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老後生活は「持ち家がいいか賃貸がいいか」の考え方
https://diamond.jp/articles/-/174191
2018.7.12 大竹のり子:ファイナンシャルプランナー、(株)エフピーウーマン代表取締役 ダイヤモンド・オンライン
住まいは持ち家がいいのか、賃貸がいいのか悩ましいところ。それぞれのメリット、デメリットは?(写真はイメージです)
2045年には日本人の平均寿命が100歳になるという「超高齢化」の時代。以前から「長生きするリスク」について提言をしてきた『老後に破産しないお金の話』の著者・大竹のり子氏が、住まいは持ち家がいいのか、賃貸がいいのか、それぞれのメリット、デメリットについて解説します。
一人暮らしの女性にターゲットを絞って、都心のマンションを販売している会社があります。その会社では説明会を時々行っており、いつも「老後を考えた」若い女性の熱気に包まれています。
顧客の多くは30代後半の働く女性。「結婚せずに一人で暮らしていく可能性が高いから、今のうちから一生住めるマンションを買っておこう」というわけです。
30代後半であれば住宅ローンの返済も十分に可能ですし、今後もしも結婚し、購入したマンションに住まなくなるケースがあっても、購入時の6割くらいの値段で売れれば御の字だと考えているようです。
一方、独身男性の場合、女性に比べるとこんなふうに将来の生活を見据えて住宅のことを考えているケースは少ないように思います。
DINKS夫婦(子どもを持たない共働き夫婦)の場合も、老後の住まいについて考えないままになってしまうケースは少なくありません。ある40代後半の男性は、28歳で結婚して以来、通勤に便利なマンションで賃貸生活を送ってきました。共稼ぎで子どもがいなかったために、その環境を変える必要も生じませんでした。
ところが50歳を目前にして、老後の住まいについて漠然とした不安に襲われるようになりました。いまさらローンを組むことはとても無理なので、このまま賃貸で生活していくための資金計画を妻と練らなければならないと思っているところです。
持ち家vs賃貸
どちらが得か?
持ち家か、賃貸か。このテーマについては長く語られてきていますが、専門家それぞれにスタンスが異なり、明確な結論は出ていません。私のところにも、こうした相談はたびたび寄せられますが、FPといえども、この問いに明確な答えを出すことは難しいと感じています。
というのも、住まいにはその人の人生観が大きく反映されるので、単純に「損得」で割り切ることができないものだからです。
例えば最近、バッグや時計などブランド品のレンタルビジネスが人気を集めています。「いろいろ違うものを試すことができていい」と愛用する人がいる一方で、「自分のものでなくては嫌だ」と、あくまで所有にこだわる人もいます。これもまた、人生観の違いによるものでしょう。ましてや、家を買うには何千万円という大金が必要です。電卓をはじいての損得だけで明確な答えを出すことはできないのです。
とはいえ、電卓をはじいての損得においても、明確な結論を引き出すことはできません。なぜなら、将来の金利や不動産価格の変化、家族構成の変化や転勤の有無等により、事情がまったく違ってくるからです。そして何より、「何歳まで生きるか」によって損得が大きく変わりますが、こればかりは予測がつかないからです。
高度経済成長期には
モデルケースがあった
過去を振り返ると、高度経済成長期までは、モデルケースが存在していました。男性なら、よい大学を出て大企業に入り、30歳くらいまでには結婚する。女性は専業主婦となり、子どもは2人の4人家族。多くの男性にとって、マイホーム、なかでも庭付き一戸建てを持つことは共通の夢でした。
時代とともにマンション派も増えていったものの、それでもマイホーム神話は長く健在で、「マイホームを買ってこそ一人前」と思われてきました。こういった神話を盤石なものにした背景には、その頃の日本が高度経済成長期で、毎年平均数%ずつ経済成長していることもあって「不動産は値下がりしない」という、購入を後押しする環境があったからです。
ところが、バブル経済が崩壊し様相は一変。「一生、賃貸で暮らすほうが利口なのではないか」という価値観が表舞台に出てくるようになったのです。
確かに、少子・高齢化が進み、日本の人口が減少しているのに対し、住宅の供給は増加する一方です。部屋余りの時代が来ていることは間違いなさそうです。
そうなると、「使わなくなったら売るか貸すかすればいい」と思っていても、想定していたような価格や家賃で相手が見つかるかはわかりません。一方、借りる側に立ってみれば、物件が余っている状況のため、「家賃がどんどん値上がりして困る」「貸してくれるところがない」といった状況にはなりにくい、つまり借り手市場が今後も続くと推測されます。
持ち家派は定年までに住宅ローンを
完済させるプランにすること
ただし、いくら部屋を借りるのが簡単になったとしても、月々の家賃を支払わなければならないことに変わりはありません。
人生100年時代を迎え、寿命が延びるにつれ、家賃の支払期間も当然、長くなります。つまり、生活費にかかる住居費の総負担は非常に大きくなります。
例えば、65歳で定年を迎え、90歳まで生きるとしましょう。仮に家賃が月に8万円として単純計算すると、「8×12×25」で2400万円の支払いが生じます。さらに寿命が10年延び、100歳まで生きたら3360万円になります。定年後までに用意するお金に、この金額を加えていかねばなりません。
一方、マイホームを購入して定年までに住宅ローンの支払いを完済すれば、住居費は基本的にかかりません。固定資産税や修繕費、マンションであれば管理費などは用意しておかなければなりませんが、老後の生活における毎月の金銭的負担はかなり軽減されます。心理的負担も少なくて済むでしょう。
ただしこれは、住宅ローンを定年までに完済しておくことが前提です。定年後にもずっしりと住宅ローンが残っている場合、毎月の金銭的負担という意味では、マイホームでも賃貸でもさほど違いがありません。住宅ローンを組んでいる人は、住宅ローンの負担を年金生活に持ち込まないようにしたいのであれば、支払いプランをいまのうちから見直しておく必要があります。
お金の問題以外にも、持ち家であればペットも自由に飼えるし、リフォームもできるけれど、賃貸はそうはいきません。一方で、ゴミ屋敷など周囲の環境に問題が生じた時、賃貸なら引っ越せば解消しますが、持ち家では売るにも貸すにもそれなりの手間がかかりますし、先ほどもお伝えしたように想定していたような価格や家賃で相手が見つかるかはわかりません。
どちらにも、違った意味でのメリットもあれば、不自由さやリスクもあります。「持ち家がいいか、賃貸がいいか」という議論には、それをどう考えるかという人生観が問われているのです。
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