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AI・自動運転の発達で「全国230万人の技術者」が消える日 モノ作りの仕組みが根本から変わる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55290
2018.06.12 井上 久男 ジャーナリスト 週刊現代 :現代ビジネス
オイルにまみれて、手を黒くして、ミリ単位のモノ作りに汗を流す――。そんな匠の技が一気に廃れてきた。変化を拒めば、ただ失業が待つ過酷な時代。技術者たちよ、君たちはどう生きるか。
大企業を去った男の告白
「大組織の中のコマの一つではなく、自分自身でビジネスを構築できる仕事がしたいと考え、思いきって転職しました」
こう語るのは、ソフトバンクの子会社で、バスなど公共交通の自動運転関連サービスの開発に取り組む「SBドライブ」の坂元政隆氏(32歳)だ。
坂元氏は2011年に大学院を修了して大手自動車メーカーに技術者として入社。エンジン関連の開発に携わった後、'14年に社内公募に応じてEV(電気自動車)技術関連のマーケティングを行う部署に異動、'17年3月末に退社してすぐに現職に転じた。
現在、坂元氏は企画部に所属。自動運転の開発だけではなく、規制対応や他社との提携業務など事業全般にかかわっている。
たとえば、全日本空輸とSBドライブは今年2月21日から羽田空港新整備場地区で運転手がいない自動運転バスの実証試験を開始し、東京五輪が始まる2020年までの実用化を目指しているが、こうした事案を取り仕切る。
SBドライブは'16年に設立されたばかりのベンチャー。佐治友基社長も坂元氏と同年代の若い会社だ。大手で開発とマーケティングの仕事をしてビジネス全体を俯瞰する力を養った坂元氏の手腕は頼りにされている。
坂元氏自身、自動車メーカー在籍当時から「技術革新の流れが速いこの時代に、技術者の働き方はこれからどうなっていくのだろう」との危機感を抱いていた。
その一つのきっかけとなったのが、コスト削減のために外資とエンジンの相互供給をするようになったことだ。「エンジン屋の仕事は減るだろう」と直感した。
人工知能(AI)の進化などにより、技術者の置かれた環境は激変し始めている。坂元氏は言う。
「クルマのボンネットを開けると、さまざまな部品が配置されています。あの配置を決めるのには、部品設計の担当者同士がスペース獲得競争をしながら摺り合わせて細かい調整をします。
が、いずれAIがこの配置が最適と判断する時代になり、人による摺り合わせ作業は最小限になるでしょう」
AIの登場によって伝統的な設計手法まで変わり、人が要らなくなる。加えて、EVシフトなど電動化の流れによって、主流のエンジン技術者も余ってくる。
日本では工学部で機械工学などを専攻して自動車メーカーのエンジン技術者になることが技術屋の歩むエリートコースの一つだったが、その流れは完全に崩れている。
トヨタ自動車の寺師茂樹副社長は昨年12月、記者会見して'30年に電動車(ハイブリッド車含む)の販売で550万台以上を目指すと発表。
そのうち100万台はエンジンがまったく搭載されていないEVと燃料電池車になる見通しだ。そして'50年までに新車販売ではエンジンだけで走るクルマをほぼゼロにする。
今から32年後は、今春入社した新入社員の中にもまだ「現役」として活躍している人材もいることだろう。しかし、想像以上に技術者の仕事の仕方や質が激変していることは間違いない。
エンジン技術者の悲劇
トヨタだけに限らず、ホンダも2030年までに新車販売に占める電動車の比率を65%にまで高める計画。日産自動車は3月23日、'22年度までに電動車の販売を年間100万台にすると発表したばかりで、'25年度には日本と欧州では新車に占める電動化率が50%になると見込んでいる。
では、国内のエンジンの技術者はこれからどうなっていくのだろうか。
「海外に活路を見出すしかない。アフリカや東南アジアなどの新興国市場では商用車向けにエンジン車は必要。エンジンの開発拠点は徐々に海外にシフトしていく」(大手自動車メーカー元役員)
実際、トヨタは完全子会社化したダイハツ工業を主体に「新興国小型車カンパニー」を'17年に設立。同カンパニー傘下の「トヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング」をタイに発足させた。
そこにエンジン開発を移すのではないかと見られている。いずれエンジン技術者は日本では食えず、アジアに職を求める時代になるのかもしれない。
さらに切実なのは、下請け企業だ。マフラーや燃料タンクなどエンジン車に必要な部品を造っている企業は死活問題である。
国内最大の自動車部品メーカー、デンソーは今年4月から、ディーゼルシステム事業部とガソリンシステム事業部を統合させた。「脱エンジン」を契機に系列企業の再編がいよいよ始まると見る向きもある。
「エンジン関連の部品企業では自動車以外に航空機向けなどの新規事業の開拓に取り組み始めた」(トヨタ系部品メーカー幹部)というが、新規事業だけで雇用は簡単には吸収できない。
エンジン関連で再編が始まっている一方で、AIなど自動運転に関するソフトウエア開発の人材はグローバルで争奪戦になっている。これにはクルマの内部構造の変化も影響している。
ソフトウエアの量はプログラミング言語で記述された文字列の行数で示されるが、ボーイングの最新鋭機「787」が約800万行なのに対して、知能化・電動化が進むクルマは軽く1000万行を超え、近い将来は億単位になると見られている。
つまり、モノ作りの仕組みが根本から変わる。これまでの技術者はモノを組み立てる職人的世界だったのが、いかにコンピューターをうまく使ってプログラミングできるかに変わるのだ。
「年収700万円程度だった自分に1000万円の提示があった時には驚きました」
こう語るのは、有名自動車メーカーから国内のIT企業に転職した30代半ばのAさんだ。最近、自動運転の開発に力を入れるIT企業に転職したばかりだ。
Aさんも大学院を出て自動車会社の開発部門に10年近く勤務してソフトウエアの開発に取り組んできた。専門は自動運転の開発には欠かせない画像処理だ。AIを使う「ディープラーニング(深層学習)」の技術にも詳しい。
「転職紹介会社に登録した際に、中国の大手通信メーカーの華為からは年収2000万円の提示を受けましたが、中国語も英語も得意でないので断りました。
私の周囲にいた先端分野を開発している人材も、高給でグーグルやサムスンなどに引き抜かれました。日本は春闘で一律の賃上げで騒いでいますが、何か時代錯誤の気がします」
専門性が陳腐化していく
Aさんは、会社がコスト削減のために自前での開発を止めて、安易な外部調達に切り替えたことに反発して有名自動車メーカーを去った。
中国系企業は日本の優秀なソフトウエア技術者のヘッドハントを強化しており、30代でも年収3000万〜4000万円を提示することがあるという。
一昔前、日本の造船・電機メーカーの技術者が韓国企業に引き抜かれることが話題になったが、それとは次元が違う。
当時は、肩たたきにあった技術者が海外に活路を見出すといったイメージだったが、現状の引き抜きは現役でトップ級の技術者を狙ってきている。
国内でもトヨタグループでさえ「仁義なき人材争奪戦」を展開するほど目立ってきた。
「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」
「ネットやスマホの会社のエンジニアと、もっといいクルマをつくりたい」
トヨタは昨年、こんな求人広告を東京と神奈川の郊外を結ぶJR南武線の沿線に貼り出した。このエリアには東芝やNEC、富士通といった電機メーカーの拠点が多く集まる。
こうした企業のソフトウエアの開発者を中途採用しようとしている。さらにトヨタは3月2日、自動運転の開発を担う新会社「TRI−AD」を都内に設立すると発表。700人を新規で採用する予定だ。
デンソーも有馬浩二社長の肝煎りで「スキルシフト」と呼ばれるプロジェクトを進行している。
「研究開発を長期的先行開発、中期的先行開発、量産に近い短期的開発に色分けし、長期的先行開発を強化。全体の研究開発費の10%を投入していたのを最大で40%にまで高めていく」(関係者)
人材もこうした分野に重点的に配置していく方針だ。
デンソーと同じトヨタ系の有力部品メーカー、アイシン精機でも、開発部門の人的リソース配分を、全社的な課題のなかでも優先度が最上位にある「Sランク」に位置付けた。
そして将来的に有望な分野の人材配置は、若手の育成と中途採用の強化で対応する一方で、成長が期待できない分野には定年に近いようなエンジニアを配置転換していく。
ただ、実際には人材の再配置は簡単にはできない。技術が日進月歩で進化する中で、自分の専門性が陳腐化するスピードが速まっているからだ。
「本来であれば、大学院で学び直すくらいの頭脳のリセットが必要。そうしないと流れに付いていけないが、経営陣にそこまでの危機感がない」(ホンダ中堅技術者)
こうした中、海外では「技術者の学び直し」をビジネスにする動きも出てきた。'11年に米シリコンバレーに設立された教育ベンチャー「ユダシティ」は、人工知能やセンサーなど自動運転に関する教育コンテンツをオンライン上で提供している。創設者はグーグルで自動運転担当役員を務めたセバスチャン・スラン氏だ。
ユダシティには約200のカリキュラムがあり、約400万人が登録しているという。受講に当たっては、TOEIC600点以上、線形代数学、物理、プログラミングの基礎知識が必要。認証制度も設けており、9ヵ月程度の受講期間が終われば修了証が発行される。
教育のコンテンツの作成にあたっての協力企業には、米アマゾンやグーグル、独ダイムラー、サムスン、中国の配車大手の滴滴出行などがいる。
この中に日本企業は1社も入っていない。参画への意思決定が遅いことなどが大きな障害となって事実上の「仲間外れ」となっている。
損保の鑑定人もAIになる
同社は人材紹介会社と提携して、独自のカリキュラムを修了したエンジニアには、高賃金の仕事を紹介しているという。企業からの要望に応じて、育成プログラムを個別に組むケースもあるようだ。
ただ、技術者を再教育しても、大手自動車メーカーの雇用吸収力は今後細っていくとの見方もある。
「エンジンだけではなく、産業構造の変化で将来的に自動車会社のエンジニアの多くが不要になる。私のイメージでは、大手自動車メーカーに1万人の技術者がいるとすると、それが1000人いれば済むようになる」(大手自動車会社元エンジニア)
では、これから生き残る技術者は何を学び、どんな行動を取ればよいのだろうか。海外経験が豊富で最先端の量子コンピューターの開発にも関わる技術者はこう力説する。
「これからAIを騙すために、偽データを提供して誤った判断をさせるAIの存在が問題になるだろう。こうした課題に対応するには、AIの歴史を含め、徹底した基礎を学んでおかないと、いざという時に最善策が打てない。
加えて、こんな開発をしていいのかといった倫理観も求められる。歴史や哲学、人間学が分かったうえで、ビジネスもできなければならない」
さらに冗談っぽくこう付け加えた。
「意外と、相性の良い男女をマッチングするというのも技術者の重要な仕事になるかもしれないね」
自動車産業界の変化は「CASE」というキーワードで象徴される。Cはコネクテッド(つながるクルマ)、Aはオートノーマス(自動運転)、Sはシェア(ライドシェアなど)、Eはエレクトリック(電気自動車)のことだ。
CASEによって、これからは信号機や駐車場、運転免許証なども不要になると言われる。当然、産業構造も変わってくる。
自動車産業と近い損害保険業界ではこんなことも起こっている。三井住友海上火災保険は今年2月、整備工場から専用回線で送られてきた事故部位の映像をAIが判定して保険金算定できるシステムを開発した。
現状では正社員の「アジャスター」と呼ばれる自動車車両損害鑑定人が整備工場に出向いて確認しているが、こうした仕事はなくなる可能性が高いという。
技術の進化によって仕事がなくなる危機が、日本全国約230万人の技術者の身に迫ってきた。変化に対応できなければ失業する厳しい時代に、どれだけの技術者が生き残っていけるだろうか。
「週刊現代」2018年4月21日号より
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