#デジタル通貨を含め、いろいろ改善案はあるが、現実は、簡単ではなく当面は、小動きだろう
コラム】日銀よ、デフレ根絶でデジタル通貨を試せ Andy Mukherjee 2018年8月6日 13:11 JST Bloomberg 強力な金融緩和のおかげで、日本経済の命脈はつながっているが、ひどい副作用が伴っている。新たな解決策探しは、単純な質問から始めるべきだろう。日本銀行は紙幣を刷るのを完全にやめてみたらどうだろうか。 日銀の供給でマネタリーベースは5年で3倍に増えたものの、待ち望まれる物価上昇率2%が達成される兆しはない。現金を根こそぎ廃止する時期ではないだろうか。 2013年4月に就任後初の金融政策決定会合に臨んだ黒田東彦日銀総裁は、資産の購入を拡大。16年にはマイナス金利も導入した。だが、1年半たっても、物価上昇率は目標に程遠い。それだけではなく、マイナス金利の副作用は銀行の採算性悪化で明らかだ。理由は単純。日銀当座預金に置く余剰資金へのマイナス金利分を日本の銀行が預金者に転嫁させるのは簡単ではないからだ。人々には金利ゼロが保証される現金のまま、資産を持つという代替案があるためだ。 日本は現金依存度の高い国だ。キャッシュレスの支払比率は20%にすぎない。円を現金で持ちたい日本人の嗜好(しこう)を強制的に変えない限り、日銀が今のマイナス金利政策を無期限に続けるのは、銀行への影響を考えると不可能かもしれない。日銀が先週の金融政策決定で加えた修正は、疲弊が定着しつつある状況を見せつけた。悲観論が根付けば、安倍政権の反デフレキャンペーンは終わりを迎える。 Too Many Banknotes More than 20 percent of the Bank of Japan's monetary base comprises currency notes Source: Bank of Japan *Lenders' current account balances held with Bank of Japan but not counted in reserves. 必要なことは、全ての現金を国が発行するデジタル通貨に置き換えることだ。そうすれば、日銀と財務省にとってカネをばらまく「ヘリコプターマネー」の実験がやりやすくなる。財務省が出す永久債に対し、日銀が新たな電子マネーを発行し、それを財務省が国民の銀行口座に条件付きで振り込む。その条件とは、毎月使われずに残された部分の価値が例えば、12分の1%ずつ減るという内容だ。 これで、この通貨供給の部分は実質的にマイナス金利適用となり、消費が増えてインフレが喚起される。人々が取りあえず振り込まれた円をドルに替えて問題を回避しようとするなら、円が弱くなり、これもインフレ要因となる。そうなれば、日銀当座預金の金利はゼロに引き上げることができ、銀行は安心を得られる。日銀はヘリコプターマネーを主要な政策手段とし、国債や上場投資信託(ETF)、社債の購入を解消することで資産市場の機能を正常に戻せる。 やってみる価値はあるのではないだろうか。(アンディ・ムカジー) (このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません) 原題:How to End Japan’s Deflation? Abolish Cash: Andy Mukherjee(抜粋) This column does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.
外為フォーラムコラム2018年8月7日 / 11:04 / 21分前更新 コラム:二兎追う日銀政策、地銀は息を吹き返すか=大槻奈那氏 大槻奈那 マネックス証券 執行役員チーフ・アナリスト 4 分で読む
[東京 7日] - 「複雑すぎて理解できない」――。日銀が7月30―31日の金融政策決定会合で決めた新たな措置に対する、某個人投資家の感想だ。 5年前、フリップチャートを掲げつつ、2年でマネタリーベースを2倍、2%の物価上昇、と誰にでも分かる指針を示した黒田東彦日銀総裁の姿はそこにはない。 日銀による今回の新たな措置「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」は、物価上昇の弱さと銀行への副作用というジレンマに対し、二兎を追う政策であり、結果として決定打に欠ける内容となった。 <貸出業務は限界ギリギリ> 確かに銀行に対してはさまざまな配慮が見られ、市場はいったん好感した。しかし、実情はそんなに甘くはない。 今年2月、地銀の貸出金利が史上初めて1%を切った。都市銀行はすでに2016年12月にその憂き目に遭っている。そして、利ざやの低下はまだあと1、2期は続くというのが大方の見立てだ。 こうした厳しい環境を受け、東証一部に上場する邦銀の時価総額合計額は7月以降、米JPモルガン・チェース1行の時価総額を下回っている。 2010年ごろの利回りは、今の倍程度あった。従って、人件費も今より相当多く支払えたし、1件貸倒が発生しても、正常な貸出が50件あればその年間金利収益で損失はカバーできた。それが今や、正常先が100件ないと1件の貸倒を賄えない計算だ。地銀の1支店当たりの貸出額は平均285億円だから、3億円の貸出先が1件倒産しただけで、その店の貸出業務は赤字になりかねない。 こうした低利にあえいでいるのは地銀だけではない。地方には、地銀に加えて、信金・信組、労金、農林系金融機関などがひしめく。これら合計で780兆円の金融システムの貸出金収益は、この10年で8兆円失われている。にもかかわらず、銀行の店舗は200店舗、職員数は1.7万人増えている。 <欧州銀より邦銀が苦しい訳> それにしても、マイナス金利で先行する欧州の銀行に比べて、なぜ邦銀の苦しさが目立つのか。 実は貸出増加のペースは、欧州がマイナス金利を導入した当時よりも邦銀の方が早い。マイナス金利導入から2年後までの累計で、邦銀は6.5%貸出を増加させたが、欧州では平均1.6%しか伸びていない。 しかし金融機関に対する副作用は日本の方がはるかに大きい。これは、邦銀の貸出スプレッドの低さのせいだ。日本の貸出スプレッド0.9%に対し、欧州主要国では1.5%程度と高い。余裕のない日本は、固定費を賄うため、薄利多売するしかない。もともと「オーバーバンキング」と言われる地銀間の競争に、低金利が拍車をかけた。 過度な競争の結果、日本では、中小企業への貸出スプレッドが極めて低くなってしまった。大企業と中小企業の貸出金利差は日本では0.16%程度と極めて小さい(2017年度の大手行の平均)。これに対して、完全に横比較はできないが、経済協力開発機構(OECD)が示す主要国の中央値は0.88%とはるかに高い。 競争の激しい金利を引き上げるのは難しいことから、銀行は、中小企業に対し、金利以外のメリットを要求しようとする。例えば、貸出の一部を預金に残すという「歩積両建預金」を依頼したり、さまざまな商品をあっせんしたりする。しかしこれも、当局から「優越的地位の濫用」と言われかねないため、思うに任せない。 <長期金利レンジ拡大の影響は限定的> このように極めて厳しい収益環境は、今回の日銀の施策でどの程度救われるのか。 まず、貸出収益への影響についてはごく小さいだろう。銀行の貸出で、長期金利の影響を受け得る貸出は、2―3割とわずかである。このため、例えば0.1%の中長期金利の上昇で増加する貸出金収益は、おおむね250億円程度にとどまる。これは全国銀行の税引き前利益の1%にも満たない。 次に、トレーディング収益については、多少はプラスに働くかもしれない。仮に、銀行の国債保有残高がマイナス金利導入前の水準に戻るとすると、金利収入は全国銀行ベースで500億円程度増加する。 しかし、ボラティリティーが上昇することで、リスクも上昇する。国債運用のボラ上昇を生かして本業の苦しさを埋めるというのは、地銀の地元重視の経営戦略に沿っているとは思えない。 <当分は「出ずるを制する」しかない> 一方、日銀は、フォワードガイダンスで低金利を維持すると示した。このため、政策調整後、邦銀貸出のベース金利となる東京銀行間取引金利(TIBOR)もプライムレートも全く動いていない。銀行の金利環境は、これ以上の悪化はないとは思われるものの、当分大きな改善も期待薄だ。 では地銀はどうすればいいのか。マイナス金利導入以降、不動産業向け融資、カードローン、アパートローン、外債投資など、収益拡大策を打つたびに、ことごとく当局から制約を受けてきた。ならば、当局をうならせるようなイノベーションが可能かというと、もともとコモディティー性が高い金融の世界ではそれも難しい。 だとすると、結局、IT化による人員の配置転換や経営統合などによって、経費をいかに節約するかの勝負になる。日銀が意を決して正常化に向かうまで、地銀は、残念ながら、後ろ向きの経営戦略を余儀なくされそうだ。 大槻奈那氏(写真は筆者提供) *大槻奈那氏は、マネックス証券の執行役員チーフ・アナリスト兼マネックスユニバーシティ長。東京大学卒業。ロンドン・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)取得後、スタンダード&プアーズ、メリルリンチ日本証券などでアナリスト業務に従事。2016年1月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授、クレディセゾン社外取締役、東京海上ホールディングス社外監査役を兼務。財政制度審議会財政制度分科会委員、東京都公金管理アドバイザリー会議委員などを務める。 *本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。 (編集:麻生祐司) 超長期債が安い、オペ減額に警戒感−10年物価連動債入札は無難な結果 野沢茂樹 2018年8月7日 16:17 JST • 新発30年債利回り一時0.855%まで上昇、新発40年債利回り0.985% • 買い進めるとはしごを外されるとの警戒感も−メリル日本証 債券市場では超長期債を中心に相場が下落。週後半に30年債入札を控える中、長期金利の変動幅拡大を容認した日本銀行が国債買い入れオペを徐々に減額するとの警戒感から売りが優勢だった。 7日の現物債市場で新発30年物の59回債利回りは、日本相互証券が公表した前日午後3時時点の参照値より1ベーシスポイント(bp)高い0.855%と、昨年11月以来の高水準を付ける場面があった。新発40年物の11回債利回りは0.985%と、1月以来の水準まで上昇。長期金利の指標となる新発10年物国債の351回債利回りは0.5bp高い0.105%で開始後、0.11%に上昇後、0.105%に戻した。 メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、足元では日銀は金利の急上昇を許さない姿勢だが、買い進めると国債買い入れオペの減額ではしごを外されるのではないかとの警戒感もあると指摘した。 長期国債先物市場で中心限月9月物は2銭高の150円15銭で取引を開始。いったん150円07銭に下げたが、目先の方向感に乏しく、結局は1銭高の150円14銭で引けた。 日銀が金融緩和策の持続性強化の一環として長期金利の変動幅拡大を容認した先週はイールドカーブのスティープ(傾斜)化が進行。金利の急上昇を懸念した日銀が先月30日の指し値オペと、今月2日の臨時オペで残存期間5年超10年以下の国債を合計2兆円余り買い入れると、急速な金利上昇は一服している。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストは、市場では日銀による長期金利の変動幅拡大は事実上の金利上振れ容認と受け止められていると指摘。金利水準やボラティリティーが低下した場合にオペ減額が加速することへの警戒意識はあるだろうとみている。 物価連動国債入札 財務省はこの日、10年物価連動国債の価格競争入札を実施した。発行予定額は4000億円程度。23回債のリオープン発行で、表面利率は0.1%に据え置かれた。投資家需要の強弱を反映する応札倍率は3.12倍と前回を下回ったが、最低落札価格は104円05銭と市場予想中央値を上回った。 9日には30年利付国債の入札が予定されている。発行額は7000億円程度。59回債のリオープン発行で、表面利率は0.7%に据え置かれる見込み。みずほ証券の上家秀裕マーケットアナリストは「30年債入札に対する警戒感があるため、積極的に上値を追いに行く展開にはなりにくい」とみていた。 過去の物価連動国債の入札結果はこちらをご覧下さい。 新発国債利回り(午後3時時点) 前日比 2年債 -0.110% +0.5bp 5年債 -0.075% +0.5bp 10年債 0.105% +0.5bp 20年債 0.615% 横ばい 30年債 0.845% 横ばい 40年債 0.985% +1.0bp
黒田総裁が許しても長期金利は0.2%に届かない−モルガンMUFG 野沢茂樹、程近文、masaki kondo 2018年8月7日 10:16 JST • 債券市場は長期金利の上昇余地を試す動きで一時0.145% • 長期金利は新しいレンジの上限を試すーバークレイズ証
日本銀行の黒田東彦総裁 Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg 日本銀行の黒田東彦総裁が長期金利の変動幅の拡大を容認したのを受けて、大半の市場関係者の同金利の新たな上限が0.2%程度に意識が集まっているのとは対照的に、モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一債券ストラテジストの見通しはその半分程度にとどまるとみている。 新発10年物国債利回りは、日銀による長短金利操作が続いている以上、相場の乱高下が落ち着いて行くに連れ、従来の許容上限だった0.1%に近い水準に落ち着くだろう−。杉崎氏は、日銀の国債保有が残存期間5年超10年以下で突出していることを指摘した上で、「新発10年債利回りが0.2%に達するのは正当化できない」と述べた。 BOJ's Dominance Five- to 10-year sector has highest BOJ ownership across all maturities Sources: Bank of Japan, Bloomberg Ownership is computed by dividing the BOJ's holdings by total bonds issued in the corresponding maturities 日銀の残存5年超10年以下の国債保有額は発行額の6割強と、国債買い入れオペ計画で設定している対象別の残存期間のうち最も高い割合を占めている。新発10年物国債の利回りは日銀が2016年1月末にマイナス金利政策を導入することを決定して以降、一貫して0.2%を下回っている。当時の日銀による同残存期間の国債保有比率は4割程度しかなかったことを考慮すると、足元の相場では国債買い入れ残高を基に織り込まれる金利抑制要因が以前よりも増している。 黒田総裁は金融政策の修正を決定した7月31日の記者会見で、長期金利の変動許容幅は上下とも従来のプラスマイナス0.1%程度の倍を想定していると言明。市場では翌日以降、長期金利の上昇余地を試す動きが一気に広がり、8月2日には新発10年物国債351回債の利回りが一時0.145%と約1年半ぶりの水準に達した。 日銀は長期金利が急騰した同日午後に臨時の国債買い入れオペを実施。金融市場局は「このオペはこのところの長期金利の動き等を踏まえ、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とする金融市場調節方針をしっかり実現するよう実施したもの」とコメントした。 バークレイズ証の門田真一郎シニア為替・債券ストラテジストはリポートで、相場は10年債利回りが近いうちに新たな上限を試しに行くと予想。市場参加者は日銀がどの水準で指し値オペを打ってくるか探っていく可能性があると指摘していた。
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