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新財政健全化計画は安倍政権の「やる気なさ」を浮き彫りにした
https://diamond.jp/articles/-/173270
2018.6.26 週刊ダイヤモンド編集部
かさ上げされた成長率見通しに加え、医療・介護制度などの歳出改革すらも後退した新財政健全化計画。財政再建に対する安倍政権のやる気のなさが浮き彫りとなっている。(ダイヤモンド・オンライン 特任編集委員・西井泰之)
「数字が出ると、キャップをはめて押さえるような議論になる。そうはしたくない」
4月末、社会保障費などの歳出改革案を打診するため官邸を訪れた麻生太郎財務相や主計局幹部に、安倍晋三首相はこう話したという。
「この政権では財政再建は難しいと、あらためて思わざるを得なかった」と幹部の一人は言う。
前哨戦は、自民党の財政再建特命委員会で展開されていた。
財務省側は新財政健全化計画の集中改革期間(2019〜21年度)のうち20、21年度は、75歳以上になる人が戦後の混乱で少ないことを理由に、これまで3年間で年5000億円程度としてきた社会保障費の増加額の目標を、年4000億円に抑える案を持ち出した。だが、この案に厚生労働省と連携した厚労族議員が猛反発した。
財務省が特命委員会を議論の主舞台にしたのは、委員長の岸田文雄自民党政調会長が秋の総裁選で安倍首相に対抗して出馬する有力候補と目されているからだ。
「安倍首相とは違う経済政策で存在感を示す必要があるはず。財政再建の旗を掲げてやってくれるのではないか」(財務省幹部)
だが期待に反して、岸田氏は党内の議論を財務省寄りにまとめることはできなかった。
結局、新計画では安倍首相の「意向」を受け入れる形で、数値の目安はつくらず、高齢者の自己負担引き上げなど医療・介護制度の改革の議論も当面、封印された。
「19年夏の参院選を前に、負担増の話はとんでもないという感じだった」(別の財務省幹部)
1990年代以降の政府債務の増加額は社会保障費と国債費の増額分とほぼ一致する。高齢化によって膨張する費用を借金で賄い、赤字が雪だるま式に増える悪循環を断とうと増税や歳出改革が行われてきたが、「安倍1強政権」では後退が目立つ。
PB黒字化のカラクリ
一方で「基礎的財政収支(PB)黒字化」のシナリオ作りで繰り返されたのが、高めの成長率を前提にして“税収増”を生み出す手法だ。新健全化計画ではPB黒字化目標時期を25年度にする一方で、集中改革期間の進捗状況を見る中間指標(GDPに対して(1)PB赤字比率1.5%程度、(2)財政赤字比率3%以下、(3)債務残高比率180%台前半)が設定された。
そのカラクリは、いずれもGDPが増えれば歳出改革がなくても健全化が進んだように見えることだ。成長率の見通し(1月改訂の中長期試算・成長実現ケース)は、20年以降、3.1〜3.5%とバブル期並みを前提にし、しかも中間指標は今でも達成が見通せる「緩い」目安になっている。
それでもPB黒字化が実現するのは、試算では27年度。25年度には高成長が実現してもPBは3.8兆円の赤字となり、低成長のケースでは9.6兆円の赤字となる見通しだ。それを歳出や歳入の改革で2年早めようというわけだが、具体策は何も示されていない。
つまりは、総裁選「3選」後の任期いっぱいの21年度までは改革をしなくても健全化の取り組みを繕えるという思惑が透けて見える。
成長率のかさ上げは、安倍政権で策定された前の計画でも批判されている。財政再建の取り組みは金融危機やリーマンショックなど想定外の要因で頓挫したが、前回の計画は景気拡張期にもかかわらず見直しを迫られた初めてのケース。あまりに非現実的な経済成長を前提にしていたからだ。
政府関係者はこう話す。
「アベノミクスが実質2%、名目3%の成長を掲げている以上、今回もあまりに懸け離れた数字は出せない。経済を良くするというのが政治的基盤になっている政権であり、アベノミクスの失敗と受け止められかねない成長見通しの下方修正はご法度だ」
19年秋の消費増税(税率8→10%)に合わせて、19、20年度の増税による需要の反動減などを抑える「景気対策」を異例の当初予算で計上することを盛り込んだのも、官邸の強い意向だった。
「リフレ派」の首相の政策ブレーンには、アベノミクス当初の勢いがなくなったのは、14年4月の消費増税の影響だという考えが根強い。その後、消費税率10%の2度の先送りを表明した際、安倍首相は周囲に不満を漏らした。「自分の政権のときにどうして増税を2回もやらないといけないのか」。
政権の空気を察知して、財政当局には厭戦気分が漂う。「まずは3度目の増税先送りをさせないことだ。いずれ消費税率を10%以上にせざるを得ない。本当の勝負はそのときだ。次の政権が10%後に取り組もうとしても、10%に増税した際に景気が落ち込んだとなれば政治の腰が引ける。次を考えれば今回は抵抗しない方が得策だ」。
やる気のなさが浮き彫りの計画に、民間からは「25年度のPB黒字化は困難」という声が早くも出始めている。
2020年度にPB黒字化をうたった15年の前回計画は頓挫した。今回の「骨太の方針」ではその反省は生かされているのか。新財政健全化計画の是非について、元財務次官の武藤敏郎氏に聞いた。
むとう・としろう/1966年大蔵省入省。主計局長を経て2000年6月事務次官。小泉政権時代に「国債30兆円枠」を考案。03年日本銀行副総裁。08年大和総研理事長。14年より東京オリンピック・パラリンピック組織委員会事務総長も務める。 Photo by Jun Takai
──「骨太の方針」で示された新財政健全化計画をどう評価しますか。
消費増税の際の景気対策が強調される一方で、歳出抑制などの具体策がなく、2025年度の基礎的財政収支(PB)の黒字化が達成できるかどうかは、どうもはっきりしないというのが率直な感想です。
歳出の拡大は簡単にできますが、歳出削減や社会保障費の見直しは大変な作業であり、精緻な議論が必要です。財政の健全化をうたいながら、景気への配慮ということでやすきに流れてしまわないか心配です。
その上、相変わらず高めの成長率を前提にしていますが、私は東京オリンピックが終わった20年後半から21年以降、景気は下降局面に入る可能性が高いとみています。
今は日本銀行が「ゼロ」に抑え込んでいる金利が今後、どうなるかも分かりません。金利が上がれば国債の利払い費が増えます。これらのリスクが計画に取り込まれていないことも懸念材料です。
──成長ありきではうまくいかなかったというのが、この5年で分かったことではないのでしょうか。
20年度のPB黒字化を目標にした前回の計画(15年)では、例えば18年度のPBは対GDP比でマイナス(赤字)1%になるはずでした。ですが、実際はマイナス2.9%となりました。収支が改善しなかった1.9%分のうち0.8%分は、名目成長率を3%以上と見込んでいたのが達成できず、税収が伸びなかったためです。
さらに17年に予定していた消費増税を先送りしたことが0.7%分、PBの改善を妨げています。
一方で歳出抑制では、社会保障費の増額を抑えはしましたが、補正予算を編成したために効果が相殺されてしまいました。
19、20年度に景気対策を行い、さらに21年度以降、景気が下降局面に入っていけば、財政出動を行わざるを得なくなる可能性があります。
もともと前提にする成長率が高過ぎて、税収が足りなくなる恐れもあります。前回の計画の頓挫の反省がきちんとなされたのか、不安を抱かざるを得ません。
──成長重視で財政再建には不熱心という安倍政権のスタンスを象徴しているように感じます。
増税によって景気の腰を折る懸念があるため、消費増税を2度先送りしました。理屈は分かりますが、経済がどういう状態になれば財政再建に踏み込むのか見えません。
これは財政再建を進める上で本質的な課題です。増税を行うには経済がしっかりしていないとできないのは確かですが、今のようにバブル崩壊後で経済が最も安定している時期にそういうことを言うと、増税するのは至難の業になるでしょう。
また、やろうとしても歳出の大盤振る舞いをしないとできないということになりかねません。
安倍政権の政策を批判する気はありませんが、政策の体系を締め直す時期ではないでしょうか。「3本の矢」を掲げてやってきた中で、財政出動はかなり行われてきましたし、金融緩和はさらに徹底した形で続けられてきました。しかし異次元緩和の効果はほとんどなく、最近では副作用の方が強く意識されています。
日銀が大量の国債を購入することで、国債をいくら発行しても金利を払わなくていいという状況になりました。政府にしてみれば、国債を増発しても日銀が買い上げてくれる、コストがほとんどゼロの国債が楽に発行できるのなら、増税して政治的リスクを負う必要はないという判断になってしまいかねません。
一方で成長戦略や構造改革は、第3の矢とされてきたはずですが、今回の骨太の方針でもあまり触れられてはいません。
政府は「働き方改革」などを打ち出していますが、成長に貢献するような骨太のものは出てきていません。健全化計画をどうやって実現するのか、成長重視と言うならその議論をもっと深める必要があります。
──経済政策が人気取りに陥っているように見えます。
民主主義は利益を配分するときにはいいのですが、負担の配分となるとうまく機能しません。政治というのはいろんなことを考えて利害を調整するものですが、政治判断には社会や世界の雰囲気も影響します。
象徴的だったのは、民主党の菅政権のときです。それまでは歳出削減が先だと消費増税に反対していた菅直人首相が、トロントサミットに参加して帰国するや否や、一転、消費増税に前向きになりました。当時、財政再建は各国首脳が抱えていた最大の問題でしたが、日本が示した財政再建案は先送りしたもので、首脳の間での議論で日本は孤立した状況でした。菅首相は認識を改めて財政構造改革派に転身したわけです。
今は当時と全く逆で、世界的にポピュリズム的な政治が強まっています。こうした世界の風潮や社会の空気とも関係があるように思います。
──日本の財政をここまで悪化させた政治の責任は大きいのではありませんか。
野田政権のときに「社会保障と税の一体改革」で消費増税ができたのは、それまで野党だった民主党が与党になって、財政の実情を理解し政権党の責任を自覚したということもあります。また、それと同時に野党になった自民、公明が増税に賛成し、与野党で一致したからです。
多くの場合、与党が増税を主張すれば野党は反対するといった構図で論争になります。そのまま選挙となると、どうしても与党が不利になります。だから時の政権や与党は増税を言い出しにくい。
もちろん首相が、自らの信念で増税を打ち出すといったことも期待されますが、現実に政治的に支持されるのかどうか。ポピュリズムを否定できない現状では、政策として増税や財政再建を掲げるのは難しい。
ですから財政再建は、国の一大事だから与野党一致して当たるという状況をつくるようにすべきです。そうしないと、増税の議論が政争や党内抗争と結び付いて、与党も野党もそちらにエネルギーを使いくたびれ果ててしまいます。
景気との関係でいえば、消費増税を景気と結び付けると、増税をやるチャンスは極めて限られてしまいます。増税に取り組もうとしても、議論し法律にして実行するとなると最低2年はかかります。日本経済の景気拡張期は平均で約3年ですから、増税をやろうと思ったときには景気が悪くなっていて、結局できないというリスクがかなりあります。
そのことは今までの歴史が示しています。従って消費増税は景気とも切り離して、期間を決め税率を毎年、一定のペースで機械的に上げていくことも一案ではないかと考えています。当然、その期間中に景気循環があるでしょうから、景気が悪くなったときには財政出動をするというやり方がいいと思います。
その時々で景気の状況を見て政治判断で税を上げる、上げないを決めるのは、政治や時の政権に過度な負担がかかってしまいます。
──今回の不祥事で財務省が受け身になり財政再建に支障が出ませんか。
信頼を失った財務省が非常に厳しい立場に立たされるのは間違いないでしょう。それでも財政当局は財政の危機的状況をいろいろ説明する責任があると思います。ただ官僚は、政権や政治の補助者で決定権があるわけではありません。
もともと増税は政治主導でないとできないものです。国全体、国の将来を考えることが政治家の大きな役割とすれば、増税や財政再建についても政治主導で国民に語り、説得する必要があると思います。
国民の声を聞くと盛んに言った首相がいましたけれど、その言葉は国民には甘美に聞こえるのですが、財政問題はそれでは解決しないのです。誰もが歳出拡大を望みますし、増税は嫌がります。
もちろん国民の声を聞くことは重要ですが、常にそれでやるのをよしとしていたら、政治家は自分の信念は要らないということになりかねません。負担配分の時代には、政治家の力量が問われます。
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