#増税の影響が軽微なら、引き締めという見通しが多いが海外景気の下振れ(の影響)がないという前提条件は適切か Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg 日銀の政策変更は20年以降と予想、消費増税見極め−サーベイ 天野高志、yuko takeo 2018年8月9日 5:00 JST エコノミスト57%が回答、前回の41%から増加 市場を裏切ることはできない、変更は困難−エコノミスト 日本銀行が7月の決定会合で金融政策を修正したことを受け、エコノミストの間では次の政策変更が2020年以降との見方が強まっている。19年10月の消費増税に言及しており、影響を見極めるとみている。 ブルームバーグが3−6日、エコノミスト42人を対象に調査した。それによると、追加緩和や引き締めを20年以降に行うとの回答が57%(24人)に上り、7月の前回調査の41%から増加した。内訳は追加緩和3人、引き締め21人。18年中に政策変更を行うと予想した回答者はいなかった。 日銀は会合で、当面、現在の長短金利を維持するフォワードガイダンス(指針)を導入。発表文には、消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえた措置だと明記した。 調査では、同指針の適用期間について、20年以降とする回答が8割に上った。日銀が目指す物価上昇2%達成は、67%(28人)が23年以降と分析している。 オックスフォード・エコノミクスの長井滋人在日代表は7日の電話取材で、フォワードガイダンスを受け止めた市場を「裏切ることはできない」ため、消費増税の影響を分析しなければ0%程度の長期金利を変更するのは難しいとの見方を示した。金融機関への副作用は累積するため、20年以降に物価目標2%が達成できなかった場合の対応が「積み残した一番大きな問題」だとみている。 調査の結果はここをクリックしてください 長期金利 日銀は、誘導目標である長期金利(10年物国債金利)0%程度、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)マイナス0.1%を据え置いたが、黒田東彦総裁は会見で、上下0.1%という狭い範囲に抑えていた長期金利の変動幅を倍増させる方針を示した。8日公表の「主な意見」では、主要国の動向を踏まえ「プラスマイナス0.25%程度の動きを許容することが適切」との見解が出た。 調査では、次の政策変更に金融引き締めを選んだ回答者36人のうち、36%(13人)が「長期金利0%程度の変動幅を0.2%から拡大」するとみている。拡大幅を巡る質問では、バークレイズ証券の山川哲史チーフエコノミストとABNアムロのビル・ディヴィニー氏が0.5%までの拡大があり得ると回答した。 反対に引き締め手段として「0%程度の長期金利の引き上げ」を選んだ割合は前回調査(93%)から急減し、61%(22人)となった。 大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは7日の電話取材で、日銀は16年9月の長短金利操作導入によって誘導目標をお金の量から金利に変更しており、長期金利の変動幅拡大も国債購入量削減を「淡々とやるための一つのツール」と分析した。今回の政策調整では極端な円高や株安を引き起こさなかったため、「やり方としてはパーフェクトだった」と述べた。 円強気派が節目試す、日銀も永久には低金利維持せずと解釈 Cormac Mullen 2018年8月9日 13:29 JST
日本銀行による先週の政策微調整の騒ぎが収まるにつれて、為替トレーダーらが徐々に円相場を押し上げ、テクニカルな節目の水準を試している。ドル・円相場は8日、3月からの上昇トレンド線を下回って終了。9日には50日移動平均(110円89銭)を下回った。市場は日銀の動き、永久には低金利を維持しないというシグナルと受け取るべきであり、従って円高を見込む公算大だと、コメルツ銀行のアナリスト、トゥ・ラン・グエン氏がリポートに記した。 原題:Yen Bulls Test Key Technical Levels as BOJ Dust Settles: Chart(抜粋) 日銀が長期金利変動容認も、地銀トレーダーの国債回帰目線には届かず 谷口崇子、Chikako Mogi 2018年8月9日 6:00 JST 10年債で最低でも0.5%の利回り必要との声も−地銀トレーダー 急速な利回り上昇は保有債券に評価損出す恐れも 日本銀行が長期金利の変動幅拡大を容認したことは、地銀の国債購入を後押しする材料にはなっても、保有残高を異次元緩和前の水準に戻すには不十分とみられている。地銀トレーダーからは10年債で最低でも0.5%程度の利回りが必要だとの声が聞かれた。 日銀は7月30、31日の金融政策決定会合で、副作用が指摘される異次元緩和政策の持続性強化の一環として、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.1%から0.2%に拡大することを容認した。これを受けて、長短金利差の拡大(イールドカーブの傾斜化)が進行。8月2日の長期金利は一時、1年半ぶりの高水準である0.145%を付けた。 ある西日本の地銀トレーダーは、日銀の政策修正をきっかけに今までになかったボラティリティーが出てきているため、少し取引対象にできる可能性はあると指摘した。例えば10年国債を0.15%で買って、0.05−0.08%くらいに低下した局面でまた売ればいいとした。東日本の地銀トレーダーは金利上昇に対する耐性がわずかながら増すとして、向こう数カ月はやりやすくなったとみている。いずれもブルームバーグの電話取材に匿名を条件に語った。
一方でこのトレーダーは、まだ満期保有の国債償還時に乗り換えられる水準ではないとも話す。別の東日本の地銀トレーダーは「焼け石に水」と突き放す。多くの地銀は有利子の預金で資金調達しており、コストを差し引くとほぼ金利はなくなる。国債回帰の目線としては、複数行が自行の円債平均利回りとの見合いを理由に0.5%を挙げた。逆に、急に0.5%まで上がると、保有債券に評価損が出てしまうと懸念する声もあった。 本業不振でリスク拡大 実際に、地銀の国債保有残高は減り続けている。日銀統計によると、5月時点で20兆5600億円と2008年3月以来の低水準まで落ち込んだ。前出のトレーダーの1人は、政策修正は従来の全く動かない狭いレンジの市場に比べればまだいいが、大きくは変わらないと説明。特に、短期金利が変わらず貸出金利回りにポジティブな影響がないことから、市場部門だけでなく、本業の融資を含めた銀行全体の収益としてみてもあまり改善はないとした。 金融庁が7月に公表した地銀の運用に関する報告書は、マイナス金利政策の導入で本業の貸出金利ざやが急速に縮小する中で、収益確保のためにリスクを拡大する動きがあると指摘した。地銀・第二地銀の円金利リスク量は自己資本対比で主要行の3倍に近く、円・外貨金利が18年3月末から0.5%上昇すると、4分の1超でコア業務純益を上回る含み損が発生すると試算。地銀に対し、含み損を年間コア業務純益の範囲に収めるなどの対応を求めた。 こうした圧力の下で、地銀の運用部門は難しい舵取りを迫られている。ある西日本の大手行トレーダーは、自行の国債保有スタンスについて、金利が上がっていけば少しずつ増えていくとし、まず0.3%、次に0.5%が目線になると話す。長期金利は1%あればさらにいいとしながらも、バランスシート、海外の金利や株式、信用コストなどを総合的に勘案して絶対水準というよりは相対水準で考えると説明した。 マネックス証券の大槻奈那チーフアナリストは「皆が取引量を増やすなら流動性が増えてくる。現在、10年債は発行額よりも日銀の購入額の方が多い状態で、着実に流動性が失われている。ボラティリティーが出ることでプレーヤーが増えてくるならトレーディングがしやすくなる」と指摘。ただ、利益を出すには「過去の経験上、金利が下方向の時の方がたぶんもうけやすいだろう。今は全体としては金利が上昇していく方向だ」とコメントした。
GPIFはハイイールド債もっと購入を−元FRBエコノミスト野沢氏 野沢茂樹、氏兼敬子 2018年8月9日 8:00 JST ハイイールド債はデフォルトを含めてもリターンが高い 日本での市場育成が長年の懸案−野村資本市場研究所 米連邦準備制度理事会(FRB)の元シニアエコノミスト、野沢良雄氏は、信用リスクや流動性の観点から購入が控えられがちな低格付けのハイイールド債は分散投資により長期的に高い収益が見込めるとし、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が積極的運用をすることを勧めている。
野沢氏(39)によれば、企業が倒産した場合の資金回収の順位で株主よりも優先されるハイイールド債は、運用面では信用力の高い社債とリスクの高い株式の中間的な存在。7月下旬のインタビューでは、「株は買えるけどハイイールド債は買えないというのは理屈に合わない」と言い、株式の保有を増やしているGPIFは、ハイイールド債の購入にも積極的になるべきとの見解を示した。 GPIFは2015年から外国のハイイールド債の投資を始めている。外国債のアクティブ運用の委託先のうち、ハイイールド債を運用指標とする野村アセットマネジメントとUBSアセット・マネジメントのファンドの時価総額は3月末時点で合計4146億円と、GPIFが保有する外債23.9兆円のわずかにとどまっている。国内のハイイールド債については4月から運用が可能になったばかりだ。 FRBで7月末までの5年間、社債の適正な価格形成の分析に従事してきた野沢氏は、ハイイールド債投資について「ある程度の割合でデフォルト(債務不履行)は発生するけれども、それにも増してリターンがある。多くの銘柄に分散投資していれば、長い目でみた平均リターンは高い」と説明。 一般的な投資家に比べ流動性などのリスクを取る余裕のある長期運用の年金基金にとっては、「デフォルトするしないだけでみるのではなく、また格付けで機械的にカットするのではなく、ある程度ハイイールドのものをポートフォリオに入れるというのも自然なことではないか」と話した。 野村資本市場研究所によれば、日本の社債発行額は2016、17年と初めて2年連続で10兆円を超えた。ただ、A格以上がほとんどを占め、BBB格は2.7%程度。BB格以下のハイイールド債は皆無となっており、市場の育成が長年の懸念となっている。米国では、16年の社債の発行額が1兆5337億ドルで、うち投資適格債が1兆2938億ドル、ハイイールド債が2399億ドルだった。
S&Pグローバル・レーティングは、GPIFが日本のハイイールド債を投資対象に加えたことは、同国内の社債市場の多様化に向けた第一歩になる可能性があると指摘。市場関係者が新たな動きを起こすきっかけになれば、ハイイールド債市場の育成や裾野拡大に向けた課題の打開へと向かうかもしれないとみている。 野沢氏は、GPIFから社債スプレッドに関する研究が評価され、今後の社債のプライシング理論発展への寄与が期待できるとし7月に表彰された。今月からは香港科技大学の助教授を務めている。
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