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トランプ大統領へ、「一時停止」のススメ
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8866
2017年2月15日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
リチャード・ハース米外交評議会会長は、1月18日付のウォールストリート・ジャーナル紙に「突然の動きはするな、トランプさん」との論説を寄せ、外交における先例重視の重要性を説いています。ハースの論旨は、次の通りです。
米国は外交政策を急激に変えることに慎重であるべきである。大国にとり一貫性と信頼性は不可欠である。米国に安全保障を頼る同盟国は、その信頼が適切であると知る必要がある。米国への疑念は次の二つの反応により、もっと秩序がない世界を作り出すだろう。第1は、諸国家は、米国の利益とは合致しない形で自分のことは自分でやるとの「自助」が増える。第2は、多くの国はより強い地域国家に従い、力の均衡が崩れ、世界は不安定化する。
トランプ大統領は就任後、中東、欧州、北朝鮮など多くの困難な挑戦に直面する。長く維持された政策を逆転させると、問題を起こす。以下に、いくつかなすべきではないことを挙げる。
第1は「一つの中国」政策の放棄である。50年間、中国の台湾への主張と、台湾の地位は平和的で自発的なものであるべしとの米国の立場の間の違いを、米中両国は巧妙に処理してきた。これが「一つの中国」政策であった。この公式で台湾は経済的に繁栄し、民主主義にもなった。米中は経済的関係を発展させ、諸問題で協力できた。関係の巧妙な処理が「一つの中国」政策の放棄よりずっと望ましい。後者は中国との軍事衝突の引き金になる危険、対北朝鮮での米中協力の可能性の排除、二国間関係の停滞をもたらす。
第2はイランとの核合意の破棄である。この合意は理想的ではないが、これをいま掘り崩せば、イランではなく、米国が孤立するだろう。合意前にあった世界的なイラン制裁レジームの再構築は不可能で、米国はすぐイランが核の敷居を超えるのを見るか、またはそれを止めるための戦争の選択に直面するだろう。トランプ政権は合意をイランが実施することに焦点を合わせるべきである。
第3は米大使館をテルアビブからエルサレムにすぐ移転するのは誤りである。これは良い事のように思えるが、マイナス面が多く、和平外交への悪影響はその一部でしかない。大使館のエルサレム移転は抗議、暴力、テロを呼び起こす。米国大使館、館員への脅威を世界中で高めるだろう。
トランプ新政権は、外交政策に慎重であるべきである。世界情勢は厳しい。今は状況を悪くする時ではない。
出 典:Richard N. Haass ‘Don’t Make Any Sudden Moves, Mr. Trump’(Wall Street Journal, January 18, 2017)
http://www.wsj.com/articles/dont-make-any-sudden-moves-mr-trump-1484784715
■米外交界の重鎮
リチャード・ハースは、米外交評議会会長の肩書が示すように、米外交界の重鎮です。その重鎮がトランプに対し、外交の継続性を重視する必要を説いたのがこの論説です。
特に大国はその外交政策を急激に変えると、同盟国にも敵対国にも不確実性を与え、世界情勢を不安定化するという大きなデメリットがあるとの論には説得力があります。
日本に社会党の村山富一政権ができたとき、外務省は村山総理に外交における継続性の重要性を説いたことがあります。また、細川護煕内閣ができたころに、中曽根康弘総理が小沢一郎氏は日本国を身軽なベンチャー・ビジネスと考え、大企業とは考えていないのではないかと批判していました。大国は外交政策を簡単に変えない方が世界の安定につながります。
トランプ大統領がこういう意見にどれほど耳を傾けるかは依然としてはっきりしません。国務、国防両長官やCIA長官の上院での承認公聴会での発言をみると、これらの閣僚の発言は常識的な発言です。しかし、トランプ大統領は、自分と相談のうえでの発言ではないと言っていますし、自分の行動を予期しがたいものにして、主導権をとろうとする癖があるように思われます。大国の指導者としての落ち着きにかけ、思い付きを言い出すところがあるように思われます。
困ったことですが、そのマイナスを極力抑えるように対応していくしかないだろうと思います。とりあえずは、日米同盟の重要性をトランプ大統領に刷り込んでいくことが重要です。
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