簡単ではない。 イノベーションやグローバリゼーションの恩恵を受けるエスタブリッシュメントへの反発として始まったのが、トランプ大統領の「ポピュリズム政治」だが、それでもトランプ氏はあくまで元凶を国外に求めている。 国内の所得分配構造そのものに手を付けようという動きは、今のところ起きていない。 結局、金融緩和で無理に対応しようとするから、資産価格ばかりが上昇して、バブルが生じる。これが、米国経済に次なる危機をもたらす「断層線」である。 これまでは主に製造業の生産工程のオフショアリングだったが、2010年代後半に入り、非製造業にもオフショアリングが広がろうとしている。 自然利子率がマイナスの領域に入った場合、バブルを醸成する以外、総需要をかさ上げして完全雇用に達することは不可能なのか。 実は方法は2つある。1つは、通貨安に誘導することで大幅な経常黒字を作ること。もう1つは、大幅なPB赤字を作ることである。国外の需要や将来の需要を先食いすることで過剰な貯蓄を吸収できる。 実際、ドイツが完全雇用にあるのは、GDP比で8%前後の経常黒字を醸成しているからであり、日本は、4%前後の経常黒字と、3%前後のPB赤字を醸成している。 しかし、いずれも持続可能とは言えない。米国のバブルが崩壊すれば、FRBが金融緩和に転じ、ユーロや円は対ドルで大幅な増価を余儀なくされるため、両国とも完全雇用を維持できなくなる。 いつまでバブルは続くか 実体経済の表裏の関係 それでは、どこまで米国のバブルの膨張が可能なのか。 筆者の念頭にある経済モデルでは、資産価格の上昇が続くのは、実体経済が好調だからではなく、さえないからである。 中央銀行が資産価格に強く働きかける政策を繰り返してきた結果、資産市場は既に実体経済を正しく映す鏡ではなくなっている。実物投資の機会が限られ、貯蓄の行き場がないから、資産市場に流れ込み、資産価格が上昇する。 ただ、それはいつまでも続かない。資産価格が上昇を続ければ、資産効果によって総需要がさらにかさ上げされ、実体経済が過熱し金利が上がるためである。 金利が低いからこそ、資産価格の上昇が続いていたのだが、金利上昇が始まれば資金が金融市場から逃げ出し、資産価格は上昇しなくなる。そして、上昇が止まれば、逆回転が始まり、バブルは崩壊する。 こう考えると、新興国からの資金流出が始まり、貿易戦争が火ぶたを切った3月以降も米国株が大きく崩れず、高値圏で推移しているのが説明可能かもしれない。 本来、新興国からの資金流出は不確実性をもたらし株価の下落要因になるはずだが、資金が米国に還流すると、長期金利が抑えられ、逆に株価が上昇する。 同じように、貿易戦争も本来は株価の下落要因になるはずだが、新興国への懸念から、米国に資金が還流し、長期金利が抑えられ、株価は上昇する。 一般に株価が下がると思われている要因も、閾値を超えるまでは、長期金利の抑制を通じ、株価を押し上げる。 一方で、反対に長期金利の押し上げ要因になるものは、本来は実体経済の押し上げ要因であっても、株安をもたらす。 2月に株価が調整したのは、財源が十分でないまま、トランプ大統領が社会インフラの増強に言及したためだった。 財政膨張懸念から長期金利が上昇すれば、前述した通り、資産価格の上昇が続かなくなる。今後、貿易戦争の悪影響が米経済にも現れ、仮にその悪影響を吸収すべくインフラ投資や追加減税にトランプ大統領が言及するようなことがあれば、株高要因になると思いきや、金利上昇を通じ、株式市場は動揺するのかもしれない。 カギを握るFRBの利上げ 資産市場の過熱を警戒する議長 さて、こうした資産市場の動きに、大きく影響を与えるのがFRBの金融政策だ。 近年、歴代FRB議長は、インフレが過熱しなければ、極力、景気拡大を短縮化させるリスクを回避すべく、利上げペースを抑えてきた。だがその結果、2度のバブル醸成をもたらした。 しかし、パウエル議長は、8月のジャクソンホールの講演で、景気拡大を短縮化させるリスクだけでなく、利上げが遅れることで、景気が過熱するリスクにも配慮するとしている。さらに、過去2度の景気過熱はインフレ上昇ではなく、資産市場における過熱であったとも明言している。 マーケットは経済の大きな落ち込みに対して「何でもやる」というパウエル議長の発言に、パウエル・プット(株価サポート政策)を読み取り、さらなる株高で反応した。ただパウエル議長の講演の真意は、インフレが落ち着いていても、資産市場が堅調なら、利上げを続けるというものだったようにも思われる。 もし、そうした政策にFRBが舵を切るのなら、実体経済から大きく乖離した株価が大きな修正局面を迎える可能性がある。 あるいは、現代の民主主義のもとでは、政治的に独立した中央銀行といえども、株式市場から独立した政策は取れないと考えたほうがいいのだろうか。 (BNPパリバ証券チーフエコノミスト 河野龍太郎) 2018年9月12日 ロイター 日銀、市場機能回復に「時間必要」 変動幅拡大には慎重 日本銀行 9月12日、日銀が7月末の金融政策決定会合で「政策修正」を決定してから、1ヵ月余りが経過した。市場機能の低下防止を狙って長期金利の変動幅拡大などを打ち出し、発表直後は円債市場の流動性が回復したものの、足元の長期金利は0.1%前後で再びこう着感を強めている。写真は都内で昨年6月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai) [東京 12日 ロイター] - 日銀が7月末の金融政策決定会合で「政策修正」を決定してから、1ヵ月余りが経過した。市場機能の低下防止を狙って長期金利の変動幅拡大などを打ち出し、発表直後は円債市場の流動性が回復したものの、足元の長期金利は0.1%前後で再びこう着感を強めている。 日銀は政策修正の効果を見極めるには一定の時間経過が必要というスタンスで、一部の市場関係者が求める一段の変動幅拡大には距離を置いている。 長期金利が再びこう着 日銀が7月31日に示した「政策修正」では、長期金利の一定の変動幅拡大を容認する一方、当分の間、極めて低い長短金利水準を維持するとした「新たなフォワードガイダンス」の導入も盛り込んだ。 黒田東彦総裁は同日の会見で、ゼロ%を中心に上下0.1%となっていた長期金利の変動幅について「その倍程度に変動し得ることを念頭に置いている」と表明。上下0.2%程度の変動を許容する方針を示した。 長期金利は、直後に一時0.145%に急上昇したものの、日銀がすかさず予定されていなかった国債買い入れを実施したこともあり、その後はおおむね0.1%前後での推移が続いている。 こうした市場の現状に対し、日銀は市場機能の低下も時間をかけて累積してきた副作用の1つであり、その改善には一定の時間が必要とみている。 また、日本の実体経済や株式・外為市場や米金利動向など日本の国債市場を取り巻く環境に大きな変化がなかったことも、長期金利の変動幅が限定的だった要因と分析している。 市場の変動に期待 ただ、現在の長期金利の推移について、日銀内には「もう少し変動があってもいい」(幹部)との指摘もあり、0.1%程度の長期金利水準に意図的に誘導しているわけではなさそうだ。 今後、日銀の見通しに沿って経済・物価情勢が改善したり、米金利が上昇するケースなどでは、長期金利の上昇を容認するとみられる。 日銀は9月に入って残存期間10年までのゾーンの国債買い入れ回数を減らす一方、1回当たりの買い入れを増額した。 直近の買い入れ額を前提にした場合、月間の買い入れ額は全体で8月よりも減り、年間の日銀の国債保有増加額は、年間40兆円弱まで縮小する方向。 こうした弾力的な金融市場調節を駆使しつつ、国債市場の需給や環境の変化に伴って、価格の変動率や取引量がどのように変化していくのか、政策修正の効果を慎重に見極めていく考えだ。 副作用対応ありきではない 一方、市場の一部では、政策修正後も長期金利がこう着し、流動性が回復していない点を指摘し、今回の「政策修正」では副作用対応として力不足であり、現在の上下0.2%程度の長期金利変動幅を一段と拡大すべきという声もある。 だが、日銀はそうした対応には距離を置いている。 日銀は、今回の「政策修正」について、物価見通しを下方修正した結果、金融緩和のさらなる長期化が避けられないと判断し、これに対応して積み上がる副作用への対応策を示したと位置づけている。 変動幅のさらなる拡大を求める一部市場関係者の意見に対して、別の幹部は「副作用の存在を最優先に考えて政策調整したわけではない。あくまで物価見通しの下振れと、それに伴う金融緩和の長期化の想定が先」と述べる。 一段の副作用対策が議論の俎上(そじょう)に上るには、7月末に想定していた2%達成時期のさらなる先送りの可能性が高くなるなど外部環境の変化が必要との立場とみられる。 経済・物価見通しに大きな変化がない中で副作用対応に動けば、名目の長短金利を低位に誘導し、金融緩和の効果を狙うという現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の根幹が、なし崩し的に揺らぎかねないという危惧もありそうだ。 もっとも、今回の措置が市場機能の低下という副作用対策として有効だったかのかどうか、その成否はこれから試されることになる。 (伊藤純夫 編集:田巻一彦) 2018年9月12日 ロイター 日銀、金融政策維持の公算 米中貿易摩擦などリスク点検へ 日本銀行 9月12日、日銀は18、19日の金融政策決定会合で、現行の政策を維持する見通し。7月末の前回会合では、金融緩和の副作用などを念頭に長期金利の上振れを一定程度容認するなど、政策の枠組み修正を決定した。写真は都内で2016年9月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai) [東京 12日 ロイター] - 日銀は18、19日の金融政策決定会合で、現行の政策を維持する見通し。7月末の前回会合では、金融緩和の副作用などを念頭に長期金利の上振れを一定程度容認するなど、政策の枠組み修正を決定した。国債市場の動向を分析しつつ、その効果を見極めたい考えだ。米中貿易摩擦に加え、国内に被害をもたらした台風や地震が与える影響も、リスク要因として議論されるとみられる。
7月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、物価見通しが下振れたことを受け、日銀は国債市場の機能改善を図ることを目的に、長期金利の変動幅を従来のプラスマイナス0.1%から倍程度に広げる方針を決めた。 直後の8月2日、円債市場では新発10年物国債利回りが一時0.145%と、約1年半ぶりの高水準を付けたが、以降は0.1%付近で推移している。 日銀が四半期に1回実施している「債券市場サーベイ」(8月調査)では、3ヵ月前と比べた市場の機能度が一定程度の改善を示したものの、夏季休暇と重なる8月は取引量も少なく、日銀内には「効果を測定するには時期尚早」(幹部)との見方が多い。 次回会合では、市場動向を精査するとともに、経済のリスク要因を重点的に点検する。9月以降、近畿地方を中心に被害が出た台風21号や、北海道胆振東部地震といった自然災害が立て続けに発生。北海道では大規模停電の影響で、全般的な生産活動に大きな打撃となった可能性があるだけでなく、近畿や北海道といった海外旅行客に人気のある地域の自然災害で、インバウンド消費などへのマイナスも懸念されている。 また、米中の追加関税の応酬が、企業の投資意欲を減退させかねず、7月の鉱工業生産が約4年ぶりに3ヵ月連続のマイナスとなり、この基調が長期化するかどうかも議論の対象になるとみられる。 一方、足元の物価動向は引き続き力強さに欠け、金融緩和の効果が物価に波及する様子はうかがえない。 7月の全国消費者物価指数(除く生鮮食品)は、前年同月比0.8%の上昇となり、伸び率は前月から横ばいとなった。8月の東京都区部は、同0.9%上昇と前月からプラス幅を拡大したが、調査日がお盆の週に重なり、宿泊料が指数を押し上げた特殊要因もある。 貿易問題を中心に先行き不透明感は強まりつつあるが、現段階では統計上「大きなショックは確認できない」(別の幹部)ことから、景況感や物価の現状認識は据え置く方向だ。 (梅川崇 編集:田巻一彦) 2018年9月12日 ロイター 政府、自動車関連減税など対策検討へ 消費増税・日米交渉にらみ 政府、自動車関連減税など対策検討 9月12日、政府は、自動車産業を対象に減税やメーカー支援などの手厚い政策対応の検討を始めている。2019年10月に予定している10%への消費税率引き上げや、日米通商協議(FFR)で自動車の対米輸出の規模が問題視されかねないため。複数の政府関係者によると、具体的には自動車取得税、同重量税などの撤廃・軽減や自動車メーカーへの支援措置などが検討課題となる。写真は昨年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White) [東京 12日 ロイター] - 政府は、自動車産業を対象に減税やメーカー支援などの手厚い政策対応の検討を始めている。2019年10月に予定している10%への消費税率引き上げや、日米通商協議(FFR)で自動車の対米輸出の規模が問題視されかねないため。複数の政府関係者によると、具体的には自動車取得税、同重量税などの撤廃・軽減や自動車メーカーへの支援措置などが検討課題となる。 また、2019年度予算編成では、これらの対策について、規模の上限を設けずに盛り込むことになっており、増税後の景気失速を懸念する政府が、思い切った財政出動にかじを切る可能性も出てきた。 「前回の消費税率8%への引き上げは、その影響が2年以上続いた」と額賀福志郎・自民党税調小委員長(同党自動車議員連盟会長)は今年2月、日本自動車会議所における講演で述べ、自動車関連税制の軽減について、踏み込んだ考えを示した。 また、政府部内にも、前回の消費増税前後に自動車や住宅などの耐久消費財の販売が急減した「前例」を踏まえ、自動車取得税などを「思い切って廃止ないし大幅に圧縮することも選択肢ではないか」(政府関係者)との声が出ている。 現在、2000CCクラス・243万円相当の乗用車を購入する場合、8.9万円の車体課税(取得税や自動車税、重量税、消費税)がかかり、米国の3.1万円より高い。このため自動車業界は、自動車の車体にかかる税率を引き下げるべきと主張し、自民党などに働きかけてきた。 17年度の「税制改正大綱」では、1)10%への消費税引き上げ時の前後の平準化対策に万全を期す、2)19年度税制改正までに安定的財源を確保し、地方財政に影響しないように配慮しつつ、自動車保有の税負担の軽減措置を講ずる──ことが盛り込まれた。 政府は今年末までに、購入にかかる自動車取得税、保有にかかる自動車税、利用にかかる自動車重量税などの減税を検討し、自動車販売の下支えを図りたい考え。 合わせて燃費性能による税(エコカー減税)の手直しなどで、燃費効率のよい最新鋭の自動車の販売を支えるシステムの構築を検討している。 ただ、自動車取得税と自動車税は地方税で、廃止・軽減すれば地方税収に影響が出る。宮沢洋一・自民党税調会長が6日、ロイターなどの報道各社へのインタビューで「地方財政に影響の出ないようにする」と発言しているのは、地方からの反発を考慮しているためとみられる。 一方、消費税とともに政府を悩ませているのが、日米通商協議(FFR)の行方だ。米国は自動車を巡る日米貿易不均衡に不満を持っているとの見方もある。額賀氏は今年2月の講演の中で「外国政府の政策に国内経済が振り回されるリスクが、これまで以上に高まっている」と述べていた。 また、「日本経済は自動車産業の一本足打法のような構造」とも指摘。生産全体に占める割合が2割、対米貿易黒字の6─7割を占める自動車産業が、米国の圧力で経営に打撃を受けることになれば、日本経済全体を動揺させるという危機感を示したとみられる。 一部の与党関係者の間では、FFRで自動車輸出に圧力がかかれば、自動車産業を支援する何らかの対策を講じる必要があるとの声も浮上している。 こうした中、消費増税実施の際の消費全体の落ち込みを回避するため、政府内では流通、小売業に対し、前回増税時には「禁止」していた「消費税還元セール」を解禁することも検討されている。 また、増税分の価格転嫁を義務化している法律の見直しについても、検討が始まった。増税実施時期をはさんで、実施前から徐々に値上げするパターンや実施後に値下げするパターンなど、価格設定は流通・小売業者の判断に任せ、消費全体として駆け込み需要とその反動という「山と谷」が大きくならないような政策対応を想定。「こうした対応策は、早めに国民に周知する必要がある」(経済官庁幹部)との考え方に傾いている。 このような政策対応は、9月20日の自民党総裁選の投開票までは「正式に検討を開始できそうもない」(政府関係者)が、水面下では経済官庁を中心に準備が始まっているもようだ。 仮に安倍晋三首相が自民党総裁選に勝利した場合、10月早々にも消費増税の是非を含めた新たな経済政策上の優先課題が示されるとの見方が、霞が関では広がっている。 中でも、FFRの着地点や世界経済の動向によっては、大規模な需要対策を骨格にした経済対策を取りまとめる必要性も出てくるとの声が一部にあり、内外情勢の行方に注目している。 (中川泉 編集:田巻一彦)
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