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「緊迫のサウジアラビアと中東情勢」〜トラ大がサウジーイラン対立に拍車/出川展恒・nhk
http://www.asyura2.com/17/kokusai21/msg/317.html
投稿者 仁王像 日時 2017 年 11 月 29 日 20:42:11: jdZgmZ21Prm8E kG2JpJGc
 

「緊迫のサウジアラビアと中東情勢」(時論公論)
2017年11月28日 (火)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/285385.html
出川 展恒 解説委員

中東のサウジアラビアが大きく揺れています。今月、閣僚を含む大勢の王族らが、汚職などを理由に一斉に身柄を拘束されたのです。この国始まって以来の出来事で、32歳のムハンマド皇太子が主導しました。そして、ムハンマド皇太子がサウジアラビアの実権を握るとともに、イランとの対立が激化して中東各地に波及しており、エネルギー資源をこの地域に依存する日本への影響も心配されています。緊迫するサウジアラビアをめぐる問題を考えます。

解説のポイントは、
▼まず、サウジアラビアで起きている異例の事態の背景と狙いを考えます。
▼そして、イランとの対立激化で、中東がいっそう不安定化する問題を考えます。

一連の出来事のカギを握るムハンマド皇太子は、サルマン国王の息子で32歳、今年6月、皇太子に抜擢されました。部族社会の伝統が色濃く、一夫多妻制のサウジアラビアでは、王族が1万人以上いるとされます。

これまでは、初代国王の息子たち、すなわち「建国第2世代」が順番に王位を継承してきました。現在のサルマン国王は7代目ですが、寵愛する息子のムハンマド皇太子に、直接、王位を継がせたい考えと見られます。すでに国防、経済、外交など、国の舵取りを任せています。

サルマン国王は、今月4日、ムハンマド皇太子をトップとする「汚職対策委員会」を設立し、現職の閣僚を含む大勢の王族や有力者が、汚職や横領の容疑で一斉に拘束されました。氏名や容疑は発表されておらず、正当な法手続に基づいているのかも、明らかになっていません。この点が非常に不透明です。少なくとも201人が捜査対象となっており、さらに増える見通しです。汚職や横領に使われた金の総額は、日本円で11兆円を上回るとされ、関係する1700以上の銀行口座が凍結されました。

有力な王子も対象となりました。

▼アブドラ前国王の息子で、国家警備隊の担当大臣を務めていたムトイブ王子は、前国王の存命中、有力な後継者候補と目されていましたが、突然、解任され、拘束されました。
▼世界的な投資グループのオーナーで、億万長者として有名なワリード王子も拘束されました。メガバンクや高級ホテルチェーン、「ツイッター」などの株を大量に保有し、総資産は日本円で1兆8000億円を超えると推定されます。

なぜ、有力な王族に対し、これほど大規模な摘発が行われたのでしょうか。内外の専門家の見方は次の3つに集約されます。

▼第1に、「王位継承への地ならし」です。
サルマン国王が、ムハンマド皇太子に王位を継がせれば、初めて「建国第3世代」の国王となります。これに反対する王族も少なくないと見られ、王位継承の障害となりうる人々を予め排除する狙いがあるという見方です。そして、王位継承は、サルマン国王の存命中にも行われ、間近に迫っているという観測も出ています。

▼第2に、ムハンマド皇太子が進める「改革の徹底と権力基盤の強化」です。

ムハンマド皇太子は、石油資源に頼り切った経済を徹底的に改革し、産業の多角化を図る計画「ビジョン2030」を先頭に立って進めています。従来のように、高齢の国王が、莫大な石油の富を王族に分配しながら、宗教界の同意を得て、意思決定するやり方では、世界の変化について行けず、汚職や縁故主義もはびこっていました。
ムハンマド皇太子は、先週、アメリカの新聞のインタビューに応じ、「汚職や腐敗が続く限り、サウジアラビアは成長できない」と述べ、汚職撲滅に取り組む決意を示しました。また、イスラム教の厳しい戒律に縛られた社会を良しとせず、女性の社会進出を進め、サウジアラビアを「現代国家」に生まれ変わらせると宣言しています。その一環として、これまで禁止されていた女性の自動車運転も解禁されます。若き皇太子が進める改革を、人口の3分の2を占める若者たちは熱烈に歓迎しており、今回の大量摘発も支持されると踏んだようです。

▼第3に、「改革に必要な資金の確保」です。
ムハンマド皇太子は、インタビューで、「拘束された者のほとんどは、不正に利益を得ていたことを認め、財産の没収に応じる意向を示した」と述べました。合わせて11兆円に上るとされる財産を没収し、経済改革に必要な資金に充てる狙いが読み取れます。

しかし、こうした大量摘発には、大きなリスクがあります。経済改革には外国の投資や技術が不可欠ですが、外国の投資家や企業の間では、サウジアラビアでビジネスを進めるにあたって、「誰と組めば良いかわからない」、「拘束や資産没収に遭わないだろうか」と言った不安が広がっており、今後、投資にブレーキがかかる可能性もあります。
また、名誉、権力、財産を奪われた王族たちの反発は避けられず、この先、クーデターと言った不測の事態や、内政の混乱を招く恐れも排除できません。
ムハンマド皇太子については、「若き改革者」だとする期待とともに、「権力の亡者」、あるいは、「冒険主義者」だとする懸念の声も聞かれます。

ここから第2のポイント、サウジアラビアとイランの対立が激化し、中東が不安定化する問題を考えます。

サウジアラビアとイランは、「アラブ」対「ペルシャ」、「スンニ派」対「シーア派」、「親米」対「反米」とすべてが対照的で、中東の覇権を争う長年のライバルですが、イランに対し極端な強硬路線をとるムハンマド皇太子が実権を握るにつれて、関係が急速に悪化しています。去年1月、両国は国交を断絶しました。そして今月、両国の対立に関連する異常な出来事が相次いでいます。

▼まず、レバノンのハリリ首相が、4日、訪問先のサウジアラビアで、突然、辞任すると表明しました。真相は謎に包まれていますが、ハリリ首相が連立政権を運営するにあたって、イランの強い影響下にある、シーア派の組織に融和的な姿勢をとったことが、ムハンマド皇太子の怒りを買い、その圧力で辞任表明に追い込まれたのではないかという見方が有力です。
▼一方、同じ4日、サウジアラビアの首都リヤドに、内戦が続く隣のイエメンの反政府勢力から、ミサイルが撃ち込まれました。サウジアラビア政府は、イランがイエメンの反政府勢力を背後で操っていると非難し、一触即発の状態となっています。

▼さらに、今年6月、サウジアラビアなどが、カタールと国交を断絶した問題も未解決のままです。サウジアラビアは、カタールに対し、関係修復の条件として、イランとの関係を縮小するよう要求しています。

イラン、および、カタールとの国交断絶や、イエメン内戦への軍事介入は、いずれもムハンマド皇太子が主導したと見られます。ムハンマド皇太子は、イランが、イラク、シリア、イエメンの内戦に乗じて、中東地域で影響力を拡大していることを重大な脅威と捉え、イランを封じ込めるため、強硬な外交政策を進めています。そのことで、中東地域全体が緊張し、不安定になることが懸念されます。

そして、アメリカのトランプ政権が、両国の対立に拍車をかけています。トランプ大統領は、イランを強く敵視しており、2年前、オバマ前政権が実現させた「イラン核合意」は認めないと表明しました。その一方で、サウジアラビアのサルマン国王親子を全面的に支持し、一致協力して、「イラン封じ込め」を進めようとしています。

中東情勢の先行きを予測するのは至難の業ですが、サウジアラビアの内政が混乱したり、イランとの対立が長期化したりすれば、エネルギー価格の上昇を招いて、日本も大きな影響を受ける恐れがあります。日本はこれまで、中東のどの国とも良好な関係を築いてきました。権力闘争や覇権争いに巻き込まれることは避け、関係正常化への橋渡し役になれるような思慮深い外交が求められていると思います。
 

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