2018年9月5日 / 04:09 / 4時間前更新 米、アルゼンチンとIMFの支援前倒し巡る協議を支援=トランプ大統領 1 分で読む[ワシントン 4日 ロイター] - トランプ米大統領は4日、米国が「試練の時にある」アルゼンチンをサポートし、融資の早期獲得を巡る国際通貨基金(IMF)との協議を支えていく考えを表明した。 トランプ大統領は声明で、アルゼンチンのマクリ大統領と電話で会談したことを明らかにし、「マクリ大統領のリーダーシップに信頼を置いており、経済問題対処に向け金融・財政政策の強化を目指す、IMFとの協議を強く支えていく」と述べた。
アルゼンチン通貨危機、市場がこれほど心配する理由 財政赤字、インフレ高進、迫り来る景気後退・・・IMF救済の行方 2018.9.5(水) Financial Times (英フィナンシャル・タイムズ紙 2018年9月1/2日付)
通貨ペソ急落のアルゼンチン、緊急利上げで政策金利60%に アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの外貨両替所前の、為替レートを表示する電光掲示板(2018年8月29日撮影)。(c)EITAN ABRAMOVICH / AFP〔AFPBB News〕 アルゼンチンの通貨危機は、改革を進める同国政府を大混乱に陥れ、投資家の不安をあおり、国際通貨基金(IMF)の記録を破る500億ドル規模の救済に疑問を投げかけた。 アルゼンチンの通貨ペソは2日間急落した後、8月31日に安定したが、重要な疑問にはまだ答えが出ていない。 投資家が最も心配していることは何か? 最大の懸念材料は、大統領選挙を来年に控え、アルゼンチンが迫り来る景気後退とインフレ高進の舵取りをしながら、今後数年間の資金需要を満たしていけるかどうかだ。 調査会社オックスフォード・エコノミクスは、2018年の残り数か月と2019年の資金需要が総額770億ドルにのぼると試算している。もっと景気がいい時期でさえ、調達が難しい数字だ。 アルゼンチンの公的債務全体の8割近くが米ドル建てのため、ペソが弱くなると、ドルでの債務返済が難しくなる。 8月29日の7%安に続き、30日に下げ幅が2ケタに達したペソ安により、アルゼンチンの債務負担は大きく膨らんだ。 現在の相場水準では、政府債務は今年、アルゼンチンの国内総生産(GDP)の90%に達する可能性がある。 その結果、アルゼンチンの債務デフォルトに対して保険をかけるコストが急騰し、投資家が今アルゼンチンのことを、すでに一部デフォルトしたベネズエラに次いでリスクが高い国と見なしていることを示唆している。 金利60%でペソ急落を食い止められるか? 8月30日には、中央銀行が政策金利を史上最高の60%に引き上げたにもかかわらずペソが急落したが、金融政策の引き締めは間違いなく相場を支える助けになる。 中銀が示唆したように、少なくとも12月まで金利をこれだけの高水準に据え置くことは、ペソの下支えに対するコミットメントを表しているからだ。 投資家が心配しているのは、中銀は自分の役目を果たしたが、ペソ安を食い止められるかどうかは結局、いかにして財政赤字を削減し、2019年までに赤字をGDP比1.3%に抑えるIMF目標を達成するか、政府が詳細を説明することにかかっていることだ。 政府はこれまでに、エネルギー補助金を削減し、公的部門の賃金をカットする措置などを表明しているが、アルゼンチン政府がどれほど劇的に支出を削減し、こうした対策が確実に引き起こす政治的抵抗を乗り越えていくかは不確かだ。 アルゼンチン国民はどう思っているのか? 今年5月下旬にペソ急落が始まって以来、国民は次第に神経をとがらせていった。今では、かつてないほど不安を募らせている。 経済的に不安定だった長い歴史のおかげで、伝統的にドルで貯蓄する国として、ドル相場はおそらくアルゼンチン国民にとって最も重要な経済的変数だ。 実際、為替相場はアルゼンチン政府と経済全般に対する信認の有用な代理指標になっている。 このため8月末のペソ急落は、IMFの支援を受けた救済パッケージに対する楽観論が乏しいことを示唆している。 忌み嫌われているIMFが前回、アルゼンチン救済に関与した際の暗い記憶を考えると特にそうだ。あの当時は、2001年にアルゼンチン経済が崩壊して終わった。 現在、政府に忠実な支持者と対抗勢力の間に戦線が引かれつつあり、前者がマウリシオ・マクリ大統領を支持してツイッター上でのキャンペーンを後押しする一方、後者が政府の危機対応を激しく批判している。 マクリ大統領の再選の見込みはどうなる? 政治の世界では1年は長い。アルゼンチンでは特にそうだ。 大統領選挙が来年10月27日まで予定されていないことから、様々な問題が片づくまで、あえて先行きを予想しようとする人は少ない。 最も重要なのは、クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル前大統領が最近収賄スキャンダルに見舞われたことから、同氏が次の大統領選に出馬するかどうかだ(世論調査では、たとえ出馬してもマクリ氏が楽に下すと見られている)。 それでも為替レートのボラティリティー(変動)が、選挙まで十分な時間を残してアルゼンチンが景気後退から抜け出す可能性や、しぶとく高止まりするインフレ率を抑え込む当局の試みにとって悪い知らせであることは明白だ。 再選を目指す現職者としては、スタグフレーション期に選挙戦に入りたいわけがない。 IMFは救済プログラムの見返りに何を要求するか? IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は8月29日、IMFのスタッフは「金融・財政政策の強化と社会で最も脆弱な人々を支援する努力の強化」を通じて救済計画を「修正」するためにアルゼンチン政府と協力していると述べた。 しかし、実際問題としてこれが意味することは曖昧だ。 一方では、強力な金融・財政政策への言及は、IMFがインフレを抑制するためのさらなる利上げや、公共財政に対する信用を取り戻し、借り入れニーズを削減するための大胆な予算削減を求めることを示唆している。 これらは、かなりオーソドックスなIMFの処方箋だ。 アルゼンチンのニコラス・ドゥホブネ経済相は、今年の財政赤字に対する政府の「シーリング(上限)」はGDP比1.3%だと述べているが、一部のアナリストは、IMFは計画よりも早く赤字を解消するためのもっと大がかりな対策を要求するかもしれないと話している。 だが、IMFはラガルド氏の指揮下で、緊縮財政を押しつける無慈悲な機関というイメージを和らげようとしてきた。 「最も脆弱な人たちを支援する努力」の必要性を認める言葉は、アルゼンチンの貧困層を傷つけることで、救済プログラムがマクリ氏の政府への支持を損なわないようIMFが必死になっていることを浮き彫りにしている。 このためIMFは予算について、さらなる規律を求めてくる公算が大きいが、喫緊の厳しい歳出削減を要求することはないだろう。 アルゼンチンで起きることはアルゼンチンにとどまるか? アルゼンチンは今年に入ってIMFのプログラムに入ったが、同国の窮状は最近、トルコの金融危機によって引き起こされた混乱のせいで悪化した。 トルコリラの暴落は8月に新興国全体に波及し、アルゼンチンに新たな圧力をかけた。 トルコリラとアルゼンチンペソは毎日のように入れ替わりに、今年最も下げの大きい主要通貨になっている(8月30日にはアルゼンチンが再びトルコを抜いた)。 トルコとアルゼンチンは最も脆い国かもしれないが、世界の金融政策の地殻変動によって打撃を受けかねないのは両国だけではない。 米連邦準備理事会(FRB)は今年、あと2回利上げする計画で、バランスシートを縮小し続けている。一方、欧州中央銀行(ECB)は2018年末までに量的緩和プログラムを終了する。 トルコとアルゼンチンの窮状は、危機後の超低金利政策という強壮剤から世界経済を脱却させるプロセスが、多くの人の予想よりも難しいことを示唆しているのかもしれない。 By Robin Wigglesworth and Colby Smith in New York and Benedict Mander in Buenos Aires © The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. Please do not cut and paste FT articles and redistribute by email or post to the web.
石油離れ、トランプ氏の牽制……試練の産油国 World Now 2018.09.05 イラン・テヘランで自動車用のシートを製造する地元メーカー、ハディド・モブタケラン社。長年の経済制裁のなかで、検査機器や金型を自作する技術を磨いた イラン・テヘランで自動車用のシートを製造する地元メーカー、ハディド・モブタケラン社。長年の経済制裁のなかで、検査機器や金型を自作する技術を磨いた イランとサウジアラビアという中東の2大産油国のあつれきは、世界経済をも激しく揺さぶっている。そこに「石油の時代」の終わりの足音も重なり、産油国は岐路に立たされている。 「石油離れ」への不安隠さないサウジ 「原油価格が高すぎる。良くない!」 米大統領のトランプはこの数カ月、こんなツイートを繰り返している。シェールオイルで世界最大の産油国になった米国だが、なお大きな影響力を持つ石油輸出国機構(OPEC)を牽制したものだ。 原油価格は5月、米国のイラン制裁による供給不足の懸念などで、1バレル=70ドルを超す3年半ぶりの高値に跳ね上がった。一方、イランは「米国による政治的緊張のせいだ」と反発してきた。 こうしたなか、OPECは6月下旬、原油価格を下支えしてきたこれまでの協調減産を緩める形で原油の増産を決めた。 「我々は石油の需要を失ったり、石油離れを招いたりしたくない。米大統領のツイートは、それを計る指標の一つだ」 サウジのエネルギー産業鉱物資源相ハリド・ファリハは決定後の会見で、トランプの意向を考慮したことを認める一方、原油が高くなりすぎることによる「石油離れ」への不安も吐露した。 中東の新しい地図_石油の時代_2 記者会見するサウジアラビアのエネルギー産業鉱物資源相ハリド・ファリハ=ウィーンのOPEC本部 背景には、「石油の時代」がいつまでも安泰ではない、との危機感がある。 石油消費の6割を占める運輸部門で、電気自動車(EV)の技術革新が急速に進む。温暖化対策のパリ協定を背景に、英仏が2040年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を発表し、中国やインドなど新興国も、EVシフトを加速させている。 その結果、いずれ埋蔵量が枯渇するという従来の「ピーク論」に代わり、需要のほうが先に頭打ちになるという新「ピーク論」が台頭した。ピークを迎える時期をめぐり、早ければ「2030年代後半」(OPEC、英BP)などの分析も相次ぐ。 「石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない」。技術革新による新時代の到来を予見したサウジ元石油相の警句が現実味を増している。 迫られる国内改革 「石油の時代」を謳歌してきた中東の産油国はどうなるのか。 日本エネルギー経済研究所は、需要が減って原油価格が下がると、中東の純輸出額は2050年に1兆6000億ドル(約180兆円)減る、とはじく。その通りになれば、名目GDPの13%が消えてしまう計算だ。 主な産油国は脱石油を目指した改革計画を打ち出している。特に世界が注目するのが、サウジの皇太子ムハンマドがまとめた「ビジョン2030」だ。 石油以外の政府収入を6倍にするなどの数値目標を並べ、原資として世界最大の国営石油会社サウジアラムコの株を一部上場する計画をぶちあげた。石油収入を国民に分配するだけでは体制を維持できないとの危機感が透けるが、実現には懐疑的な見方も強まっている。 一方、イランは突然の逆風にさらされている。 もともとほかの産油国と比べると、エネルギー輸出への依存度は低い。工業品、農産品ともに国内生産が進み、とりわけ自動車は昨年だけで約150万台を生産し、基幹産業に育った。 中東の新しい地図_石油の時代_5 自動車用のシートを製造する地元メーカー、ハディド・モブタケラン社。検査機器や金型を自作し、欧州への販路を開いている=テヘラン だが、トランプ政権による圧力で外資の撤退表明が相次ぎ、8月には自動車産業などを狙った制裁が復活。11月には本丸の原油取引も対象になる。 すでに通貨リアルの下落とドル高、物価高が市民生活を直撃している。テヘランの生地店主チャルチ・ホセインプール(33)は「マイカーを売らざるを得ない」とため息をついた。「シリアやイラクもいいが、まずは自国の貧しい人を助けるべきだ」。批判の矛先は現体制にも向き始めている。 筆者 村山祐介 村山祐介 朝日新聞GLOBE編集部員 1971年生まれ。アメリカ総局員、ドバイ支局長を経てGLOBE記者。GLOBE186号で特集した「巡礼」が趣味で、銭湯とジョギングも毎週欠かせません。バックパッカーで貧乏旅行をしつつ、電子機器には散財するガジェットおたくでもあります。
原油価格が年末にかけて一段と上昇するワケ 1バレル=65ドル以下には下がりにくい? 江守 哲 : エモリキャピタルマネジメント代表取締役 2018年09月04日 アメリカ・テキサス州の原油掘削地域。増産できているはずなのに、 なぜ原油価格は下がりにくいのか(写真:Nick Oxford/ロイター/アフロ) 原油相場が、再び上昇し始めている。これまでは、OPEC(石油輸出国機構)による増産懸念を背景に上値が重かった。だが、ニューヨークのWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は1バレル=65ドルを底値に切り返しの動きに入りつつある。 なぜ原油価格は下がりにくいのか 筆者は本欄の「OPEC増産でも原油価格が下がりにくい理由」(6月28日配信)で、「これまで割安に放置されてきたWTI原油は65ドルを底値にさらに水準を切り上げやすい環境になっている」「65ドル以下では、どの産油国も厳しい状況に追い込まれる」とし、65ドルが底値になると明確に指摘してきた。 結果的に、やはり今回も65ドルを底値に切り返しており、見立てどおりに推移している。結局のところ、原油などのコモディティの価格はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の動向に左右される。生産者が生産を継続できない価格水準は続かず、いずれ採算レベルにまで戻すのが常識的な動きである。 この「採算レベル」を考えるときに重要なことは、現在の生産コストだけでなく、将来の生産拡大や新規開発に必要な価格水準を考慮することである。現在稼働している石油鉱区では、生産コストが65ドルを超えるようなところはむしろ少数である。しかし、今後生産を拡大しようとすれば、そのコストは65ドルを超える水準にまで上がっているということである。 昨年末にアメリカのダラス地区連銀が同国のシェールオイル企業に対して実施した、「石油掘削リグ稼働数が拡大する原油価格水準」についての調査によると、60ドル以下では7.2%のみが「稼働可能」と答えている。 つまり、シェール企業の92.8%が稼働に必要な原油価格の水準を61ドル以上と答えていたのである。さらに、51.2%以上のシェール企業が、66ドル以上の原油価格が必要と回答していた。 こうした調査をみれば、少なくとも、将来の増産に向けては、最低でも61ドル以上、できれば65ドル以上の原油価格の水準が必要だったことがわかる。また、最近の調査では、さらにコストが上がっているようである。 上がる賃金と物流コスト、生産効率も低下 同国のカンザスシティ地区連銀が7月に実施した、管轄地域のシェール企業が掘削の拡大に必要と考える原油価格の水準は、すでに69ドルにまで上がっているようだ。半年前の調査では62ドルだったことから、この半年で7ドルも上昇したことになる。 コスト上昇の背景には、労働者の確保や賃金の上昇があるとみられている。また、主要シェール鉱区から原油を送り出すパイプラインの能力にも限界がきており、石油掘削リグ稼働数が頭打ちになっていることも、生産量の伸び悩みにつながっているようである。事実、直近のリグ稼働数は860基前後で頭打ちである。 問題はそれだけではない。シェール生産地域の生産量の動向を見ると、現在生産量が伸びているのは、テキサス州とニューメキシコ州にかかるパーミアン地区のみである。この地域での産油量が急増したことで、シェールオイルの生産量が急拡大したのだが、ここで2つの問題が起きている。 ひとつは、リグ当たりの産油量の低下である。つまり、生産効率が明らかに鈍化しているのである。これは、生産コストの上昇につながることになる。もうひとつは、これまでの産油量の増加で輸送力が追いつかなくなっている点である。 パーミアン地区の8月の生産量は日量340万バレルで、この1年で約4割増加している。しかし、この地域からの輸送能力は日量350万程度であり、ほぼ限界だ。 新しいパイプラインの稼働は2019年の予定であり、それまでは輸送にも限界がある。こうした状況もあり、国際エネルギー機関(IEA)は、今年のアメリカ・シェール企業の生産コストは前年比11%増加すると予測している。また、米エネルギー情報局(EIA)も、2018年の同国の原油生産量の見通しを前年比14%増に下方修正している。 これらの主要機関も、ようやくコスト増の現実に目を向け始めたといえるだろう。実際には、アメリカの産油量は増えている。しかし、想定よりその伸びが鈍化すれば、市場はこれを強気材料ととらえるのが常識なのだ。 さらに、IEAは、世界の原油市場について、「旺盛な需要と一部産油国の生産に関する不透明感から、年末にかけて需給がタイト化する可能性がある」との見通しを示している。IEAのファティ・ビロル事務局長は、「原油市場が年末にかけて引き締まるとの懸念は確実にある」とし、「非常に旺盛な需要の伸びが引き締まりを招く可能性があることや、ベネズエラの生産が崩壊していることも大きな問題」と指摘している。 さらに「ベネズエラの生産は過去2年のうちに半減しており、中東を含む産油国にも生産の脆弱性が見られる」としており、需給がさらに引き締まる可能性があるとみられている。アメリカがイランへの経済制裁を行うこともさらなる市場への原油供給が減少する要因だ。 2020年前半にかけて再度「1バレル=100ドル時代」も これらの状況を受けて、原油価格が高騰するリスクがあると考えたアメリカのトランプ政権は、戦略石油備蓄(SPR)の放出を表明した。しかし、これもさほど効果はないだろう。 というのも、SPRの放出は、将来の買い材料だからである。最近はアメリカの生産量が増加しており、SPRの重要性は以前ほどではなくなっているものの、結局、放出された分はいずれ穴埋めされるからだ。これが将来の買い材料となるわけである。さらに、シェールオイルの増産が想定ほど伸びなければ、11月6日の中間選挙を前に、原油価格の抑制に失敗する可能性もありそうだ。 新興国などを中心に、世界的に景気はやや鈍化の傾向を見せ始めているが、アメリカの景気は絶好調である。これを反映してか、同国内の石油製品需要は最新週で日量2213万バレルとなり、ほぼ過去最高水準に達している。 これにより、石油製品需要に対する在庫は16日分と、原油価格が147ドルを付けた2008年とほぼ同じ水準である。同国内の石油需給は歴史的な逼迫状況にあるわけだ。原油価格が高くて当たり前なのである。 米中貿易問題やイラン経済制裁の行方など、不透明要因は多いが、それでも世界の石油需要は確実に増加し、生産量は高コストから伸び悩んでいくだろう。 実は、原油高は世界最大の産油国になったアメリカにとってもよい状況であるといえる。筆者は、米国株のピークを2019年後半とみているが、直近の過去の米国株とWTI原油のピークを付ける「タイムラグ」はおおむね6カ月から9カ月である。したがって、WTI原油が真のピークを付けるのはまだ先ということになる。WTI原油は年内に80ドル近くまで上昇するだろう。そのうえで、2019年後半から2020年前半ごろに100ドルまで上昇していても驚いてはいけない。
なぜ主要3通貨はあまり動かなくなったのか 新興国通貨がもっぱら下がっている 唐鎌 大輔 : みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 2018年09月05日
主要3通貨はあまり動かなくなっている(写真:ロイター/Jason Lee) トルコ中央銀行は9月13日の政策決定会合で「政策スタンスを調整する」との声明を出した。結局、いくら意地を張ったところで通貨急落に対する手段はいくつもあるわけではない。最も根本的な手段としては「利上げ」、市場心理安定のためには「IMF(国際通貨基金)への支援要請」、対米緊張緩和のためには「アメリカ人牧師の解放」などが期待されていたが、通貨危機に対処するには「まず利上げをしたうえで次に何ができるか」を考えることが多い。 今回の声明は利上げを示唆したものと考えられるが、声明によりトルコリラが急騰するような動きは見られていない。事の発端が対米関係のこじれにあるため、利上げのみでは不安の解消には至らないということなのだろう。 新興国通貨が忌避され、ドルは昨年の下落から回復 新興国から資金が流出する事は、それがショックに発展するかどうかは脇において、避けがたいものがある。主要通貨の名目実効為替相場(2国間でなく複数の通貨の中での相対的な位置を示す)の動きを見ると分かるが、昨年こそドルが全面安となり相応の調整が進んだものの、今年に入りその調整分はすべて取り戻してしまった。 通貨別に見れば、対ドルで年初来の上昇を実現しているのは円とメキシコペソだけであり、そのほかの通貨は基本的にすべて下落している。ドル相場が調整(下落)しない理由は、米国への資本流入が旺盛であるという事に尽きるが、こうした資本の出どころが新興国となっているのが現状であり、そのあおりを最も派手に食らって、資本流出が続ているのがトルコやアルゼンチンという整理になる。 両国ほど危うい新興国は少ないにしても、FRB(米国連邦準備制度理事会)が世界の資本コストであるアメリカのFF金利(フェデラルファンド・レート、政策金利)を引き上げており、FRBのバランスシート縮小も始まっている以上、今後「相対的にリスクの高い資産市場」からは資金が抜けていくしかない。それが新興国市場や社債市場なのであり、たとえば後者について言えば、クレジットスプレッドの拡大は年初から米国でも始まっている。 この際、「相対的にリスクの高い資産市場」としてユーロや円といった主要通貨は対象になっていないことも注目したい。年初来でドルは独歩高となっているが、かといってユーロや円が下落しているわけではない。たとえば、ユーロは確かに対ドルで年初来3%下落したが(7月27日時点)、名目実効為替相場はむしろ上昇した。なぜか。もちろん、「対ドルでのユーロ売り」を超える「対他通貨でのユーロ買い」のインパクトが勝ったからである。 ユーロの名目実効為替相場についてその寄与度を通貨別に要因分解してみると、確かに最大のシェアを占めるドル(米国)に対してユーロは下落している。ここに限ればマイナス0.4%ポイントのユーロ名目実効為替相場の押し下げが確認できる。
だが一方、トルコや東欧通貨などに対してユーロは大きく上昇したため、名目実効為替相場全体で見れば上昇という結果に落ち着いている。 とりわけ対トルコリラの上昇だけでプラス0.6%ポイントと対ドルでの下落を補って余りある状況であり、「新興国からの資本流出によって主要通貨が支えられた」という典型的な構図に仕上がっていると言える。経常黒字を大きく抱える一部のアジア通貨など例外もあるが、現在の為替市場は新興国通貨を忌避し、先進国通貨にシフトする傾向がはっきり出ているように見受けられる。 また、こうした状況が最近、為替市場で膠着が騒がれる理由の1つなのだろう。多くの市場参加者が注目する「先進国 vs. 先進国」の通貨ペアでは方向感が出ない一方、「先進国 vs. 新興国」の通貨ペアでは偏った取引が続けられている。新興国通貨に売りが集中することで、先進国通貨同士の強弱関係が定まりにくくなっている市場環境があると推測される。 もちろん、アメリカ経済が低インフレ・高成長というゴルディロックス状態を続けているのでボラティリティが上がらないという本質的な事もあるだろう。だが、ドル円やユーロドルといったメジャーペアよりも、「新興国の苦境」の方がどうしても耳目を集めやすい環境になっている事が大きい。そして「新興国の苦境」はFRBが利上げを続け、米国と新興国の金利差が詰まる限りにおいて継続する可能性が高い。 現状は2006年や2007年前半に似ている? 問題はこの状況を横目にFRBがいつまで正常化プロセスを続けられるかだろう。米国内のインフレ圧力が看過できないほど大きなものであれば海外経済環境に配慮することなく正常化プロセスを続けることになる。だが、現実はそれほど差し迫った状況にもない。FRBの政策運営が方向転換する契機としてはアメリカ実体経済の失速を予想するのが筋だが、このままいけば新興国市場の混乱となるかもしれない。 主要通貨ペアに方向感が出るのはFRBの政策運営が方向転換する時と考えられる。具体的には「次の一手」が利上げではないという状況になった時、というのが筆者の基本認識である。これまでは米国内外の経済情勢が米国の金利上昇に対して踏ん張りを見せてきたため、混乱は発生していない。しかし、既に一部の国々がこれに耐えられなくなってきている。現在の状況は「大いなる安定」が称賛され、その後の苛烈な調整局面へ入っていった2006〜2007年前半の状況に似ている印象も受ける。 ※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
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