愚かな時代遅れの左翼政権が、極貧を作り出すとすれば、その対極のグローバル企業は、主権国家の弱点を突いて、巨大な利益を独占し 技術革新による生産性上昇の恩恵がトリクルダウンするのを妨げる 本来、こうした課題解決に努めるべき米国は、先行者利益を享受するために
後者の問題には目を瞑っている 「グローバル独占企業」がイノベーションを殺す GAFAが資本主義のルールを変えた
2018.7.27(金) 池田 信夫 EU、グーグルに過去最高5700億円の制裁金 OSで独占的な地位乱用 グーグルに支払いを命じた制裁金についてブリュッセルのEU本部で記者会見する欧州委員会のマルグレーテ・ベステアー委員(2018年7月18日撮影)。(c)AFP PHOTO / JOHN THYS〔AFPBB News〕 EU委員会は7月18日、グーグル社に43億4000万ユーロ(約5700億円)の制裁金を払うよう命じた。これはEU(ヨーロッパ連合)の制裁金としては史上最大だ。その理由は、グーグルが携帯端末用OS「アンドロイド」に自社製アプリを抱き合わせしているというものだが、これは1990年代のマイクロソフトに対する司法省の訴訟と似ている。 グーグルだけではなく、アップルもアマゾンもフェイスブックもグローバルな独占企業になり、まとめてGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ぶことも多い。こうした新しい独占企業が、グローバル資本主義を変えようとしている。 インターネットが生んだ独占・集中社会 90年代にインターネットが急速に普及したとき、それは従来の電話網とは違う自律・分散型のネットワークだった。それによって国家と大企業を中心とする20世紀型の社会が変わり、個人を中心とする自律・分散型の社会になると予想する人が多かった。 一時はそういう兆しも見えた。電話交換機で通信を独占した電話会社が衰退し、大型コンピュータを独占したIBMが経営危機に瀕し、携帯電話で個人がいつでも世界に情報を発信できるようになった。GAFAのうちアップルを除く3社は、90年代後半以降に創業した企業である。 しかし2004年に創業したフェイスブックを最後に、既存の企業を倒す「破壊的イノベーション」は消えた。新しい成長企業が、大企業に育つ前に買収されたからだ。アンドロイドも、携帯用OSを開発していた会社をグーグルが買収したものだ。ITの世界では、ゼロから研究開発するより有望な企業を買収したほうが速い。 企業買収のもう1つの意味は、競争の芽を摘むことだ。2012年にフェイスブックが写真サイト「インスタグラム」を10億ドルで買収したとき、その売り上げはゼロだったが、ユーザーは3000万人で急成長しており、フェイスブックのライバルになる可能性があった。それを買収することで、フェイスブックは独占を守ったのだ。 皮肉なことに自律・分散型のインターネットが生んだのは、かつての電話会社やIBMより強力な独占・集中型の産業構造だった。それはインターネットという巨大なプラットフォームを独占することが、国家を超える権力になるからだ。 「プラットフォーム独占」は国境を超える キャッシュの余った大企業が関連のない企業を買収して規模を拡大するのは、昔は「コングロマリット」と呼ばれ、ダメな企業の代名詞だった。日本の「総合電機メーカー」のようなコングロマリットの経営が悪化するのは、経営者が資本効率を考えないで多角化して雑多な企業を抱え込むからだ。 しかしGAFAのような「ITコングロマリット」は、多角化しても資本効率が落ちない。それは彼らのコア技術がソフトウェアだからだ。アマゾンやグーグルが自動運転の企業を買収しても、彼らが開発するのは自動車ではなく、それを運転するソフトウェアだから、プラットフォーム独占は共通だ。ハードウェアは中国に発注してもいい。 GAFAは、国境を超えるグローバル独占企業になった。かつて電話会社は国内市場を独占したが、インターネットのユーザーは全世界で40億人。その最適規模は国家を超える。グローバル独占が確立すると、それをくつがえす新企業が出てくることはむずかしい。 多くの経済学者は、2010年代に成長率が低下した原因を、このようなイノベーションの衰退に求めている。ケネス・ロゴフ(ハーバード大学教授)は、それを「第二のソロー時代」と呼んでいる。 かつて経済学者ロバート・ソローが「コンピュータはどこにでも見られるが、生産性の統計の中には見られない」といったように、インターネットは人々の生活を便利にし、既存企業の独占利潤を上げる役には立ったが、生産性は上がっていないのだ。 古い独占を倒すのは新しい独占 グローバル独占企業が昔の独占企業より強力なのは、その市場支配力が国家に依存しないからだ。最盛期のAT&T(アメリカ電話電信会社)の社員は100万人を超えたが、そのビジネスはアメリカを超えられなかった。1980年代の分割で国際事業が認められたが、失敗に終わった。 国境を超える独占企業になったほとんど唯一の例外がIBMだが、それは大型コンピュータというプラットフォームの独占に依存していたので、パソコンという新しいプラットフォームが出てくると没落した。 独占を守るにはライバルを買収して、新しいプラットフォームをつぶす必要があるが、司法省との独禁法訴訟を抱えていたIBMは、彼らの独占に挑戦する企業を買収できなかった。1980年代にIBMがマイクロソフトを買収していたら、われわれは今も大型コンピュータを使っているかもしれない。 電話会社は各国の規制と戦うことに多大な労力を費やしたが、GAFAには今までそういう問題は少なかった。ソフトウェアを規制する法律はほとんどなく、インターネットという巨大なプラットフォームを独占すれば、IBMよりはるかに巨大な独占企業になれた。 しかし今回のEU委員会の制裁にみられるように、ヨーロッパ各国政府はGAFAに警戒を強めている。それはもはやヨーロッパにはGAFAに対抗できる企業がなく、アメリカ文化がヨーロッパを支配することを恐れているからだ。 日本政府には、そういう危機感もない。それは日本企業が、とっくの昔にプラットフォーム競争に負け、競争に参加する気もないからだろう。むしろ中国の「国家資本主義」が、GAFAのライバルになる可能性がある。 21世紀に生まれたグローバル独占資本主義のルールは、経済学の教科書には書かれていない。それは日本メーカーの得意とする「いいものを安くつくる」市場とは違う。問題は性能でも価格でもなく、巨額のリスクを取って独占を作り出す経営者の度胸である。 そこでは市場メカニズムはきかず、強者が徹底的に投資して弱者を蹴落とす進化論的な競争になる。こういう独占を防ぐには、一国内のシェアを基準にした独禁法は無意味である。古い独占を倒すには、新しい独占を育てるしかない。競争政策にもイノベーションが必要である。
|