コラム2018年8月15日 / 16:18 / 4時間前更新 コラム:トルコ危機、世界金融秩序の凋落を露呈 Edward Hadas 3 分で読む[ロンドン 14日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トルコの通貨危機は予想しやすかった。それよりも驚くべきは、世界の反応の弱さだ。従来の世界金融秩序が非常に惜しまれる事態だ。 大規模な経常赤字を補うため短期融資に頼り続けてきた国に、大混乱が起きることはほぼ必然といえる。それだけではない。多額の外貨建て借入金と高インフレが、混乱を拡大した。トルコ政府が、経済維持の一助となった国際金融機関の助言をはねつけたことも、混乱に拍車をかけた。 トルコのエルドアン大統領が、これまで深刻な問題を回避できたのは幸運だった。しかし現在、彼は危機に直面している。自国通貨リラは5月初め以降、対ドルで42%下落。国内で金融危機が起きるのを防ぐには、奇跡か国際支援が必要だろう。 2009年、エルドアン氏が当時首相として率いていたトルコ政府が、国際通貨基金(IMF)からの助言をもはや必要としないと発表してから、トルコは大きく様変わりした。「つえなしで前に進む」ことを選んだのだ。 トルコは長年、IMFの支援に大きく依存していた。1970年から2009年に至る大半の期間で、IMFから「スタンドバイ取り決め(SBA)」を受けてきた。トルコ政府が経済改革に取り組み続ける限り、IMFは支援を約束した。 だが今回、IMFはいまだにトルコからの電話を待っている。IMFにはリラを安定させるのに必要な知識と、恐らくそのための資金もあるが、エルドアン大統領はIMFをトルコ国民の「敵役」に選んだ。 IMFに対する反感は大統領の国家主義的で独裁主義的な意図に沿うものだが、同時に痛ましいパターンにも一致する。伝統的な権力者は、世界的な金融問題に見舞われると、身動きが取れなくなる。 自由貿易や自由な資本移動、自由市場の原則にやみくもに忠実だと広くみられていることで、IMFの名声は傷つけられた。2011年から専務理事を務めるクリスティーヌ・ラガルド氏の下でIMFのアプローチは軟化したものの、トルコの頑なさは、かつては存在したモラル的権威がIMFに欠けていることを示唆している。 そして米国はかつて、反抗的な政府や債権者、交渉者に圧力をかける際には信頼できる圧力源だった。世界金融システムの管理人として、軍事的覇権を握る国として、また世界最大の経済国として、米国は強力なアメとムチを持っていた。 だがそれはもう過去の話だ。 トランプ米大統領は、米国市民のアンドリュー・ブランソン牧師がトルコで自宅軟禁されていることの報復として、トルコに追加関税をかけることでこの危機を悪化させた。トランプ政権は、北大西洋条約機構(NATO)同盟国であるトルコの経済的運命に、あるいは敵対的で弱体化したトルコが中東での米国の権益に与える影響に、無関心のように見える。かつては世界秩序の保証人だった米国は、ならず者になった。 一方、経済力のある欧州連合(EU)は2017年のトルコ輸出の47%を受け入れている。欧州の銀行は、トルコの財政リスクにもっともさらされており、同国の混乱を収束するのを支援する動機がある。 さらに言えば、トルコには推定350万人のシリア難民がいる。トルコが受け入れなければ、一部は欧州に向かっているかもしれない。 とはいえ、EUがトルコに支援を働きかけようとしているようには見えない。エルドアン大統領は楽な交渉相手ではないが、ブリュッセル、あるいは他のEU加盟国から支援の公的な申し出を受けていない。 従来の世界金融秩序が古くさく、大きな欠陥があることはほぼ間違いない。IMFは長いこと硬化したままだし、米国は必ずしも誠実な仲介者ではなかった。欧州の結束が十分であったことは一度もない。この3つは、世界金融システムの無謀な傾向を抑制するのにほとんど何もしなかった。それでも、失速し、エンジンが止まりかけて煙を出しているオンボロ車のように、歩くよりは好ましいものとされている。 では、次に何が起きるのか。 トルコ政府は計画があると明らかにしているが、国際債権団から相当な支援がなければ、政治能力が試される深刻なリセッション(景気後退)はほぼ不可避だろう。隣国ギリシャでは、2008年に海外からの資金調達が突然止まったことにより、6年間で国内総生産(GDP)が27%落ち込んだ。ギリシャの経常赤字は現在のトルコのそれより大きいが、トルコはインフレと資本逃避という問題も抱えており、さらにたちが悪い。 トルコの問題にとって最善の解決策は、新たな指導者と刷新された機関による、より広範な世界金融秩序を確立することだろう。パキスタンや南アフリカといった、海外金融機関の善意に頼りすぎている国々にとっても、これは良いニュースとなる。 残念なことに、そうした新秩序はまだ見えてこない。中国には必要とされる富と経験、世界からの尊敬に欠けている。その上、自国の銀行セクターの制御に苦労している。 危機は、時に皆の頭脳を結集させることがある。従来の大国は恐らく、古いオンボロ車を集めて、トルコのために中途半端でそこそこの対策を見いだすことになるだろう。 たとえそうなったとしても、リラの急落は強力な警告を発している。つまり、通貨危機が今後も起きる可能性が非常に高いということだ。世界経済を導く指導者がいなければ、それは現実のものとなる。 トルコ通貨危機、国内銀に負担ずしり エルドアン大統領が推進する経済プログラムの中心的存在となってきたトルコの国内銀は、通貨リラの急落による悪影響を実感しつつある By Patricia Kowsmann 2018 年 8 月 15 日 14:45 JST
トルコの銀行が通貨リラの急落による悪影響を実感しつつある。国内銀の健全度は、トルコ経済にどれほど深刻な打撃が及ぶかをみるバロメーターになりそうだ。 国内銀は多額の外貨建て債権を保有している。その大部分は企業向けで、消費者向けもある。ドル建てやユーロ建ての融資はリラ建ての返済額が急騰している。こうした状況に景気減速が追い打ちを掛けるとみられる。 トルコの金融当局は14日、消費者・企業向け融資債権の不良化という銀行の重荷を軽減するための措置を発表した。金融機関による返済期限延長や債務再編支援を認めるといった内容だった。 ABNアムロの債券ストラテジスト、トム・キンマンス氏は「最終的に鍵を握るのは、外貨建ての融資を受けながら売上高はリラ建てという企業の資金調達コストだ」とし、「こうした企業の返済能力が問われている」と述べた。 国内銀はレジェプ・タイップ・エルドアン大統領が推進する経済プログラムの中心的存在となってきた。2017年には政府主導の融資ブーム(銀行経由の融資を国内総生産=GDPの7%相当の規模まで押し上げた)が経済を急成長させたが、インフレの高進も招いた。 国内銀は現在、嵐のまっただ中にある。ガランティ銀行、ヤピ・クレディ銀行、トルコ勧業銀行の株価(リラ建て)はいずれも40%超下げている。投資家の警戒感を映すように、3行の株価純資産倍率(PBR)はそれぞれ0.58倍、0.39倍、0.40倍に沈む。 国内銀の資金調達もリラ安の影響を受けやすい。投資家はトルコのソブリンリスクが高いとみて、国内銀が発行した債券に高い利回りを要求している。例えば、トルコ勧業銀行が発行したドル建て債(2018年10月償還債)の利回りは14日に17.90%を付け、約1週間前の5.29%から急上昇した。 トルコ中央銀行によると、5月時点で非金融企業の外貨建て資産はおよそ1200億ドルで、負債は3300億ドルを超える。企業が値下がりするリラでその差を埋めることができるかは不透明だ。 トルコ最大の通信会社トルコ・テレコムは先月、4-6月期(第2四半期)の純損益が8億8900万リラの赤字になったと発表した。「為替変動による悪影響」が響いたという。こうした要因を除く純損益は6億7600万リラの黒字だった。同社の総額147億リラの借り入れは、ほぼ全てがドル建てかユーロ建てだった。 アナリストらによると、収益源を国内市場に頼る小売り・エネルギー・通信部門の企業が特に大きな打撃を受けている。 リラが急落する前から、債務返済が滞る兆候はあった。3%であればまだ低いとされる不良債権比率が最近やや上昇している。米格付け会社フィッチ・レーティングスは7月、不良化の恐れがある融資債権が増えたことを理由に、トルコの銀行24行を格下げした。 もう1つの不安要素は、トルコ政府が預金引き出しを制限する資本規制を導入するのではないかと懸念される中、預金者が銀行預金を続けるかどうかだ。 ベレンベルクのエコノミスト、カーステン・ヘッセ氏は「トルコの家計は長年、ドルやユーロ、金を銀行に預け続けてきた。これは多額の外貨建て融資を行っている銀行には朗報だ」と指摘。銀行の前に預金引き出しの長い列ができ始めたら、中銀が直ちに「止血」に動く可能性があると述べた。 中銀の統計によると、国内銀の預金の約47%、融資の36%は外貨建てとなっている。 国内銀がこの状況を乗り切ることができるかは、トルコの不安定な情勢がいつまで続くかに大きく左右されるとアナリストらは言う。フィッチによると、国内銀の資本比率(銀行の損失吸収力の指標)は5月時点で15.9%と高水準を保っているが、昨年末の16.9%からは低下している。 トルコ銀は国内にも不安要素を抱える。リラ建ての資金調達コストが急騰しており、リラ建て国債利回りは20%を超える。一方、預金は潤沢とは言えない。トルコ銀の預貸率は145%近くで、米銀の約70%を大きく上回る。 関連記事 ロシアに歩み寄るトルコ政府、米制裁を受け トルコリラ急落、投資家が学ぶべき教訓とは トルコ中銀、リラ下支えに一連の措置発表 トルコとインドの通貨急落、波及リスクどこまで
外為フォーラムコラム2018年8月15日 / 15:32 / 1時間前更新 コラム:トルコ・ショックは世界金融危機の火種となるか=鈴木健吾氏 鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト 4 分で読む [東京 15日] - トルコリラは10日、対ドルで20%前後の急落をみせた。翌週13日にかけてはリスク回避傾向が加速し、世界中の株価指数が下落。為替市場では新興国通貨が軒並み下落する反面、安全通貨とされる円やドル、スイスフランが上昇する動きとなった。 にわかにトルコを巡る懸念が米中貿易戦争懸念に並び、グローバル経済のリスク要因として浮上した。 もともとトルコリラは年初より下落基調にあった。経常赤字の大きさやインフレ率の高さなどがファンダメンタルズ面で材料視され、政治的にはエルドアン大統領の強権的な政治姿勢が嫌気されていた。 これに加えて10日にはトルコで軟禁中の米国人牧師を巡り米国との対立が先鋭化したことや、欧州の銀行が抱えるトルコ向け債権の大きさを欧州中銀(ECB)が懸念しているといった報道などがきっかけとなり、トルコリラの急落につながった。 この結果、トルコ同様に高インフレや経常赤字を抱えるアルゼンチンペソも急落し、同国中銀は13日、通貨防衛のための緊急利上げに追い込まれている。また、トルコ向け債権が大きいとして名指しで報道されたイタリアやスペインの銀行の株価も13日にかけて7―8%もの急落を演じた。 今回のトルコリラ急落が、1997年のアジア通貨危機のような新興国通貨の連鎖的な急落や、欧州銀行の破綻など金融危機の火種となり、グローバル経済を大幅に悪化させるとの懸念が台頭したのである。 <局地的な悪材料か> だがその後、株式市場が多少の反発をみせるなど、事態の悪化に一定の歯止めがかかっている。結論から述べると、今回のトルコリラ急落が世界経済を揺るがす危機にまで拡大する可能性は低いと考えている。 インフレ率や経常赤字は新興国の中でもトルコとアルゼンチンが頭ひとつ抜けている。国際通貨基金(IMF)によれば、アルゼンチン、トルコに次いで高インフレなのはメキシコだが、その水準はトルコの半分程度であり、経常赤字も対GDP(国内総生産)比でみれば数分の1に過ぎない。他の新興国通貨も「同類」とするにはやや無理がある。 また、国際決済銀行(BIS)によれば、トルコ向け貸出に占める欧州銀行の割合は74.8%と極めて高いが、欧州銀行からみたトルコ向けの貸出は全体の1%強にすぎない。この一定程度が不良債権化するとしても、金融システム不安につながるとの懸念は悲観的過ぎる。 グローバルなリスク回避の連鎖につながらなければ、あくまで局地的な悪材料の1つということになる。名目GDPで世界21位のアルゼンチンが今年5月にIMFに金融支援を要請した際にも世界の金融市場の動揺は限定的にとどまった。トルコの名目GDPはアルゼンチンよりも3割ほど大きく世界17位だが、世界の金融市場への影響は限定的とみられる。 ただ、トルコ自身にとって状況は深刻だ。トルコは危機対応として、スワップなどの資本規制や流動性の供給、銀行の自己資本ルールの一時的な緩和などを行ったが、いずれも問題の根本的な解決にはならないだろう。特に資本規制は経常赤字を補てんする資本流入の妨げとなり、さらなるトルコリラ安圧力につながる可能性もある。 トルコの実体経済はこれまでのところ堅調だが、足元のリラ下落が続けば、輸入物価の急激な上昇や外貨建て負債を抱える企業・金融機関が破綻する可能性、また海外投資家の資金引き揚げなどといった悪影響が拡大する可能性がある。 <安保・難民問題に要警戒> トルコがこうした悪循環を避けるためには取り急ぎ、1)米国との関係改善、2)中銀の大幅利上げ、が必要となろう。 米国との関係改善には、2016年のクーデター未遂に絡んで軟禁状態にある米国人牧師の解放が最も手っ取り早いが、エルドアン大統領は今のところこれを否定。一方で、駐米トルコ大使がボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と13日に面会し、この問題を協議したとの報道もあり、何らかの進展があるかもしれない。 トルコ中銀は利上げ期待の高かった7月24日の会合で利上げを見送った。エルドアン大統領の強硬な利上げ反対姿勢が影響しているとされ、市場はこれを嫌気した。今回のリラ急落局面でトルコ中銀が毅然とした態度を示せれば市場の安心感につながるとみられる。 これらの対策が行われればリラは一定程度反発し、懸念は徐々に解消に向かうだろうと考えている。 ただ、今回のトルコ問題の中長期的な懸案事項として、欧州の政治に与えるリスクには一定の注意をしておきたい。具体的には安全保障問題と難民問題だ。 トルコは地理的にロシアに近い北大西洋条約機構(NATO)の一員だが、足元、米国との関係が悪化する一方、ロシアとの距離が縮まっている。エルドアン大統領の「新たな友人や同盟を探し始めなければならなくなる」との発言も気掛かりだ。 また、トルコは欧州連合(EU)との合意に基づいてシリアなどから欧州への難民流入の堰(せき)となっている。難民問題がドイツのメルケル政権を揺るがしたことは記憶に新しい。 このような点やトルコ側の対応などに今後も一定の注意が必要ではあるものの、今回のトルコリラ急落はグローバル経済の急激で大幅な悪化を招くきっかけとはならず、市場は徐々に一定の落ち着きを取り戻していくのではないかとみている。 鈴木健吾氏(写真は筆者提供) *鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。
トルコは予行演習にすぎない−「量的引き締め」加速で新興国にリスク Michelle Jamrisko、Enda Curran 2018年8月15日 16:25 JST 量的引き締めでドルとユーロの流動性が吸収されるリスク 新興国の債務には赤信号が点滅しているとアルジェブリスのガロ氏 トルコは予行演習にすぎない。 主要中央銀行は、2019年にかけて政策金利引き上げやバランスシートの縮小を予定し、金融危機時代の政策を巻き戻す動きが加速する見通しだ。いわゆる「量的引き締め(QT)」は、ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)改善を伴わずに低金利で資金調達が可能な債券に大きく依存してきた政府や企業にとって、ドルとユーロの流動性が吸収されるリスクがある。 米金融当局は満期償還分の再投資を行わないことで保有資産残高の縮小に動き、欧州中央銀行(ECB)は資産購入プログラムを年末に終了する予定。ブルームバーグ・エコノミクスの予測では、日本銀行を含む3つの主要中銀による純資産購入額は、2017年末の月間1000億ドル(約11兆1200億円)近くから18年末までにゼロに縮小する見込みだ。 アルジェブリス・インベストメンツのマネーマネジャー、アルベルト・ガロ氏(ロンドン在勤)はブルームバーグテレビジョンで、「新興国市場全般になお油断がある。新興国の債務には赤信号が点滅している」と語った。 モルガン・スタンレーのハンス・レデカー、ゲ・タン・クー両氏は14日のリポートで、「流動性が潤沢な世界であれば、新興国市場の最近の動きが相場の変動や現地の流動性に与える影響ははるかに小さかっただろう。ここ数週間にわれわれが新興国市場で目にした状況は、グローバルな流動性環境が引き締まった結果だといえる」と指摘した。 原題:Turkey Just a Test Case as Quantitative Tightening Era Nears(抜粋)
トルコを締め付けるトランプの愚策、リラ・ショックの背景
2018/08/15 佐々木伸 (星槎大学客員教授) 8月13日イスタンブールのグランバザール内の両替所(AP/AFLO) トルコと米国の対立が先鋭化、リラ・ショックを招くなど世界市場を動揺させている。対立の要因はトルコが拘束中の米牧師の釈放を拒否したことだが、その背景にはトランプ大統領がエルドアン大統領に約束を反故にされた、とぶち切れたことがある。同盟国を軽視するトランプ氏の振る舞いはトルコをロシアに接近させており、「外交素人の愚策」(専門家)との批判を生んでいる。
発端 発端はトルコに23年間も在住しているキリスト教福音派の米国人牧師アンドルー・ブランソン(50)氏が2016年10月、その夏のクーデター未遂事件に関与したとして、拘束されたことだ。同牧師は今年7月に刑務所から自宅軟禁に移されたが、厳しい監視下に置かれていることに変わりはない。 トランプ大統領は6月のブリュッセルでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の際、エルドアン大統領と個別会談し、牧師の釈放問題について話し合った。トランプ氏はその時、当時イスラエルに拘束されていたトルコ人女性の釈放をわざわざイスラエルに働き掛け、女性を釈放する手助けまでした。 米紙によると、トランプ氏はエルドアン氏が会談で、牧師の釈放に同意したと受け取ったが、その後も釈放されず、約束を反故にされたと思い込んだようだ。釈放のシナリオは、牧師と米国で投獄されているトルコ人銀行家を交換しようというものだ。銀行家は対イラン制裁に違反した容疑で逮捕されている。 トルコは8月、高級代表団をワシントンに派遣し、サリバン国務副長官らと釈放問題について協議した。米側はこの際、牧師を8月8日までに釈放するよう最後通告、トルコ側は対イラン制裁違反に関連して、トルコの銀行をこれ以上捜査しないよう要求した。結局、協議は不調に終わった。 トランプ氏が牧師の釈放にこれほどこだわるのは、牧師が福音派に属しているからだ。福音派は米有権者の25%を占める同氏最大の支持基盤。11月6日の中間選挙に向け、牧師を釈放させてアピールする政治的な思惑があった。しかし、この思惑が外れ、トルコへの怒りが爆発したようだ。 根っこにギュレン師送還問題 トランプ氏は7月のツイートで、ブランソン牧師を長期間拘束していることに大規模な制裁を課すと宣言。米政府はこの発言に従って8月1日、トルコの法相と内相の2人を在米資産凍結などの制裁対象に指定すると発表、10日にはトランプ氏がトルコにすでに課している鉄鋼とアルミニウムの関税をそれぞれ50%、20%に倍増させるとたたみかけた。 これに対して、エルドアン大統領は2閣僚の資産凍結に同等の報復措置を課すとし、鉄鋼への追加関税についても「経済戦争には負けない」「われわれに脅しは通用しない」などと強く反発。国民に対し通貨リラを支えるため「金やドルをリラに交換するよう」呼び掛け、米国との全面対決の姿勢を打ち出した。 しかし、こうした両国の緊張激化を受け、リラは10日だけで約20%下落。その価値は年初以来40%以上も下落するという非常事態に陥った。強権的なエルドアン氏が中央銀行の政策運営に介入する恐れも出たことからリラ安に拍車がかかり、米国や日本を含め世界市場が動揺、株安となった。 トルコと米国間には、ブランソン牧師問題に加え元々、いくつかの懸案がある。特にエルドアン氏にとって我慢がならないのは、クーデター未遂事件の黒幕と名指ししているギュレン師の送還問題だ。エルドアン氏は事件後、軍や政府、司法、学校などからのギュレン派一掃に乗り出し、これまでに15万人を拘束し、11万人以上を職場などから追放した。 しかし、当のギュレン師は米ペンシルベニアの山中に在住し、トランプ政権もエルドアン氏の送還要求に応じていない。同氏は6月の大統領選挙で初の「実権型大統領」として再選を果たし、閣僚の任免権や国会承認なしの非常事態宣言発布など強力な権限を手に入れ、その独裁的な姿勢が際立っている。 プーチンにすがるエルドアン トランプ氏との対立で追い込まれたエルドアン氏にとって、頼りはロシアのプーチン大統領だ。米国が鉄鋼などへの追加関税を発表した10日には、プーチン氏と急きょ電話会談、事実上、同氏にすがりついた。 エルドアン氏は同日付のニューヨーク・タイムズへの寄稿でも、米国が同盟国であるトルコに失礼な行動をやめなければ「新たな仲間や同盟国を探し始めなければならない」などと警告した。国際関係論から言えば、米ロを天秤にかける典型的な動きである。 エルドアン氏と米国との関係はクーデター未遂事件が起きる前から、シリアのクルド人支援問題などでギクシャクしてきた。だが、その逆にプーチン氏とは友好関係を築いた。ロシアのシリア軍事介入で、その軍事力を目の当たりにし、2017年、ロシアの最新防空システムS400の購入を契約した。プーチン氏にとっては米国とその同盟国に楔を打ち込む好機でもある。 この兵器購入契約に米国が危機感を募らせるのは当然だ。S400を導入すれば、NATOの一員であるトルコ領内で、ロシアの技術者が公然と活動することになる。米議会はこのほど、ブランソン牧師を釈放し、S400の購入契約を停止しなければ、トルコが米国から購入したF35戦闘機100機の引き渡しを認めないとする法案を可決し、エルドアン氏に圧力を掛けた。 イランのザリフ外相はトルコへの米制裁を「恥ずべき行為」と批判したが、エルドアン氏にとっては当面、ロシアとイランこそ同盟国だ。この3カ国はシリア内戦でも協力関係にあり、内戦終結後のシリアの政治体制についての協議を続けてきたし、3カ国とも米国から制裁を受けているという共通項がある。 トランプ氏が優先するのは目先の利益だ。先のNATO首脳会議や先進7カ国首脳会議(G7)で見せた“同盟国を同盟国と思わない”姿勢、そして日本を含む同盟国との貿易戦争も辞さない態度がそのことを物語っている。だから同盟国であるトルコに対する強硬方針もさほど違和感がないに違いない。だが、「トルコがロシアに取り込まれた時、その地政学的損失は米国にとってはかり知れない」(ベイルート筋)。後になってほぞを噛むのは米国ではないのか。
ロシアに歩み寄るトルコ政府、米制裁を受け トルコのチャブシオール外相(左)とシリア危機について協議するロシアのラブロフ外相(4月、モスクワ)
By David Gauthier-Villars 2018 年 8 月 15 日 11:32 JST 【イスタンブール】トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領がアップルの「iPhone(アイフォーン)」を含む米国製電化製品のボイコットを呼びかけ、トランプ政権への対立姿勢を強めている。一方、トルコのメブリュト・チャブシオール外相はロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談し、欧米の制裁を批判した。 北大西洋条約機構(NATO)に長年加盟しているトルコは、欧米各国とロシアの板挟みになっていた。だが同国政府は今週に入り、ロシア側に歩み寄る姿勢を示している。トルコとロシアはそれぞれが米政府から制裁を受け、自国通貨が対ドルで下落。その中でエルドアン氏が呼びかけたボイコットも、米政府の制裁に報復するための一手だ。 トルコの通貨リラは同国経済の先行きに対する懸念からすでに下落していた。だが、テロ関連容疑で拘束されている米国人牧師を釈放しなかったとして米政府が制裁措置を発動した1日以降、リラは対ドルで最安値を更新し続けている。14日にはやや持ち直したものの、年初来では大幅な下落を見せている。 米政府がトルコからの輸入品に新たな関税をかけるとしたことで、貿易面でも全面的な対立が生じる不安が高まっている。 ニュースレター購読 ラブロフ氏とトルコの首都アンカラで14日に会談したチャブシオール氏は、欧米による制裁を強く非難。「われわれが傷つけられる時代は終わらなければならない」とした。 またラブロフ氏も、「彼らは制裁や脅し、恐喝、そして絶対的命令といった手法を用いている」と同じように批判を展開した。 ラブロフ氏はトルコとの協力関係を強化するとし、中国やイランと実行しているように、トルコとの貿易でもドル建ての決済をやめる可能性に言及した。 ロシアとの関係を強化すれば、エルドアン氏は米国への依存度を減らすことができる。またトルコ軍はNATOの南東部を守り続けているが、第2次世界大戦以降続く欧州の体系が変わる可能性もある。 エルドアン氏は支持者らに対し、「われわれは新たな同盟国を求めている」と12日に述べていた。 関連記事 トルコ大統領、米電化製品のボイコット宣言 トルコとインドの通貨急落、波及リスクどこまで トルコリラ急落、投資家が学ぶべき教訓とは 322回 トルコリラ下落の背景とドル高の背景【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】 配信日:2018年8月15日 フリーアナウンサーの大橋 ひろこ氏が実際のトレードを通じて学んできたFX取引のコツ、魅力をお伝えいたします。 第322回 トルコリラ下落の背景とドル高の背景【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】 トルコの通貨リラの下落は、南アフリカの通貨ランドやインドの通貨ルピーなど新興国通貨の下落に波及しただけでなく、多額のトルコ債券を保有しているとしてスペインやイタリアの銀行不安が広がりを見せ、欧州の通貨ユーロの下落まで誘引しました。 トルコリラは2001年2月に変動相場制に移行しましたが、当時のレートは1トルコリラ170円ほどでした。今回の下落でトルコリラは15.60円近辺にまで下落しています。長期化する経常赤字がトルコリラ安の背景ですが、恒常的なトルコリラ下落で輸入物価が高くなってしまうため、インフレ率が高いことも問題です。さらに近年ではISによるテロなど地政学リスクが観光収入を減少させており、恒常的にトルコリラ安が継続しているのです。 足下ではこの6月の大統領選挙で再選されたエルドアン大統領が、金融政策を司る中央銀行に対し、利下げを主張していることが懸念されています。トルコリラ安の影響もありトルコのインフレ率は15%にも上るため、物価の安定のためには利上げが必要な局面なのですが7月の政策会合では利上げを見送ったことで市場が失望、トルコリラ下落がさらに加速しました。トルコリラが暴落しているこの局面で、利下げは考え難いのですが、利上げの必要に迫られているのに利上げできないというだけで、トルコリラ売りの材料としては十分です。 こうした中で、トランプ大統領がトルコに対する鉄鋼・アルミ関税倍増を指示したことがきっかけとなり、トルコリラの大暴落が起こりました。2016年にトルコで起きたクーデータ-未遂事件に関与したとしてトルコで軟禁状態にある米国人、ブランソン牧師の釈放を求める米国に対し、トルコもまた米国に亡命しているイスラム教指導者ギュレン師の引き渡しを求めており、米国はこれを拒否しています。トルコに対する関税引き上げは、このような政治的背景が引き金となっているため、トルコ側の譲歩がない限り米国の制裁の圧力は緩むことがないと思われ、トルコリラの下落に歯止めがかかるとは思えません。 足下の為替市場、下落圧力が強いのはトルコリラだけではありません。国際決済銀行(BIS)によるとスペインは2018年3月末時点で809億ドル(9兆円弱)のトルコ向け債権があります。フランスが351億ドル、イタリアが185億ドルも保有していることが懸念され、ユーロにも売り圧力が強まっています。そもそも6月のECB理事会で政策金利を「少なくとも2019年夏にかけて」過去最低の現行水準を維持するとの見通しを示したことで、ユーロは下落圧力が強まっています。 ニュージーランドもまた、8月9日のニュージーランド準備銀行(RBNZ)政策会合にて政策金利を据え置き、「2020年まで利上げしない」スタンスを示しました。今後2年金利が上がらないとうことで、ニュージーランドドルは売り圧力が強まっています。 イギリスは2017年11月に10年ぶりの利上げに踏み切り、この8月にも再度利上げを発表しました。利上げのサイクルにあるポンドですが、上昇するどころか4月を天井にして下落が続いています。ポンド売りの材料は「合意なき離脱リスク」。イギリスは2016年の国民投票でEUからの離脱(ブレグジット)を決めました。離脱といっても簡単ではありません。EUとイギリスの間で様々な新ルールの取り決めが必要となります。EUとの間でのブレグジット交渉のデッドラインは2019年3月29日ですが、実際には合意事項をイギリスとEU各国の各議会の承認を得る必要があるため、2018年10月までには条件合意が求められますが、現時点では何もまとまっていない状況です。 日本は7月の日銀の金融政策決定会合で修正があったとはいえ、低金利政策の長期化は明白。ということで、粛々と利上げを続けている米国以外の国には買い材料が見当たらず、ドル一強となってしまっているのです。行き過ぎた相場の揺り戻しはあっても大局のドル高はまだ続くものと思っています。 コラム執筆:大橋ひろこ フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。 TwitterAccount @hirokoFR 次の記事「第321回 8月円高の経験則、その心理と需給【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】」
トルコが米国製品に追加関税−自動車やコメ、酒類 Taylan Bilgic、Inci Ozbek 2018年8月15日 14:16 JST
Photographer: Danielle Villasana / Bloomberg トルコが官報で追加関税を適用する製品のリストを公表した。 リストに22品目盛り込む−携帯電話は対象外 コメに50%、アルコール飲料に140%、乗用車や他の自動車に120%、化粧品に60% 原題:Turkey Raises Customs Tax on Some U.S. Goods Including Vehicles(抜粋) トルコ・リラが下げ再開、前日に8%余り上昇−中銀措置は不十分 Ruth Carson 2018年8月15日 13:14 JST 15日の外国為替市場でトルコ・リラが再び下落。前日は8%余り上昇していたが、トルコ中央銀行が発表した措置はリラを支えるには不十分なことが示された。 リラはアジア時間の取引で一時3.4%安。13日には過去最低の1ドル=7.2362リラを付け、他の新興市場通貨の下落を引き起こした。 中銀は「必要なあらゆる措置を取る」と表明、市中銀行の支払準備率を引き下げるなどの策を打ち出し、14日はリラが反発していた。 一方、エルドアン大統領は米国人牧師拘束を巡り譲歩の姿勢を見せず、14日には米国製電子機器をボイコットすると発表した。 原題:Lira Resumes Drop as Central Bank Steps Fail to Stem Sell-Off(抜粋) トルコ危機に激しくさらされた隣国の通貨、騰落率トップから転落 Natasha Doff 2018年8月15日 14:47 JST ジョージアの通貨ラリは8月初めまでは年初来騰落率でトップ ラリはトルコの通貨危機に数日で飲み込まれ、上げ幅を打ち消した Photographer: Kerem Uzel / Bloomberg ジョージア(旧グルジア)とロシアの開戦から10年となった週に、ジョージアの通貨ラリは、同国の南に位置するトルコの危機の急襲を受けた。 ラリは8月初めまでは世界の通貨の年初来騰落率でトップだったが、トルコ市場の混乱が波及し、今年の上げ幅が打ち消された。ジョージアにとって最大の貿易相手国であるトルコに対する競争力を保つために為替相場の調整が必要になるとの見方が投資家の間に広がり、ラリは数日でトルコの通貨危機に飲み込まれた。 この1週間でラリは対ドルで約6%下げ、年初来の騰落率もマイナスとなった。さらに悪いことには、ジョージアの貿易相手国2位は、米国による最新の制裁と追加制裁の恐れから通貨が今月下落していたロシアだった。 ガルト・アンド・タガート・リサーチのエバ・ボチョリシビリ氏らアナリストはリポートで、「力強い市場の需給により、ジョージアの通貨ラリは2018年8月初めまでは地域の通貨売り浴びせの影響を受けなかった」とした上で、「この調整は、ラリが主要通貨に対して実際に調整し、競争力を維持していることを意味する」と説明した。 ラリの運命の逆転は、今月のトルコ・リラ急落の影響の広がりをあらためて示している。リラの大幅下落はユーロ圏から中南米まで幅広い市場への重しとなっている。カザフスタンやアゼルバイジャンなど旧ソ連諸国の通貨もロシアとトルコのダブルパンチを受けて下げている。 High Exposure Georgia does the bulk of its foreign trade with Turkey and Russia Source: Bloomberg 原題:Currency Most Exposed to Turkey Meltdown Swept From Hero to Zero(抜粋)
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