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パナソニックは「我慢」できるか…EVブーム終焉、テスラ・リスク、中国「ホワイトリスト」の存在
http://biz-journal.jp/2018/07/post_24089.html
2018.07.17 文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家 Business Journal
パナソニック本社(「Wikipedia」より/Pokarin)
主役は、もはや家電だけではない。パナソニックが家電事業から車載事業へと軸足を大きくシフトさせたのは、2008年だ。
パナソニックは、家電事業で培った最先端デバイスを多数保有している。これまでデバイス事業部は、白物やテレビなど社内の完成品を扱う事業部と足並みをそろえて事業を展開してきたが、1990年以降の家電事業の衰退を受けて、デバイス事業もまた方向を見失い、低収益を余儀なくされた。当時、パナソニックの車載事業を担うオートモーティブシステムズ社社長だった津賀一宏氏は、デバイス事業の新しい収益源を求めて、家電から自動車への“転地”を決断した。
すなわち、各種センシングやデバイス、画像処理技術、リチウムイオン電池などを、車載用のカーナビゲーションやディスプレイなどの「快適」分野、ADAS(先進運転支援システム)などの「安全」分野、EV(電気自動車)などの「環境」分野に“転地”することを決めたのだ。
すでに「快適」分野と「安全」分野は順調に受注を拡大している。また、福井県「永平寺参ろーど」や京都府「けいはんな学研都市」で、自動運転によるEVコミュータの走行実証実験を進め、システムサプライヤーとしての存在感を高めている。
その一方で、課題となるのは「環境」分野の車載電池事業である。これまで、リチウムイオン電池はノートパソコンやスマートフォンなどの民生品に広く使われてきたが、それだけでは事業の成長が見込めないことから、産業用へとシフトした。
そのひとつが、EVメーカーのテスラとの協業だ。テスラの普及型EV「モデル3」の場合、約7000本の円筒型リチウムイオン電池が必要となる。これが、リチウムイオン電池の需要を一気に拡大するチャンスとなるはずだった。パナソニックは2017年1月、米ネバダ州にテスラと共同で大規模電池工場「ギガファクトリー」を立ち上げ、建設費用6000億円のうち約2000億円を負担した。
ところが、誤算があった。生産の遅れだ。テスラは当初、「モデル3」の生産台数を17年末までに週5000台に乗せるとしていた。パナソニックはテスラのこの生産目標に沿って車載電池の生産を進めてきたが、目論見は外れた。18年5月30日に開かれた投資家向け説明会の席上、パナソニック副社長でオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社(AIS)社長の伊藤好生氏は、「ボトルネックは直近では相当改善している」と前置きして、次のように説明した。
「車載電池のメインのお客さまのテスラとは密にコミュニケーションをとって、ステップ・バイ・ステップで着実に対応していきます」
車載用円筒型電池の販売の期ずれの発生から未達となった車載事業の18年度の売上高2兆円の目標については、18年度に見込んでいる車載電池の増販を受けて、19年度に達成することを明言した。
パナソニックは車載部門において18年度2410億円の設備投資を計画し、その多くを車載電池に振り向ける。投資先は「ギガファクトリー」に加えて、中国の大連工場、姫路工場だ。また、トヨタとも20年代前半までの実用化をめざす角型の次世代電池、全固体電池の共同開発を進めている。
■揺らぐEVブーム
パナソニックとしては、テスラの「モデル3」の生産の遅れが気になるところだ。それから、車載電池の売り上げを左右する肝心のEV市場の成長見通しは、依然、不透明感がある。EVの現在の価格、電池メーカーの電池供給能力などからして、このままうなぎ上りで成長するとは考えられない。
確かに世界の自動車メーカーは、排出ガス規制と燃費規制の対応に向けて、さまざまな側面から次世代環境対応車の開発に力を入れている。しかし、そのなかでEVの普及スピードはなかなか上がっていない。
その証拠に、世界最大の自動車市場である中国では、EVブームの足元が少々揺らいでいる。中国政府はこれまで、エンジン車のナンバープレートの発給枚数をしぼるなど、規制や補助金を使って巧みにEV市場の拡大を図ってきたが、今後も今のペースでEV市場が拡大するかどうか。
実際、EVへの補助金政策は2020年末で打ち切りになる。世界最大のEV市場の中国で、かりにもEVの勢いに陰りが見えるようなことがあれば、パナソニックの車載電池事業には少なからぬ影響が出るだろう。
さらに、中国政府は地場の電池メーカーを育成する目的で、いわゆる「ホワイトリスト」を作成している。中国に一定規模の生産体制と研究拠点を持つなどの条件をクリアした電池メーカーをリスト化し、自動車メーカーが「ホワイトリスト」から電池を購入することを推奨している。ちなみに、パナソニックは「ホワイトリスト」には入っていない。
■問われる“我慢”と“覚悟”
また、中国の二大電池メーカーのBYDとCATLが急速に力をつけていることも、パナソニックにとっては脅威だ。AIS社上席副社長でエナジー事業担当の田村憲司氏は、投資家向け説明会の席上、次のように述べた。
「最近では、CATLとBYDが中国で大きく生産量を伸ばしています。カーメーカーは補助金などのリスクを含めて、中国の地場の電池メーカーからの調達をしています。彼らの実力値はどうか。価格などいろいろな側面から調査しています。量産効果による優位性については、まだまだと見ていますが、近い将来、彼らも力をつけてくる。我々としては、同じ土俵で戦うのではなく、技術面で競争していきたいと思っています」
日産は、18年後半に中国で発売する中型セダン「シルフィ」のEVにCATLの電池を採用するほか、ホンダも車載電池の分野でCATLと協業することを発表した。激化する競争に対して、パナソニックは強みとする高出力、高容量などの性能で差別化を図る計画だ。
「現時点で自動車向けの供給量においては、グローバルナンバーワンであると認識していますが、今後は単に量を追いかけるのではなく、収益性と確実な投資回収を念頭に、質を重視し、段階的に投資を進めていきます」(伊藤氏)
パナソニックが電池を含むデバイス事業を家電からクルマに“転地”した目的は、「稼ぐ力」をつけることだ。本命の電池が「稼ぐ力」をつけないことには、“転地”は成功したとはいえない。
パナソニックは、どこまでリスクに耐えつつ、攻めの投資を進められるか。カギを握るのは、社長の津賀一宏氏の覚悟だ。「長い目をもって見ている」と5月10日に開かれた2017年度決算説明会の席上、津賀氏は語った。
問われるのは、どこまで“我慢”と“覚悟”をもって、車載電池事業にのぞめるかだ。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)
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