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原油価格はどこまで上がる?日本を「ガソリン不況」が覆う可能性はあるか
https://diamond.jp/articles/-/176502
2018.8.4 三井住友アセットマネジメント 調査部 ダイヤモンド・オンライン
原油価格の値上がりで、ガソリン価格も上昇しています。Photo:PIXTA
皆さんこんにちは。三井住友アセットマネジメント調査部です。毎週土曜日に「ビジネスマン注目!来週の経済、ここがポイント」をお届けしています。
北米の代表的な原油価格であるWTI価格は、 昨年の今頃は1バレルあたり50ドル台付近で推移していましたが、その後じわじわと上昇しています。今や70ドル程度で、1年で40%程度の値上がりとなっています。原油をほとんど産出しない日本にとっては、原油価格の上昇はそのままコストの上昇に跳ね返り、経済のさまざまな分野に悪影響が及びます。
そこで今週は、原油価格が上昇している要因を点検し、今後どのような価格推移が見込めるか、また、原油価格のわれわれの暮らしぶりへの影響について考えてみます。
需給バランスが好転し
2018年上半期は需要超過に
原油価格上昇の主因は、需給の改善にあります。石油輸出国機構(OPEC)月報の今年の7月号によれば、2018年上半期の原油需要は世界全体で日量9785万バレル、これに対して供給量はOPECおよび非OPEC産油国による協調減産等が功を奏し、同9774万バレル(うちOPECの生産量は同3230万バレル)にとどまりました。差し引き同11万バレルの需要超過となります。
こういった需給の改善が端的に分かるのが、原油在庫量の変化です。米エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration)によると、原油価格が大幅に下落した2014年以降でみると、経済協力開発機構(OECD)諸国の原油在庫量は2016年6月をピークに減少に転じています。
こうした需給改善に最も貢献していると考えられるのが供給の削減です。具体的には、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非OPECの主要産油国が2016年末に合意した協調減産です。この協調減産の順守率は極めて高く、世界の原油生産の過半を占める国々が減産を守ったため、世界全体の原油の供給量の伸びが抑えられ、需要の伸びを下回りました。米のシェールオイルでは増産が進みましたが、その増産を十二分に吸収した形です。
一方、世界経済が2016年を成長率の底として、2017年から回復に入ったことも重要です。このため、世界経済の回復に伴って原油の需要もしっかりしたものとなりました。
これらを要因として、原油価格は2017年の年央頃から上昇トレンドに入り、17年6月末以降17年末にかけて原油価格は約34%上昇しました。
今年に入っても原油価格が上昇しているのは、皆さんもご存じの通りです。今や、1バレルあたり70ドル前後で推移しており、年初来では16%の上昇となっています。
今年に入ってからの原油価格の上昇は、冒頭で触れた需給の改善に加えていくつかの要因が重なっています。
まず、米国のイラン核開発合意からの離脱です。これによって米国のイランに対する経済制裁が再び発動され、イランからの原油供給が減少することが懸念されています。特に米国は、主要国に対してイランからの原油輸入を控えるよう要請しています。また、ベネズエラでは、経済が崩壊状態に陥っており、原油生産の減少が懸念されています。
協調減産出をめぐる思惑などから
価格は神経質な展開へ
さて、原油価格が緩やかに上昇する中、OPECは2018年6月22日の総会で、減産の緩和を目指す方針を採択しました。翌23日に行われたOPECおよび非OPEC主要産油国の閣僚会合では、協調減産の遵守率を6月実績の121%から、7月1日以降100%に引き下げる決定を行いました。これによる増産規模は不透明ですが、1日当たり80万バレル程度の増産になると見込まれます。
前述のイランへの経済制裁の影響によってイラン産原油の供給が約100万バレルほど減少する可能性がありますが、そのほとんどの部分がOPEC等の増産によって賄われる形です。
原油価格が上昇すれば産油国にとっては収益が増加するので、原油価格を引き下げるような増産を行う必要はないように感じますが、OPEC等主要産油国はなぜ減産を緩和する形で増産を合意したのでしょうか。
これは、原油価格が高くなりすぎると、世界の原油需要を冷やしてしまい、再度、供給過剰になりかねないためです。現在の70ドル付近の原油価格は、原油の生産国にとっても消費国にとっても高すぎず、低すぎずの水準と考えられており、現状付近で維持する事は双方にとって悪い状況ではないと考えられます。
原油価格は
どこまで上がるのか
さて、今後の原油価格についてですが、いかに原油の生産国と消費国にとって現状水準が都合がいいとしても、必ずしも先々思った通りになるわけではありません。
これまでと同じように、需要と供給に分けて考えてみます。
まず、原油の需要は、世界の経済成長の状況といった短期的な経済サイクルに依存する部分と、電気自動車の増加や電力の節約といった構造的な部分に分けられます。10年、20年の単位では構造的な要因が大きく影響しますが、数年の期間では通常は経済サイクルによる部分が大きいと考えられます。
三井住友アセットマネジメント調査部では、世界経済は来年以降2020年にかけて、緩やかに成長の勢いが下がると見込んでいますが、その程度はわずかであり、原油の需要が減退するほどではないと考えています。よって、原油の需要は過去数年と同じような、前年比+1〜2%程度のペースで増加していくと考えます。
次に原油の供給ですが、OPECやロシアなどの主要産油国は、合意に至った減産協定を今後も順守する可能性が高いと考えます。これは、2016年末の減産合意を順守した結果、原油価格の下落が止まり緩やかに上昇してきたとの実績があるためです。
また、ロシアや米国の増産などにより、OPECだけでは世界の原油生産の3分の1程度を占めるに過ぎない状況になっており、世界的な原油供給への影響力は低下しています。そういった状況で、OPECは減産協定を破り、OPECの影響力を更に低下させるというインセンティブは高くないと考えることができます。
また、米国のシェールオイルについては、シェールオイル生産企業に、価格を大きく下げるような早急な生産増につながる活動が見られておらず、今後も緩やかな生産の増加が続くと見込まれます。
以上のように、需要と供給をめぐる主要な状況は比較的安定していると考えられるため、原油価格が大きく動くとすると、何らかの事情によって、一時的にせよ供給が途絶える場合が考えられます。例えば、最近、米国との敵対的な関係が目立つイランの状況には注意を払いたいと思います。
前述の通り、米国のイランに対する姿勢は厳しいものとなっています。また、米国は中東の友好国であり、イランと敵対するサウジアラビアに肩入れしています。今後、イランが窮地に追い込まれた場合、取れる手段にはサウジ油田の攻撃やホルムズ海峡の閉鎖などがあります。
ただし、イランがこれらの極端な行動を取れば、米国のより積極的で具体的な干渉を招くリスクがあります。その結果は、イランにとって望ましいものではない可能性がありますので、イランが原油価格の急騰につながるような行動は取らないと考えることが合意的と見られます。
このように考えると、原油価格は現在の価格に近い水準で推移する可能性が高いと考えられます。
私たちの生活への影響は
さて、原油価格の上昇が日本に与える影響について考えてみたいと思います。
日本では原油はほとんど採れないためほぼ全てを輸入で賄っており、国際的な原油価格の変動の影響を大きく受けます。では、具体的に、原油価格の変動はどの程度、われわれの産業や家計に影響を及ぼすのでしょうか。
まず、産業連関表を参考にして、輸入した原油が産業と家計でどのような利用度合いになっているかを確認しましょう。
総務省の2011年の産業連関表によると、輸入された「石炭・原油・天然ガス」は、その65%が「石油製品・石炭製品」産業に、34%が「電力」「ガス・熱供給」産業によって購入されています。「石油製品・石炭製品」産業のアウトプットのうち、民間消費支出に回るものは29%です。産業では、25%が運輸業界、10%が化学産業、5%が電力業界で活用されます。
一方、「電力」「ガス・熱供給」産業のアウトプットは、それぞれ28%、41%が民間消費支出に回っています。企業部門に対しては極めて幅広い産業に購入されており、強く影響を受ける産業は特にはないようです。
このように、原油価格の上昇は、まずガソリンなどの石油製品や、電気、ガス部門に波及した後、それぞれの分野における最大の需要先である家計へ波及していきます。計算すると、家計は「石油製品・石炭製品」「電力」「ガス・熱供給」産業を通じて「石炭・原油・天然ガス」の約3割を消費しており、理屈の上では原油価格上昇の影響を最も大きく受ける構造になっているといえます。
ただし、原油価格の上昇が実際に家計に波及するのは、家計向けの製品やサービスを供給している企業がどの程度原油価格上昇に伴うコストを吸収し、どの程度を消費者に転嫁するかによります。すなわち、家計に対する影響を考えるには、現実の物価の推移を確認することが必要です。
ガソリン価格は前年比15%アップでも
企業努力で上昇はかなり抑えられている
そこで、最も身近な石油製品の一つであるガソリン価格の状況を見てみましょう。
経済産業省資源エネルギー庁の調査によると、全国平均のレギュラーガソリン価格は7月23日現在で、1リットルあたり152円です。これは前年の同じ時期の131円と比べて16%の値上がりになります。ハイオクだと同163円で、前年比15%の値上がりとなっています。
冒頭のコメントの通り、過去1年で原油価格は40%上昇していますので、ガソリン価格の上昇はかなり抑えられていることが分かります。原油の輸入から最終的な小売りに至る段階までの、長いサプライチェーンでのコストカットや効率化などの企業努力はかなり大きいと考えることができます。
とはいえ、ガソリン価格の上昇は家計の消費心理に影を落としています。例えば、今年の4月5日に日銀から発表された「生活意識に関するアンケート調査」では、景気が悪くなったと答えた割合が増えていますが、その主な理由として生鮮食品やガソリン価格上昇で身の回りの暮らし向きが悪化したと感じた消費者が多かった模様です。
同様に、6月8日に発表された、5月度の「景気ウォッチャー調査」でも、ガソリン価格などの上昇が現況判断の低下につながっていると見られます。
ちなみに、ガソリン価格が今の水準のままで推移したとすると、今年の11月ごろには前年比の価格上昇率が一桁に下がります。裏を返すと、そこまではガソリン価格の上昇を実感しやすい状況が続いてしまうとも考えられます。
気になる生鮮野菜の価格上昇
家計への影響は実は限定的
ところで、物価上昇のニュースで、ガソリンと並んでよく言及されるのが生鮮食品です。このところの異常気象により、天候不順が続くことが多く、報道でも野菜などの価格変動が家計への負担になっているとのコメントが増えています。
消費者物価指数で見ますと、生鮮食品の価格動向は今年の1月や2月は前年比で10%以上の上昇となりました。ただし、その後の価格の状況は比較的落ち着いていて、6月の消費者物価統計では前年比▲1.3%となっています。
また、消費者物価指数の中のウェートを見ると生鮮食品は4.1%で、エネルギーの7.8%と比べると小さいウェートになっています。最近では、7月の西日本豪雨の影響などによる生鮮食品の価格上昇が報じられており、消費への影響が懸念されますが、指数ウェイトを考えると、生鮮食品の価格が大幅に引き上がらない限り、家計に与える影響は極端なものにはならないと見られます。一方、原油価格の影響は比較的大きいと考えられます。
原油価格は今後も現状水準程度での推移が見込まれますし、原油に関するサプライチェーンでのコスト吸収努力も続くと考えられますが、しばらくは家計に対して消費を抑制しようとする要因になると考えられる点には注意したいと思います。
(三井住友アセットマネジメント 調査部長 渡辺英茂)
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