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なぜヤル気のある若手社員ほど早く辞めてしまうのか
http://diamond.jp/articles/-/154095
2017.12.26 榎本博明:心理学博士、MP人間科学研究所代表 ダイヤモンド・オンライン
職場で納得がいかないことがあると、転職を考える若い人たち。部下がすぐに辞めていくのは、上司にとって自分の管理能力を否定されたような気分になるだろう(写真はイメージです)
「労働力の流動化」などと言われるようになり、転職に対する抵抗感も薄れてきた。そんな時代の空気を吸っている若い世代は、今の職場に納得いかないことがあると、すぐに転職を考える。
だが管理職にとって、自分の部署に配属された若手が辞めていくのは、当然のことながら気分のいいものではない。気分だけの問題ではない。管理職としての評価面でもマイナスになりかねない。仮に評価面に影響しない場合でも、自分の管理能力を否定されたような、後ろめたい感じになる。
ゆえに管理職としては、若手がすぐに辞めてしまうような事態は極力避けたい。ここ30年を振り返ってみても、新入社員(大卒)の3割が3年以内に転職している傾向は変わっていないが、不況の時期にもせっかく就職できたのに辞めてしまうのだから、求人が多くなるにつれて優秀な若手が辞めていくといった事態が頻出するはずだ。やる気がなく仕事のできない人が辞めていくのであればダメージも少ないが、仕事のできる人物、やる気のある人が辞めていくような事態は何としても避けたい。
そこで今回は、なぜやる気のある若手が辞めてしまうのか、その心理的背景を探り、どうしたら早期離職を踏み止まらせることができるかを考えてみたい。
また期待していた新人が
「辞める」と言い出した
中規模の電気機器メーカーの営業部長を務めるAさんは「自分の部署に配属された新人が昨年辞めてしまい、今年の新人も辞めると言い出した」と嘆く。
「そりゃ、ショックですよ。特に今回辞めると言い出したB君は、仕事の覚えが早くて、久々に優秀な新人が来たと喜んでいたんですよ。実際、取引先の営業に行かせたら、『いい新人が入りましたね。羨ましいですな』とわざわざ電話してくれるところもあったりして、非常に評判が良かったんです。ところが、いきなり『転職を考えているので、すみませんが辞めさせていただきたいんです』でしょ。何なの、それ、って感じですよ」
B君は、テキパキと仕事をこなし、先輩たちよりむしろ生き生きと仕事に取り組んでいるように見えていた。これまでのB君とのやりとりを思い返しても、きついことを言った覚えもないし、気まずい感じになったこともない。あまりに突然のことで事情がまったくわからないA部長は、B君に「何が不満なのか」を尋ねた。
B君「いえ、特に不満っていうか……部長には目をかけていただいて、本当に感謝しています。部長にも、この職場にも何も不満はありません」
A部長「そうなの?じゃ、なんで辞めたくなったわけ?」
B君「この職場が嫌だとか、今の仕事が嫌だとかいうわけじゃないんです。ちょっと言いにくいんですけど……、このまま仕事を続けていっても、自分が成長していける感じがしないんです」
A部長「成長していける感じがしない?君は、この数ヵ月でずいぶん仕事ができるようになってきたと思うんだけど……」
B君「お陰さまで、仕事のやり方を覚えさせてもらえました。でも、この先のことを考えちゃったんです。何年か先の自分の姿を思い浮かべた時、今とそう変わらない自分の姿しか思い浮かばないんです。それで、このまま仕事を続けていても成長していけないなって思って……」
A部長「よくわからないな。仕事ができるようになってきているし、これからも日々成長していけると思うんだが……」
B君「こんなことを言いたくなかったんですけど、今やっている仕事って、ある程度慣れてくればそこそこ上手くできるようになると思うんです。そうするとルーティン化して惰性に流されるだけ。自分が成長していくには、もっと能力開発が求められる仕事、チャレンジしがいのある仕事じゃないと、っていう気がするんです」
そこまで言われると、A部長もすぐには言葉が出てこなかった。そして、昨年辞めていった新人C君とのやりとりを思い出した。
C君「このままここで働いていても、成長できる感じがしないんですよ。はっきり言ってルーティンばかりで、みんな惰性で動いているだけじゃないですか!」
A部長「そんなことないだろう。みんながそれぞれ工夫して仕事していると思うが……」
C君「だって工夫の余地なんてないじゃないですか!決められた手順に従って営業かけて、マニュアル通りに交渉して……。誰がどう成長しているって言うんですか!」
A部長「場数を踏んでどんな案件にも対応できるようになれば、成長していると実感できると思うよ」
C君「……でも、僕が思う成長とは何か違うんですよねえ〜」
その当時のC君の言葉が頭をよぎり、A部長は「ここは何か変えていかなければいけない」と思った。
若い世代は「自分の成長」に
こだわる傾向が強い
このところ、どんな職場でも似たようなことが起こっている。その理由は、今の若手は自分の成長にこだわる傾向があるからだ。かつては給料がもらえれば満足という働き方が普通だったが、今は「自分の時代」である。そこをさらに刺激するかのように、政府も動くことによって「輝く社会」とか「活躍できる社会」を強調している。
そんな時代の空気に敏感な若い世代は、仕事で自分が成長している実感を求めるようになっている。「輝く」とか「活躍できる」などというと、特別な人のような感じがするが、せめて自分の成長を実感したいというわけだ。
職場や仕事で何か嫌なことがあって辞めたいと言うなら、言い分にじっくり耳を傾け、改善策を一緒に考えながら、思いとどまらせるという方向も模索できる。だが、この仕事を続けても成長できそうにないとなると、上司としてはどう対処したらよいかわからず、戸惑ってしまう。
なぜ若い世代は成長にこだわるようになったのか。世の中に「輝く」とか「活躍できる」といったメッセージが溢れていることに加えて、キャリアデザインを意識するようになっていることが大きい。
学校でキャリア教育の時間に、就職して3年後、5年後、10年後に自分がどんなポジションでどんなことをしているか、というようなキャリアデザインをさせられたりする。就活の際もキャリアデザインが問われる。そのせいで今の若い世代は、かつてと違って将来の自分のキャリア像を非常に強く意識するようになっている。言ってみれば、数年後に成長している自分の姿を予想することができないと不安になってしまうのだ。
では、どんな時に自分が成長していけると感じるのだろうか。できないことができるようになっていくことが成長の実感をもたらすというのは事実だ。B君に対して「仕事ができるようになってきているし、これからも日々成長していけると思うんだが……」と問いかけたA部長も、そのような意味で成長の実感をとらえたのだろう。
だがB君は、それだけでは納得しない。できないことができるようになっていくという意味での成長に加えて、もっと違う意味での成長も実感したいというわけだ。ここに「やりがい」を求める時代の働き方の難しさがある。
創意工夫の余地が
成長の実感をもたらす
そこでA部長は、B君と面談しながら、どうしたら成長していけそうな気になれるのかを一緒に考えてみることにした。方向性が見えてこなければ、彼が辞めていくのもやむを得ないが、何か見えてくることがあるかもしれない。
話を聞いているうちに、B君は非常にモチベーションの高い人物であり、自分に対する要求水準も高いことがわかった。そして、独自性追求の欲求が強いこともわかった。傍から見れば、次第に仕事ができるようになっているから成長しているわけだが、仕事に慣れ、順調にこなせるようになるだけでは納得できないようなのだ。
さらに突っ込んで聞いてみると、B君が求めているものが次第におぼろげながら見えてきた。本人自身も頭の中でしっかりと整理できているわけではなく、自分が何を求めているのか、はっきりしなかった。何より自分なりの工夫を凝らしながらアイデアを提案したり、今までとは違う新たなやり方を試したりするのが好きで、そうしていると自分が日々成長していけそうな気がするというのだ。
B君の気持ちを汲み取ったA部長は、彼にある程度仕事の裁量権を与えてみることにした。もちろん裁量権といっても、仕事の具体的なやり方に関してである。これまでの営業のスタイルをそのまま踏襲させるのではなく、自分なりに創意工夫することを認めた。さらに提案内容に関しても、上司から一方的に与えるのではなく、本人がアイデアを練って企画会議に提案することができるようにした。
それによってB君は自分が成長軌道に乗っていけそうな気になり、転職せずに仕事を続けることになった。A部長が「ホッ」としたのは言うまでもないが、こうした経験により、時代の空気が今の若手にどのような影響を及ぼしているのかに気づいたのが大きかった。自己愛をやたら刺激される「自分の時代」には、独自性追求の欲求が刺激されやすい。それをファッションなどで満たそうとする者もいるが、仕事で満たそうとする者もいる。
そのような目で見ると、仕事ができる人には、独自性追求の欲求が強い者が多いような気がする。そうした有能な人材が不満を持って辞めるのは、管理職としても困るし、組織としても会社としても大きな損失になってしまう。仕事で独自性追求の欲求を満たそうとするのであれば、創意工夫をしてもらうのは部署にとってもメリットが大きいので、思う存分独自性を追求してもらえばいい。
そこに気づいたA部長は、B君をただ指示通りに動かそうとせずに、またこれまでのやり方を踏襲させるばかりにならないように、提案や工夫をさせてみることにしたのだった。
ただし、人によっては自由な状況を与えられると不安を覚えることもある。独自性追求の欲求はそれほど強くなく、決められたやり方であっても、工夫の余地があまりない仕事であっても、それをより効率よくできるようになったり、人に相談せずに自分でできるようになったりすることで、自分の成長を実感するというタイプもいる。
そこでA部長は、個々のメンバーがどのような意味での成長を求めているのかをつかむ必要性を感じ、個別の面談を行った。その成果が現れ、今のところ「会社を辞めたい」と言い出す部下は出てきていないという。
個人の素質も求めるものも成長スピードも人それぞれである。部下の育成にあたっては、そうした個性を配慮する必要がある。B君のように優秀で成長が早い人が辞めたいと言ってきた場合、何かしら仕事上の不満を抱えていると考えられるため、面談をして、思いを自由に語らせることが肝要である。本人自身の中でも整理されていない思いが、語ろうとすることで少しずつ見えてくる。その語りに耳を傾け、どうしたら本人が納得できるような方向にもっていけるかを考え、本人の現時点での能力や適性を考慮しつつ、上司として仕事の裁量をある程度、本人に任せてみてはいかがだろうか。
※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。
(心理学博士、MP人間科学研究所代表 榎本博明)
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