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中国の「意図せざる人民元安」がもたらす国際金融リスク 米中貿易戦争は一筋縄ではいかない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56524
2018.07.12 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
株安と通貨安が進行中
トランプ政権当局者によれば、トランプ大統領は中国製品向けに新たに2000億ドル規模の品目を追加する見通しであるとのことである(7月10日付のニュース)。
中国の報復関税措置への対抗策ということだが、現時点では中国も一歩も引かない構えであることから、今度は中国が追加の報復関税措置を講じる可能性が高い。米中貿易戦争は泥沼化の様相を呈しつつある。
この「米中貿易戦争」に関する内外の識者の見方は様々であるが、どちらかというと、仕掛けた側のトランプ大統領を「これまで世界経済の成長を牽引してきた自由貿易体制を破壊する不届き者」として批判する声の方が多いように思える。
トランプ政権は、過激なリップサービスで世間を煽る一方、水面下でひそかに交渉を進める手法が得意なようなので、どこかで米中両国が妥協するというシナリオも全くないではない。その行方は表面的なメディアの報道を追いかけていても全くわからない。だが、そうした不透明感を含め、この「チキンレース」は世界のマーケットにも大きな影響を与えうる。
そのマーケットで現在進行中なのは、中国株式市場の調整と人民元安である。7月10日の午前の段階で、上海総合指数は年初から約14.5%の下落となっている。また、中国人民元は今年のピークから約7%の下落となっている。
4月17日に中国の中央銀行である中国人民銀行は預金準備率を1%ポイント引き下げ、6月24日にはさらに0.5%ポイント引き下げており、人民元安は貿易戦争をにらんだ中国通貨当局の意図的な誘導ではないかという見方もある。
だが、当局は同時に外為市場で人民元買いドル売り介入を実施しているし、中国の銀行に対してもドル売りを促しているということなので、「意図せざる人民元安」の可能性の方が高いと思われる。
富裕層が「こっそり」
ところで、中国の国際収支統計をみると、2015年以降、いわゆる「誤差脱漏」の赤字が目立つ。
「誤差脱漏」とは、当局がその資金のやりとりを把握できていないが、国際収支統計のバランス上(国際収支統計は複式簿記の原理が適用されているので最終的に貸方・借方はバランスする)存在しているはずの資金のやりとりがまとめて記載されるものである。
中国の国際収支上の「誤差脱漏」は、2009年以降、常に赤字であるが、これは中国から海外へ当局が把握できない資本が流出し続けていることを意味する。
この赤字額は、2009年から2014年まで平均で年550億ドルだったが、加速度的な人民元安が始まった2015年から2017年にかけては平均2215億ドルに拡大した。
つまり、これは人民元安の局面で中国当局が把握できない逃避資金が年率換算で約4倍の規模に膨れ上がったことを意味する。
一般的に証券投資などの「資本・金融収支」は経常収支とバランスするといわれているが、中国の場合、経常収支黒字は減少トレンドにあり、2017年はGDP比で1.3%の水準であった。しかも、2018年第一四半期には15年振りの赤字(▲0.9%)を計上している(ちなみに2007年には同9.9%であった)。だが、誤差脱漏の赤字は増え続けている。
教科書的な国際収支の動きでは、経常収支の減少は、国内の貯蓄・投資バランスでの貯蓄超幅の縮小を意味する。中国経済の成長の発展段階を考えると、経常収支黒字の減少トレンドは、経済が消費を中心とした内需の拡大をテコに新たな成長ステージに入るべきところであることを意味している。
したがって、通常であれば、経常収支黒字の縮小と同時に資本・金融収支の赤字(海外投資)もそれなりに縮小し、その分のお金が消費などの形で国内で使われれば理想的といえる。
だが中国の場合、そうはなっていない。もちろん、中国人民が外債投資などの海外投資に目覚めれば別だが、残念ながら、中国の資本・金融収支は2016年以降、「黒字(国内へ流入超)」となっている。
つまり、中国から海外への資本流出は、中国の富裕層が自国の将来を懸念して「こっそりと」資産を海外へ逃避させている可能性が高いわけである。
そして、誤差脱漏の赤字が、人民元安が加速している局面で増えたことを考えると、人民元が下落すればするほど中国国外へ資産を逃避させるインセンティブは高まっている可能性が示唆される。中国当局にとって資産流出は国内経済の成長マネーの流出を意味するのでなんとしても阻止したいものであろう。
為替介入か、市場短期金利の引き上げか
中国通貨当局は人民元安を阻止するために色々な策を講じてきた。具体的には2015年から2016年にかけて主に為替介入(人民元買いドル売り)を実施して人民元安を防ごうとした。
中国の為替介入には、外貨準備が用いられることが多い(多くが米ドル預金か米国債で運用されているため、それを解約して人民元を購入する)が、その効果はほとんどなく、人民元安は逆に加速した。
これは、為替介入による外貨準備の減少がかえって人民元の先行きに対する不安を招き、逆に資産流出を加速させてしまったからであった。そして、このような為替介入による外貨準備の減少と人民元安加速の「いたちごっこ」は2016年末まで続いた。
そこで、2017年以降、中国通貨当局は為替介入ではなく、市場短期金利の引き上げによって、これ以上の人民元安を阻止する政策に転換した。人民元の対ドルレートは米中の市場短期金利差にほぼ連動して動いていたので、中国の市場短期金利の引き上げは見事に奏功し、2017年は、逆に人民元高局面に移行した。
この人民元安抑制政策の中、中国の市場短期金利であるShiborの3ヵ月物金利は、2016年末の約2.9%から約4.9%近傍にまで上昇した。短期金利で2%ポイントの引き上げはかなり強力な金融引締め効果をもたらす。
金利上昇による金融引締めは、通常、9ヵ月から1年程度のタイムラグがあるため、この金利上昇は、今年(2018年)の中国経済の減速に波及しつつある。消費や生産といった実体経済は減速というより一進一退(横ばい)という感じだが、金利上昇に敏感な株式市場や主に都市部の不動産市況が崩れ始めている。特に、中国の株価は2015年に大幅下落を経験しており、その後も反発もほとんどない。
株価の割高/割安を示す参考指標の1つであるPER(株価収益率)は11倍前後で推移しており、世界の主要株式指数の平均(約15倍)と比較しても割安な部類に入る。通常なら、「割安株」の下落幅はそれほど大きくないはずだが、今年に入ってからの中国株の下落率は他の株価指数と比較しても高い。そして、これは、比較的好調だった香港の株価指数にも波及している。
このような状況下で、中国通貨当局は、人民元安阻止のためにこれ以上市場短期金利を引き上げることは困難になっている。そのため、この人民元安局面ではもっぱら為替介入が実施されている。だが、前述のように、為替介入に効果がないことは2015、2016年の経験から明らかである。
中国が米国債売却を加速させると
さらにいえば、現在、米国では、FRBによる利上げが進行中である点は中国当局にとっては頭の痛い話である。
米国の政策金利であるFFレートは現在1.8%前後で推移している。FRBが考えるFFレートの長期的な均衡水準は3%であるので、米国経済が明確に減速の兆候を示さない限りは、今後も粛々と利上げを進めていくだろう。そして、米国の利上げが進めば、米中短期金利差的には人民元はさらに下落する可能性が高まる。
この局面で中国通貨当局が短期金利を引き上げることができなければ、ますます資本逃避が加速していくであろう。
そこで、中国政府が資本取引規制を強化すれば、社会不安も増すし、海外からの資本流入が激減するリスクもでてくる。そしてこれは、現在進行中の中国から周辺アジア諸国(ベトナムやラオスなど)への製造業の生産拠点移転に拍車をかけ、中国経済の成長力をよりそぐことにもなりかねない。
ここまでの話では、いまや、FRBによる金融政策の正常化もトランプ政権にとっては、対中国封じ込め政策の有力な武器となりつつあるということになる。
だが、話は単純な一方通行では終わらないかもしれない。
すなわち、現在の国際金融市場の状況がトランプ大統領に全面的に有利かというと必ずしもそうではない。このまま人民元安が進む状況下では、中国は、米国債の売却を加速させることが想定される。
2011年以降、中国の米国債保有残高が急激に減少した局面が2回あった。1回めは2011年、2回目は2016年半ばから2017年初めにかけてである。2011年の際には米国長期金利は低下したが、2016年半ばから2017年初めにかけては急上昇した。
確かにこの時期には利上げも実施された。だが、長期金利の上昇は利上げの幅を上回り、国債のイールドカーブがスティープニング化(長短金利差が拡大)した。
インフレ率(コアPCEデフレーター)は前年比1.8%近傍で高止まりし、予想インフレ率も1.8%台から2.2%台へ上昇していた時期であったため、国内要因で上昇した可能性が高いが、それを差し引いても中国による米国債売却が長期金利に影響を与えていた可能性は残る。
今回も米国でインフレ率の上昇が見られ始めていることから、このタイミングでの米国債売却は、最近は比較的落ち着いて推移していた米国の長期金利を再び急上昇させる懸念がある。この長期金利上昇が米国の株価にマイナスのインパクトを与えることも十分ありうる。そのため、人民元相場の行方は米国の長期金利にも影響を与える可能性がある。
現在、米国では「逆イールド(短期金利の水準が長期金利の水準を上回ること、金融活動の抑圧から景気減速の先行指標だといわれている)」の可能性が取り沙汰されているが、中国当局の米国債売却スタンス如何では、一転、イールドカーブのスティープニング化の可能性も出てくる。
そして、もしそのようなことがあれば、2017年のFRBがそうであったように、マネタリーベースの再拡大などの緩和措置がとられ、世界のマーケットの状況が一変するかもしれないので注意が必要である(これは世界のマーケットにとってはいいことだが、日本にとっては円高がリスク要因となる)。
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