裏かかれる地震予測 司令塔なき研究、防災に課題 真相深層 北海道地震 科学&新技術 2018/9/20 6:57日本経済新聞 電子版 6月に大阪北部、9月に北海道南西部と地震が相次ぐなか、地震研究を束ねる政府の地震調査委員会の存在感が薄い。同委は活断層などを調べて地震の発生確率を予測してきたが、多くの地震が「想定外」の断層で起こり、メカニズムについても曖昧な説明に終始している。「研究が防災に役立っていない」と、国の防災研究全体のあり方を問う声が強まっている。 北海道地震を受けて開かれた政府の地震調査委員会(6日) 画像の拡大 北海道地震を受けて開かれた政府の地震調査委員会(6日) 今月6日に北海道で起きた地震は、震源近くに「石狩低地東縁断層帯」という活断層が延び、関連が注目されている。調査委はこの断層帯について、国内に2千以上ある活断層の中で要注意の「主要活断層帯」とし、「南部でマグニチュード7.7程度の地震の恐れがある」と予測していた。 だが地震後の説明は歯切れが悪い。発生当日の会合後、平田直委員長(東大教授)は「断層帯と直接の関連はない」と説明した。ところが5日後に「断層帯の深部が動いた可能性は否定できない」と翻し、「断層帯の活動が続く可能性もある」と警戒を呼び掛けた。 地下深くの活断層は直接調べる手段がなく、科学の判断が二転三転するのは珍しいことではない。だが被災地からは「警戒せよといわれても、どうしたらよいのか」(道庁の防災担当者)と戸惑いの声が上がる。 似た光景が大阪北部地震でも見られた。震源近くには「有馬―高槻断層帯」「上町断層帯」「生駒断層帯」があり、やはり主要活断層帯に挙げられている。だが調査委は「地震がいずれかに関係する可能性はあるが、特定するのは困難」とし、ここでも曖昧な説明を繰り返した。 地震調査委は文部科学省の地震調査研究推進本部に置かれ、1995年の阪神大震災を踏まえて発足した。約20人の研究者と事務局からなり、主要活断層帯114カ所のほか、南海トラフ地震など「海溝型地震」をあわせ、地震の大きさや発生確率などを「長期予測」している。 だが、実際の地震は予測の裏をかくように起きている。04年の新潟県中越、07年の能登半島沖、中越沖、08年の岩手・宮城内陸地震などがノーマークの活断層で起きた。11年の東日本大震災も「想定外」の連動地震だった。 主要活断層帯で起きたのが確実なのは、16年に「日奈久・布田川断層帯」がずれた熊本地震にとどまる。 予測が当たらないこと自体を批判する地震学者は少ない。産業技術総合研究所の宍倉正展研究グループ長は「活断層がずれるのは数百年から数千年に1度。一方、調査委ができてからまだ20年強なので、当たらない方が自然」と話す。 だが同時に宍倉氏は「調査委は自治体や住民に役立つ情報を発信できていない」と指摘する。 それを物語るのが熊本地震だ。調査委は日奈久・布田川断層帯で地震の可能性を警告していたのに、多くの住民は発生後「熊本で地震が起きるとは思っていなかった」と答えた。自治体による耐震補強の支援策も他の都道府県より貧弱だった。 何が問題なのか。国の中央防災会議は有識者会議で防災調査・研究のあり方を検証し、17年4月にまとめた報告で「日本の防災研究には司令塔がなく、政府、大学、研究機関の連携も不足している」と厳しく指摘した。 中央防災会議は防災相のもと国の防災対策のまとめ役だが、研究組織を持たない。一方、文科省が所管する大学や研究機関、気象庁などはバラバラで、成果を国や自治体の防災対策に生かせていないという指摘だ。 有識者会議の主査で、政府の東日本大震災復興構想会議委員を務めた河田恵昭・関西大社会安全研究センター長は「防災対策が地震学者を中心に決められ、都市づくりを考える工学者や、住民避難などを研究する人文社会学者の声が反映されていない」と話す。 今年は豪雨、台風災害と地震が複合的に起こり、災害の様相が変わってきた。いまの研究体制のままで有効な対策を打てるのか。自民党総裁選で防災省設立の是非を議論するのもよいが、いまある組織の検証から始めないと、今後の災害対策はおぼつかない。 (編集委員 久保田啓介) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35549560Z10C18A9EA1000/
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