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高プロが本当に「残業代泥棒対策」にされる日
https://diamond.jp/articles/-/176515
2018.8.6 ダイヤモンド・オンライン編集部
年収が高い一部の専門職を労働時間規制からはずす「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)が、働き方改革関連法の成立を受け来春スタートすることになった。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)に始まる「労働時間規制外し」の制度化は経済界の悲願。20年越しの成就達成かに見える。だが「過労死を助長する」と猛反発する労働側の声を反映し、高プロ適用には高いハードルが課せられることになった。
今のままであれば、高プロは企業にとってこの上なく使いにくい「無用の長物」に終わる可能性があるのだが、経済界の期待は強い。それには理由がある。
招かざる客の労基署が
必ずやって来る?
6月28日、参院厚生労働委員会。働き方改革関連法案の採決の直前、47項目に及ぶ「付帯決議」が可決された。関連法案に野党が反対を唱える中で、主張を反映させるためには与党側との妥協も辞さない「現実路線」の国民民主党が、労働組合などの反発を少しでも抑える内容にということで事前調整を重ねて作ったものだった。
そのうち13項目が高度プロフェッショナル制度への注文だった。
中には、こんな項目もある。
「高プロを導入する全ての事業場に対して、労働準監督署は立ち入り調査を行い、法の趣旨に基づき、適用可否をきめ細かく確認し、必要な監督指導を行うこと」
企業にとって労基署は、税務署と並ぶ「招かざる客」だろう。それが、高プロを導入したら必ず立ち入り調査に来てしまう可能性があるのだ。しかも「きめ細かく確認」するということは、労基署が調査したいときにいつでも入れるという事態になる。付帯決議の項目に法的な拘束力はないが、これだけ議論が続いてきた制度だけに、厚労省は調査を徹底すると見られている。
そんなリスクを冒してまで、高プロを積極的に導入しようという企業があるのだろうか。「悪用をたくらむのなら別だが、普通に考えればないでしょう」(厚労省幹部)。制度創設を進めてきた厚労省の中ですらこうした声が上がる。
高プロ制度は、労働者を保護するための労働時間規制を完全に外す、かつてない試みだ。「労働時間」という概念自体がなくなるため、「残業」も成立しなくなる。当然ながらどれだけ長時間働いても「残業代」は出なくなる。
このため労働側は、「定額働かせ放題の制度」「過労死を助長する」と猛反発したが、安倍政権はそれを押し切って制度創設に踏み切った。
それだけに、高プロにはさまざまな要件が課され、簡単には適用できない仕組みになった。
まず、適用対象が狭い。年収は1075万円以上、業務は高度な専門職に限定される。さらに適用したとしても、高プロ社員に対して企業側が労働時間や仕事場所を指示することはできない。
適用には、本人の同意が必要な上、同意した後に「やっぱりイヤ」と言われたら、企業は高プロの適用を外さなければならない。さまざまな健康確保措置を実施する義務も課せられる。こうしたルールを守らなければ、高プロ適用は無効になる。
「こんな制度を誰が使いますかね」と厚労省幹部が言い捨てるほど、厳しいハードルが課されているのである。
高プロ制度についての政府の公式な説明はこうだ。
「高プロ制度は、時間ではなく成果で評価される働き方を自ら選択することができて、高い交渉力を有する高度専門職に限って、自立的な働き方を可能とする制度。健康確保しつつ、効率的に成果を出す働き方が可能となる」(4月27日、衆院本会議、加藤勝信厚労相の答弁、一部略)。
政府の説明や制度の適用条件をそのまま受け止めれば、「高プロ社員」は、そんじょそこらの普通の社員ではない。極めて高度な専門技能を持ち、あらゆる企業が高給を支払ってでも雇いたいと思うプロフェッショナル人材ということになる。
「高い交渉力を有する」とは、上司から膨大な業務を振られたら、「こんな会社では働きたくない。自分のことを高給で雇ってくれる会社は他にいくらでもあるから」と、すぐにでも転職できる自信がある人のことだ。
雇用する会社側も「働く時間も場所も自由にどうぞ。成果は出してくださいね、よろしく」と、認める人材のことだろう。
社員と企業との間でこうした関係性が成り立つ特定の社員に対してだけ高プロは適用可能になる。つまり、高プロ社員とは普通のサラリーマンとは別世界の話なのである。
成果も上げずにだらだら働く人を
排除する狙いが「本音」か
しかし、経済界には、高プロをあえて「曲解」し、あたかも普通のサラリーマンにも関係があるかのように説明する経営者や担当者らがいる。
そんな経済界の声を“代弁”するかのような論陣を張っているのが、『日本経済新聞』だ。
まず、典型的な「曲解」記事を見てみよう。ちなみに、日経は高プロ制度を「脱時間給制度」と呼び続けている。
「長時間、会社にはいるものの、目立った成果を上げていないAさんと、夕方になるとさっさと引き上げるが、いつも成果を出すBさん。この2人のうちAさんの方が給料が多いと言われると多くの人が違和感持つのではないだろうか。働いた時間ではなく、成果に着目して給料を支払う『脱時間給制度』が実現すれば、この違和感は払拭されるかもしれない」(2017年7月25日付朝刊5面)
この記事の隠れたキーワードは「残業代泥棒対策」だ。成果も上げずにダラダラと会社に残るAさんを“残業代泥棒”と位置づけ、「高プロ=脱時間給」が実現すれば、こうした問題は解決する、というのが記事の趣旨だ。この後には、「日本人の働き方を効率的に変えなければならない」といった主張が続く。
社員がだぶついているような企業では、こうした問題もあるのだろうが、高プロはこうした問題を解決するための制度ではない。
成果も上げずにダラダラ残業するAさんのような社員は、制度が想定する「高度プロフェッショナル人材」とはかけ離れており、高プロを適用できないからだ。そもそも、こうした問題は、現行の労働時間規制の下でも人事異動で配置を変えたり、給与制度を見直して成果給を手厚くしたりといった対策が可能だ。
日経新聞は少し前まで、高プロのことを「働いた時間ではなく成果に着目して支払う『脱時間給制度』」と説明してきたが、これも間違いだ。
高プロは、労働基準法上の労働時間規制を外す制度であり、給与制度を変える話ではない。さすがに最近は、高プロを「高年収の一部専門職を労働時間規制から外す」と説明するようになったが、それでも「脱時間給制度」という言い換えは続けている。
「脱時間給」にこだわるのは、高プロを本音では“残業代泥棒対策”だと考えている経営者らと通じるものがある。
高プロはそもそも、2014年に産業競争力会議で提言された「新たな労働時間制度」が原型だ。これが政府の「日本再興戦略」に盛り込まれ、その後、「高度プロフェッショナル制度」と名付けられた経緯がある。
産業競争力会議の提言をまとめた中心人物が、経済同友会の代表幹事で同会議の民間議員を務めていた長谷川閑史氏。「多様で柔軟な働き方を可能にする」ことを目的に「労働時間と報酬のリンクを外す」といった内容だったが、年収要件を設けない方式も示されており、この時から、事実上の「残業代ゼロ」をめざす制度で、“残業代泥棒対策”の狙いがあった。
仕組みを実際に考えたのは、経済同友会を中心とする財界と経産省だったとされる。
財界の総本山である経団連はもともと年収要件を「400万円以上」として、対象を大幅に広げる主張をしていたし、中小企業の団体からも「(中小企業のために)もう少し多くの働き手が対象になる制度設計が必要だ」との意見が公然と出たりしたこともあった。
高プロは2015年の国会に提出された労働基準法改正案に盛り込まれたものの、一度も審議されずにたなざらしにされた後、今国会に提出された働き方改革関連法案に再び盛り込まれた経緯がある。
さすがに、今国会の議論では、経済界のこうした露骨な本音は影を潜めていたが、改革関連法案が国会で成立すると、本音を隠さない言動が目立ち始めた。
その代表が、産業競争力会議で民間委員を務めた竹中平蔵氏(東洋大教授)だ。
竹中氏は6月30日の『東京新聞』紙上で「時間内に仕事を終えられない生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」と主張。その上で、高プロの対象について「拡大していくことを期待している」と述べている。
「残業代=補助金」という考え方も露骨だが、残業代をもらう社員を「生産性が低い」と位置づけている点で、“残業代泥棒”と同様の発想が見える。
いずれは要件緩和される懸念
「なし崩し拡大」の歴史
一方で労働側は、高プロ適用に高いハードルが課されたにもかかわらず、将来、対象が拡大していくことを懸念し続けている。
その理由の1つは、具体的な対象業務を省令で決めるという仕組みになっているからだ。
つまり、政府が国会審議を経ずに対象業務を広げることが可能なのだ。年収要件も、法律上は「平均給与の3倍の額を相当程度上回る水準」とされているが、こちらは法改正で「3倍」を「2倍」にすれば、年収要件は600万円台に下げられる。今の多数与党の体制では与党が強行採決すれば、すぐにも改正できる。
何よりも大きいのは、「なし崩し的な対象拡大」を繰り返してきた日本の労働制度の歴史だ。
典型が労働者派遣法だ。
1985年の創設当時、派遣の対象業務は、通訳など13の業務だけだった。この時も、対象になるのは、企業に対して個人でも高い交渉能力を持ち専門技能を持った働き手に限るとされた。
だが対象業務は、政令改正を数回繰り返して96年には26業務に拡大。99年には法改正で原則自由化され、さらに2003年改正では、経済界の要望で最後のとりでだった製造業派遣までもが解禁された。
その後のリーマンショックを契機に起きたのが、大量の「派遣切り」である。日比谷公園に「派遣村」ができて、職を失った元派遣社員たちが年を越したあの日から、まだ10年ほどしかたっていない。
実際の労働時間に関係なく、労働者側と企業側との間の協定で定めた時間だけ働いたとみなして賃金が支払われる裁量労働制も、対象拡大がなし崩し的に進んできた。
対象となる「専門業務」は1987年の創設当時は5業務だったが、「大臣告示」によって今では19業務に増えた。
さらに98年には、業務を限定しない「企画業務型」という新たな仕組みもできた。裁量労働制を大半の社員に違法適用していた野村不動産が使ったのも、企画業務型の方だ。
外国人技能実習制度も、「企業の本音」によって「骨抜き」にされてきた。
日本で学んだ技術を母国に持ち帰る、というのが実習制度の建前だ。制度が始まった93年は、実習の対象職種は17だったが、「安い労働力が欲しい」という経済界の本音に沿う形で、今では80職種近くまで拡大している。
さらに、「安い労働力ではない」はずだった実習生の位置づけも、企業側の「人手不足」の訴えに押されて、徐々に変化。ついに政府は6月に決めた「骨太の方針」で新たな在留資格の創設を打ち出し、事実上、実習生の労働力としての活用に道を開いた。
派遣法も裁量労働制も技能実習制度も、創設時点の理念が経済界の本音によって徐々に侵食され、結果として対象が拡大するという全く同じパターンをなぞっている。
高プロを「残業代泥棒対策」と捉えるのは、現時点では間違いだが、労働法制のなし崩しの歴史を見れば、変質してしまう可能性がかなり高いと言わざるを得ない。
(ダイヤモンド・オンライン編集部)
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