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総務省が「ふるさと納税」に苛立ち、自治体に脅しをかける事情 全国の自治体に届いた1通の「通知」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55125
2018.04.04 磯山 友幸 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
これは体の良い脅しだ
総務省はよほど「ふるさと納税」の広がりが目障りなようだ。
4月1日付けで全国の自治体に総務大臣名で1通の「通知」を出した。
「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」というもので、自治体が「返礼品」として送っている商品を「地元産品にしろ」というのが柱だが、そのほかにも細々と「指示」をしている。総務省は昨年4月にも返礼品を納税額の3割に抑えるよう「通知」している。
今回の通知では、ふるさと納税に関して自治体間の返礼品競争が過熱しているとしている。そのうえで、これまでも「良識ある対応」を自治体に「お願い」してきたが、一部の自治体が従わない点を問題視し、以下のように述べている。
「ふるさと納税の趣旨に反するような返礼品が送付されているような状況が続けば、制度全体に対する国民の信頼を損なうほか、他の地方団体に対しても好ましくない影響を及ぼすことが懸念されます」
返礼品は自治体の裁量で内容を決めており、総務省に自粛を命ずる法的権限はない。通知にも「地方自治法245条の4(技術的な助言)に基づくものだと明記されている。
本来、強制力はないのだが、「総務省では、個別の地方団体における返礼品送付の見直し状況について、今後、随時把握する予定であることを申し添えます」と畳みかけるような文章が書かれている。体の良い脅しである。
そのうえで、以下のような“助言”が記されている。
「次に掲げるようなふるさと納税の趣旨に反するような返礼品は、換金の困難性、転売防止策の程度、地域への経済効果等の如何にかかわらず、送付しないようにすること。【ア】金銭類似性の高いもの(プリペイドカード、商品券、電子マネー・ポイント・マイル、通信料金等)、【イ】資産性の高いもの(電気・電子機器、家具、貴金属、宝飾品、時計、カメラ、ゴルフ用品、楽器、自転車等)、【ウ】価格が高額のもの、(エ )寄附額に対する返礼品の調達価格の割合の高いもの」
呼んでお分かりの通り、「○○すること」という「命令口調」である。文章を読んでいると、総務省の「苛立ち」が伝わって来る。
さらに、返礼割合に関しては、
「社会通念に照らし良識の範囲内のものとし、少なくとも、返礼品として3割を超える返礼割合のものを送付している地方団体においては、速やかに3割以下とすること」
と昨年加えられた「ルール」の遵守を求めている。
自治体の創意工夫は無視
今回の通知について、野田聖子総務相は、「返礼品を送る場合には地場産品とすることが適切であることから、良識ある対応をお願いしております」と会見で述べた。
メディアでは「寄付を集めるため、佐賀県の自治体が北海道の夕張メロンや、長野県の自治体がフランス産シャンパンなど、地域と関係ない産品を扱うケースがあった」ことを総務省が「地域活性化を目指す制度本来の趣旨に反する」と問題視して通知を出すことになった、と報じられた。
今回の通知について、ふるさと納税に力を入れている自治体の間からは戸惑いの声が上がっている。何が「地場商品」かが分からないからだ。
日本の多くの商品が輸入品に依存している中で、純粋な「地場商品」となると案外難しい。その地域の牛肉でも、エサが米国産で、子牛は他県で育った場合など、様々だ。
また、魅力的な地場商品がないところは「ふるさと納税」を諦めよ、ということなのか。
そもそも返礼品には各自治体の様々な思いがある。
大手電機メーカーのパソコンを返礼品にした自治体は、工場が自治体内にあって、大きく税収に寄与している会社であることを考慮して、返礼品に採用した。
まさに地元経済に貢献しているのだが、総務省のルールでは「ご禁制品」となってしまう。
地方自治体では地元企業に対して様々な助成を行っているが、返礼品として採用することで、全国の納税者に評価されるものに税金が流れるという利点がある。政治や行政が恣意的に助成先を決めるよりも、税金の使われ方としてはよほど透明だろう。
また、自治体がふるさと納税によって税収を増やすよう知恵を絞り、努力するようになったのもここ数年の大きな変化だ。
だが、総務省の事細かな“助言”は、そうした自治体の創意工夫に水を差すものだ。地方自治の本旨にも反する過剰な「通達行政」と言ってよいだろう。
総務省は何を嫌がっているのか
返礼品競争が過剰だ、という批判を耳にする読者も多いだろう。
総務省だけでなく、霞が関をあげての、反ふるさと納税キャンペーンに使われている。確かに行き過ぎの自治体もある。だが、それをことさら強調して、ふるさと納税を批判するのはなぜか。
総務省は地方交付税交付金の分配権を握っている。交付金は自治体の財政状態によって決まるので、自主財源が少ない自治体は総務省に逆らうことはできなかった。
総務省はそうした分配権を手に、県や市町村の幹部に出向したり、天下ることができた。つまり、総務省の権力の源泉なわけだ。
ふるさと納税では、納税者の「意思」によって納税先が変わる。つまり、総務省の権力の源泉が脅かされることになるわけだ。
2017年度の地方交付税交付金は都道府県と市町村を合わせて15兆3501億円。ふるさと納税の受け入れ額は2016年度で2844億円に過ぎない。
それでも総務省が危機感を募らせるのは、その伸びが大きいからだろう。2014年度に388億円だったものが、15年度に1652億円となった。2017年度は3000億円を大きく超える勢いだ。
ふるさと納税が急増しているのは、返礼品目当ての納税者が増えたからだろうか。その地域を応援する気持ちなど無く、物が欲しいから納税しているのか。
長年、「日本には寄付文化がない」と言われ続けてきた。ふるさと納税が大きく増えるきっかけになったのは東日本大震災。その後の熊本地震でも支援の納税が増えた。返礼品がない地域問題を解決するための純粋な寄付も着実に増えている。
多くの地方自治体の首長が異口同音に言うのは、初めは返礼品目当てだった人が、本当の自治体応援団になってくれている、という話だ。
しかも、自己負担2000円でふるさと納税できる上限を超えて寄付している人も少なくない。少しぐらい足が出ても返礼品がもらえれば得をする、ということもあるだろう。それだけでなく、地域を本当に応援しようと思って、上限おかまいなしに寄付をする人もいる。
ファンドレイジング助言会社ファンドレックスのイノウエヨシオさんによると、ふるさと納税の寄付金総額は、寄付金控除額を大きく上回っているという。
例えば、2016年度課税のふるさと納税額が1655億円だったのに対して、寄付金控除額は999億円で、還付率は60%に過ぎないという。
総務省はこうした数字を因果づけて公表しようとしないが、明らかにふるさと納税が地域に対する寄付の呼び水となり、地方自治体に税収増をもたらしているのだ。
メディアをみていれば、ふるさと納税によって大都市の自治体の税収が減って大変だ、という記事に多く出くわす。
一方で、地方の自主財源が増えたことで、どれだけ自治体の自立心が高まったか、という記事は数少ない。ふるさと納税の記事を書いている記者の多くが総務省詰めだからだろう。
大都市の自治体は、黙っていても入って来る地方税収が減ったことを嘆くのではなく、いかに住民が支払う地方税が重要な施策に使われているか、もっと知ってもらう努力をすべきだろう。
自治体間の競争をさせたくない総務省の通達に、努力をしている自治体は強く反発するに違いない。国民はどちらを応援すべきなのか。霞が関のキャンペーンに目を曇らせてはいけない。
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