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もともとは日本地震学会のサイトに公開されていた記事です。311大地震というM9地震を予測できなかったその原因について分析した記事です。ところが、今年2017年の春あたりからアクセスできなくなりました。そのため、こちらへ投稿させていただき、一般のサーチエンジンで探せる状態にしたいと思います。
「大陸移動説」100 周年に思う
佃 為成
大西洋を挟んだ南アメリカ,アフリカ両大陸の沿
岸地域の地層や,その皺を表す地形の模様は,ちょ
うど二つに切り裂かれた名刺がぴったり合うように
つながっている.1912 年,気象学者のアルフレート・
ヴェーゲナーは現在の大陸は超大陸から分裂して移
動しつつあるという説を発表した.現代では,大陸
の移動は宇宙技術を用いて精密に実測できるし,そ
の原因もプレートテクトニクス理論で裏打ちされて
いて,これを疑う人は誰もいない.しかし,当時の
学者の多くはその説に批判的ないし懐疑的であっ
た.
この説の検証のため,文献調査や測地測量に従事
しながら,彼はその成果を「大陸と海洋の起源」と
題する本にまとめた.改定を重ねて1929 年に最終
版(第四版)が刊行された.その序文の冒頭に今日
でもそうではないかと思わせる文言がある.「地球
の昔の状態を明らかにするには,地球科学の全分野
の協力が必要である.そして,そのようなすべての
分野にわたる証拠を総合することによってはじめて
真理に達しうるのである.このことを,科学者たち
はまだ十分に理解していないようにみえる」(都城
秋穂・紫藤文子訳,岩波文庫1981)と.当時,狭
い分野の考え方に縛られて総合的な思考を欠いてい
た学者が多かった.
現代においても,そのことの理解が十分ではない
のではないか.現代の地球科学の中で,大きな災害
をもたらす地震や火山噴火,気候変動などの予測は
最重要の課題の一つである.「地震予知」も夢のあ
る科学であり,防災対策への動機付けを与える原動
力である.目標がなければ何事も行えない.
昨年3 月11 日の東北地方太平洋沖地震について
は,東北地方の地質学,地形学,測地学の成果をよ
くよく考察すれば,超巨大地震の存在は自然な帰結
である.すでに1996 年から,それを明確に述べた
研究者がいた(池田,1996,池田,2003).その後
も度々学会等で議論が行われた.2004 年のスマト
ラ沖地震発生のちょっと前には,「ハルマゲドン地
震」という言い方もされた.スマトラ沖地震以後は
世界的にも津波堆積物研究が進展した.東北の超巨
大地震の発生については長期的な予知がなされてい
たのである.
一方,比較沈み込み学という枠組みで,海溝型の
地震のデータを整理し,超巨大地震の発生の条件を
考察した論文が1980 年に米国で発表されたが,そ
の説に従うと,どちらかというと東北地方沖には超
巨大地震は起きないということになる.後者は世界
中の地震活動帯を視野に入れているが,近代に発生
した地震を対象にしている.ところが,東北地方の
固有の性質や長い地質時代の考察は抜けているので
ある.しかし,多くの日本の地震学者がこちらの説
を採った.
地震学とは何か? 地震現象の科学も,地球,い
や最近では金星や火星などの惑星の様々な科学の分
野を総合して考える学問である.プレートテクトニ
クスは地球の総合的な研究から生まれた.万年,数
十万年,数百万年間とこの百年,数十年間の地殻変
動について,とりあえずその枠組みで考えることは
許されるであろう.その枠組み中での総点検をする
ことすらなく,狭い「地震学」の成果のみに注目す
るというのは,大きな間違いであることに気づくべ
きである.
ところで,「予知」とは,あらゆる「知」を絞っ
て今後起こることを明らかにすることである.「超
巨大地震とそれに続く大津波が発生する可能性があ
る」ということを研究者を含め,多くの人々が知っ
ていたら,津波から逃げる人はもっと多かったに違
いない.予知研究も進展したであろう.行動には予
知が必要で,物事は見ようと思わないと見えないの
である.震災や津波に対する人々の防災意識も予知
された危険を認識してはじめて芽生える.「いつど
んな地震が来ても大丈夫なように備えよ」と呼びか
けても人はけっして動かない.
ヴェーゲナーが言ったことは地震予知の科学にお
いても同じで,これも様々な科学の分野が協力する
ことによって大きく前進するはずである.自分の研
究領域と異なる他領域の研究にも目を向けようでは
ないか.
地震計を用いた計測と理論による研究は,伝統的
な地震学の手法であり,地震現象解明のために必要
で,予知研究にとっても重要な分野である.そして,
測地学や地殻変動研究分野も地震が発生する場の物
理的な状態を把握するための基礎的な研究である.
これらは素直に認めなければならない.しかし,そ
れだけでは地震予知研究が進展しないのも確かなこ
とである.長期的な予知には,変動地形学や構造地
質学などの研究が,むしろ基本的な情報を提供する.
さらに科学のあらゆる手段を駆使して,地下の動き
を探る研究が重要である.
池田安隆, 活断層研究と日本列島の現在のテクトニ
クス, 活断層研究, 15, 93‒99,1996.
池田安隆, 地学的歪速度と測地学的歪速度の矛盾,
月刊地球, 25, 125‒129, 2003.
(以上引用終わり)
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